われら町工場人 - 沼田光機製作所

超高精度切削加工から
ナノ・マイクロへの挑戦！
！
われら町工場人
沼田憲仁さん
沼田光機製作所　同六郎さん（享年 72 歳）と妻のさなえ
社は 56 年前（1957 年）
，先代・沼田
さんが二人三脚で創業．
社長夫人の貴子さんは，
ちち
かたぎ
「義父はバリバリの職人気質の人で，どん
どん自分の腕を磨いていけば何とかなる，
と自分を信じ，また勢いのある人でした．
人付き合いも広く，周りからの人望も厚く，
とにかく仕事のできる人でした．また，そ
はは
れを支えた義母も立派です」
と，15 年前に逝った先代に想いを馳せる．
⇨
先代からマンツーマ
ンで技能・技術を教わ
り，腕を磨いてきた．
「モノづくりには，そ
れぞれの製品に応じた
やとい
“治具”
が必要になりま
す．しかし，その製作
代は製品に上乗せでき
ないんです」と，現状
を話しつつ，図面を見
たときに，
「これはどう
やってつくってやろう
か」と，考えるときが
とても楽しいと笑顔を
絶やさない [CNC 自動
盤（5 軸）の前で ]．
⇩ 6 月に開催された「日
本ものづくりワールド
2013」
（機械要素技術
展ほか）の板橋区のブー
ス・特設プレゼンテー
ション・ステージにて，
「精密機械・光学機器を
支える切削加工」
「ナノ
表面精度の実現に向け
た新技術」の発表．
明治時代より，主に光学兵器などの軍需
その後，1962 年に有限会社として設立．
産業を目的とした一大工業集積が形成され
現社長の憲仁さんは 1976 年に高校卒業と同
た板橋区．
平和産業に転換した戦後は，
精密・
時に入社．
光学機器や印刷関連産業をはじめとする工
「工場・自宅一体の家屋で，機械ベルトの
業集積が形成され，現在では，東京都 23 区
廻る音を子守歌代わりに育ち，ベルト掛け
内で従業員・製造品出荷額が第 2 位の全国
の機械作業も経験しました．学生時代は簿
でも有数の工業集積地域となっている．
記の専門学校に行きながら経理を学び，加
しかし，近年の産業構造の急速な変化に
工技術・技能は父から教えてもらいました．
よる厳しい状況にあるいま，当地における
入社時には，従業員 4 〜 5 人いるなかで，
多くの事業者も将来に向けての地域産業の
すでに一人前に仕事ができる状態でした」
ありかたを模索している．
と，社長は父の背中を見ながら育ってきた
こ所』は，複合型 CNC 自動盤による
のような背景のなか，
『沼田光機製作
りました」
と，駆け出し当時の，苦労した製
異形・複雑形状の加工を得意とし，
測量機器・
品について語る．
医療機器関連の光学機器部品などの超高精
「大手時計メーカーのブランド品
（腕時計）
度切削加工製品をつくっている．
の枠をつくっていたときです．全部切削加
（55 歳）
は，
社長の沼田憲仁さん
工で，ダイヤ挽きもあって，人工ダイヤモ
「加工屋としては，当社の場合は普通だと
ンドを使うという，当時でははじめてで，そ
思います」
と述べつつ，
のタイミングがむずかしかった．父は，そ
「光学系というと，挽き目を重視し寸法の
いとも簡単
（！
？）
んな私を余所に機械を回し，
厳しいものを求められますが，私は機械が
に加工するのです．ダイヤ挽きでの鏡面仕
加工できる最大の精度を追求し，図面に描
上げにはコツがあるんだ！　ということを
かれている，求められている以上のものを，
このとき，父の作業から学びました」
妥協することなく製品に反映しようと努め
その後，35 歳で社長になり，今日までの
ています．とくに，薄モノ，リング状の製
37 年間，まっしぐらにモノづくりに励んで
品が当社の得意とするところです．薄モノ
きた憲仁さん．
けんじ
よそ
せられますが…」
と，続ける．
旋 mm[ φ 70mm まではバー材，〜 φ
その言葉には，自慢することを善しとし
200mm までは切断材（コレットチャッキン
ない，日本のモノづくり職人のプライドが
グ）
]，長さは 100mm 以下の材料を使い，主
感じられる．
に扱う素材はアルミニウム，真鍮，ほかに鉄，
は，真円度を出すのがむずかしく，苦労さ
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自分を振り返り，つづけて
「こんなこともあ
削中心の製品，直径 φ3 〜 φ200
ツールエンジニア
（有）
沼田光機製作所
〒 174-0063　東京都板橋区前野町 4-2-1
☎（03）3960-4701　FAX
（03）3960-4753
代表：沼田憲仁　従業員：5 名
e-mail：[email protected]
URL：http：//www.numatakouki.co.jp/
りへの追求は留まることを知らない．最近の
素材については，10 年ほど前に比べ，環境
にやさしい「RoHS」
（ローズ）＊ 1 対応にして
ほしい，という声が増えてきているという．
「ラップやバフの技術では対応できない
精度は h6 以上，真円度は形状の大きさ
鏡面仕上げを要求される製品に対して，
“エ
にかかわらず 2/100 以上，それらをつねに
リッド研削”
が有望と考えています．この新
最低限の基準として満たしてきた．
たな技術により当社の加工可能範囲を広く
「いまは複合機主体の加工になり，丸モノ
し，より高度な光学系部品を目指し，新し
とはいってもミーリング加工も含まれ，異
い分野・顧客を開拓したいのです」
形・複雑形状品の生産が多いのです」
と，社長は先進技術の導入とともに，新し
と，付け加える．
い市場を目指す．
ンロット数は，少なければ 10 個以下，量産
現機や CNC 自動盤を使いこなし，工
としては 100 個から 200 個を超える製品を，
具についても熟知している技能者・技術者
市場に送り出している．
を求めている．その技術者にこれまでの同
社の技術を継承してもらい，社長はその先
の技術を具体化していきたい，と考える．
われている現在，同社はその未来に向け，
今後のモノづくりにおいても，
新加工技術の総合ネットワーク『mirai』に
「挽き目と精度へのこだわりは持ち続け
参画し，
ナノ・マイクロ加工へ挑戦している．
東京ビッグサイトで本年７月開催の
「ナ
ノ・マイクロビジネス展」においては，
『mirai』
に同じく参画している区内の祥衛工
業と共同出展，また，このネットワークの
牽引役である研究機関，理化学研究所・大
森素形材工学研究室とともに次世代のモノ
づくりを模索中だ．
具体的取組みとして同研究室・主任研究
ひとし
員，大森整工学博士が考案開発した
ELID（エリッド）研削法＊ 2 の講習会（同
研究室『板橋分所』にて実施，当分所は活
動の重要拠点）などに参加し，積極的に最
新技術を取入れようと努力している．
2013 年 9 月号
左：異形・複雑形状部
品の測定に活躍する 3
次元測定機．製品出荷
時に使用され
「沼田製」
の確かさを保証する．
下：CAD を使う貴子
さん．大手光学機器
メーカーの受注をきっ
かけに導入．
左：
「一輪挿し」
（展
示会用サンプル品）
2 か所の接合部分は
精度・品質で仕上げるというのは，加工屋
それぞれ違う方法を用
のユーザーに対する自然なサービス精神のいている．狭窄フラン
ジ部の
「R 状の突起加
現われです」
工」
（下部）
と，
「間隔管」
と，日本のモノづくり職人の心意気を示す！
（上部）で，水漏れを防
いでいる．
＊ 1「RoHS」
右：同社の得意とす
：Restriction of Hazardous Substances（危険物質に
関する制限）の頭文字から RoHS（ローズ，ロハス，る製品の一部．薄モノ，
ロース，ロス）と呼ばれる．RoHS は，電子・電気リング状，異形・複雑
機器における特定有害物質の使用制限についての欧形状製品．
州連合（EU）による指令である．
（a）[ 鏡筒 ] 材料：
＊ 2 ELID（エリッド）研削法 [Electrolytic In-process
A5056B，φ30× φ
Dressing：電解インプロセスドレッシング ]
58mm，内外同軸度：
：鏡面研削加工技術の一つ．シリコン，
セラミックス，
ガラス，フェライト，高硬度鋼材，複合材料など， 0.02，平行度：0.01
[ 複雑形状品 ] 材料：
硬質で加工のむずかしい機能性材料を高品位に鏡面（b）
加工を実現できる加工技術．
C3604B，φ60mm，真
円度；0.02，
（a）
（c）
（b）
（c）
[ パイプ形状 ] 材料：
A5056B，サイズ：t ＝
0.5mm，外径 φ80mm，
真円度；0.02，
（d）[ ホースとホース
をつなぐニップル類
]
やとい
材料：A5056B，
“治具”
（d）
の工夫で工程数削減．
⇦
バを経て，製造業もそのありかたを問
ブル経済の崩壊，リーマンショック
在同社では，技術継承のため，汎用
⇧
材にも挑戦して行きたい」と，そのモノづく
生産形態は，試作品の受注とともに，ワ
沼田憲仁社長と貴子
夫人．
「今後は，ナノテクの
技術を取入れ，より高
精度な光学機器部品の
要求に応えていきたい」
（社長）
「展示会をはじめ，モ
ノづくりネットワーク
のイベントなどに，積
極的に参加し，営業に
役立てています」
（夫人）
⇦
ステンレス鋼など．また，
「これからは複合
ていきたいですね．図面に示される以上の
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