スピードスケートジュニア強化選手における継続的メディカルチェックの有用性 メディカルチェックと運動指導は障害改善と発生予防できるのか? キーワード:メディカルチェック 波及効果 障害予防 ○青木啓成 村上成道 庄司智洋 【はじめに】 ス ポ ー ツ 分 野 に お け る 理 学 療 法 士( 以 下 PT)の 役 割 は 障 害 の 改 善 の み で は な く 、 障害発生や進行を予防することが重要となる。更には、障害予防することで選手 に必要なトレーニングを効率的に実施することが可能となり、結果として 選手の 強化に結び付くことが理想である。 ス ポ ー ツ 分 野 で の メ デ ィ カ ル チ ェ ッ ク( 以 下 MC)に 関 す る 報 告 は 多 く 、評 価 項 目 と 障 害 と の 因 果 関 係 は 報 告 さ れ て い る が 、MC の 長 期 的 な 効 果 や 成 果 に 関 す る 報 告は少ない。また、ナショナルチームでの監督・コーチとの協働による障害予防 の 成 果 に 関 す る 報 告 は 、 我 々 が 渉猟した限り見あたらない。 我々は日本スケート連盟強化スタッフとしてスピードスケートジュニア強化選 手 の 障 害 保 有 率 を 改 善 さ せ 、 障 害 予 防 を は か る こ と を 目 的 に MC を 実 施 し て き た 。 本 研 究 の 目 的 は MC と PT の 運 動 指 導 は 障 害 を 改 善 さ せ 、 障 害 を 予 防 に 寄 与 で き るかを検証することである。 【方法】 対 象 は 2011 年 度 〜 2013 年 度 の 日 本 ス ケ ー ト 連 盟 ス ピ ー ド ス ケ ー ト ジ ュ ニ ア 強 化 選 手 59 名 ( 16~ 18 歳 、 男 26 名 、 女 33 名 ) で あ る 。 MC は 6 月 、 8 月 、 10 月 に 代 表 合 宿 に 合 わ せ て 3 回 実 施 し た 。MC で は 障 害( 運 動 時 痛 )の 有 無 と 身 体 機 能( 基 本 動 作・関 節 可 動 域・体 幹 機 能 )の 評 価 を 行 っ た 。医 師 の MC の 後 、同 連 盟 強 化 ス タ ッ フ で あ る PT が 評 価 結 果 を も と に 障 害 へ の ア プ ロ ー チ を 行 い 、予 防 の た め の セ ルフケア方法を個別指導した。選手は指導されたセルフケアを継続し、2 ヶ月毎 の再評価結果に応じてケア方法を修正した。 障 害 の 有 無 は 選 手 よ り 聴 取 し 、身 体 の 障 害 部 位 が 1 か 所 で も あ り 、100% の 練 習 が3日以上困難となった場合を障害有りとして障害保有率を調査した。基本動作 は 3 項目(片脚立位姿勢、スクワット動作、ランジ動作)とし、動作不良の場合 を 1 ポ イ ン ト( 以 下 P)と し た 。片 脚 立 位 姿 勢 と ラ ン ジ 動 作 は 両 側 性 に 評 価 し た 。 関 節 可 動 域 は 3 項 目( 肩・股・足 関 節 )と し 、10 度 以 上 の 左 右 差 を 認 め た 場 合 を 1P と し た 。体 幹 機 能 は 4 項 目( 上 肢 挙 上 固 定 テ ス ト・並 進 バ ラ ン ス テ ス ト・下 肢 中 間 位 保 持 テ ス ト ・股 関 節 開 排 テ ス ト )と し 、徒手抵抗を加えるブレイクテスト方式 で両側性に評価し、 抵抗に抗することができない場合を 1P とした。 身体機能は基本動作、 関節可動域、体幹機能ごとに 3 回の P 変化を平均値にて算出した。 検討項目は3年間の障害保有率の変化、障害保有率の変化と身体機能の関係と した。 【倫理的配慮、説明と同意】 選 手 に は ヘ ル シ ン キ 宣 言 に 則 り 、 初回 MC の際に個人データの使用許可を得た。 【結果】 全 59 名 の 障 害 保 有 率 は 6 月 61%、 8 月 59%、 10 月 39%と 減 少 傾 向 と な っ た 。 障 害 保 有 率 の 変 化 と 身 体 機 能 の 関 係 は 、 基 本 動 作 が 6 月 2.8P、 8 月 2.4P、 10 月 1.6P、 関 節 可 動 域 は 6 月 1.5P、 8 月 1.5P、 10 月 1.4P、 体 幹 機 能 は 6 月 3.4P、 8 月 1.8P、10 月 1.4P で あ っ た 。6 月 か ら 8 月 に お い て 体 幹 機 能 が 大 き く 改 善 し た が 障 害 保 有 率 の 減 少 は 乏 し か っ た 。8 月 か ら 10 月 に お い て は 体 幹 機 能 に 加 え 基 本 動作が改善し、障害保有率が減少した。関節可動域には大きな変化はなかった。 各 年 度 の 10 月 の 障 害 保 有 率 は 2011 年 度 45% 、2012 年 度 26% 、2013 年 度 45% で あ り 2012 年 度 が 最 も 低 か っ た 。 同 年 度 は 他 年 度 と 比 較 し て 、 8 月 か ら 10 月 に かけての基本動作の改善に加え、体幹機能の改善が最も大きかった。 【考察】 障 害 保 有 率 が 減 少 し 、 増 加 を 認 め な か っ た こ と か ら 、 MC と PT の 継 続 的 な 指 導 は障害を改善させ、障害予防に寄与できたと考えられる。 障害保有率の減少には体幹機能の改善が必要不可欠であるが、体幹機能の改善 のみではなく、基本動作と双方の改善が必要であることが示唆された。また、関 節可動域はトレーニングの量や質の影響を受けやすく、障害改善の指標にはなり にくいと考えられた。 MC の目標は、障害保有率を減少させることが重要性されるが、そればかりではなく、 その結果をもとにした対策を立案・実行することが重要であると考えている。2011 年 度 か ら MC 項目の統一したことは、選手の身体機能の変化を経時的に追えるようになり、改善を 認めない場合には指導内容を変更するなど、対策が効果的に実施できたと推察される。 今後は、障害改善と障害予防をはかることで十分な練習が可能になり、選手の 強化にも寄与できる可能性があるため、障害予防と競技成績の関係についても検 討していきたいと考える。なお、この成果は連盟ならびに監督・コーチ・医師・ PT な ど の 協 働 と 信 頼 関 係 構 築 に よ る 結 果 で あ る こ と を 強 調 し て お き た い 。 【理学療法学研究としての意義】 MC は単に実施することが重要ではなく、スポーツ現場に関わる PT が MC や指導の成果を 明確化することが重要である。その結果をもとにスポーツ現場の指導者と綿密な連携をは かることが今後の日本を担うスポーツ選手の育成と強化につながると考えられ、その意義 は高い。
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