宇宙システム工学補遺(日本語)

宇宙システム工学補遺(日本語)
人工衛星の概要
2015年 8 月 3 日
This material is prepared for understanding the essence of “Space
Systems Engineering” in Japanese.
H27.8.3 版
人工衛星の軌道(衛星の目的により様々な軌道を選ぶ)
投げたボールが
秒速約 7.9km を
超えると人工衛星
に
極軌道
vc  R
地球脱出 11.19km/s
ve  R
g
R+Z
(軌道傾斜
角は約 90 度)
2g
R+Z
軌道変換(半径 rp から ra へ)
パーキング軌道
欧州のガリレオ
(23,600km, 18 機, 精度 1m)
ロシアのグロナス
(30 機)
GPS 衛星の軌道(20,200km, 24 機, 精度 3~8m)
Constellation
ΔVP、ΔVa は
(SSO)
1
、モルニア軌道
アポジ点で軌道傾斜角と軌道の大きさ
を同時変更(静止軌道へ)
H27.8.3 版
1.
人工衛星の設計
人工衛星の設計は、図 1-1 に示すように概念設計から始まり、予備設計、基本設計、詳細設計へとフ
ェーズ毎に進められる。概念設計から打ち上げまでの期間はほぼ2~5年である。
従って、設計といったときにどのフェーズの設計について述べているのかを理解しておく必要がある。一
般には予備設計までは開発すべきシステムを定義するフェーズである。一旦、システムが定義されるとそ
の基本設計を進め、詳細設計において製造のための設計を行う。
初期の予備設計段階では、全体のシステム形状、構造様式、構成、重量、電力等を検討すると共に、シ
ステム設計解析とシステム機能を分担するサブシステム設計を行う。また、目標とするミッションを達成
できることを確認するためのミッション解析を実施する。
人工衛星はどのような目的で打ち上げるか、あるいは打ち上げた衛星で何をするかという目標(これを
ミッションと言う)がある。このミッションを達成するためにどのような衛星軌道を必要とするかで、
衛星の形状、大きさ、個数、姿勢制御方式、飛行軌道等が決まってくる。
(1) 人工衛星のシステム基本構成設計
衛星の基本構成は、衛星としての軌道上運用を維持し、ミッションの遂行を支援するバスシステムと
衛星のミッションを直接実行するミッション機器とに大別される。ミッション機器は衛星の用途によっ
て異なるが、バスシステムについては基本構成としてはどの衛星もほぼ共通している。図 1-2 に衛星の
構成と各構成要素を示す。
フェーズ A:ミッション及び構成要素の検討
フェーズ B:開発するシステムの定義・設定
フェーズ C:開発するシステムの構成要素の設計
フェーズ D:フライトハードウェア/ソフトウェアの製作・試験
フェーズ E:打ち上げと運用
図 1-1 人工衛星開発のフェーズ分けと審査
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H27.8.3 版
(サブシステム)
バス
システム
電力系
(CO2、オゾン、海水温、降雨量他)
(測位衛星)
トランスポンダ
(科学衛星)
小惑星、月面探査機器
図 1-2 衛星の構成と各構成要素(サブシステム)の機能
(2) サブシステムの設計
衛星のバスシステムはその機能を達成するためにいくつかのサブシステムと呼ばれる次のような機
能系統から構成される。
予備設計段階のサブシステム設計ではそれを構成する構成機器(コンポーネント)と、分散システム
では全体系統を記述する系統図(アーキテクチャ、ブロック図とも呼ばれる)で設計を定義する。従っ
て、サブシステム設計では全体の系統を設計しつつ、使用すべきコンポーネントを選定する。
1)
TTC 系(テレメトリ・トラッキング及びコマンド系)
・TTC 系の基本機能は次の通りである(図 1-3 参照)。
(ⅰ) 衛星(各サブシステム)の動作状態監視(電圧、電流、温度、圧力等)…テレメトリ
(ⅱ) 衛星(各サブシステム)への動作指令(ON/OFF、モード切換等)・・・・・・・コマンド
(ⅲ) 軌道決定のための距離及び距離変化率(R&RR)測定用信号の中継・・・・・・・トラッキング
・TTC 系の周波数はふつう S バンド(2 GHz 帯)が使用される。
・TTC 系の計装配線を簡略化し、軽量化及び高信頼性化を図るため、衛星の大型化に伴いデータバ
ス方式の開発が行われ、実用化されている(図 1-4 参照)。
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データバス方式は、衛星内の TTC 信号の伝送を共通バスラインを使用して時分割多重化して行う方式
であり、従来方式に比べて計装配線が簡略化できるため軽量化、高信頼性化が図れる。配線の延長距離
が長くなる大型衛星ではこの効果は顕著となる。
衛星
コマンド信号
テレメントリ
データ
測距(R&PR)
追跡管制局
図 1-3
TTC 系機能概要図
図 1-4 データバス方式による計装配線の簡略化
2)
電力系
電力系の基本機能は次の通りである(図 1-5 参照)
。
(ⅰ)
太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換する(太陽電池部)…主電源
(ⅱ)
日照中の余剰電力を蓄積し、日蔭時の電力原とする(バッテリ部)…補助電源
(ⅲ)
日照中の余剰電力を制御し、衛星の負荷に応じた電力を供給する(シャント部)…シャント
機能
(ⅳ)
太陽電池又はバッテリからの電力を衛星各サブシステムに供給し、供給電圧(バス電圧)を
所定の範囲内に維持する。又バッテリの充放電制御及び管理をおこなう(電力制御部)…電
力制御機能
・太陽電池としては従来からのシリコンセルが用いられているが、電力変換効率の高いガリウム・
ヒ素セルの実用化も進んでいる(CS-3 や HTV に使用)
。
(シリコンセルの効率約 13%、ガリウム・ヒ素セルはこの 1.3~1.5 倍、但しガリウム・ヒ素セル
は若干重くて高価)。
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・バッテリにはニッケルカドミウム電池が多く用いられてきたが、近年は長寿命バッテリとしてニ
ッケル水素電池、さらにリチウムイオン電池の開発が進み、実際に用いられている。
日本の HTV では 200AH 大容量リチウムイオン電池を開発し搭載している。
図 1-5 電力系機能概要図
3)
姿勢制御系
姿勢制御系の基本機能は次の通りである。
(ⅰ)
軌道上で、衛星自身の姿勢を検出し、常に目標姿勢を保つように姿勢誤差を修正する
(図 1-6 参照)
。
(ⅱ)
ロケットから分離後、定常姿勢を確立し、定常制御動作を開始するまでの、太陽捕捉、地球
捕捉等一連の初期姿勢捕捉動作に必要な制御をおこなう。
衛星の姿勢擾乱はセンサによって検出され、基準と比較されて誤差信号となる。
この誤差信号は姿勢制御計算機により必要修正量の指示をアクチュエーターに与える。
姿勢の修正は、回転ホイール#の速度変更や、スラスタ#或はそれらの組合せによって達成される。
(# アクチュエータと総称する)
計算機
図 1-6 姿勢制御系基本機能系統図
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H27.8.3 版
姿勢制御系の構成要素を図 1-7 に示す。一般に姿勢制御系は、姿勢検出のためのセンサ、姿勢修正に必要な
トルクを発生するアクチュエータ、及びセンサ信号を受けて必要修正を求め修正信号をアクチュエータに
送出する姿勢制御エレクトロニクス(計算機)から構成される。
図 1-7 姿勢制御系の構成要素
衛星の姿勢制御の方式は、大きく分けてスピン安定方式と三軸安定方式がある。これらの衛星システムと
しての比較例を表 1-1 に示す。さらに詳細に原理的分類とそれぞれの特徴、実用例を表 1-2 に示す。衛星の
姿勢制御、及びミッション機器のポインティング(一定方向指向)要求に応じて、必要な精度が得られる
姿勢制御方式を選ぶ。以下にそれぞれの特徴を述べる。
表 1-1 スピン安定方式と三軸安定方式の比較
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H27.8.3 版
表 1-2 姿勢安定方式の原理的分類
アンテナデスパン
A.スピン姿勢安定方式
スピン姿勢安定の人工衛星の姿勢制御はスピン軸と平行なガスジェット(アキシァルスラスタ)の噴射
により重心回りのトルクを発生させることにより行う(図 1-8 参照)。
ある一定方向にトルクを発生させるためにはスピン周期のある一点で
パルス的に噴射を行うことが必要である。通例この基準を太陽方向に
とる。つまり太陽を検知するセンサーを衛星に設けておき、スピン軸
と太陽を含む平面を通過する時刻から一定の時間後にパルス的な噴射
を行いトルクを発生させる。この制御方式はラムライン法と呼ばれる。
姿勢を示す赤経、赤緯の天球を、太陽を天頂と見立ててメルカトール
図法により展開すると、その図上では現在の姿勢及び目標姿勢を示す
点を結んだ直線がラムライン法で制御をしたときの軌跡となる。これ
はメルカトール図上で目的地へ行くのに現在地と目的を結んだ直線が
子午線となる角度を常に進路として取り続ける航法(等角航法)と
図 1-8 スピン姿勢制御
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同じであるが、最短つまり最少の燃料による制御ではない。
B.三軸姿勢制御方式
三軸制御衛星の座標系を図 1-9 に示す。三軸衛星の衛星に固定した座標系は図のように、ロール(X 軸)、
ピッチ(Y 軸)
、ヨー(Z 軸)の直交 3 軸で定義する。
ロール軸は衛星の進行方向、ヨー軸は地心方向にとる。残りのピ
ッチ軸は直交 3 軸右手系として定まる。静止衛星にこの定義をあ
てはめると、ロール軸が東方向、ピッチ軸が南方向を向くことにな
る。三軸姿勢制御衛星は、衛星の直行する三軸(ロール・ヨー・ピ
ッチ)の回りに衛星構体がどの程度の誤差角をもっているのかを測
定し、この誤差角を零にするような制御を衛星に搭載された計算機
を用いて自動で行い、姿勢の安定化を図る衛星である。三軸姿勢制
御衛星では、姿勢の計測・制御は自動で行われるため、衛星状態が
正常な時の姿勢制御に関する業務は、定常状態において姿勢誤差が
図 1-9 三軸制御衛星座標系
増大しないことの監視である。
a.姿勢の計測
三軸衛星で通常使用されている姿勢計測用センサは、地球センサ、太陽センサ、ジャイロの 3 つがあり、
その機能は以下のようになっている。
①
地球センサ・・地球大気の輻射する赤外線と宇宙空間のレベル差により地上エッジ(端)
を検出し、
ここからロール・ピッチ軸回りの角度を計測する。
②
太陽センサ・・スリット付きの太陽電池などを用いて太陽光の入射角度を求め、これと衛星の軌道
位置から姿勢誤差を計測する。三軸衛星では通常、ヨー軸誤差角度を計測する。
③
ジャイロ・・・ ジャイロの回転軸と基準軸との誤差を計測し、ここから各軸の誤差角度を計測する。
b.姿勢制御用アクチュエータ
三軸制御衛星で通常使用されている姿勢制御用のアクチュエータは、ホイール、磁気トルカ、スラスタ
などがある。
①
ホイール
ホイールには、発生した角運動量により姿勢の安定を保つ機能(モーメンタムホイール)と、回
転数すなわち角運動量を変化させることにより外乱を吸収する機能(リアクションホイール)の、2
つの機能がある。
ホイールの持つ角運動量は、外乱トルクを吸収することにより次第に増大する。ホイールの角運
動量を、許容されるレベルに保つためには、ホイールのアンローディングを実施しなければならな
い。これは、まずホイールが蓄えた角運動量を打ち消すようなトルクを、スラスタ、磁気トルカな
どを用いて発生させ、蓄積した角運動量をホイールから放出させることにより、ホイールの持つ角
運動量を低減させるものである。通常地上からスレッショールドを設定し、この値を超えた時点で
自動的に実施するようなロジックになっている。
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②
磁気トルカ
地球磁場と電磁石との相互作用により、姿勢制御用のトルクを発生させる。
③
スラスタ
ガスを噴射し、その反作用により、姿勢制御用のトルクを発生させる。
c.バイアスドモーメンタム方式とゼロモーメンタム方式
三軸制御の方式にはバイアスドモーメンタム方式とゼロモーメンタム方式の 2 つの方式がある。
バイアスドモーメンタム方式はある軸方向(通常ピッチ軸方向)に予め大きな角運動量を与え(モーメ
ンタムホイールを回転させ)、このジャイロ安定効果により姿勢の安定を図る方式である。
ゼロモーメンタム方式は、姿勢を安定させるための大きな角運動量は持たないが、三軸方向のトルク
を発生できるような複数のリアクションホイールを持ち、この回転数を制御することによって衛星に発
生した外乱トルクを吸収する方式である。
c-1.バイアスドモーメンタム方式の姿勢制御例(旧 NASDA が開発した BS-3 放送衛星)
バイアスドモーメンタム方式の衛星は、ヨー軸のセンサを搭載していないことが多く、BS-3 につ
いても、ヨー軸のセンサは搭載されていない。理由は以下の通りである。
①
モーメンタムホイールによりピッチ軸方向に大きな角運動量が与えられてるので、ロール・ヨ
ー軸の誤差角度についてはホイールのジャイロ安定効果により、一定レベルに抑えられている。
このため通常の外乱では急激に誤差角度が大きくなることはない。
②
軌道位置が 90 度変化すればヨー軸の誤差角度はロール軸の誤差角度となり、ロール軸を制御す
ることがヨー軸を制御することになる。
以上よりヨー軸のセンサがなくても三軸の制御に支障はない。こればバイアスドモーメンタム方式の
特徴となっている。またロール軸とピッチ軸の誤差角度に関しては、地球センサを用いて計測してい
る。
BS-3 のピッチ軸方向の制御は、地球センサからの姿勢誤差信号を衛星搭載の計算機で処理し、モ
ーメンタムホイールの回転数を変化させることにより実施している。また、ロール軸の制御に関して
は、地球センサで計測されロール角度信号から、磁気トルカを駆動し実施している。
c-2.ゼロモーメンタム方式の姿勢制御例(ETS-Ⅵ)
ゼロモーメンタム方式の衛星では、各軸を制御しなければならず三軸ともに姿勢計測用センサを持
っている。ETS-Ⅵでは、三軸ともジャイロを用いた計測を基本とし、ジャイロのドリフトを補正す
るために光学センサ(地球センサ・太陽センサ)を用いている。
ETS-Ⅵの姿勢制御は、4 つのリアクションホイールにより行う。1 軸について 1 つのホイールに、
計 3 つのセンサが必要とされるが、冗長構成を考え 4 つのホイールが 45 度傾けて(skew)搭載され
ている。各センサからの姿勢誤差信号は、衛星搭載の電子回路で処理されホイール駆動信号となり、
これら 4 つのホイールを回転させることにより、外乱トルクを吸収し各軸の制御を行う。
4)
構体系
・構体系の基本機能は、衛星の打上げ時及び軌道上にて遭遇する次の環境に対し、衛星の形状を保持し
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H27.8.3 版
各搭載コンポーネントに対して適切な機械環境条件を与えることである。
・振動、音響、静加速度-ロケットによる打上げ上昇中に生じる。
・衝撃-ロケットからの分離時、パドル、アンテナ等の展開時に、解放用火工品(爆管)の点火によっ
て生じる。
・ 熱歪-太陽照射部と非照射部のように温度差が大きく発生する部位(展開アンテナ等)に熱膨張と収縮
によって生じる。
・衛星の構造例を図 1-10、図 1-11 及び図 1-12 に示す。
・衛星の主要構造材料とその特性を表 1-3 に示す。よく使われる材料としてはアルミニウム合金
(6061,7075) の他、最近の衛星では CFRP(カーボンファイバー)が多く使われている。チタン合金
(TI-6AI-4V)は衛星の燃料タンクや固体ロケットケースに使用される。宇宙用材料としては以下のパ
ラメータが特に重要。
比強度=
fy

、比剛性=
E
、熱膨張率(アンテナ等の平面度に影響)

図 1-10 スピン衛星構造例
図 1-11 三軸衛星構造例(中央円筒型)
(スピン衛星の場合は中央円筒型になる。
)
図 1-12 三軸衛星構造例(パネル支持)
10
H27.8.3 版
1-3 宇宙機に使用される材料の特性
*
†
*Tensile modulus
†
Tensile strength
5)
熱制御系
・ 熱制御系の基本機能は、衛星の打上げからミッション終了までに衛星が遭遇する全ての熱環境(表
1-4 及び図 1-13 参照)に対して、衛星の搭載コンポーネントを許容温度範囲に維持することである。
・ 衛星熱制御の基本的な考え方は、表 1-4 の熱環境下で衛星各部が許容温度範囲で熱バランスするよ
う、輻射及び伝導による熱伝達経路と伝達量を調整することである。表 1-5 には衛星搭載コンポー
ネントの温度要求例を示す。このために用いる熱制御素子の代表的なものを表 1-6 に示す。
表 1-4 衛星の熱環境
地球周回衛星では
約 1,358W/m2
237±21W/m2
407W/m2
11
H27.8.3 版
図 1-13 軌道上の熱源
表 1-5 衛星搭載コンポーネントの温度要求例
表 1-6 熱制御素子の代表例
受動型の素子の場合、幅射域は衛星表面の材料の吸収率(α)と輻射率(ε)で制御する。一方、
熱伝導については熱伝達量を材料固有の熱伝導特性と形状で調整する。
輻射熱制御材料とその特性を表 1-7 に示す。
内外の熱環境の変化が激しい場合や機器の発熱量が非常に大きい時には能動型の素子を用いて制御
する必要が生じる。食時に冷え過ぎないようにするためにはヒーターを用いる。衛星内外の熱の出入
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H27.8.3 版
りを制御するためにはサーマルルーバ(窓のような構造)が用いられる。ミッション機器の大容量化
による大量発熱を排熱するためには熱伝導のためにヒートパイプが用いられる(図 1-14)。
・
熱設計解析
衛星への外部熱入力により、衛星の内部温度がどのような熱特性で決まるか、簡単な数式で検討す
るために衛星全体の平均温度について見てみる。
衛星の温度は、次の平衡の式からきまる。
(衛星に蓄えられる熱量)=(入ってくる熱量)-(出ていく熱量)
蓄えられた熱量が、衛星の温度変化を与える。衛星内部は同一温度(isothermal)、つまり無限大
の熱伝導率をもつと仮定すると、上式から衛星の平均温度が求められる。
例えば、地球のアルベド、熱輻射を無視すると
mC p 
dT
  s Si   T 4  P
dt
(1)
と表される。右辺の第 1 項は太陽からの入射エネルギー、2 項は衛星からの放射、3 項の P は内部
機器の発熱である。ただし、
m:衛星の全質量(㎏)
Cp:衛星の比熱(W・s/(K・kg)
T :絶対温度(K)
 s :衛星表面の太陽光吸収率

:衛星表面の熱放射率
 :衛星表面積
 i :太陽入射係数(solar aspect coeffcient)
S :太陽放射エネルギー
である。衛星の平均の定常温度 TE は上式で dT / dt  0 として、
 P   s S i  
TE  




1
4
(2)
で求めることができる。さらに内部発熱がないとすると( P  0 )
  S  
TE   s i 
  
1
4
 S      
   s  i 
     
s
 
これから衛星の平均温度は、表面特性 
1
4
(3)

 
 か、入射と放射の表面積の比  i  を変えることで

  
制御できることがわかる。
13
H27.8.3 版
表 1-7 輻射熱制御材料の特性
(吸収率)
(輻射率)
ヒートパイプ
ヒートパイプは、管状容器にアンモニア等の作
動流体を封入したものである。作動流体の蒸発及
び凝縮時の潜熱の吸収及び放出作用を利用して大
量の熱を管軸方向に輸送する。これを衛星の機器
パネルに用いると、パネル内の温度の均一化がで
き、高効率の放熱系が形成できる。
衛星内部
ヒートパイプ
ハニカムパネル
衛星外部
ヒートパイプ埋込断面の例
ヒートパイプは、ハニカム
パネルに埋込まれている。
図 1-14 ヒートパイプの適用例(ETS-Vミッションパネル)
・熱制御系を設計する上で考慮すべき基本事項は
(ⅰ) 最大熱入力条件下においても機器の過熱を招かない十分な放熱面積確保
(ⅱ)最少熱入力条件下(日陰、ミッション機器 OFF 等)においても機器の過冷を招かない適切な
保温処置
(ⅲ) 衛星システムからの制約条件(重量配分、電力配分等)の下で(i),(ii)の両条件を満す最適熱
制御方法を見出すこと。
である。なお(ⅰ)には、ミッション期間中の熱制御材の経年劣化(衛星の温度を徐々に上昇させる)
を考慮しなければならない。
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H27.8.3 版
6)
推進系
推進系の基本機能は、ロケットから分離された衛星の軌道及び姿勢を必要とされる状態に変更或は、
維持するための推進エネルギを得ることである。
a. 衛星の推進系の動作は、主として次の場合に必要となる。
(ⅰ) 衛星の最終軌道投入(静止軌道)……アポジ点(遠地点)で作動させる固体ロケットまたは液体
エンジン、及びガスジェット装置を使用
(ⅱ) 軌道維持……ガスジェット装置、イオンエンジンを使用
(ⅲ) 姿勢変更及び維持……ガスジェット装置を使用
b. 固体アポジモータは 1 トンクラス以下の静止衛星に多く用いられる。衛星の大型化に伴い液体アポ
ジ推進系が使われるようになった。図 1-15 に固体アポジモータの例を、図 1-16 に液体アポジ推進
系の例を示す。
c. ガスジェット装置の主要構成要素は推進薬(ヒドラジンが主流)タンクと複数のスラスタである。
図 1-17 に一液式ガスジェット装置の系統図例を示す。A 系統と B 系統があるがこれらは冗長系を
構成している。
図 1-15 固体アポジモータの例(ETS-V用:静止 550 ㎏級)
図 1-16 液体アポジ推進系(ETS-Ⅵの 2000N スラスタ例)
15
H27.8.3 版
図 1-17 ガスジェット装置系統図(ETS-Ⅴの例)
推進系の性能を表わす指標の一つに比推力(Isp :Specific impulse)がある。この値が大きいほど、
少ない推進薬で大きな推力が得られる。比推力は 1 ㎏(質量)の推進薬で 1 ㎏ f の推力を出し続けら
れる時間で表わす(単位は秒となる)
。
 :質量流率、 g :重力加速度)
Isp  F m g (F:推力、 m
表 1-8 に推進系でよく用いられる推進薬と、これを用いた推進系が出し得るおよその比推力の値を示
す。一般に比推力は、燃焼(分解)温度が高いほど、また燃焼(分解)生成物の分子量が小さいほど
大きい。また、推進薬の使い方として、燃焼(分解)圧力を高くすると比推力は増す。
表 1-8 推
進
薬
と
比
推
力
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H27.8.3 版
(3) 人工衛星の運用
1) 軌道制御
軌道はその衛星のミッションに適した形状に軌道制御をして、その形状を保つ必要がある。制御に
は軌道面内での形状変更と、軌道面の傾きを変更する場合があり、各々図 1-18 で示す制御位置で衛星
に搭載のエンジンやガスジェットを噴射する。なお、ミッションに適した軌道の代表例を以下に示す。
軌道の代表例
a. 静止軌道: 赤道上空の高度 35787km の円軌道をいう。衛星の公転周期は地球の自転周期と一致し、
地球上からはあたかも静止しているように見える。通信/放送の中継、気象観測など定点であるこ
との利点を利用するミッションに適している。
b. 回帰軌道: 昇交点経度(地表)が約 1 日後元の経度に戻る軌道をいう。
例えば、旧ソ連、東欧圏で使われているモルニア衛星では 1 日 2 周回して衛星直下点は元の地表点
に戻り、しかも遠地点が移動せず、軌道傾斜角の大きな長楕円軌道を選んでいるため、極域で 1 日
の 1/3 は衛星を使った通信が可能である。
c. 太陽同期準回帰軌道: 適当な軌道高度と軌道傾斜角を選べば、地球が回転楕円体であることによる
摂動により昇交点の赤経(軌道面)が 1 年で 1 回転し、軌道面と太陽の動きを一致させることが出
来る。また、衛星直下点を一定の日数毎に地球の同一地点上を通過させることが出来る。このよう
な軌道は可視時間帯がほぼ同一となり、観測データも定時刻のものが得られる。また、選ばれる軌
道傾斜角も 100 度前後の極軌道となるため、地球上をくまなく観測出来ることにより、地球観測衛
星に適している。
(例:旧 NASDA の MOS-1 衛星では、軌道高度 909km、軌道傾斜角
面内制御
99.1 度、回帰周期 17 日)
面外制御
制御前
制御後
制御後
第 1 回制御
第 2 回制御
制御前
制御位置
制御前後の軌道面
制御後の速度
ベクトル
速度変更量
制御前の速度ベクトル
図 1-18 軌道制御
17
H27.8.3 版
2) 静止衛星の軌道投入手順
静止衛星の打上げから静止化までのシーケンスを以下に示す(図 1-19)
。
①
ロケット上段部(H-Ⅰロケットでは第 3 段、H-ⅡA では第 2 段)と衛星を高度約 200km の円軌
道(パーキング軌道)に投入する(軌道速度約 7.8km/sec )。
②
赤道上空において上段ロケットの燃焼により増速し、ロケットから分離する(∆V=約 2.4km/sec)。
衛星は近地点高度約 200km.遠地点高度約 36000km の長楕円軌道に乗る[静止トランスファ軌
道(GTO):近地点速度約 10.2km/sec、遠地点速度約 1.6km/sec]。種子島より打上げられる場合の
軌道傾斜角は、28°~30°である。
③
トランスファ軌道を周回している間に衛星の姿勢をアポジモータ燃焼(AMF)姿勢に変更する。
④
何周回か後、遠地点(赤道上空)に達した時衛星に搭載された小型ロケットのアポジモータ(固
体または液体)に点火しトランスファ軌道面から赤道面への軌道傾斜角修正と軌道長半径の拡大
を同時に行い、衛星をドリフト軌道に乗せる。この時の増速量は軌道変更分も含めて約 1.8km/sec
である。H-ⅡA の能力向上によりこれを 1.5km/sec まで高めることとしている。
⑤
ドリフト軌道上で、衛星の軌道制御用スラスタによる微小推力調整により所定の経度位置に静止
させる。最終的な軌道は約 3.1km/sec となる。
図 1-19 静止衛星の軌道投入シーケンス
18
H27.8.3 版
3) 追跡管制の仕組み
追跡管制技術の中でその中核をなすダイナミックスについて概説する。
(i)
軌道決定・制御
二体問題:地球が真球であるとしてその回りを回る人工衛星の運動は

r   K
r2

r

r
ここで r は地心から人工衛星を結ぶその間の距離 r が大きさである動径ベクトル


2
d
r
r  2
dt
K:重力定数(=G×M、G:万有引力定数、M:地球の質量)
で表される。これは良く知られるニュートンの万有引力の法則であり、地球と人工衛星のみを考える
ことから二体問題あるいはケプラー運動と呼ばれる。この運動は古来から研究され以下に述べるケプ
ラーの法則が成り立つ。
・人工衛星の軌道は地球を一つの焦点とした楕円軌道である。
・面積速度は一定である。
・人工衛星の公転周期の 2 乗は軌道の大きさの 3 乗に比例する。
軌道の 6 要素の定義(図 1-20 参照)
:
 
上記の2階微分方程式を解くとことにより、ある時刻 t  t0 での (r0 : r0 ) が求まる。また、わかり易い表現
として次のようなパラメータで表わせ、これを軌道6要素という。
a:軌道長半径(semimajor axis)
e:離
心
軌道の大きさ、形を表す
率(eccentricity)
i:軌道傾斜角(inclination)
Ω :昇交点赤経(right ascension of the ascending node)
軌道の慣性空間における位置方向
 :近地点因数(argument of perigee)
を表す
Μ :平均近点離角(mean anomaly)
楕円一周の角度変化を一定と仮想した
又は
時の衛星の近地点からの角度(近地点、
遠地点では真の衛星位置となる)
f:真近点離角(true anomaly)
近地点からの角度で衛星の位置を表す
f
i
ω
図 1-20 軌道 6 要素
19
H27.8.3 版
(ii)
軌道データ
地上局より観測できるデータは以下の測定値である(図 1-21
・角度データ
参照)。
:観測局からみた方位角、仰角のデータ。電波の到来方向にアンテナを追尾させ
てその方向を時々刻々測定。
・距離(レンジ) ρ :観測局から特定の信号を衛星に送出し、その送り返されてくる迄の時間 Δt
をはかり計測。
 
ρ  r  R  (c  Δt)/2
ただし、 c は光速を示す。
・距離変化率(レンジレート)RR: ドップラー効果を利用して衛星と地上局間の距離の変化率
を測定。

     
RR  (( r  R)  ( r  R
))/ r  R
局より送信の f 0 の周波数の電波が、衛星内で γ の倍率で変換され、地上局に f R の周波数で到達
する場合、局から衛星、衛星から局で 2 回ドップラーシフトを受けるため、下記の式で表わされ
る。
RR  c(1  f R /γf 0 ) / 2
(補足参照)
(Δt 時間での衛星運動のベクトル)
図 1-21
距離及び距離変化
率
(補足)
①
信号源の周波数を f 0 、波長を λ 0 、高速を c とする。 f 0  c λ 0
②
観測者が信号源から遠ざかる(距離が増加)方向の速度を v(正)(即ち RR)
③
地上局が信号源、人工衛星が観測者、受信周波数 f R は、
f R  f 0 (c  v) c となる。
一方、人工衛星から地上局が受ける場合の見かけの波長 λ  は、 λ  (c  v) f s
受信周波数から送信周波数への変換倍率を γ とすると、人工衛星からの送信周波数 f s は、
fs  γf R  γf0 (c  v) c
地上局の受信周波数 f R は、
f R  c λ  f s c (c  v)  γf0 (c  v) (c  v)
 γf0 (c  v)2 (c 2  v 2 ) ≒ γf0 (c 2  2cv) c 2
 γf0 (c  2v) c
よって、
v  c(1  f R γf0 ) 2
となる。 v  RR (距離変化率)なので、
RR  c(1  f R γf0 ) 2 である。
20
H27.8.3 版
(iii)
軌道決定と軌道予報




Δt , f 0 , f R の測定値より ρ ,RR が計算出来、さらに R 、 R は既知のため r 、 r がわかる。
軌道は 6 要素(6 つの初期値)で決まることより 6 つの独立した軌道データがあれば軌道は決定で
きる。しかし測定誤差があるため、多量のデータを用い最小二乗法により軌道を求める。誤差要因
としては軌道データの測定誤差、地上および衛星での時間の誤差、地上局の位置誤差がある。なお、
角度データを計算の中に含めると計算の収束が早くなる。
一方、軌道が決まったのちは、軌道を未来の方向に伝幡させ、ある未来時刻での局のアンテナの
方位角、仰角の予測をする。この計算を軌道予報とよんでいるが、その際には、次に記す様な摂動
を考慮する必要がある。
(iv)
摂動(perturbtion)と衛星軌道への影響
人工衛星の運動は概略地球を真球として表せるが、実際の人工衛星の軌道は太陽や月の引力、地
球大気の抵抗、太陽の幅射圧、地球の重力ポテンシャルの非対称性などの影響を受けて複雑な動き
をする。真球と考えた地球の万有引力以外の力を総称して摂動力と呼ぶ。
以下に主な摂動の特性とそれによる衛星軌道への影響を述べる。
①
月、太陽の引力:この力により軌道面および軌道の形が変化する。
②
地球の重力のポテンシャルの非対称性:
・地球の赤道半径が極半径よりも約 21km 大きい回転楕円体のため、中高度衛星では衛星の
軌道面が回転し、昇交点赤経が変化する現象がおきる。
・地球の赤道まわりについての重力は経度によって変わるため、静止衛星では重力の強い方
に引かれて加速され、地球の自転周期とずれを生じて衛星位置は経度方向に移動する。
③
太陽幅射圧:高高度の軌道の衛星で影響が大きい。
④
地球大気の抵抗:600km以下の低高度の地球大気中を通過する衛星が大きな影響を受
けて高度が低下する。
(v)
摂動を応用した衛星軌道
地球の扁平性に基づく重力の付加ポテンシャルを考慮した標準重力場では、軌道面の方向は一定
でなく昇交点赤経は永年摂動と呼ばれる運動をする。これを応用した軌道に太陽同期軌道(SSO:
sun-synchronous orbit)がある。
図 1-22 は太陽の周りを地球が交点する様子を北の方から見た図である。太陽の周りを地球が 
公転したときに、地球を回る飛行体の軌道が摂動によって     東を向くような軌道をとってい
れば軌道面は常に太陽に対して一定の相対関係にあることになる。
太陽の周りを地球は 1 日に平均
s 
360
 0.9856 (deg)
365.2422
動くので、摂動量  T  s となる点を選べば、この条件が実現できる。
一般に、
21
H27.8.3 版

3
cos i
360

J 2 Re2 Κ  23.9344  602  7 2


2 2
2
365.2422 180
a (1  e )
すなわち、
7
 a 2 (1  e 2 ) 2  2.0893  1014 cos i
を満足する北から見て反時計方向に摂動する軌道を太陽同期軌道(SSO: Sun Synchronous Orbit)
という(式の長半径 a の単位はkm)。
太陽同期軌道は地球上の観測をするときに常に同じ方向から観測できること、あるいはまた画像
データを取るときに太陽光の当たる角度(地方太陽時)を常に一定にできる等の利点があり、気象
観測、地球観測、海洋観測等の観測衛星によく用いられている。
図 1-22 太陽同期軌道
昇交点赤経の永年摂動を利用して飛行体の軌道面に太陽に対して一定の関係を持たせることができる。
(vi) 回帰軌道と準回帰軌道
昇交点赤経の摂動によって、ちょうど、摂動量分だけの地球の自転角速度が増加したように作用
するので、地上の観測者が飛行体の軌道を観測する時には、地球の自転速度 ωe に、
 e 
 N
TP
3
Κ
Re 2
  J2 3 2 2
cos i
2 a a (1  e2 ) 2
の補正が必要になる。ここに TP は周期。この補正量を用いると地球上で観測する 1 周回あたりの昇
交点変化量は、
  (e   e )TP
 2e
3
2
Re2
 3J 2 2
cos i
a (1  e 2 ) 2
Κ
a
となる。
式を見ると分かるように、a と i と e(通常は円に近い軌道が多く e≒0)とを適当に選ぶことに
よって飛行体が 1 日 1 回必ずもとの地点の上空に戻って来るようにできる。また、毎日 1 回戻って
くることはなくとも N 日後に元の地点の上空に戻ってくるようにすることはできる。N 日後に飛行
体が n 周回して元の地点の上空に戻る条件は式を用いて、 2N  n より、
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H27.8.3 版
3
N
a2
3
R2
 e
 J 2 2 e 2 2 cos i
n
Κ 2 a (1  e )
となる。N=1 の場合、すなわち毎日 1 回必ず同じ地点の上を通る軌道を回帰軌道(recuurrent orbit)
と呼び、回帰軌道の条件は、
3
2
1
a
3
R2
 e
 J 2 2 e 2 2 cos i
n
Κ 2 a (1  e )
である。同じ地点の上空に戻るまでに
N 日を要する場合の軌道を回帰日数 n 日の準回帰軌道
(subreccurent orbit)、あるいは N 回帰軌道と名付けている。
太陽同期衛星の軌道はいずれも準回帰軌道でもある(太陽同期・準回帰軌道(sun-synchronous
subrecurrent orbit)と呼ばれる。
(vii) 静止衛星の軌道変動
地球の自転と等しい軌道周回周期をもつ円軌道を同期軌道(synchronous orbit)という。同期軌
道は地球上から見ると飛行体が赤道上を通過する点を中心に8の字を描いているように見える。静
止軌道は同期軌道の特別の場合であって、赤道面内にあって(i=0)、高度 35,786km の円軌道を(e=0)
であり、地球の自転周期と等しい回転周期を持つので地球から見ると一点に静止しているように見
えるのでこの名がある。
しかしながら、微小な軌道傾斜角と離心率により静止衛星の毎日の軌道運動に変動が生じる。
図 1-23 の A 図は軌道傾斜角によって生じる赤道上に中心を持つ 8 の字であり、地球の中心にいる観
測者から見た図である。
軌道傾斜角
i によって生じる 8 の字の高さの半分 hinc と、幅の半分 winc は次式で与えられる。
hinc  i
tan winc 
1
( sec i  cos i )  tan 2 (i / 2)
2
不均一な見かけの運動を生じるもう一つの要素は、衛星軌道の離心率が零でないことによるもであ
る。離心率、e は東西方向に次の大きさの振動、wecc を生じる。
 360 deg 
wecc  
 e  (115 deg) e
 

実際は傾斜角と離心率による運動は重畳され、地球から見ると二つの静止衛星の運動形状が存在
する。もし零でない傾斜角の影響が支配的ならば衛星は 8 の字を描いているように見える。一方、
離心率の影響が傾斜角の影響より大きい場合は、衛星の見かけの運動は図 1-23 の B 図に示すように
一つの長円形になる。
23
H27.8.3 版
図 1-23 静止軌道上の衛星の見かけ上の毎日の運動
(viii)
スピン衛星の姿勢決定・制御スピン姿勢安
定方式の人工衛星では、姿勢(スピン軸の方向)
を決定し、打上・初期段階において所定の姿勢
を確立し、定常段階では外乱による所定の姿勢
からのずれを補正するために姿勢制御を行う必
要がある。
①
姿勢の計測(図 1-24,1-25 参照)
姿勢はスピンベクトルの赤経、赤緯で定義し、
計測データからこれを求めることが姿勢決定で
図 1-24 スピン安定衛星の姿勢
ある。姿勢データには以下がある。これらはい
ずれもテレメトリとして人工衛星から地上へ送
られる。
太陽角データ
:スピン軸と入射する太陽光線の間の角度を測定する。
地球コード幅データ :地球の端を検出し地球をセンサが走査する時間から地球コード幅を測定する。
図 1-25 太陽角と地球コード幅データ
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H27.8.3 版
②
姿勢の決定
前項で述べた姿勢データはそれぞれスピン軸の方向と太陽方向との関数、及びスピン軸の方向と
地球に対する人工衛星の位置との関数で表せるから連立方程式を最小二乗法で解くことによりスピ
ン軸の方向(姿勢)を求めることができる。
(iv)
姿勢外乱
人工衛星の姿勢は種々の外乱により所定の姿勢からずれて行く。人工衛星に加わる外乱トルクに
は以下のようなものがある。これら外乱に対して衛星の姿勢を維持するために、ガスジェット等に
よる制御が必要である。
a. 太陽幅射圧により生じるトルク
太陽幅射圧とは、太陽から放出される放射線エネルギーにより衛星が受ける圧力のことである。
この圧力の衛星表面照射中心と衛星の重心の差により姿勢が変動する。
b. 重力場の傾きにより生じるトルク
軌道上にある非対称物体は地球重力場の傾きのため重力トルクを受ける。この重力場の傾きは、
重力が地心からの距離の逆二乗に比例することから生ずる。
空気抵抗により生じるトルク
c. 地球近傍(高度約 400km 付近まで)を飛行する衛星では、地球を取りまく超高層の大気の抵抗
により、衛星の姿勢が変動する。
d. 磁気により生じるトルク
このトルクは衛星の残留磁界と地磁気の相互作用により生じる。
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