祇園祭と京の夏 季節感生かす紙面作り 新編集講座 ウェブ

祇園祭と京の夏
■新編集講座 ウェブ版
季節感生かす紙面作り
第32号
2015/7/15
毎日新聞社 技術本部長(元・大阪本社編集制作センター室長)
三宅 直人
京都の祇園祭は、前祭(さきまつり、次ページ参照)の巡行が 17 日、昨年から復活した後祭(あとまつり)の巡行が 24 日に
あります。「京の夏は祇園祭で始まり、大文字など五山の送り火で終わる」とも言われ、京都のみならず、関西一円の
人たちの生活に深く根付いています。地元の大阪本社は、こうした季節感を大切にした紙面作りを心がけています。
■ 「コンチキチン」に誘われて
祇園祭は八坂神社の祭礼で、7月1日の「吉符(きっぷ)入り」に始まり、
31 日の「夏越祭(なごしさい)」まで、1カ月にわたってさまざまな行事が
行われます。一般の観光客にとって、単に「祇園祭」と言えば、クライマッ
クスの山鉾巡行や、その前の宵山を連想することが多いようです。
前祭の宵山は 16 日。そろそろ梅雨も明けて、小中高生は夏休みを迎える
季節です。山鉾の立ち並ぶ四条通は夕方から歩行者天国になり、何万、何十
万という家族連れやカップルが、
「コンチキチン」という祇園囃子(ばやし)
を聞きながら、そぞろ歩きます=右図は昨年の紙面(大阪本社版、以下同じ)。
■ 一人一人に思い出が
近畿に暮らす人たちにとり、祇園祭は夏本番を告げる風物詩です。これを
報道するのは、単に何万人の人出があったというニュース性だけが理由では
なく、「いよいよ夏やね」と確かめ合う意味があると感じます。だから、他
にどんなニュースがあっても、宵山も巡行も写真を添えて扱うのです。
関西の多くの読者はきっと、
「一家で出かけた」とか、
「彼女と初めてデー
トした」とか、自分だけの祇園祭の思い出を持っていることでしょう。京都
で学生時代を過ごした私にもそんな記憶があり、記事にしました=下欄参照。
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0
1
4
年
7
月
17
日
朝
刊
(
大
阪
本
社
版
)
上図は 1998 年 7 月 11日の夕刊コラム「憂楽帳」です。京都では、京阪電車の四条駅(当時、現在は「祇園四条」に改称)や三条駅を、それぞれ
「四条京阪」「三条京阪」と呼ぶことが多く、京都市営地下鉄にも「三条京阪」駅があります。駅名というより地名という感覚です。似た例としては、
大阪に「野田阪神」があります。東京では、たとえば「西武新宿」駅を「新宿西武」とは呼ばない(百貨店みたい)ので、東西の流儀が好対照です。
■ 変わらないこと 宵山の熱気
季節感に根ざした新聞作りをすれば、どうしても毎年似たような紙面に
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9
5
6
年
の
祇
園
祭
宵
山
なる可能性があります。実際のところはどうか、調べてみました。
本社のデータベースで、私が生まれた 1956 年を調べたところ、右図㊤
の写真が見つかりました。山鉾と人の波と。周囲の家並みの背が低いのが
時代を感じさせますが、雰囲気は今とほとんど変わりません。
その 20 年後、私が大学に入学した 76 年の宵山が右図㊦の写真です。女
性を誘いそびれた私たち「大学の同級生4人組」も、きっとこの中のどこ
かにいたはずです。高いビルやネオンが増えましたが、やはり山鉾と人の
波。何年たっても祇園祭は変わらないなあ、と感無量になります。
こうした変わらなさが、京都の魅力であり、関西の季節感なのでしょう。
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祇
園
祭
宵
山
こよみに応じた紙面作りは、読者の生活感覚になじむと思います。
■ 変わること 巡行が 2 回に
もちろん「変わらないこと」だけが祇園祭ではありません。時に大胆に
変わることも、京都という街の特色です。冒頭から何度か触れた「前祭と
後祭」が、その典型でしょう。
祇園祭は昨年から、宵山も山鉾巡行も、それぞれ2回になりました。元
は別々だった「前祭」と「後祭」は、渋滞緩和などの理由で 1966 年から
前祭の日程で一本化されていたのですが、巡行を主催する祇園祭山鉾連合
会で「本来の形を取り戻そう」との声が高まり、
2013 年 8 月、後祭復活を決めたのです。
右欄㊤は、
「変わる祇園祭」を伝える昨年 6 月
28 日の夕刊1面です。祇園祭が間近に迫りなが
ら、なお「後祭復活」を知らない人が多いため、
周知を図る狙いを込めました。
その前年の 13 年 8 月、「後祭復活」が決まっ
た時点で一度報じてはいた=右欄㊦=のですが、
(上)14 年 6 月 28 日夕刊
なにぶん一本化方式が半世紀近く続いたため、
「山鉾巡行が2回ある」ということにピンと来な
い人が多かったのです(私もそうでした)
。
■ 後の祭り
その復活した「後祭」ですが、そもそも巡行す
る「山」や「鉾」の数が少なく、前祭に比べてさ
みしい感じがし、「後の祭り」の語源になったと
の説もあるそうです=右欄参照。元京都市民であ
る私も初めて聞く話で、祇園祭の歴史は奥が深い
(
左
)
13
年
8
月
31
日
朝
刊
と、感じ入った次第です。
私は6月の異動で大阪本社から東京本社に転勤しましたが、紙面の上で「京の夏」を堪能するつもりです。
祇園祭で始まり、五山の送り火で終わる京の夏。8月 16 日に行われる送り火の紙面扱いについても、改めて
取り上げることにします。
「後の祭り」にならないよう、当日までに原稿を仕上げます。