file1 VISION 長崎大学病院 2014.11 長崎の医療の未来を描く エボラ出血熱の二次感染を防げ 「夢駆ける」から「VISION」へ。11 月から新たなコンセプトでスタートする。社会で注目されて いる医療の話題や大学病院の動きを中心に、長崎大学病院の旬な話題をレポートする。 今回は世界的に感染が広がるエボラ出血熱。本院は県内唯一のエボラ出血熱などの一類感染症の 診療をおこなう指定医療機関である。医療従事者の二次感染防止など、その取り組みを紹介する。 医療関係者の感染防ぐ個人防護具の着脱訓練 「アメリカで感染者です」 。世間を揺るがすエボラ 導に当たるのは長崎大学病院の感染制御教育セン 出血熱のテレビ報道が日本中を駆けめぐる。発生源 ターの医師、看護師である。細心の注意を払うよう である西アフリカのみならず、アメリカやスペイン 促しながら、冷静に対応することを強調する。脱衣 の先進国でも医療関係者の二次感染が確認された。 方法のポイントとして、汚染された表面を内側に巻 長崎大学病院はエボラ出血熱などの一類感染症対 き込んで脱ぎながら、二重に着用したゴム手袋も一 応の隔離病床 2 床を備える第一種感染症指定医療 緒に外す。そうすると外側の汚染された部分に触れ 機関である。前室を備えた隔離病床では外部との接 ることなく、安全に脱ぐことができるという。 触を一切遮断され、食事の配膳から排泄物の処理ま エボラ出血熱患者発生への対応は感染症病床の職 で外部に病原体が漏れないように厳重に管理され 員だけではない。10 月末には全職員を対象にした る。唯一治療のために接触するのは医療関係者だけ 院内感染対策講習会を開催し、受け入れの心構えと だ。肌が露出しないよう防護具を装着し治療に当た エボラウイルス対応の正しい知識を共有した。 る。防護具を完全装備することは負担が大きく、ま エボラウイルスは 1976 年にアフリカで発見さ た、緊張状態から解放され気が緩む脱衣の時が最も れ、コウモリに寄生するとされる。これまでに中央 危険だといわれる。 アフリカなどで数回流行した。発症した患者の血液 先進国での感染例のほとんどは医療関係者の二次 や排泄物、汗などの体液に直接接触して感染すると 感染である。防護具の脱衣時が最も感染のリスクが され、空気感染はしない。しかし発症後には急激に 高く、長崎大学病院では9月から週 1 回、医療関 ウイルスが体内で増殖し、感染のリスクは高まる。 係者を対象に個人防護具着脱の訓練を実施してい 致死率は 49.5%に上る。 る。これまでに感染症専門の医師や看護師らのべ 感染拡大を防ぐ対策の1つに感染患者の迅速な把 約 50 人が参加し、数回トレーニングを受け、習熟 握がある。エボラ出血熱の潜伏期間は3日から 21 に努めている。使用する防護具は感染制御教育セン 日とされるため、最長 21 日以内に西アフリカへの ターのスタッフが WHO(世界保健機関)や CDC(ア 渡航があり、さらに 38 ℃以上の発熱があると、感 メリカ疾病予防管理センター)などの情報を基に素 染の疑いが高まる。 材などを検討し、より安全な着脱方法を考案した。 もし、感染が疑わしい風邪に似た症状の患者がク 「手はいつも視界に入るようにしてください。手 リニックや病院に来院した場合、 「まずは3週以内 袋がうまく外れなくても慌てずにひと呼吸置いて、 の渡航歴の把握である」と感染制御教育センターの そのまま一旦アルコールで消毒してください」 。指 泉川公一センター長はいう。人と接触しない個室で 9月から週 1 回、実施している個人防護具の着脱訓練 防護服は内側に巻き込みながら脱ぐのがポイント 感染制御教育センターでは防護服の素材やよりよい着脱時の方法を 考案している。紫外線で光る蛍光液体を噴霧して検討を重ねる 感染拡大は医療機関や地域との連携がカギ 待機してもらい、速やかな保健所への連絡を呼び掛 30 〜 40 分での迅速な診断がつけば、患者拡大防 けている。吐瀉物や便などには一切触れてはならな 止に大きく役立つ。長崎大学病院での一日も早い実 い。泉川センター長は「こんなときこそ、アルコー 用化が期待される。また厚労省は抗インフルエンザ ルでの手指消毒など、日ごろの感染対策も見直し、 薬でエボラ出血熱に有効とされる 「アビガン錠(ファ 職員全員の感染対策に対する意識の向上を図りた ビピラビル) 」の使用を緊急避難的に専門家会議で い」と語る。エボラウイルスはアルコールなどの消 認めた。 毒液で死滅する。 長崎は 1571 年の開港以来、主に東南アジアや 疑わしい患者の早期発見に向けて、国の動きも加 中国などの熱帯地域を介した貿易の港として栄え 速している。空港などの水際対策が強化され、地域 た。一方で、さまざまな感染症が持ち込まれた。約 の医療機関や自治体では密な情報交換や態勢づくり 150 年前、長崎大学病院の前身である養生所を開 が急務になった。そんな中、リスクの高いウイルス 院したヨハネス・ポンペ・ファン・メーデルフォー の迅速な検出に向けて、長崎大学では研究が進む。 ルトがコレラ治療に貢献した歴史もある。泉川セン 現在、確定診断は東京の国立感染症研究所へ検体を ター長は「改めて感染予防教育の重要性を実感して 送って行う。結果が出るまでに数日が必要だ。長崎 いる。医療従事者一人ひとりが予防策や基本的なこ 大学医学部熱帯研究所ではウイルスを迅速に検出で とを守っていたら、必ず封じ込めができる」と冷静 きる簡易検査法の開発に向けて研究を進めている。 な対応を強調した。
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