播磨灘における透明細胞外高分子粒子(TEP)と細菌の動的関係

播磨灘における透明細胞外高分子粒子(TEP)と細菌の動的関係
○田中
英俊・今井
一郎(京大院農)
・西川
哲也(兵庫水技セ)
キーワード:TEP・凝集体付着細菌
著者連絡先:[email protected]
均:9.9×102)で推移した。TEP 付着細菌量は 1 TEP あた
【目的】
透明細胞外高分子粒子(TEP)は海と湖に大量に存在し,
りの付着細菌量では 10∼50 / TEP,面積で標準化すると 5
近年、物質循環や生物生産過程の重要な役割を担っている
∼45 cells / 102 μm2 の範囲で推移した。2005 年,2006
ことが見出された。TEP は細菌の付着の場となっており,
年の夏季は共に,赤潮鞭毛藻はほとんど発生しなかった。
凝集体付着の細菌は浮遊細菌よりもサイズが大きいとい
また,浮遊細菌数,珪藻細胞密度,TEP 現存量,TEP 付着
う報告もあることから,周囲の海水よりも凝集体上の方が
細菌量の間に有意な相関は認められなかった。
栄養条件が良好と考えられる。加えて細菌がコロニーを形
本研究で得られた結果は,2005 年,2006 年ともに TEP
成しており,TEP は様々な微生物活性の発現する場として
現存量は既報の値(102∼106)と比べると少ない値であっ
重要であることも指摘されている。このように TEP は海洋
た。また,これまでの研究で報告されているような TEP
生態系における微生物活動の重要な場であるにもかかわ
現存量と Chl. a,あるいは珪藻類細胞密度との有意な相
らず,未だ未解明な部分が多い。本研究では,TEP と海洋
関は見られなかった。この結果は,植物プランクトンの中
微生物との関わりを解明する一端として,夏の沿岸域にお
にも体量に TEP を放出する種とそうでない種がおり,TEP
ける TEP 現存量の時間的変化を調査して TEP の動態を把握
現存量は TEP を放出する種に依存することを示唆してい
すると共に,TEP に付着する細菌を調べ,細菌の生息の場
る。今後,植物プランクトンの種に着目して,培養実験等
としての TEP の役割を検討することを目的とした。
を通じて TEP 生産を検討する必要がある。TEP 付着細菌量
【方法】
に関しては,各層であまり差がなかったことから,TEP 量
瀬戸内海播磨灘に位置する水深約 10 m の Stn. H31(北
や総細菌数にあまり影響されないと考えられる。今回,総
緯 34゜45’,東経 134゜28’)において,2005 年 6 月 24
細菌数に対して TEP 付着細菌数はおよそ 1%と小さな値で
日∼8 月 15 日,2006 年 6 月 26 日∼8 月 14 日の間,原則
あったが,これは実験手法の限界から小さな TEP 上の付着
として週に 1 回,0 m 層,5 m 層,B-1 m(海底上 1 m)層
細菌しか観察できず,過小評価になった可能性が考えられ
から海水を採水し,細菌,赤潮鞭毛藻,珪藻,TEP,TEP
る。サイズの大きい TEP や凝集体にも注目する必要がある。
付着細菌の現存量および細胞密度の測定に供した。珪藻は
ほぼすべての TEP 上には細菌が付着しており,TEP 上でコ
自家蛍光を活用し,海水中の細菌は DAPI 染色を行った。
ロニー化している細菌群も多く観察された。このことは
TEP はアルシアンブルー染色を施し,TEP 付着細菌は DAPI
TEP は細菌にとって増殖に有利な生息場所であることを
染色を加えた。これらの試料はポリカーボネートフィルタ
示唆する。付着細菌は浮遊細菌よりも重合体加水分解力,
ー上に適量を濾過捕集した後,落射蛍光顕微鏡を用いて直
アミノ酸摂取率,増殖率が大きいことや,付着細菌と浮遊
接計数した。赤潮鞭毛藻は海水 1 ml について倒立顕微鏡
細菌では細菌種の構成が違うという報告もあることから,
で直接計数した。
TEP 上に周辺水中の環境とは異なった独立した微生物生
【結果および考察】
態系が構築されている可能性がある。今後、TEP 上に生息
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全細菌細胞数は 2.5-8.5×10 cells ml (平均:4.9×
する様々な活性を持った細菌、例えば赤潮藻を殺す殺藻細
106 cells ml-1)で推移し,各年,各層ごとに大きな違い
菌、脱窒細菌等について研究を行うことにより、未知の領
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はなかった。TEP 現存量に関しては,0.2-3.5×10 ml (平
域が明らかになるであろう。