~ ドイツのモノづくり政策Industrie 4.0 が狙う製造業の標準化戦略 ~

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平成27年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
インダストリー4.0:ドイツが描く第四次産業革命
~ ドイツのモノづくり政策 Industrie 4.0 が狙う製造業の標準化戦略 ~
ベッコフオートメーション株式会社 川野俊充
「Industrie 4.0(以下 I4.0)
」とは製造業の国際的な競争力を高めることを目的とするドイツの国家戦略の一つだ.
2006 年にドイツで初めて制定された科学技術イノベーション政策の「High-Tech Strategy(ハイテク戦略)
」が,
2010 年に発表された「High-Tech Strategy 2020(ハイテク戦略 2020)
」に引き継がれ,社会に持続的なイノベーシ
ョンを生み出す仕組み作りを政策的に行っている.
「ハイテク戦略 2020」では 10 本のプロジェクトが並行して実施
されており,そのうちの一つが I4.0 である.情報技術と製造技術の統合を行うことで製造業の生産性を高めるこの試
みに「I4.0: 第四次産業革命」という絶妙なキャッチフレーズをつけたことが急速に関心を集めることに成功した理
由だと言われている.
I4.0 の素案の取りまとめが産官学の共同プロジェクトとして 2011 年より推進され,科学工学アカデミー「acatech
(National Academy of Science and Engineering)
」が,産官学の有識者で構成された作業部会「Industrie 4.0
Working Group」と共にその作業を行った.こうして完成した提言書「Recommendations for implementing the
strategic initiative INDUSTRIE 4.0」がいわば I4.0 のバイブルとして広く読まれている(この提言書は英語にも翻
訳されていて誰もが自由にダウンロードできる)
.
これが2012年10月2日にベルリンで開催された
「Industry-Science
Research Alliances Implementation Forum」でドイツ政府の要人に手渡され,I4.0 がプロジェクトとして正式に始
まった.
ドイツの有力な業界団体である BITKOM(ICT 業界)
,VDMA(機械業界)
,ZVEI(電機・電子業界)が事務局と
なり,
「Industrie 4.0 Platform」と名付けられた運営委員会が産官学の有識者を集めて 2013 年4月に発足し,その
もとで様々なワーキンググループが I4.0 の実現に必要な技術開発や標準化議論を展開している.この3つの業界団体
の加盟企業数を合計すると 5,000 社を超えるため,I4.0 がドイツの産業界全体を巻き込んだ横断的な取り組みとして
位置づけられていることが実感できるだろう.
歴史的には,18 世紀後半に始まった蒸気機関などによる工場の機械化が第一次産業革命,19 世紀後半から始まっ
た電力の活用による大量生産の開始が第二次産業革命,20 世紀後半に始まった PLC などの電子機器や ICT を活用し
た生産の自動化が第三次産業革命と定義されている.
「I4.0:第四次産業革命」ではこれを更に一歩進め,
「サイバー・フィジカル・システム:Cyber Physical System (以
下 CPS)
」に基づいた「スマート工場」の実現が目標だ.ここでの CPS とは,インターネットやクラウドのビッグデ
ータへのアクセスができ,シミュレーションモデルや高い演算能力を備えたコンピューティング(Cyber)リソース
と,センサ,モータやロボットなどの物理的(Physical)なリソースが統合された生産装置(System)である.生産
工程の一部の自動化を任せることができるような「ミニスマート工場」を装置や機械という形に実装したものだと考
えるとイメージが湧きやすいかもしれない.センサや周囲の装置,生産品,共に働く作業者からの情報と,ビッグデ
ータの解析結果や工程シミュレーション結果などを活用し,自律的な判断を行うインテリジェントな装置(CPS)を
組み合わせて「スマート工場」をつくり,製造業の生産性を高めるという構想だ.
前述の提言書で CPS の応用例として象徴的に挙げられているのが「ダイナミックセル生産」方式である.これは
組み立て作業を行う産業用ロボット(CPS)が,ネットワークで上位系システムや周囲の装置や現場の作業者と常に
情報交換を行い,状況に応じて生産工程や生産対象を動的に組み替えて工程の全体最適化を行う.いわゆる変量多品
種生産を効率的に自動化できる生産方式であり,極論すれば全品仕様が異なる製品でも対応が可能となる.いわゆる
「一個流し」の自動化を進めるマス・カスタマイゼーションだと言ってもよいだろう.これが実現されると生産の直
前もしくは生産中でも仕様変更に対応できるという.
例えば,自動車の生産は決められた工程に従って進められるライン生産方式が現在主流だが,この方式は製品仕様
を多様化し動的に工程を最適化するには不向きだ.また,生産ラインで働く作業者も現場状況の全体像を把握したう
えでの「判断」を求められることは少なく,定められた役割を果たすという,ある意味「ロボット的」な作業を行っ
ているのが実情である.結果としてオンデマンドに顧客ごとの個別の要望に応えることは難しく,仮にフォルクスワ
ーゲンにポルシェのシートを取り付けたいという顧客からのカスタマイズ要望があったとしても,それを現状の生産
システムで実現することは難しい.
本発表では製造業におけるこうした「マスカスタマイゼーション」を実現するためにどのような標準化活動をドイ
ツが進めているか紹介し,米国や日本の動向も比較して考察する.
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平成27年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
サイバー攻撃対策と Industry4.1J について
VEC 事務局長
ICS 研究所
1.はじめに
○村上正志
経由でつなぐことでセキュアな生産現場を実現する
2000年前後頃より、日本の製造現場では、生産
ことができます。さらに、プライベートクラウドの中
する製品や部品にバーコードや QR コードをつけて、
で構成している DMZ は、制御システムを護る DMZ
出荷後のトレーサビリティや生産プロセスでの改善
として位置付けられるコンセプトもあります。つまり、
目的で、「工場の見える化」や納品した装置や機械の
プライベートクラウドを業務系/情報系ネットワー
リモートサービスなどを目的にした「装置の見える化」
クとつなげるゲートウェイとして使用することがで
ソリューションを導入してきました。
き、投資コストも格段と低価格で制御システムセキュ
2012 年ごろにドイツで始まった Industry4.0 の波
は、翌年には、米国に渡り、Industrial Internet にな
って、広く日本でも紹介されました。
リティ対策も実現できるという訳です。
また、現場で使用する情報端末(タブレットやスマ
フォなど)にプライベートクラウドにつながる SIM
209 年頃より、インターネットを介したサイバー攻
(Subscriber Identity Module Card)を搭載するとイ
撃の脅威が言われるようになり、2010 年の Stuxnet
ンターネットを使わないでプライベートクラウドの
の登場以来、サイバー攻撃による工場爆発事故や環境
Virtual Server 内のデータや Web やドキュメントに
汚染や操業停止に至る事故が世界中で発生し、日本国
アクセスすることができます。既に、プライベートク
内でも防衛産業や交通、一般工場などでもインシデン
ラウドは、世界主要国15か所にサーバー施設を持ち、
トが発生し、日本政府も「安全基準等」や「サイバー
プライベートクラウドにつながる SIM カードは20
セキュリティ2015」などのサイバー対策戦略を発
万枚以上の出荷実績を持ちます。
表し、行政に踏み出している現在です。
このインフラを利用して VEC では16パターンの
米国国立標準技術研究所 NIST が2015年2月に
ユースケースを発表しており、B to C に欠かせないパ
「Guide to Industry Control System Security」を発
ブリッククラウドと B to B をセキュアに実現するプ
行し、生産/制御システムネットワークと企業情報系
ライベートクラウドの組み合わせソリューションも
ネットワークの間に DMZ(Demilitarized zone)を導
提唱しております。 さらに、製造業界で使用されて
入するようにと指針を出しています。この DMZ は1
いる代表的な製品を組み合わせた新しい考え方のソ
000万円から3000万円のイニシャル代を要し、
リューションとして実証実験プロジェクトを201
ランニングコストに毎年、数百万円を要します。これ
5年の3月から始めています。
をプラントや工場の製造ラインごとに設置するのは、
3.まとめ
高価すぎて投資効率が悪く、生産する製品のコスト高
プライベートクラウドをゲートウェイとして
騰になり、製品の販売価格に大きく影響を及ぼします。
“Industry4.1J”の全てをご紹介する時間は今回あり
この対策として、VEC では“Industry4.1J”という
ませんが、概要だけでもご紹介できればと思います。
ものを新しい日本版ソリューションとして提唱して
また、プライベートクラウドにつなげる制御システ
います。
ムや装置・機械は、制御システムセキュリティ対策が
2.Industry4.1J
できていることが条件となります。
プライベートクラウドは、金融業界や証券業界の取
これを機会に、制御システムセキュリティ対策技術
引きシステムなどのインフラとして、永い間セキュリ
を習得している制御システムエンジニアや制御製品
ティ対策を施してきました。このプライベートクラウ
開発技術者になりましょう。
ドと重要インフラや製造業で使用される制御システ
ムや制御装置をインターネットを使わないで IP-VPN
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平成27年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
「モノつくりにおける問題解決のためのデータサイエンス」
~製造業におけるビッグデータ解析の実際~
富士ゼロックス株式会社 高野 昌泰
1.
はじめに
ICT 分野を中心にビッグデータという言葉を目にする
機会が増えてきている。通信インフラは PC を使った有線
ブロードバンドでの高速通信から、スマートフォン等を使
った Wi-Fi、LTE の高速無線通信に進化している。加え
てクラウドによりリモートで大容量のデータ蓄積が可能
となった。結果、さまざまな大容量データを取得、転送、
保存できる環境が整ったが、その活用が追い付かない状況
が各企業の大きな課題になってきている。このような背景
から、現在ではビッグデータをどのように活用していくか
について、ICT ベンダーが挙ってコンサルティングを含
めたソリューションを提案している。そのビッグデータの
活用において、中核をなす技術として期待されるのがデー
タマイニングである。当社は、製品の保守におけるリモー
トメンテナンスを中心に、早々にこの分野に取り組み具現
化してきた。今回は、その技術の変遷と、他社での展開ト
ライアルの汎用性検証結果を説明する。
2.
ビッグデータの背景とその活用
大容量のデータが蓄積され、高速にデータ転送できる
ようになっても、そのビッグデータを有効に活用できる
事例はまだ少ない。
1台ごとに行っていた処理を10万台に
適用できることがビッグデータの活用ではなく、10万台
なければ実現できない価値を提供することがビッグデー
タの活用ということができる。この活用のために注目さ
れているのが統計学をベースとしたデータマイニング技
術である。
3.
リモートメンテナンスの機能分類
複写機、プリンター等にかぎらずリモートメンテナン
ス、あるいは、リモート監視と呼ばれる機能は、業務の
カバー範囲の違いから図2に示す通り大きく3つのステ
ップに分けることができる。
最も基本的な機能は、
「クリティカルな事象が発生したこ
とをリモートで伝える」というものである。たとえば、
エレベータの非常通知ボタン等が発展したものと考えれ
ばわかりやすい。具体的には、終夜運転している発電所
等の機械の異常を 24 時間監視し、
緊急事態の発生をその
機械メーカーに伝え、迅速に対策を取るようなものであ
る。この機能は、緊急事態をリモートで監視される機械
が検知できる場合には、
それほど難しいことはではない。
次のステップの機能は、
「どこにトラブルの原因があるの
かをリモートで明確にする」つまり、診断機能である。
同一のトラブルが発生した場合でも原因が異なる場合が
存在する。複写機の例でいえば特定の「紙詰まり」が多
発した場合に①消耗部材の摩耗、②紙搬送機構のダメー
ジ、③モーター、ソレノイド等のエレキパーツの故障や
断線、その原因は多岐にわたる場合も多い。リモートメ
ンテナンスとしては、その原因を特定し適切な処置を行
い、トラブルの解消を行う必要がある。
3つ目のステップの機能は、
トラブルの予兆監視である。
基本的にリモートメンテナンスでは、機械の故障を直接
防止することはできない。
しかし、近い将来の機械の故障を予知することができれ
ば、機械の稼働時間外にメンテナンスして未然に故障を
防ぐことができる。これによって、機械が故障により稼
働できない時間(ダウンタイム)の発生を防ぐことがで
き、機械を利用して頂いているお客様にとってもメリッ
トが得られる。また、メンテナンスする機械メーカー側
にとっても緊急対応ではなく、計画的なメンテナンスと
して実施できることで、スケジュール全体としての最適
化が可能となり、作業効率が上がる。今回、その具体的
な内容および使用した統計手法を説明する。
2PM-A05
平成27年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
ICT を活用した次世代ものづくりへの取り組み
株式会社富士通研究所 ものづくり技術研究所
インターネットの普及に伴い、
「モノ」自身が生み出す
情報の価値に着目した IoT(Internet of Things)が成
長領域と目されており、
「ものづくり」が IoT の適用先と
して有望視されている。これとともに、先進各国におい
て製造業の復興が重視されていることから、米国におい
ては民間企業主体の Industrial Internet Consortium
(IIC )が発足し、ドイツにおいては官民共同で
Industrie4.0 構想が打ち出されている。我が国において
も産業振興を目的とした各種の政策(SIP、RRI 等)が打
ち出されている。これらの活動において重要なポイント
は、CPS(Cyber Physical System)と呼ばれる仮想環境
と現実を情報が自由に行き来して、
「もの」がつくられて
いく仕組みの構築を目指している点であると考えている。
ものづくりの現場に IoT が導入されると、生産物、生
産設備、作業者のそれぞれの状態や状況が情報として集
約される。ここで、現場とは製造の現場に限るものでは
なく、設計や開発の現場をも含むことに注意されたい。
例えば、A さんが B という設備を使って、X 時 Y 分の C
という品物を加工しているという状況は
・X 時 Y 分現在
・A さんは作業中
・B という設備は故障なく動作している
・今日、N 個目の C を生産している
といった情報に変換され、そのデジタル化された情報を
蓄積し、分析することで、新たな情報(例えば、生産計
画に無理、ムダやムラが無いかの確認)を生み出すこと
が可能となる。このように未来の状態を予測し、それに
対応した計画が立案出来ることによって、ものづくりが
ひいてはサプライチェーン全体が変化していくと期待さ
れている。
この活動は生産部門に止まることなく、設計・開発部
門へも大きなインパクトを与えることになる。今日、製
品サイクルの大幅な短縮が求められている中で、単に
3D-CAD を用いて設計するだけでなく、その図面を各種
のシミュレーションによる設計検証や、生産ライン設計
に活用することが必要となっている。
富士通株式会社は自らも「ものづくり」を行っている
IT 企業として、ICT(Information and Communication
Technology)を活用した次世代のものづくり技術の開発
に取り組むとともに、ものづくり革新隊と称する活動を
通して、開発した技術をソリューションとして提供して
いる。特に、グループ内では以前より「富士通生産方式」
と名付けて、
「モノを作らないものづくり」の実現や「設
計と生産のコンカレント化」を推進しており、上述の流
れを受けて新たに「スマートなものづくり」として取組
をまとめ(図1)2015 年 3 月に発表している。中でも、
設計の自動化、ロボットの自働制御、および製造条件の
自動チューニング等の実現を目指した自律的なものづく
○若菜 伸一
りを重視している。研究所では主に要素技術レベルの開
発に取り組んでおり、開発過程において、課題をお持ち
のお客様と共同で試行するケースも増加傾向にある
(1) 設計自動化:設計者の高齢化により、ノウハウの伝
承が急務であることは言を待たないが、その一方で
ノウハウの可視化、共有、伝承が難しいことも良く
知られている。そこで過去の設計資産を分析して、
その中に込められているノウハウを抽出し、再利用
することを試みている。ノウハウ抽出には一般に用
いられる機械学習等の統計的なデータ解析手法に加
えて、抽出されたパラメータの真贋を判断する設計
者の知見を加味することが重要である。
(2) ロボット自働制御:各種のロボットが生産現場に導
入されているが、ロボットが行うべき動作を教える
教示作業や作業エラーを検知するためのコストは必
ずしも少なくない。このため、Cyber 環境でロボッ
トの動作をあらかじめ生成し教示データにすると共
に、現実の世界で発生する想定との誤差を、各種の
センサーを用いて補正していくことが必要である。
なお、この手法は自動検査装置等にも適用可能と考
えている。
(3) 製造条件の自動チューニング:製造現場においても、
生産設備のログ、作業記録といった形でデータは多
く存在しているが、必ずしも次の生産に活用されて
いない。設計の場合と同様に、製品の各種検査結果
に加えてこれらの製造データを分析することにより
有用な知見を抽出でき、製造条件をほぼリアルタイ
ムでチューニングすることも可能であると考えてい
る。また、生産設備の故障予知や保守時期の予測も
出来る可能性がある。
ものづくりを真に自律化していくためには、上記の開
発項目に限らずまだまだ多くの課題があるため、要素技
術の研究開発を継続的に進め、お客様と共に課題をクリ
アしていきたいと考えている。
図1 次世代ものづくりへの取組みマップ