目と耳をつかいまっすぐな心でよく聞きましょう(校内弁論大会 2015/06/14) 弁論大会の登壇者が壇上で私の方を向いているのを奇異に思う人もいるでしょう。実は,私 の始めの言葉の中で,ある漢字を全員に見てもらいために,このような向きに急遽していただ きました。生徒会長に背を向けて会長の言葉を聞くことになり,生徒会長には申し訳なく思い ます。さて,弁論大会の登壇者の皆さん,生徒会長の言葉を聞いていて,聞きやすかったです か,聞きにくかったですか?聞きやすかった人(0人),聞きにくかった人(ほぼ全員挙手)。人 の話を聞く時は,まずは,話している人の方をしっかり向いて聞くことが大切ですね。 弁論大会を始めるにあたり皆さんにお願いがあります。まず,発表者の皆さんは自信を持っ て堂々と発表して下さい。聞く生徒の皆さん,社会を明るくし自分たちの生活をより豊かで魅 力あるものにするためにどうすればよいかを真剣に考える機会として下さい。 大阪大学経済学研究科教授の高橋伸光氏によれば,ビジネスピープルの1日の仕事の 45~ 63%はリスニングすることだそうです※。言い換えると,給料の 45~63%は人の話を聞くこと に支払われていることになります。そう言われると,少し不思議に思うかもしれませんね。 ギリシャ哲学や禅宗では問答法という対話を繰り返すことにより,相手の考えの矛盾を指摘 し真理や仏の教えに近づく修行の方法があります。相手の考えの矛盾を指摘し,対話をするに は,人の話をよく聞くことが大切です。 きくという漢字の「聴」は,中国の古い漢字の「聽」からきています(A3に拡大した聽を 提示)。 「聽」は「耳」(A3に拡大した耳を提示)と, 「𢛳」(A3に拡大した𢛳を提示)と,音 符の「壬」(A3に拡大した壬を提示)から成っています。 「𢛳」は「直」と同系で「徳」の原 字であり, 「まっすぐに」の意味があります。音符の「壬」は人がまっすぐに立った様をあら わしています。ここから,何かを介さずに真っ直ぐに耳に入れる,まっすぐな心でよくきくの 意味があります。高橋氏は,穿った解釈としながら, 「聽」を分解すると, 「十個の目,一つの 心,耳と王」で構成されていて, 「我々は,十個の目と丸ごとの一つの心と耳を使ってきけば, 王様になれる意味」と考えられると言っています。聴く時には,耳だけではだめで,私たちは 目と心を使わなければならないのですね。 口は一つですが,耳は二つ,目も二つあります。皆さん,目を見開き,耳を澄まし,弁論大 会を,社会を明るくし自分たちの生活をより豊かで魅力あるものにすることを考える場にして 下さい。 ※ http://www2.econ.osaka-u.ac.jp/ofc/report/kouenkai/kouenkai31_40/kouenkai39.html, 2015/06/14 参照 1 人が生きるために必要なのは 2015/06/22 今日は何の日でしょう?今日は(間をおく), 「冷蔵庫の日」です。じゃ,なぜ今日が「冷蔵 庫の日」でしょう。このように,なぜこの時と,時間にこだわり考えるのが歴史的な考え方で す。さて,なぜでしょう?今日は,夏至です。夏至の頃は梅雨の真っただ中,食中毒が発生し やすく,食品管理に気をつけなければなりません。それ故,今日が「冷蔵庫の日」なのです。 今みたいに冷蔵庫がない時代,食料保存は生きていくための大問題でした。干物や塩漬けな どの保存方法が考案されたり,弁当に梅干しを入れたり,餅を笹や桜の葉で包むのも,すべて 腐敗防止のための先人からの知恵です。そして,今や世界中で食べられる代表的な日本食と言 えば(間を開ける),寿司ですね。実は,寿司も保存食だったのです。寿司は,もともとおいし さを追求して考え出されたものではありません。魚をせっかく獲ってもすぐに腐ってしまいま す。困った東南アジアの人々が,魚を米に漬けると自然発酵して乳酸が生じ,腐敗しにくくな ることを発見して保存食にしたようです。発酵で生じる酸味を酢で代替して発酵させず,新鮮 な魚介と酢飯の組み合わせによる今のような寿司が誕生したのは,江戸時代でした。 多くの食中毒の原因菌は,食酢の中では数分のうちに死滅するといわれます。 【食酢の殺菌 力の元は,主成分である酢酸です。酢酸が多く含まれている食酢は ph 値が低く,細菌などの 微生物が生息できません。酢酸の分子には有機酸の中で最も高い抗菌力があります。 】寿司の シャリを酢飯にするのも,もともと魚介など生ものの殺菌が目的だったようです。さらに,噛 む時や削る時にガリガリいうので「ガリ」と呼ばれるようになったガリ(甘酢漬けの生姜)で すが,生姜は細菌の繁殖を抑える効果があります。江戸時代,寿司は素早く食べる立ち食いで した。寿司は,衛生面に配慮された江戸時代のファストフードだったのです。 私たちの先人は,古来より一生懸命食料を確保することに努めてきました。そして,今のよ うな豊かな食生活を実現することが出来ました。では,満足な食事が出来れば,人はそれで大 丈夫でしょうか?満足な食事,清潔な衣服の交換,自由に運動できる環境といった赤ちゃんが 人間へと成長するのに必要な生物学的な良好な環境を十分に用意します。ただし,養育者は赤 ちゃんと人間的なコミュニケーションを一切とりません。さて,赤ちゃんは数ヶ月後にはどう なるでしょう?実際,このような実験がナチスドイツによって行われました。ナチスは,感情 のない最強の兵士を養育しようと,ユダヤ人の赤ちゃんにこのようなことを行いました。赤ち ゃんたちは数ヶ月のうちに(間をおく) ,一人残らずみんな死んでしまいました。 この事から何が分るでしょう。それは,人の赤ちゃんが人間へと成長するには,満足な食事 や清潔な衣服,運動を自由にできる環境という生物学的良好な環境を用意するだけでは不十分 ということです。人は,他者,この場合は養育者であり,多くの場合はお母さんやお父さんと の社会的関わりが決定的に重要なことが分かります。皆さんがこうして,ここにいられるのも 保護者の方が関わってくれたからです。家に帰って,今日何があったと聞かれ,五月蠅いなと 思う。人と関わるのは,時には煩わしいと思こともあります。しかし,人が生きていくために は,他者との関わりが必要なのです。人は一人では生きられないのです。 2 さて,赤ちゃんの話をしましたが,今日から田尾先生がご出産のために準備に入られます。 田尾先生に代わり,長尾万樹子先生が来られました。長尾先生は3年前まで本校にお勤めにな っておられました。私も1年だけ一緒に働かせて頂きました。修学旅行にもご一緒さしました が,毎日の修学旅行新聞を手際よく作成され,器械に強い先生だなと思った次第です。人が生 きていくためには他者との関わりが必要です。豊かな他者との関わりがあれば,さらに良いで すね。皆さん,長尾先生と豊かな交わりに努めてください。 【 】の部分は講話では省略しました。 いつ最後の 1 球,最後の登板になっていい (部活壮行会 2015/7/6) 水泳の荻野公介選手が合宿先での移動中に自転車で転倒し骨折しました。8月ロシアでの 世界水泳は,欠場が決まっています。荻野選手は,会見で「自分の甘さを反省している」と 話しました。けがで試合を断念,しかも水泳以外のけがでの断念,荻野選手は,どんなにか 残念でしょう。試合は試合前から始まっています。まず,一日一日を大切に過ごしてほしい。 ところで, 「ピッチャーは一球で地獄を見る。バッターは一振りで天国へ上がれる。しかも ピッチャーは一球では天国は上がれない。 」※1と,名ピッチャーだった江夏豊さんは言います。 試合の一瞬一瞬を,油断せず,驕らず,一生懸命取り組んでほしい。皆さんが練習の成果を 発揮するために,2015 年2月 16 日,8年ぶり日本球界に復帰した広島の黒田博樹選手の入団 会見の言葉をおくります。それは, 「いつ最後の 1 球,最後の登板になっていいという気持ち で,今までやってきました。 」です。 最後の1球,最後の試技,最後の活動と思い定めて取り組めば,やりきったという充実感 があるはずです。「いつ最後の 1 球,最後の登板になっていいという気持ち」の大切さは, 試合だけに限りません。難しいことですが,日々の生活でも心がけたいことです。弁論大会 で○○君が皆さんに「明日会えなくなるかもしれない」と訴えましたね。 「いつ最後の 1 球, 最後の登板になっていいという気持ち」の大切さを,全校の皆さんと今一度確認したいです。 さて,試合ですから勝ち負けはあります。女子サッカーW 杯準決勝で,日本はイングランド のオンゴールで勝ちました。日本チームの「勝つ」という執念のこもったパスがオンゴール を誘ったのですが,試合には運不運もつきまといます。運も悪くて一敗地にまみれるほど大 敗しても,最後の一球,最後の試技,最後の活動と思い定めた取り組みなら,試合後は前を 向いて堂々として下さい。昨年紹介した小泉信三の「スポーツが与える三つの宝」の第二の 宝,フェアプレーの精神は「果敢なる闘士であっていさぎよき敗者である」※2でしたね。 皆さんが,日頃の練習の成果を十二分に発揮し,胸を張ってけがをすることなく,「顔晴 ったな」と思って戻って来てくれることを願っています。 ※1 http://number.bunshun.jp/articles/-/17905,2015/06/30 参照 ※2 小泉信三(2004) 『練習は不可能を可能にする』慶応義塾大学出版会,131 3
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