複雑化したITの問題を 解消する変革戦略

複雑化したITの問題を
解消する変革戦略
A Blueprint to Fix IT Complexity
多くの企業や CIO(最高情報責任者)たちが、IT の複雑性の解消を
優先課題に据えている。A.T. カーニーが企業の経営者層を対象に実
施した最近の調査では、回答者の 85%が、自社と他社を差別化する
重要な要素としてITを挙げている。だが、経済環境の悪化により、企
業経営者の関心事項の優先順位にも変化が見られ、ITコストの削減
に一層目が向けられるようになっているようだ。企業経営者たちは、
ITアプリケーションが新たなビジネス上の課題や期待に応えるものと
認識しつつも、その複雑性を解消しコストを削減することに関心を持
ちつつある。
IT 部門は今、どこも重責にあえいでいる。ビジネス
さらに進む。ビジネスをレベルアップしようとしても、
を支援し、イノベーションを創造し、さらにはコスト
IT の変更に膨大な時間とコストがかかり、あきらめ
効率性を高めねばならない。ITアプリケーションは、 ざるを得ないケースが多い。
マーケティング、データ分析、トランザクション処理
をこなすだけではなく、カスタマーリレーション、サ
い。しかし、IT の過剰な(又は、誤った)複雑性は企
プライ・チェーン、そして製品ライフサイクルまでを
業の成長を妨げる。テクノロジーは、コスト効率のよ
も管理する「スーパーヒーロー的ソフトウェア」であ
いアプリケーションやデータ、ビジネスプロセスを提
ることが求められている。
供することで、変化する企業のニーズに柔軟に対応
したり、企業が成長するうえで直面する問題の解決
このように要求は多様化しており、多くの IT 部
複雑であること自体は必ずしも悪いことではな
門はその重圧に白旗を揚げている状態である。しか
を支援できなければならない。
し、彼らの能力やノウハウが欠如しているわけでは
ない。長年の間に複雑に絡み合った糸が、簡単には
方法がある。思い切って、すべてのアーキテクチャを
解きほぐせないでいるためだ。過剰な複雑性は、新
解体し、一から作り直すことも可能である。あるいは
たな多くの問題を引き起こしている。例えば、ITシス
複雑性がさらに増すリスクをあえて冒し、ソフトウェ
テムにたった1 つ変更を加えるだけでも大変な時間
アを追加してアプリケーションの機能を改善する手
がかかり、予算超過となる。新しいアプリケーション
もある。どちらも気が進まないのであれば、私たちが
を追加導入しても、当初の期待効果が思うように上
顧客企業に提案している方法を取り入れてみてはい
がらないばかりか、結果としてシステムの複雑化が
かがだろう。段階的で分析的な方法論に基づき、IT
IT の過剰な複雑性を解消するには、いくつかの
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1
アプリケーションを生き返らせる計画すなわち「IT
オフショア化やアウトソーシングよりも、アプリケー
変革戦略」を立てるのである。
ションの整理統合への注目度のほうが高いことがわ
かる。
「過剰」に複雑かどうか、を判定する
クライアント/サーバ技術とWeb テクノロジーが、
企業のあらゆる分野に浸透し、さまざまな用途で使
われるようになったため、企業が保有するソフトウェ
ア・アプリケーションの数は、この 10 年間で激増し
ている。その結果、大量のアプリケーション資産を、
コストをかけずに管理・運用することが難しくなっ
てきた。図 1 は、ある企業 1 社のアプリケーション支
出の 80%が 37 社のサプライヤーに支払われており、
残りの20%を2,172 社ものサプライヤーが分け合っ
ている現状を示している。グローバル企業の役員
を対象とした最近の調査でも、IT の複雑性がビジネ
スの成長を妨げる最大の要因であり、ソフトウェア・
アプリケーションの整理統合によって大幅にITコス
トが削減できる、と回答している(図 2・図 3 参照)。
あるCIO の企業では、アプリケーション・ポート
フォリオを再検証し、ITアプリケーション変革を行う
5 か年計画を立案するプロジェクトを実施している。
半年以上にわたり社内のチームでアプリケーション・
ポートフォリオの分類・分析作業が行われ、その成
果について報告を受けた。だが、同プロジェクトをそ
こから先へ進めることができなかったという。最終
報告には、包括的な総保有コスト(TCO:Total Cost
of Ownership)分析も、明確な移行計画も含まれて
いなかったためだ。同 CIO は、
「わたしのところへ上
がってきたのは、当社の IT 資産を変革するのに今す
ぐ必要な現実味のあるプランではなく、単なる研究
報告書だった」と話している。
同氏に限らず、多くの企業幹部が、社内で調査
図1
アプリケーションとソフトベンダーの「氾濫」に悩まされるある企業の実態
イメージ
アプリケーション支出(単位:百万米ドル)
$300
$100
$50
$10
$8
$6
$4
$2
$0
2,172 社のソフトベンダーが
支出の20%を占める
37 社のソフトベンダーが
支出の80%を占める
ソフトベンダー
注: ソフトウェア予算として10億ドル以上を計上している
グローバル企業の事例に基づく
2
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出所: A.T. カーニー分析
図2
自社のビジネス成長を妨げる最も影響の大きいIT要因は何か
ITの複雑性
一貫性のないデータ
日々のIT関連業務に膨大な時間がとられる
変化への対応を鈍らせるITの硬直性
ITの有効性に関する誇張や不適切な評価
意志決定時におけるITの非有効性
成長領域への集中的なIT投資ができていない
システムの利用効率と機能性が不十分
非効率なERPソリューションおよびプロジェクト
プロジェクトの遅延と予算超過
= 平均値
1
出所: 「A.T. カーニー ITイノベーションと
効率化調査」(2009年)
2
3
4
重要ではない
5
重要である
図3
自社にとって最も重要な、ITコスト削減手段は?
4.0
3.9
5 = 重要度が最も高い
1 = 重要度が最も低い
4.0
3.9
3.8
3.9
3.8
3.7
3.8
3.7
3.6
3.6
3.5
3.4
3.4
3.3
3.4
3.2
0.0
3.2
アプリケー
ションの
整理統合
要件の先取り
コストの
透明化
効率的活用
中央集約化
需要管理
ガバナンス
および投資
強制的な
予算削減
アウト
ソーシングと
オフショア化
統制範囲
出所: 「A.T. カーニー ITイノベーションと効率化調査」(2009年)
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3
チームを組織して報告書を出させるだけでは、膨大
になり、組織全体に共通なコンセプトが形成されて
な ITアプリケーションを整理し、複雑性を解消する
いく。ひいては、知識が効率的に伝達されるようなり、
には不十分であることを痛感している。ビジネス部
可視性も増す。A.T. カーニーが提案するアプローチ
門とIT 部門が協働し、IT サポート・コストの増加や
には、ビジネス・ニーズとプライオリティを結びつけ
プロジェクト計画を狂わせてしまう社内の専門知識
るTCO 分析が含まれており、今後のアプリケーショ
ン・ポートフォリオ構築にかかる「必要
経費」までも見積もることが可能となる。
最終的には、企業とその IT 部門は
ポートフォリオ管理において必要かつ使
多くのIT組織が苦境に陥っ
えるツール群やナレッジといった “武器”
ているが、
それは彼らに能力
を手に入れることができる。例えば、IT
が ない からで はなく、時と
ンの分類ガイドライン、TCO 分析ワーク
ともに深刻化した複雑さの
必要となるリソースや投資の概要がまと
資産棚卸テンプレート、アプリケーショ
シートなどだ。また、主要な取り組みや
められたロードマップも含まれる。
せいである
6 段階のアプローチ
A.T. カーニーは、あるグローバル自動車
メーカーのプロジェクトで、
「6 段階アプ
の欠如や管理不足などを克服していかなければな
らない(コラム「問題が頻発する理由とは」参照)。
ローチ」を使った。同社は、受発注管理、
ディーラーとのプロセス統合、顧客エクスペリエンス
などの機能強化と、経営管理機能全般の改善を望ん
ITアプリケーションの変革戦略
ITアプリケーション・ポートフォリオを現在および
将来のビジネス・ニーズに合致させるためのプラン
作りは、IT 部門とビジネス部門双方のリーダーによ
図4
ITアプリケーションの変革戦略 − 6段階アプローチ
る協働作業で構築すべきものである。ITアプリケー
ション・ポートフォリオを現在および将来のビジネ
ス・ニーズに合致させるには、
「6 段階アプローチ」
1
2
が有効である(図 4 参照)。仮説に基づき、大局的な
視野に立ったアプローチを取ることで、部門間にま
たがって存在する重複かつ一貫性のないアプリケー
ションを特定し、排除していく。このアプローチによ
ビジネス
およびITの
目標を確認
6
組織とアプリケーション・ガバナンスの設計
できるようになる。図 4 に示したステップを進めるう
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変革戦略
実施のため
のロード
マップの
作成
アプリケーション投資戦略の定義
とで得られるコスト・メリットを、関係者全員が把握
4
4
アプリケー
ション変革
戦略の将来
像と有効性
の確認
5
り、ITアプリケーション・ポートフォリオを管理するこ
ちに、IT 機能とビジネス・ニーズがより一致するよう
3
ビジネス・
ニーズと
アプリケー
ション・ポー
トフォリオの
突き合わせ
出所: A.T. カーニー
でいた。プロセスや各機能が各地に分散しているた
① ビジネスとIT の目標を確認
め、非効率という壁に突き当たってしまっており、こ
最初に、簡単な質問を経営陣に投げかけた。最も重
の構造を一刻も早く立て直す必要があった。これは、 要と思われるビジネスケイパビリティは何か?どの
競合企業が直近 10 年間で業績向上とイノベーショ
様な制約を受けているか?といった質問である。彼
ンを目的にIT 投資を行ってきたのに対し、同社が基
らの回答により、アプリケーション変革戦略を立てる
本的なメンテナンスと少数のプロジェクトにしか IT
際に陥りがちな失敗を、回避することができた。プロ
予算を割かなかったことが、このような結果を招い
ジェクトの早期の段階で、事業目標や優先事項を特
た。
定し、関係者全員の協力を取り付けるのはなかなか
難しい。しかし、経営陣から得られた回答が、最重要
そこで A.T. カーニーは、同社の IT によって実現
されるビジネスケイパビリティについてそのパフォー
目標や最大の問題点の把握に大いに役立った。
マンスを評価すると同時に、アプリケーション・ポー
ビジネス・ニーズに対応しない ITアプリケーション、
トフォリオの縮小が可能かを検討するところから始
老朽化しつつある技術環境、非効率的な IT 投資と
めた。その際、目的を運用コストの削減 / 柔軟性の
いった危急課題の特定には、イシュー・ツリーを活
向上 / 市場対応のスピードアップに設定した。
用した。また、優先課題や重要な目標と既存のアプ
リケーション・ポートフォリオおよび進行中のプロ
この自動車メーカーの事例をもとに、ITアプリ
ケーション変革戦略のための 6 つのステップを解説
ジェクトとの関係についても、再検証した。
する。
本プロジェクトで使ったイシュー・ツリーは、ア
プリケーション・ポートフォリオ変革戦略のその後の
問題が頻発する理由とは
ITアプリケーション・ポートフォリオ
を複雑化し、扱いにくくしている原
因として、いくつもの問題が指摘さ
れている。その中から最も一般的な
ものを紹介しよう。
•カスタム・アプリケーションの増
殖. 需要に応じて、汎用パッケー
ジ製品(Commercial-off-theShelf:COTS)並びにカスタムメイ
ドのアプリケーションが増えてい
く。
これらが企業のアプリケーショ
ン・ポートフォリオを複雑化し、硬
直させ、
コストのかかる代物へと
変えていく。
•買収による肥大. 企業がアプリ
ケーションの重複を招いてしまう
契機としてよくあるのが、企業買
収だ。買収後の企業統合に際して
は、契約の締結ばかりがクローズ
アップされ、ビジネスやテクノロ
ジーの統合および簡素化は、おろ
そかになりがちだ。
•長期計画の欠如. 直近のビジネ
ス・ニーズを優先していると、既
存のアプリケーション上に、次々
とカスタムメイドのアプリケーショ
ンが積み重ねられてしまう。
•意志決定の分断. IT部門に相談
せず、営業部門がIT技術やアプリ
ケーションを導入するのは普通
に行われていることだが、そうし
た行為によってアプリケーション
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|
の重複が起こる。完全に同一とま
ではいかなくても、よく似た機能
を持つアプリケーションを複数購
入している企業も珍しくない。
•ニッチなテクノロジーの採用. 特
定の課題を解決する為だけに、安
易に個別のテクノロジーを取り入
れると、複雑化が助長される。
アプ
リケーション・ポートフォリオにお
よぼす全体的な影響を検証すれ
ば、個別に導入する魅力は薄れる
はずだ。
•ガバナンスの欠如. 大半のIT組織
が、ポートフォリオを適切に管理
していくための人材や分析能力、
体制を有していない。
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5
図5
アプリケーション・ポートフォリオの分類(例)
イメージ
アプリケーションの
分類
ビジネス・アプリケーション
開発および導入ツール
システム・
インフラストラクチャ・
ツールおよびソフトウェア
顧客向け
情報およびデータ管理
システムおよび
ネットワーク管理
社内向け
アプリケーション開発
セキュリティ管理
コンテンツ
アプリケーション・
ライフサイクル管理
記憶装置
ERP
アプリケーション導入
ネットワーク
サプライ・チェーン管理
その他の開発ツール
システム
オペレーション
および製造
情報アクセス
および配信
エンジニアリング
CRM
(カスタマー・リレーション・
マネージメント)
出所: A.T. カーニー分析
進め方を設定し、ビジネスにいちばん必要な改善点
照)。このような多数のアプリケーションが存在して
を特定するのに非常に役だった。
いる場合は、大局的な業務要件の作成を推奨する。
② ビジネス・ニーズとアプリケーション・ポートフォ
リオの突き合わせ
参照)を用いて各アプリケーションの評価を行って
この自動車メーカーの ITアプリケーション・ポート
いく。すなわち、各アプリケーションの技術的・機能
フォリオは、2,500 以上ものアプリケーションから成
的状態を判定し、ビジネス上の価値を見極め、どの
りたっていた。そこで A.T. カーニーは、ポートフォリ
ような対処を行うか決めていくのである。
オの全分野から情報を収集することにした(図 5 参
6
方法としては、
「アプリケーション価値評価表」
(図 6
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図6
アプリケーション価値評価表
イメージ
ビジネス上の価値
低い
削除もしくは凍結
高い
削除、凍結
もしくは価値の付加
優れている
35
刷新もしくは縮小
74
56
現状維持
62
機能的状態
劣っている
(7.5%)
(15.8%)
(11.9%)
(13.2%)
削除
削除もしくは
価値の付加
リプレース
強化
42
11
(9.0%)
(2.3%)
劣っている
優れている
84
105
(17.9%)
(22.4%)
劣っている
優れている
技術的状態
注: 数値はアプリケーションの数(全体で469件)
重要なアプリケーション
出所: A.T. カーニー分析
この時点で、各アプリケーションを次の 3 つのグ
チェーンとオペレーションの質を世界的なレベ
ルに引き上げ、コアのビジネス・プロセスを改
ループに分類する。
(1)オペレーション効率を改善するもの
善することにある。コスト削減ばかりでなく、利
このグループには、情報システムの有効性およ
益や成長といった面の改善も成功を測る指標と
び効率性を高める、すでに成熟したアプリケー
なる。例えば、ERPシステムや、ワークフローエ
ションやデータセンター技術が含まれる場合が
ンジン(部門にまたがる複数のビジネス・プロ
多い。例えば、ソフトウェアとネットワークを監
セスの実現や改善をもたらす機能)などが含ま
視するアプリケーション、データを統合するアプ
れる。
リケーション、日常的なビジネス管理業務を行
うアプリケーションなどである。
(2)コアバリューを高めるもの
こうしたグル ープ 分 けの 目 的 は、バリュー・
(3)イノベーションを促すもの
競争力向上につながる画期的なイノベーション
の実現により、市場での優位性を逆転させ、競
合に対する自社のポジションを強化し、新規市
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7
場参入のための戦略策定に寄与するアプリケー
細に分析した(図 7 参照)。というのはアプリケーショ
ションがこのグループに属している。この様なア
ン・ポートフォリオとコスト・モデルの現状を完全に
プリケーションは、例えば携帯デバイス、クラウ
把握していないと、その後の取り組みにおいてテク
ド・コンピューティング、サービス指向アーキテ
ノロジーばかりを偏重することになり、柔軟な対応
クチャ(SOA)といった最先端のテクノロジーの
力が不足し、ひいてはビジネス・バリューを失うとい
組み合わせにより実現される可能性がある。
う過ちを犯すことに結びつくからである。
企業はアプリケーションをこのような 3 つのグループ
に分けることで、アプリケーションの価値を基準にし
てポートフォリオ全体を俯瞰できるようになる。例え
ば、あるアプリケーションがオペレーションの効率化
に効果があると判明すれば、それはアウトソーシン
グの有力な候補と考えられる。なぜなら、この種の
③ アプリケーション変革戦略の将来像と有効性の
確認
この自動車メーカーのアプリケーション変革戦略
を立案するにあたり、A.T. カーニーは各部門のリー
ダーの協力を仰いだ。彼らとともにビジネス機能を
グループ分けし、機能ごとの戦略や目標の達成を支
アプリケーションは、ごく基本的なサービスを提供す
援するアプリケーションを特定していった。これによ
らである。
らにはどこをどのように修正すれば良いのかが判っ
ることになり、従って標準化もされ易く、結果として、 りビジネス・ニーズを満たすために、どのような IT
低コストでの外部委託が可能になると考えられるか 資産やアプリケーションを導入すればよいのか、さ
さらにA.T. カーニーは、この自動車メーカーの
ケースにおいて、既存の IT 資産の TCO について詳
た。同時に、価値が充分出せていなかったり、他の
高性能なまたは重要性の高いアプリケーションと重
図7
既存ITアプリケーションの総保有コスト
(TCO)
アプリケーション・コスト
(単位:百万米ドル)
イメージ
$250
$200
$202
$80
開発費
保守・運営費
$70
$150
$63
$100
$22
$132
$50
$22
$15
$0
総計
マーケティング
および販売
バックオフィス
ビジネス業務
出所: A.T. カーニー分析
8
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サプライ・チェーン
管理
|
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自動車ローン
エンジニアリング
複していたりするために、不要となるであろうアプリ
務システムの分野を特定し、その実現に向けたプロ
ケーションの特定も行った。こうした分析を行ってお
ジェクトを、アプリケーション変革戦略に合わせて計
けば、各ビジネス部門も、自分たちに必要な ITシス
画していく。ロードマップを作成する際は、既存の各
テムが何か、かつ、それをどのように使えば目標とす
アプリケーションについての今後数年間にわたる変
る業績向上を実現できるのかを明確に理解できるよ
革計画に加え、将来を見据えた追加プランも描き出
うになる。これにより、ビジネス部門および IT 部門
さねばならない。この自動車メーカーのケースでは、
の双方が合意する最終的なビジョンを定めることが
必要な年間投資やその効果測定のための指標を含
でき、遂行可能なプロジェクトに仕立てることができ
む 5 か年計画を立て、ロードマップを作り上げた。繰
る。
り返しになるが、事前の詳細な検討、必要なプロ
④ 変革戦略実施のためのロードマップの作成
変革戦略を実施するためのロードマップは、過剰な
複雑性を排除し、アプリケーション変革戦略を実行
するための大枠を定めたものだ。このステップでは、
ビジネスケイパビリティを引き出すために必要な業
ジェクトの組成、短期目標無しでは、理想ばかりを追
うことになり、具体的な結果が十分得られない。この
自動車メーカーは、綿密なロードマップを作成したこ
とで、必要な資源を予測することが出来、その結果、
成長促進と財源確保を両立できる戦略を立てること
図8
将来に向けたIT投資戦略
イメージ
コスト
(単位:百万米ドル)
$350
$109
$300
$131
$67
$99
$250
$81
変革プロジェクト
$200
$76
$77
$78
$75
$78
$104
$103
$98
$150
$147
アプリケーション
強化プロジェクト
$131
$100
継続的な運用
$50
$0
2010
出所: A.T. カーニー分析
2011
2012
2013
2014
会計年度
A.T. Kearney
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数の要因を基にアプリケーション投資戦略を定義し、
が出来た。
経営陣による賢明なトレード・オフの判断を行える
⑤ アプリケーション投資戦略の定義
IT 部門の規模を問わず直面する問題は、相反する
ようにしている。この段階を経ることで、アプリケー
優先順位の折り合いをどうつけるかというものだ。 ション変革戦略の包括的な TCO 分析が可能にな
A.T. カーニーのアプローチは、こうした問題にも対
る。この自動車メーカーのプロジェクトでは、業務利
応している。ビジネス、技術、業務、予算といった複
益とITアプリケーション・ポートフォリオのコストを
アプリケーション・ポートフォリオ・スコアカード
現在のITアプリケーション・ポート
フォリオが、将来のビジネス・ニーズ
にどれだけ対応できるのか、知る方
法を紹介する。
この自己診断表を用
いれば、自社のITアプリケーション・
ポートフォリオの現状と得意分野が
明らかになる。各項目に1から5まで
のスコアをつけ、10項目すべてのス
コアを計算し、合計を出してほしい。
スコアについて: スコアが3以
下の項目は、改善が必要な部分。
以下、
トータルスコアの見方に
ついての解釈を紹介する。
40点~50点: 組織の方針はきわ
めて適切であり、アプリケーション・
ポートフォリオもビジネス価値を高
める構成になっている。今後もこの
スコアカードを使って、
ギャップが生
じていないか監視を続けること。
30点~40点: ある程度は正しい
方向を向いているが、大胆な改革を
断行しITポートフォリオを最適化す
べき分野が、一部存在している。
20点~30点: アプリケーション・
ポートフォリオがうまく管理されて
いない。根本的な改善を実現するに
は、強力なリーダーシップと明確な
アプローチが必要。
20点以下: アプリケーション・
ポートフォリオの管理方法に一貫性
が見られず、組織のビジネスケイパ
ビリティが危機に瀕している。IT部
門はすみやかにアプリケーションお
よびガバナンス・プロセスを見直す
べき。
ITアプリケーション・ポートフォリオ自己診断表
スコア
下記の項目にスコアを付けてください
1. 自社のアプリケーション・ポートフォリオは、変化し続けるビジネス・ニーズに、即
時対応可能だ。
2. ビジネス・プロセスとITアプリケーションが明確に関連づけられている。
3. ビジネス部門がITアプリケーション・ポートフォリオの定義および実現に協力し
ている。
4. 現存するギャップを埋め、将来のビジネスケイパビリティを引き出すことのでき
るアプリケーション・ロードマップを有している。
5. アプリケーション・ポートフォリオを評価し、画期的なテクノロジーを導入してい
くためのフレームワークが存在する。
6. アプリケーション運用・保守コストが年々下がっている。
7. 現在および将来のアプリケーション・ポートフォリオのTCOを把握している。
8. アプリケーションの追加、変更、削除がもたらす影響を、ビジネス的およびコス
ト的側面から予測することができる。
9. 常に一定とはかぎらないビジネス目標を踏まえ、
アプリケーション・ポートフォリ
オおよびロードマップを定期的に評価し、更新している。
10. アプリケーション・ポートフォリオに対し、責任とガバナンスが効いている。
出所: A.T. カーニー分析
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(1=まったく一致しない、5=完全に一致する)
1
2
3
4
5
勘案し、投資戦略を立案した。図 8 はその時の投資
戦略をグラフ化したもので、変革プロジェクトやアプ
リケーション強化プロジェクトにかかる経費や、継続
的な運用コストを踏まえた今後の投資計画を表して
いる。このステップで、今後の必要な投資額と各アプ
リケーション・グループの累積的なメリットも明らか
にする。
⑥ 組織とアプリケーション・ガバナン
スの設計
最 後のステップは、変 革 戦 略を具 現
化し将来にわたって継続していくため
のガイダンスを示 すという点 にお い
て、特に重要だ。この自動車メーカー
の場合は、同社が多様な ITシステムの
それぞれの役割と担当責任者を決め、
A.T. カーニーが、ロードマップの実践と、
新たなニーズに合わせた投資戦略の
見直しを継続的に行う仕組みを開発し
た。また、最後のアドバイスとして、アプ
まれている。
変革戦略のスケジュール:まずは始めてみる
持続性のあるアプリケーション変革戦略の構築は
容易ではないが、IT 環境の複雑性を解消するため
には欠かせない。グローバルな組織にとっては、特
に重要だ。コスト削減にのみ重点を置く従来のアプ
サ ポ ート・コストの 増 加 や
プロジェクト計 画 を 狂 わ せ
てしまう社 内の専 門 知 識の
欠如や管理不足を克服する
ため、ビジネスとITは力を合
わせなければならない
リケーション・ポートフォリオ委員会と
チェンジ・レビュー委員会(アプリケーションの変更
と見直しに関する審査会)の設定を推奨した。それ
は、同様の委員会や審査会によって、企業が将来の
投資や業績に関して的確な判断を下し、一貫性のな
い意志決定や過剰に複雑なアプリケーション・ポー
トフォリオの形成を回避できるようになった事例を
いくつも見てきたからだ。
ローチとは異なり、A.T. カーニーの提案する変革戦
略は、ビジネス・ニーズと現状の ITとのギャップに
注目し、そこから成長の糸口を探るという一歩進ん
だ考え方に基づいている。すぐれた戦略とは、それ
を実行に移す明確なプランを伴うものである。特に、
大規模な改革を目指している組織にとっては、ベン
ダー・マネジメント戦略や、コスト構造の見直しを
成果の享受
可能にするという点において、とりわけ重要なものだ
この自動車メーカーは、新しい変革戦略およびロー
と言える。
ドマップにより今後 5 年から7 年の間に、30 億ドル
の累積利益を獲得できる見込みである。そのうちの
いに答えるための「90日プラン」を次に紹介する。
20 億ドル以上は、ビジネスとIT の変革プロジェクト
から生み出されるものだ。残りは、コア・プロセスの
画を遂行するチームを結成し、変革の土台を作る。
改善と既存プロジェクトの修正によりもたらされるも
ビジネス部門、IT 部門、アウトソーシング・パート
のと予測されている。また、2 年以内に約 150 のビ
ナーの三者が協力し、自社のニーズの優先順位づ
ジネス・アプリケーションを廃棄する予定であり、そ
けをおこなうスコアカード(コラム「アプリケーショ
の結果としてさらに数百万ドルのコスト削減が見込
ン・ポートフォリオ・スコアカード」参照)を使い、変
では、どこからはじめればよいだろうか?その問
1 か月目 組織と関係者の足並みを合わせ、計
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革のための「投資対効果検討書」を作成し、投資が
ネス部門の最高責任者を巻き込んでおくことが肝心
適正かどうかの判断材料とする。また、プロジェクト
だ。さらに、先進的な技術トレンドを見据えながら今
の目標も明文化しておく。ビジネス部門および IT 部
後のポートフォリオの方向性を決める為の基本方針
門のリーダーで構成される推進委員会と専任のプロ
を定める必要がある。この 3 か月で、チーム内には
ジェクト・チームを立ち上げる。前述の「6 段階アプ
アプリケーション・ポートフォリオの現状に適用する
ローチ」を参考にしながら、同プロジェクトに関する
TCO モデル開発に向けて、具体的な仮説とコストに
共通の認識を醸成していく。1 か月以内に、変革戦
関する資料を獲得できているはずである。この時点
略の目的や変更点、主要ターゲットについて、全関
で、企業や組織に持続的に最大の価値をもたらすア
係者の合意が得られるはずだ。
プリケーション変革戦略に向けての活動を続ける準
備が整ったことになる。
2 か月目 チームが結成されたなら、既存のアプ
リケーション・ポートフォリオを改善するベースライ
ンの設定に全力を注ぐ。既存のアプリケーションを
成功への第一歩
査定するための重要な指標を定義する。さらに、既
ビジネスや IT のイノベーションのスピードが加速し
存のアプリケーション資産の調査や関係者から聞き
ている中で、組織が効率的なアプリケーションを存
出した話や、技術顧問のアドバイスをもとに、主要機
分に活用して、次世代のビジネスケイパビリティを開
能別にアプリケーションを分類し、各グループに共
拓していく必要性も増している。IT 部門が変わりゆ
通名称をつける。こうして出来上がったアプリケー
く需要にペースを合わせられない場合、自分たちよ
ション・グループについて、ビジネス部門や IT 部門
りも機敏なライバルに後れを取ることになる。
に検証してもらい、必要なポイントをすべて網羅し
ているか、分かり易くなっているかについて確認す
ション・ポートフォリオに大きくメスを入れるととも
る。2 か月目が終わるまでには、アプリケーションに
に、関係者の考え方や意識も相当にかえていかなけ
関する情報が集積され、アプリケーションが果たす
ればならない。きわめて困難な仕事ではあるが、そ
役割と、それらがもたらす価値の全容が明らかとな
の重要性は極めて高い。アプリケーション変革戦略
る。
の価値は、コスト削減や機能性強化、柔軟性向上と
3 か月目 ビジネスの目標にアプリケーション・
いった形で企業にもたらされ、企業の成長を強力に
ポートフォリオが合致しているかを精査する。何ら
支援する。アプリケーション・ポートフォリオの変革
かの𪗱𪘚や重複があれば文書化し、アプリケーショ
こそが、今後の長期的なビジネスの成長とそれを支
ンのグループ分けを完了させる。また、長期的な変
えるIT のパフォーマンスの向上を可能にする。
競争を勝ち抜くためには、今までのアプリケー
革戦略を立てるのであれば、最初からIT 部門とビジ
執筆者
Dan Starta : A.T. カーニー ドバイオフィス、パートナー
Christian Hagen : 同シカゴオフィス、プリンシパル
Tejal Thakkar : 同サンフランシスコオフィス、マネージャー
Prabhakar Bhogaraju : 同ワシントンオフィス、アソシエイト
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a blueprint to fix IT complexity
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