間 30 霊的指導は，自己発見，自己確認というしっかりした基礎の上になされなければなりません。そのような基礎をつくるためにどのような方法を用いたらよいでしょうか。＊一つの具体的方法として，ダイナミック・メモリーを紹介いたしましょう。人間のメモリーには二種類あります。ひとつはカレンダー的なメモリーで何があったかを思い出すことです。もうひとつはダイナミック・メモリーで，それは，現在の自分の生活にダイナミックに影響を与えている過去の幾つかの出来事を思い出すことで。このダイブミック・メモリーを用いて，自分が今まで辿って来た道の大きな曲り角や，ちょうど竹の節のように，ある区切りをつけている人生の節ぶしをはっきり見直すことは，霊的指導を受けるために大変有益です。まず，自分の過去をふり返り，現在にも何らかの影響を与えている決断や，自由に選びとった選びを思い出してください。そして，そのとき自分は，何を基準にして決断したのか，何を大切にして選択したのかを考えてみます。決断や選択だけでなく，病気や人学試験に失敗したとき，あるいは家庭の大きな出来事に直面したとき，自分はそれをどのように処理し，そこにどのような意味を見出したか，そしてその意味は，現在の自分にとってどのような価値をもっているかを見ます。自分にとって非常に嬉しかったこと，つらかったこと，ひどく動揺したこと，自分自身に目覚めさせられたこと，人生の意義に気付かせられたことなど，すべてダイナミック・メモリーになります。ダイナミック・メモリーはまた，そのような劇的な出来事でなくてもよいのです。ある人からいわれた一言，人には気づかれなかった内的な悩みや喜び，そういうことも人生の一つの節となりえます。こうしたダイナミック・メモリーが自分に与えた価値や意味，さらに，その時において，神は自分にとってどういう方であったか，その出来事は神と私とのかかわりにとってどういうものであったかを顧みるのです。ダイナミック・メモリーを，グラフで表わすこともできます。たとえば一枚の紙に年齢を表す線を引き，何才のときにどういう出来事があったかを簡単なシンボルなどで記入します。次に，ダイナミック・メモリーとしての出来事や線グラフで表わしてゆきますが，その出来事が自分の人間としての成長にどのような影響を与えたかによって上昇線にしたり下降線にしたりして，一目で今まで通ってきた道がわかるように書いてみます。次に，そのグラフに描かれたいくつかの人生の節を見くらべ，そこに何らかの共通点がないかどうか考えます。人生の節ぶしの前後の事情，そのときの自分と人々とのかかわり，神と自分とのかかわり，自分自身の心の動きなどについて見くらべてゆくと，きっと何らかの共通点，自分のあるパターンを見出すでしょう。自分についての何らかの発見があるものです。 -158このような，自分が辿ってきた道全体のダイナミック・メモリーではなく，ある 1 点に絞ったダイナミック・メモリーをグラフで表すこともできます。たとえば，祈りについて，神とのかかわりについて，神のみことばとのかかわりについて，共同体とのかかわりについて‥もしも，今までの自分の人間関係についてのダイナミック・メモリーを使おうとするならば，今までどのような人が自分の霊的成長の助けとなったか，あるいはどういう人との出会いが霊的成長の助けとならなかったかなどを書き出してみます。若い人のためには，今までに抱いた理想を年代順に書き出してみることも役立ちます。その他，自分の秘跡の受け方や，友人関係，仕事についてなど，いろいろのことが考えられるでしょう。このダイナミック・メモリーを通して指導者が狙っていることは，被指導者が自分自身をよく知ることにあります。自分の生活において，自分という人間はどういうように作られて来たのかを被指導者が発見することにあります。もう一つの狙いは，これからの識別の基礎をつくることです。ダイナミック・メモリーによって発見したことは，被指導者自身の生き方であり，神の導きのパターンですから，これは，これからの霊的指導においていろいろの識別をするときの重要な手がかりとなるのです。 E X E R C I S E ＊祈りについてのダイナミック・メモリー幼い時から今日までに，よく祈れた体験を思い出し，時と場所をはっきりさせてリストを作る。その一つ一つの体験は，どのような状況であったか，その前後関係，その時の心の動きを出来るだけ書きあらわす。(その体験において祈りの助けとなったものは何か，祈りの間の心の動きに対する自分の反応はどうだったか，祈りのあとにはどういう心の動きがあったか，あとの生活にどのような影響を及ぼしたか)，幾つかの体験に共通に見られるバターン，祈りにおける神とのかかわりの傾向などについても書いてみてください。＊共同体についてのダイナミック・メモリー幼い時から今日まで，どのような共同体が自分の生活に影饗を及ぼしたか，その共同体のリストを作る。そのひとつひとつの共同体の要素，自分に及ぼしたよい影響，わるい影響，それに対する反応，共同体から受けた支え，チャレンジ，共同体から得た価値観，共同体によって自分のどのようなオ能が伸ばされたか，どのような成長が妨げられたか，自分は共同体にどの程度受け入れられたか・どの程度拒否されたか‥ そして全体にみられるパターンを探してみてください。一１５９一問 30 一 1 指導者は被指導者のダイナミック・メモリーの記録や，霊的指導のために受けた手紙を，どのように扱ったらよいでしょうか？＊指導者は，それに目を通したのち必ず本人に返すべきです。指導者がそれを保管しない方がよいと思います。これは大切な原則です。私は時々，被指導者に手紙を書くようにすすめます。それは自分の心や考え方をまとめさせるためです。面と向かって言葉で現わすよりも，手紙に書く方がもっと自分をよく表わせるという人はかなりいると思います。また，面接の間の心の動きを，家に帰ってから手紙でまとめることが役に立つ場合もあります。私はそのような手紙をもらうと，そのあといつか本人に会うことができるならぱ返事は書きません。できるだけ，次の面接のとき口頭で返事をします。返事として触れたいと思う点は，手紙を読むときにしるしをつけておきます。そして，しるしをつけたまま本人に返します。そのしるしも本人に役立つと思います。私は被指導者が心を打ち明けて書いた手紙は必ず本人に直接返し，決して自分の手元には置かないようにしています。ダイナミック・メモリーの記録もそうです。なぜならば，手紙にせよ，文章にせよ，グラフにせよ，それらは指導者のために，指導者にあてて書くものではないからです。このことは被指導者に始めからはっきりと言っておくべきことだと思います。被指導者に会わないで，受けとった手紙だけを通して霊的指導をすることは，私にはやはり好ましいことではないように思われます。「手紙は読みました。あなたが大事にとっておいて・自分をよく知るために使って下さい」といって，直接返すのがよいのではないでしょうか。指導を効果的に受けるために被指導者は，自分自身について次のようなことを知っておかなければなりません。指導者も被指導者とともにそれらについての充分なデーターを集めておかなければなりません。以下にあげる事柄は・個人指導によって行なわれる 30 日の霊操に入る前に確認しておくべきデーターですが，定期的になされる霊的指導の場合にも応用することがてきます。これは，指導者にとっても被指導者にとっても必要なデーターです。霊的指導に必要なデーター一召し出しの過程。－１６０－一核となる信仰体験，および自分の人生にとって一つの曲り角あるいは一つの節(ふし)となっているようなモメントについてのダイナミック・メモリー(いくつても構わない)。一現在の祈りの頻度と方法。一「キリストは自分にとって誰であるか」という問いに対する答え。 (たとえば，キリストのどのことば，どの特徴，どの出来事が今の自分にとって最も魅力的であるかなどについて答える)。一現在，聖書のどのことばが特に自分にとって生命の糧になっているか。一自分の共同体に対してどのような心の動きがあるか。今日の教会に対してどのような心の動きがあるか。一ユウカリスチアと，ゆるしの秘跡は，自分にとってどのようなものか。どのような心で，それらの秘跡にあずかるか。一霊的指導を受けた体験があるか。それは助けとなったか？なぜ？それは妨げとなったか？なぜ？一現在携わっている使徒職あるいは奉仕職に対してどのような心の動きがあるか。一今まで読んだ本の中で，特に影響を受けた書物，その著者，あるいは人物，ごく最近読んだ中では？一祈りについていろいろの指導を受けた体験があるか，最近あずかった黙想会・練成会で受けた指導についての印象。一重大な個人的体験や，深い関心を寄せている事について，心を割って分かち合ったことがあるか。その経験はどのような感じだったか。一人に心を打ち明けるとき，秘密を守ってもらえるという安心感があるか。一この霊的指導によって，自分の信仰はどのように深まると思うか。一人間として，キリスト者として成長するための支えを，自分はどこから得ているか。一どういう目的で，今，自分は霊的指導を受けているのか。一霊的指導が成り立つために，特に必要な条件は何だと思うか。一最近とくに，嬉しかったこと，楽しかったことは何か。一最近，自分が受け入れられ，愛されていると感じたことがあるか。それは，いつ，どのようにであったか。一私はあなたの指導者として，あなたをどのような点で助けることができると思うか。一私があなたをもっとよく知ることができるよう，あなたが私に打ち明けたいと思っていることがあるか。一以上のような質問によって，自分について何か発見したことがあるか。それに対して，どのような感じを抱くか。－１６１－ EXERCISE ■次の二つの問題をしてください。 ① ・今まで，自分に影響を与えたと思う方々の名を，出来るだけ沢山書き出してください。(20～3O 名) ・その方々から受けた影響，あるいは今なお受けている影響を，簡単に書いてください。 (要点だけでよい) ・与えた影響の大きい方から順に，l0 名選んでください。・大きな紙(少なくともわら半紙大)いっぱいに，大きな円を描いてください。・この円は，あなた自身です。この円の中に，あなたに影響を与えたその１０人の方々を，影響の大きさに従って，いろいろの大きさの円で書き入れてください。 ② ・今まで，自分に影響を与えたと思う出来事を，出来るだけ沢山書き出してください。(20～30) ・その出来事から受けた影響，あるいは今なお受けている影響を，簡単に書いてください。・与えた影響の大きい出来事から順に，10 選んでください。・①の紙に描いた，あなた自身をあらわす円の中に，この出来事を，影響の大きさに従って，いろいろの大きさの四角で書き入れてください。 ③ この二題の問題について，あなたが書いた紙を見ながら，指導者と話し合うことは有益です。－１６２－