各種がん 105 膵臓がん す い ぞ う 受診から診断、治療、経過観察への流れ 患 者 さ んとご 家 族 の 明 日 の た め に がんの診療の流れ この図は、がんの「受診」から「経過観察」への流れです。 大まかでも、流れがみえると心にゆとりが生まれます。 ゆとりは、医師とのコミュニケーションを後押ししてくれるでしょう。 あなたらしく過ごすためにお役立てください。 がんの疑い 「体調がおかしいな」と思ったまま、 放っておかないで ください。なるべく早く受診しましょう。 受 診 受診のきっかけや、 気になっていること、 症状など、 何 でも担当医に伝えてください。メモをしておくと整理 できます。いくつかの検査の予定や次の診察日が決 まります。 検査・診断 検査が続いたり、 結果が出るまで時間がかかることも あります。担当医から検査結果や診断について説明 があります。検査や診断についてよく理解しておくこ とは、 治療法を選択する際に大切です。理解できない ことは、 繰り返し質問しましょう。 治療法の選択 がんや体の状態に合わせて、 担当医は治療方針を説明 します。ひとりで悩まずに、担当医と家族、周りの方 と話し合ってください。あなたの希望に合った方法を 見つけましょう。 治 療 治療が始まります。治療中、 困ったことやつらいこと、 小さなことでも構いませんので、 気が付いたことは担 当医や看護師、 薬剤師に話してください。よい解決方 法が見つかるかもしれません。 経過観察 治療後の体調の変化やがんの再発がないかなどを 確認するために、しばらくの間、通院します。検査を 行うこともあります。 目 次 がんの診療の流れ 1. がんと言われたあなたの心に起こること ............................ 1 2. 膵臓がんとは .......................................................................... 3 3. 検査と診断 .............................................................................. 5 4. 病期(ステージ) ...................................................................... 9 5. 治療 ........................................................................................ 11 1 手術(外科治療) ........................................................... 12 2 化学療法(抗がん剤治療) ........................................... 13 3 放射線治療 ................................................................... 14 4 ステント留置術 ........................................................... 15 5 その他の治療 ............................................................... 16 6. 手術後の経過観察と検査 ..................................................... 16 7. 転移 ........................................................................................ 17 8. 再発 ........................................................................................ 17 診断や治療の方針に納得できましたか? ................................ 18 セカンドオピニオンとは? ....................................................... 18 メモ/受診の前後のチェックリスト ....................................... 19 がんの冊子 膵臓がん 1. がんと言われたあなたの心に 起こること がんという診断は誰にとってもよい知らせではありません。ひ どくショックを受けて、 「何かの間違いではないか」「何で自分が」 などと考えるのは自然な感情です。 病気がどのくらい進んでいるのか、 果たして治るのか、 治療費 はどれくらいかかるのか、 家族に負担や心配をかけたくない…、 人 それぞれ悩みは尽きません。気持ちが落ち込んでしまうのも当然 です。しかし、 あまり思いつめてしまっては、 心にも体にもよくあ りません。 この一大事を乗りきるためには、 がんと向き合い、 現実的かつ 具体的に考えて行動していく必要があります。そこで、 まずは次 の2つを心がけてみませんか。 あなたに心がけてほしいこと ■ 情報を集めましょう まず、自分の病気についてよく知ることです。担当医は最大の 情報源です。担当医と話すときには、あなたが信頼する人にも同 席してもらうといいでしょう。わからないことは遠慮なく質問 してください。また、あなたが集めた情報が正しいかどうかを、 あなたの担当医に確認することも大切です。他の病院にてセカ ンドオピニオンを受けることも可能です(セカンドオピニオン については 18 ページをご覧ください) 。 「知識は力なり」 。正しい 知識は、あなたの考えをまとめるときに役に立ちます。 1 がんと言われたあなたの心に起こること ■ 病気に対する心構えを決めましょう 1 がんに対する心構えは、 積極的に治療に向き合う人、 治るとい う固い信念をもって臨む人、なるようにしかならないと受け止 める人などいろいろです。どれがよいということはなく、 その人 なりの心構えでよいのです。そのためには、 あなたが自分の病気 のことをよく知っていることが大切です。病状や治療方針、 今後 の見通しなどについて担当医からよく説明を受け、いつでも率 直に話し合い、 その都度十分に納得した上で、 病気に向き合うこ とに尽きるでしょう。 情報不足は、 不安と悲観的な想像を生み出すばかりです。あな たが自分の病状について理解した上で治療に取り組みたいと考 えていることを、 担当医や家族に伝えるようにしましょう。 お互いが率直に話し合うことが、お互いの信頼関係を強いも のにし、 しっかりと支え合うことにつながります。 すいぞう では、これから膵臓がんについて学ぶことにしましょう。 2 がんの冊子 膵臓がん 2. 膵臓がんとは すいぞう すいかん 膵臓にできるがんのうち90%以上は、 膵管の細胞にできます。 これを膵管がんといい、 膵臓がんは、 通常この膵管がんのことを 指します。膵臓は洋ナシを横にしたような形をしていますが、 膵 管はこの細長い膵臓を貫いて網の目のように走る細い管です。 膵臓は、 食物の消化を助ける膵液をつくり(外分泌) 、 インスリ ンやグルカゴンなど血糖値の調節に必要なホルモンを産生する (内分泌)という2つの役割を果たしています。膵液は分枝膵管を しゅすいかん たんじゅう 通じて主膵管という1本の管に集められ、 肝臓でつくられた胆汁 じゅうにしちょうにゅうとうぶ が流れてくる総胆管と、 十二指腸乳頭部で合わさって、 十二指腸 へと流れていきます。 図1. 膵臓とその周囲の臓器 肝臓 膵臓 主膵管 総胆管 胆のう (尾部) (体部) (頭部) 膵管胆管合流部 十二指腸 十二指腸乳頭 (右) (左) 3 膵臓がんとは すいとうぶ なお、 膵臓の右側のふくらんだ部分は膵頭部、 左側の幅の狭い すいびぶ 2 すいたいぶ ほうの端は膵尾部、 真ん中は膵体部と呼ばれ、 膵頭部の中を総胆 管が通っています。手術するときは、 がんのある位置や広がりに よって、 これらのどこを切除するかが決められます。 膵臓がんを起こす危険因子としては、糖尿病、慢性膵炎、喫煙 などがあげられています。これらのうち、 喫煙は確実な危険因子 であることがわかっています。 膵臓がんは、 早い段階では特徴的な症状はありません。膵臓が んの方が受診された理由を調べると、胃のあたりや背中が重苦 しいとか、何となくおなかの調子が悪い、食欲がない、体重が 減ったといった漠然とした症状が多いようです。膵臓がんに関 連のある症状として、がんで胆管が詰まると皮膚や白目が黄色 おうだん くなる黄 疸が出ることがあります。黄疸が出ると体がかゆく なったり、尿の色が濃くなることもあります。また、膵臓にがん ができると糖尿病が急激に悪化する、血糖のコントロールが悪 くなるということもあります。 膵臓がんは、腹痛などの理由で受診される場合が多いのです が、 膵臓はおなかの深いところにあり、 胃や十二指腸、 小腸、 大腸、 ひ ぞ う 肝臓、胆のう、脾臓などの後ろに隠れているので、膵臓がんを意 識して検査をしなければ発見しにくいがんです。どの部位のが んも同様ですが、 膵臓がんは早期発見が重要です。とはいえ進行 も速く、 消化器がんの中でも手ごわいがんの1つです。 4 がんの冊子 膵臓がん 3. 検査と診断 膵臓がんの診断とがんの広がりを調べるために、 腹部超音波、 、超音波内視鏡検査 CT、 MRI、 MRCP(場合によっては ERCP) (EUS)などのいくつかの検査を病状などに合わせて行います。 1 腹部超音波(エコー)検査 漠然とした消化器症状がある人に対しては、まず腹部超音波 いかいよう 検査や内視鏡、 胃のX線検査などを行い、 胃炎、 胃潰瘍、 胆石など の一般的な消化器の病気がないかどうかを調べます。腹部超音 波検査では膵臓を観察することもできますが、患者さんの体型 や状態、 部位によっては見えにくい場合もあります。 2 CT検査、MRI検査 腹部超音波検査で異常が疑われる場合、あるいは異常がはっ きりしない場合でも症状や血液検査などのデータから膵臓や 胆管などに病気のある可能性があれば、 CT や MRI などさらに精密な検査に進み ます。 病変 CTは、 X線で体の内部を描き出し、 の状態や周辺の臓器へのがんの広がり、 転 移の有無を調べます。特に最近は画像 の分解能力に優れたマルチスラ イスCTなどの新しい画像診断が 行われるようになりました。 5 検査と診断 CT ではヨード造影剤を用いますので、ヨードアレルギーの 3 ある人は医師に申し出てください。 また、 MRI は磁気を利用します。MRI ではガドリニウムとい う造影剤が用いられますが、ぜんそくやアレルギー体質の人は 副作用の起こる危険が高くなりますので、医師に申し出てくだ さい。 3 超音波内視鏡検査(EUS) 異常のある部分を詳細に調べるために、超音波装置のついた 内視鏡を入れて、 胃や十二指腸の中から、 膵臓などの臓器に超音 波をあてて病変の状態や周囲への広がりなどをみる方法です。 体外からの超音波検査に比べて、より詳細な観察が可能になり ます。腫瘍の組織を調べるために、 針を刺して腫瘍の細胞を採取 せんしきゅういんさいぼうしん する穿刺吸引細胞診を行うこともあります。 ぎゃっこうせいたんかんすいかんぞうえい 4 内視鏡的逆 行性胆管膵管造影(ERCP) 内視鏡を口から入れて十二指腸まで送り込み、その中にカ テーテル(細い管)を入れて膵管まで通します。そこに造影剤を 入れてX線撮影を行う検査です。膵管の中に超音波装置を挿入 する膵管内超音波検査(IDUS)や膵管内の細胞を採取する検査 が行われることもあります。合併する黄疸や胆管炎に対する治 療として行われることもあります。ただし、 これらの検査は膵炎 などの合併症を起こすことがあります。 6 がんの冊子 膵臓がん たんかんすいかんさつえい 5 MR胆管膵管撮影(MRCP) MRIを使って胆管や膵管の状態を調べる検査です。内視鏡や 造影剤を使わずに、 ERCPと同じような画像を得ることができ、 患者さんの負担が少ないので、 ERCPの代用として MRCP を行 うことが多くなってきています。 6 PET検査 放射性フッ素を付加したブドウ糖液を注射し、その取り込み の分布を撮影することで全身のがん細胞を検出するのが PET で す。PETを用いても膵臓がんを早期に診断することは困難です が、 膵炎との鑑別や、 膵臓がん手術後の再発診断に用いられるこ とがあります。 7 血管造影検査 場合によっては、 足の付け根の動脈から細い管を差し込んで、 膵臓やその周辺に向かう動脈に造影剤を入れて、血管の状態や 病気による変化を調べます。 けいひけいかんたんどうぞうえい 8 経皮経肝胆道造影(PTC) 黄疸があるときに行う検査で、 胆管を X線撮影します。皮膚の 上から直接肝臓を貫いて胆管内に針を刺し、その針を通して チューブを胆管に挿入します。そこから造影剤を入れて胆管が どこで詰まっているかを調べます。 7 検査と診断 9 腫瘍マーカー 3 腫瘍マーカーとは、体のどこかにがんが潜んでいると異常高 値を示す血液検査の項目のことで、がんの種類に応じて多くの 種類があります。膵臓がんでは、 、 CEA(シーイーエー) CA19-9 (シ ー エ ー ナ イ ン テ ィ ー ン ナ イ ン) 、 (ス パ ン ワ ン) Span-1、 、 DUPAN-2(デュパンツー) CA50(シーエーフィフティ)などが ありますが、必ずしも早期に膵臓がんを発見できるわけではあ りません。 8 がんの冊子 膵臓がん 4. 病期(ステージ) 病期とは、 がんの進行の程度を示す言葉で、 英語をそのまま用 いて「stage(ステージ) 」という言葉が使われることがありま しんじゅん す。病期には、ローマ数字が使われ、膵臓がんでは、 0 期(非浸潤 がん) 、 I 期、 II 期、 III 期、 IV 期(IVa、 IVb)に分類されています。病 期は、 がんの大きさや広がり、 リンパ節や別の臓器への転移があ るかどうかによって決まります(図2) 。 基本的に病期によって治療方法を選択しますが、必ずしも治 療前のステージが正しいとは限りません。手術を行って摘出し た組織の検査結果が、術前の病期診断と一致しないこともある からです。その場合は、 組織検査の結果に従ってその後の治療を 選択します。 9 病期(ステージ) 図 2. 膵臓がんの病期分類 リンパ節 リンパ節へ 1 群リンパ 2 群リンパ 3 群リンパ 転移 の 転 移 が 節までの転 節までの転 節までの転 ない 移がある 移がある 移がある がんの 広がり 4 がんが遠く のリンパ節 や臓器に転 移している がんの大き さが 2 cm以 下で膵臓内 にとどまっ ている I II III IVb IVb がんの大き さが 2 cmを 超え膵臓内 にとどまっ ている II III III IVb IVb がんは膵臓 の外へ出て いる III III IVa IVb IVb がんは主要 な血管や隣 接する臓器 に広がって いる IVa IVa IVb IVb IVb 1∼3群リンパ節:リンパ節をがんのある場所からどのくらい離れているかによって 分類しており、近いものから1群、2群、3群と呼ぶ。 日本膵臓学会編「膵癌取扱い規約 2013 年 8月(第 6 版補訂版) 」 (金原出版)より一部改変 10 がんの冊子 膵臓がん 5. 治療 膵臓がんの標準的な治療法は、手術(外科治療) 、化学療法(抗 がん剤治療) 、放射線治療の3 つです。がんの広がりや全身状態 などを考慮して、 これらの1 つ、 あるいはこれらを組み合わせた 治療(集学的治療)が行われます。 がんが膵臓にとどまっている場合は、 手術単独、 あるいは手術 と補助療法(通常は化学療法)を組み合わせて行います。がんが 大事な血管を巻き込んでいたり、 他の臓器に転移したりして、 手 術ができないときは、 放射線治療や化学療法が行われます。これ らにバイパス手術を組み合わせる場合もあります。 図 3. 膵臓がんの臨床病期と治療 診断確定 臨床病期 0期 I期 II 期 IVa期 III期 IVb期 切除可能 局所進行切除不能 転移(・再発)切除不能 外科切除 化学放射線療法 化学療法 補助療法 ステント療法、バイパス療法、放射線治療 治 療 日本膵臓学会 膵癌診療ガイドライン改訂委員会編「科学的根拠に基づく膵癌診療ガイ ドライン 2013 年版」 (金原出版)より一部改変 11 治療 膵臓がんは早期発見が難しく、診断されたときには進行してい 5 ることが多いため、手術単独で治癒することは多くはありません。 前ページの図3は、病期と治療方法の関係を示したものです。 担当医と治療方針について話し合う参考にしてください。 1 手術(外科治療) 膵臓がんの治療の中で最も治療効果が高いものは手術です。 がんを含めて膵臓と周囲のリンパ節などを切除します。ただし、 手術が適応になる条件は、 1)肝臓や肺などへの転移がなく、 2) ふくまくはしゅ 腹膜播種(おなかの中にがんが広がっている状態)がなく、 3)重 要な臓器に栄養を運ぶ大きな血管にがんが広がっていない場合 です。手術は、 膵臓がんの位置や広がりによって次のような方法 が選ばれます。 1)膵頭十二指腸切除 膵頭部を中心にがんがある場合、十二指腸、胆管、胆のうを含 めて膵頭部を切除します。切除後には、 膵臓、 胆管、 消化管の再建 (切除した部分をつくり直すこと)が必要になります。がんが胃 の近くにある場合は、 胃の一部も切除することがあります。血管 にがんが広がっている疑いがあるときは、その血管の一部も合 わせて切除し、 再建します。 2)膵体尾部切除 膵体尾部のがんの場合、 膵臓の体部と尾部を切除します。通常 は脾臓も摘出されます。切除後の消化管の再建は必要ありません。 12 がんの冊子 膵臓がん 3)膵全摘術 がんが膵臓全体に及ぶ場合は膵全摘術が行われます。ただし、 膵全摘は膵臓の機能がまったく失われてしまい、体への負担が 大きいので、切除による治癒が期待できない場合には行われま せん。術後には、 血糖をコントロールするためにインスリンの注 射が必要となります。 4)バイパス手術 がんを切除することができない場合でも、十二指腸がふさ がって食事がとれなくなるのを防ぐために胃と小腸をつなぐ消 消化管バイパス手術や、胆汁の流れをよくするために胆管と小 腸をつなぐ胆道バイパス術が行われる場合もあります。 ● 術後の栄養管理 ぶんぴつ 膵臓を摘出すると、 食物の消化をコントロールする酵素の分泌に影響 が出て、 消化や栄養素の吸収に問題が起こる可能性もあります。栄養 状態をよくするために、 これらの酵素を補充する薬剤が処方される場 合もあります。 また、 術後は1 回の食事量が減ってしまうことがあります。そのような 場合は、 食事の回数を増やしたり、 よくかんで食べて消化吸収をよくす るなどの工夫をします。 2 化学療法(抗がん剤治療) 血管を巻き込んでいたり、転移があったりして手術でがんを 取り除くことができない場合や、再発した場合には、化学療法 とうつう (抗がん剤治療)が行われます。抗がん剤治療には、 疼痛などの症 状を和らげる効果と、生存期間を延長する効果があることが証 13 治療 明されています。 5 一方、膵臓がんを手術で取り除いた場合でも、一定期間、化学 療法を受けることで、 再発しにくくなったり、 生存期間が延長す ることが明らかにされたため、手術後の化学療法も広く行われ るようになりました。このような治療を術後補助化学療法と呼 びます。 ● 抗がん剤の副作用 抗がん剤は、 がん細胞だけでなく正常な細胞にも影響を及ぼします。 特に毛根(髪の毛)、 口や消化管などの粘膜、 骨髄など新陳代謝の 盛んな細胞が影響を受けやすく、 脱毛、 口内炎、 下痢が起こったり、 白血球減少や血小板減少が起こったりします。その他にも、 吐き気 ど う き また肝臓や腎臓に障害が や、 心臓への影響として動悸や不整脈が、 出ることもあります。 現在では、 抗がん剤の副作用による苦痛を軽減する方法の開発が 進んでいます。また、 副作用が著しい場合には治療薬の変更や治療 の休止、 中断などを検討することもあります。 3 放射線治療 高エネルギーの放射線を患部にあててがんをコントロールす るのが放射線治療です。がんが膵臓の周りの主要動脈などに広 がっていて手術ができない場合に行われます。化学療法と組み 合わせることで放射線の効果を高めることが期待できるため、 化学療法と併用されることが多く、その場合は化学放射線療法 と呼ばれます。化学放射線療法は、がんが進行し、手術ができな い場合における標準治療の1 つとして推奨されています。 14 がんの冊子 膵臓がん 5 治療 ● 放射線治療の副作用 放射線治療の副作用は、主として放射線が照射されている(され た)部位に起こります。症状は部位や照射量によって異なります。 おうと 一般的な副作用としては、吐き気・嘔吐、食欲不振、血液中の白 血球の減少などです。まれに胃や腸の粘膜が荒れて出血し、黒色 便が出たり下血をすることもあります。最近は、コンピューターに よって照射部位を限定して放射線をかけられる技術が進歩してお り、腸などの消化管への副作用を減らすことができるようになりま した。 4 ステント留置術 がんによって胆管がふさがり、 胆汁の流れがさえぎられると、 黄 疸が生じます。さらにたまった胆汁に細菌が感染すると、 胆管炎が 起こります。胆管炎は寒気や高熱を伴い、 時にショックと呼ばれる 急激な血圧の低下を引き起こすことがあるため注意が必要です。 また、 黄疸や胆管炎の影響で手術や化学療法などが行えなくなる 場合があります。 そこで、 たまった胆汁を体外に排泄するために、 「胆道ドレナー ジ」と呼ばれる処置を行うことがあります。胆道ドレナージには、 皮膚から肝臓を介して胆管にステント(プラスチック製あるいは 金属製の管)を留置する方法(経皮経肝胆道ドレナージ:PTBD) と、 内視鏡を用いて胆管にステントを挿入する方法(内視鏡的胆道 ドレナージ:EBD)があります。状況によって適切な方法が選択さ れますが、 通常は体への負担が少ない内視鏡的胆道ドレナージが 推奨されています。 15 手術後の経過観察と検査 5 その他の治療 6 膵臓がんに対して温熱療法や免疫療法などが試みられています が、 はっきりした効果は確認されていません。有効であることが証 明されていない治療は研究段階にあるため、 「臨床試験」として実 施されています。臨床試験にはいろいろな種類があり、 参加できる 条件も異なっていますので、 検討できる臨床試験があるかどうか に関しては担当医と相談してください。 また、 膵臓がんは痛みや吐き気などの症状を伴うことが多いの で、 これらを和らげるための医療(緩和ケア)が行われます。全身状 態が悪く治療の負担が大きすぎると考えられる場合や、 積極的に 勧められる治療がない場合には、 無理せず症状のつらさを和らげ る医療やケアに専念することも考えられます。 剤 治 療 を 行 う こ 6. 手術後の経過観察と検査 と が 手術を受けた後の体調確認のため、また再発の有無を確認す るために定期的に通院します。膵臓がんは切除可能なものでも 早期に再発しやすいがんです。したがって、 CT や腫瘍マーカー などのチェックを続けます。少なくとも術後 5年間は定期的な 通院が必要になります。 また、膵臓を切除することで糖尿病を発症したり、もともと あった糖尿病を悪化させる可能性もあります。その場合は糖尿 病の専門医に診てもらう必要があります。 16 がんの冊子 膵臓がん 7 転移 8 再発 7. 転移 転移とは、 がん細胞がリンパ液や血液の流れに乗って他の臓器 に移動し、 そこで成長したものをいいます。がんを手術で全部切 除できたようにみえても、 その時点ですでにがん細胞が別の臓器 に移動している可能性があり、 手術した時点では見つけられなく ても、 時間がたってから転移として見つかることがあります。 膵臓がんは、 がんが小さなうちから膵臓の周囲に広がったり、 特に肝臓などに転移しやすい性質があります。早い時期から転移 を起こすことも膵臓がんが治りにくい一因と考えられています。 8. 再発 再発とは、 治療により目に見える大きさのがんがなくなった後、 再びがんが出現することをいいます。再度手術できる場合はまれ で、 化学療法や放射線治療、 痛みや食欲の低下といった症状に応じ た治療などが一般的です。 膵臓がんは、 切除可能な場合でも術後早めに再発することが多 いがんです。再発といってもそれぞれの患者さんで状態は異なり ます。転移が生じている場合には治療方法も総合的に判断する必 要があります。それぞれの患者さんの状況に応じて治療やその後 のケアを決めていきます。 17 診断や治療の方針に納得できましたか?/セカンドオピニオンとは? 診断や治療の方針に納得できましたか? 治療方法は、 すべて担当医に任せたいという患者さんがいます。 一方、 自分の希望を伝えた上で一緒に治療方法を選びたいという 患者さんも増えています。どちらが正しいというわけではなく、 患 者さん自身が満足できる方法が一番です。 まずは、 病状を詳しく把握しましょう。あなたの体を一番よく 知っているのは担当医です。わからないことは、 何でも質問してみ ましょう。診断を聞くときには、 病期(ステージ)を確認しましょう。 治療法は、 病期によって異なります。医療者とうまくコミュニケーショ ンをとりながら、 自分に合った治療法であることを確認してください。 診断や治療法を十分に納得した上で、治療を始めましょう。 最初にかかった担当医に何でも相談でき、 治療方針に納得できれ ばいうことはありません。 セカンドオピニオンとは? 担当医以外の医師の意見を聞くこともできます。これを「セカン ドオピニオンを聞く」といいます。セカンドオピニオンでは、 ①診断 の確認、 ②治療方針の確認、 ③その他の治療方法の確認とその根拠 を聞くことができます。聞いてみたいと思ったら、 「セカンドオピニ オンを聞きたいので、 紹介状やデータをお願いします」と担当医に 伝えましょう。 担当医との関係が悪くならないかと心配になるかもしれません が、 多くの医師はセカンドオピニオンを聞くことは一般的なことと 理解していますので、 快く資料をつくってくれるはずです。 18 がんの冊子 膵臓がん メモ/受診の前後のチェックリスト メモ( 年 月 日) ● がんの種類 [ ] ● 病期(ステージ) [ ] ● 大きさ [ ] cm 位 ● 広がり・深さ [ ]まで ● 別の臓器への転移 [ あり ・ なし ] 受診の前後のチェックリスト □ 後で読み返せるように、 医師に説明の内容を紙に書いてもらったり、 自分でメモをとったりするようにしましょう。 □ 説明はよくわかりますか。わからないときは正直にわからないと伝え ましょう。 □ 自分に当てはまる治療の選択肢と、それぞれのよい点、悪い点につい て、 聞いてみましょう。 □ 勧められた治療法が、 どのようによいのか理解できましたか。 □ 自分はどう思うのか、 どうしたいのかを伝えましょう。 □ 治療についての具体的な予定を聞いておきましょう。 □ 症状によって、 相談や受診を急がなければならない場合があるかどう か確認しておきましょう。 □ いつでも連絡や相談ができる電話番号を聞いて、 わかるようにしてお きましょう。 ● □ 説明を受けるときには家族や友人が一緒の方が、 理解できて安心だと 思うようであれば、 早めに頼んでおきましょう。 □ 診断や治療などについて、 担当医以外の医師に意見を聞いてみたい場 合は、 セカンドオピニオンを聞きたいと担当医に伝えましょう。 参考文献:日本膵臓学会編:膵癌取扱い規約(第 6 版補訂版),2013;金原出版 日本膵臓学会 膵癌診療ガイドライン改訂委員会編:科学的根拠に基づく膵癌診療ガイドライン 2013 年版 ,2013;金原出版 19 国立がん研究センターがん対策情報センター作成の冊子 がんの冊子 各種がんシリーズ (34 種) 小児がんシリーズ (11種) がんと療養シリーズ (7 種) がんと心/がんの療養と緩和ケア/もしも、がんと言われたら/他4種 社会とがんシリーズ (3 種) がん相談支援センターにご相談ください/家族ががんになったとき/ 身近な人ががんになったとき がんを知るシリーズ (1種) 科学的根拠に基づくがん予防 がんと仕事のQ&A 患者必携 がんになったら手にとるガイド 普及新版* 別冊『わたしの療養手帳』 もしも、がんが再発したら* すべての冊子は、がん情報サービスのホームページで、実際のページを閲覧したり、印刷したりすること ができます。また、全国の国指定のがん診療連携拠点病院などのがん相談支援センターでご覧いただ けます。*の付いた冊子は、書店などで購入できます。その他の冊子は、がん相談支援センターで入手で きます。詳しくはがん相談支援センターにお問い合わせください。 がんの情報を、インターネットで調べたいとき 近くのがん診療連携拠点病院や地域がん診療病院、がん相談支援センターを探したいとき ◆◆◆がん情報サービス http://ganjoho.jp がん相談支援センターの紹介・患者必携についてのお問い合わせ ◆◆◆がん情報サービスサポートセンター サ ポート 電話:0570-02-3410(ナビダイヤル) 平日 (土・日・祝日を除く) 10 時 ~15 時 ※通信料は発信者のご負担です。また、一部の IP 電話からはご利用いただけません。 がんの冊子 各種がんシリーズ 膵臓がん 編集・発行 独立行政法人国立がん研究センターがん対策情報センター 印刷・製本 図書印刷株式会社 2008 年 9 月 第 1 版第 1 刷 発行 2015 年 2 月 第 3 版第 1 刷 発行 協力者(五十音順) :上野 秀樹(国立がん研究センター中央病院肝胆膵内科) 奈良 聡 (国立がん研究センター中央病院肝胆膵外科) あなたの地域のがん相談支援センター 各種がん 105 膵臓がん 国立がん研究センター がん対策情報センター 「がん相談支援センター」について がん相談支援センターは、全国の国指定のがん診療連携 拠点病院などに設置されている「がんの相談窓口」です。 患者さんやご家族だけでなく、どなたでも無料でご利用い ただけます。わからないことや困ったことがあればお気軽 にご相談ください。全国のがん相談支援センター やがん診療連携拠点病院などの情報は「がん情報 サービス(http://ganjoho.jp) 」でご確認ください。 がん相談支援センターで相談された内容が、ご本 人の了解なしに、患者さんの担当医をはじめ、ほ かの方に伝わることはありません。 どうぞ安心してご相談ください。 国立がん研究センター がん対策情報センター 〒104 - 0045 東京都中央区築地 5 -1-1 より詳しい情報はホームページをご覧ください
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