08.社会的総資本の再生産

「 社 会 経 済 学 初 級 」 学 習 資 料 No.08
社会的総資本の再生産
1
単純再生産
一社会に存在する多数の個別資本の循環は、相互にからみあい、前提しあっているので
あって、このからみあいにおいて社会的総資本の運動を形成する。 ここでは、流通過程を
通じてからみあう個別諸資本の循環の総体、すなわち社会的総資本の再生産の運動 、を研
究する。
この運動は、すべての個別資本の循環(生産過程とそれを媒介する流通過程)を含むだ
けでなく、個人的消費とそれを媒介する流通をも含んでいる。つまり、資本の流通は可変
資本の労働力ヘの転形を含むが、他方では、商品の販売のうちには労働者たちによる商品
の購買、つまり、かれらの個人的消費が含まれている。また、商品資本の流通は剰余価値
の流通を含み、したがって資本家たちの個人的消費を含む。
このような総流通過程をとおして進められる社会的総資本の再生産の運動は、商品資本
の循環として把握される。
W
―――
W′ ― ― ―
w
G
―――
G′
―――
W ― A
………
P
………
W′
\ Pm
g
―――
w
わ れ わ れ の 分 析 の 出 発 点 は 商 品 資 本 W で あ る 。し か も そ れ は 、社 会 の す べ て の 資 本 に よ
って 1 年間に生産された総生産物である。問題は、この 年々の総生産物の流通によって、
生産において消費された資本が、その価値にしたがって、現物でどのようにして補填され
る か( た と え ば 、生 産 過 程 で 消 費 さ れ た 生 産 手 段 の 価 値 は 商 品 価 値 の 一 部 に 移 転 さ れ る が 、
これがどのようにして貨幣化され、さらに、どのようにして生産再開に必要な生産手段に
転 化 さ れ る か )、こ の 補 填 の 運 動 は 資 本 家 に よ る 剰 余 価 値( 利 潤 )の 消 費 お よ び 労 働 者 に よ
る賃金の消費とどのようにからみあうかということであり、言葉をかえれば、社会的総生
産物の各部分の価値補填と素材補填の過程を究明することである。
このためには、年々の社会的総生産物は、価値の面からだけでなく、使用価値の面から
も規定されなければならない。年々の社会的総生産物の価値は個々の商品価値の総和であ
り 、し た が っ て そ れ は c + v + m( p )で あ る 。他 方 、個 別 資 本 の 運 動 の 考 察 に お い て は 、
その生産物は機械でも穀物でもなんでもよく、それらはすべて例としてあげられたにすぎ
なかったが、そういう取り扱い方はここではもはや不十分である。年々の社会的総生産物
の一部は不変資本を現物で補填し、他の部分は資本家と労働者の消費に 入り込むのである
から、社会的総生産物は生産手段と消費資料の二つの部分に分けられなければならない。
これに照応して、社会の総生産も生産手段生産部門(第 I 部門)と消費資料生産部門(第
Ⅱ部門)とに分かれる。
こ の よ う に 、第 I・ Ⅱ 両 部 門 に 分 割 さ れ 、c +v + m と い う 価 値 構 成 を も つ 年 々 の 社 会 的
1
総生産物の価値・素材補填の運動が、全体として考察されなければならないのである。
単純再生産の表式と運動
単純再生産(同じ規模で繰り返し行われる再生産)は、資本主義の本来の傾向である蓄
積を排除している点で一つの抽象であるが、しかし蓄積が 行われる場合、単純再生産はつ
ねにその一部分となっている。われわれの考察は単純再生産からはじまる。
第 I・第 Ⅱ と い う 社 会 の 二 大 部 門 に お い て 、い ず れ も 不 変 資 本( そ れ は 、機 械・ 器 具 ・建
物などの固定資本と、原料・補助材料などの流動不変資本とに 分かれる)と可変資本(労
働力)の投下によって生産が行われ、それぞれ生産手段と消費資料が生産されるが、その
価値は、生産で消費された不変資本価値の移転部分cと、可変資本価値の補填部分vと、
剰余価値 m とに分かれる。
いま、さしあたり回転期間 1 年をこえる固定資本の存在を度外視する。われわれは、単
純再生産を次の表式によって考察する。数字は億円でも億ドルでもよい。資本の有機的構
成 は 、 第 I 部 門 も 第 Ⅱ 部 門 も 同 じ で 、 c : v = 4 : 1 、 剰 余 価 値 率 m’= m / v = 100 パ ー
セントと仮定する。単純再生産であるから、蓄積は行われない、つまり生産された剰余価
値はすべて資本家の個人的消費に充てられる。
社会的総資本
I
4000c + 1000v = 5000
2000c +
Ⅱ
社会的総生産物
I
Ⅱ
500v = 2500
4000c + 1000v + 1000m = 6000
生産手段
2000c +
消費資料
500v +
500m = 3000
総 生 産 物 の 価 値 は 9000 で あ る 。 こ の 価 値 ・ 素 材 補 填 の 運 動 は 、 つ ぎ の 三 大 取 引 き に 総
括される。
( a )第 Ⅱ 部 門 内 部 の 取 引 ― ― 第 Ⅱ 部 門 の 労 働 者 の 賃 金 Ⅱ 500v と 資 本 家 の 剰 余 価 値 Ⅱ
500m と は 、 消 費 資 料 に 支 出 さ れ な け れ ば な ら な い 。 第 Ⅱ 部 門 の 資 本 家 の 手 に は 、 投 下 さ
れ た Ⅱ 500v を 補 填 し 、ま た Ⅱ 500m を 表 示 す る 計 1000 の 価 値 の 消 費 資 料 を 含 む 合 計 3000
の 価 値 の 消 費 資 料 が 存 在 す る 。だ か ら Ⅱ 500v + Ⅱ 500m の 消 費 資 料 は 、部 門 内 部 の 取 引 を
つうじて第Ⅱ部門の労働者と資本家によって個人的に消費される。 第Ⅱ部門の資本家の手
に は 、 ま だ 2000( 3000- 1000) の 価 値 の 消 費 資 料 が 残 っ て い る 。
( b )両 部 門 間 の 取 引 ― ― 第 I 部 門 の 労 働 者 の 賃 金 I 1000v と 資 本 家 の 剰 余 価 値 I 1000
m も 、 消 費 資 料 に 支 出 さ れ な け れ ば な ら な い 。 し か る に 、 第 I 部 門 で 投 下 さ れ た I 1000v
を 補 填 し 、 ま た I 1000m を 表 示 す る 計 2000 の 価 値 の 生 産 物 は 生 産 手 段 で あ り 、 個 人 的 に
消 費 し え な い 。他 方 で 、第 Ⅱ 部 門 の 資 本 家 は Ⅱ 2000c を 生 産 手 段 に 転 形 し て 、消 費 し た 不
変 資 本 を 現 物 で 補 填 し な け れ ば な ら な い が 、 こ の 2000 の 価 値 の 生 産 物 、 つ ま り Ⅱ 2000c
は 消 費 資 料 と し て 存 在 す る 。 だ か ら 、 I 1000v + I 1000m の 生 産 手 段 と Ⅱ 2000c の 消 費 資
料が相互に交換されることにより、第 I 部門の労働者と資本家は個人的消費をおこない、
第 Ⅱ 部 門 の 資 本 家 は 生 産 手 段 を 入 手 す る こ と が で き る 。 こ こ に Ⅰ 1000v + I 1000m = Ⅱ
2
2000c と い う 等 式 が な り た つ 。 第 I 部 門 の 資 本 家 の 手 に は 、 ま だ 4000( 6000- 2000) の
価値の生産手段が残っている。
( c ) 第 I 部 門 内 部 の 取 引 ― ― 第 I 部 門 の 資 本 家 は 、 消 費 し た 不 変 資 本 I 4000c を 現
物 で 補 填 し な け れ ば な ら な い が 、 I 4000c は ほ か な ら ぬ 生 産 手 段 で あ る 。 だ か ら こ の 部 分
は、第 I 部門内部の個々の資本家相互の交換によって解決される。
以上三つの取引において、第Ⅱ部門の労働者と資本家は、第Ⅱ部門内部の取引によって
消費資料を手にいれ、第 I 部門の資本家は、第 I 部門内部の取引によって生産手段を手に
いれた。これに対し、両部門間の取引によってはじめて、第 I 部門の労働者と資本家は、
その部門の生産物が生産手段であるにもかかわらず消費資料を手にいれ、第Ⅱ部門の資本
家は、その部門の生産物が消費資料であるにもかわらず、生産手段を手にいれることがで
きた。だから、この三つの流れの運動は、両部門間の取引を結び目として進行するのであ
っ て 、 こ こ に 成 立 す る 等 式 Ⅰ 1000v + Ⅰ 1000m = Ⅱ 2000c 、 つ ま り Ⅰ v + Ⅰ m = Ⅱ c が
単純再生産の基礎的条件となるのである。
以上の運動をつぎの分析図でしめそう。
I
4000c + 1000v + 1000m
Ⅱ
2000c + 500v + 500m
ここで下線の部分は、両部門間の取引に充てられ、その他の部分は自部門内部の取引に
はいることをあらわす。こうして両部門の資本家は、補填された生産手段と再生産された
労 働 力 と を 結 合 し て 循 環 W′ … … W′ の 後 半 す な わ ち 生 産 過 程 を 行 い 、 再 び 同 一 額 9000
の総生産物を翌年度提供することができる。
単純再生産の基礎的条件
Ⅰ 1000v + 1000m = Ⅱ 2000c
生 産 手 段 ( 6000) の 再 生 産
Ⅰ 4000c + 1000v + 1000m = Ⅰ 4000c + Ⅱ 2000c
消 費 資 料 ( 3000) の 再 生 産
Ⅱ 2000c + 500v + 500m= Ⅰ ( 1000v + 1000m ) + Ⅱ ( 500v + 500m)
貨幣による取引の媒介
上の諸取引は貨幣流通によって媒介される。
ま ず 両 部 門 間 の 取 引 か ら は じ め よ う 。 第 I 部 門 の 資 本 家 は 貨 幣 1000 を 賃 金 ( Ⅰ 1000v)
として第 I 部門の労働者に支払う。後者はこれをもって第Ⅱ部門の資本家から消費資料Ⅱ
2000c の 半 分 を 購 入 し 、こ れ を 貨 幣 に 転 形 さ せ る 。第 Ⅱ 部 門 の 資 本 家 は こ の 貨 幣 で 第 I 部
門 の 資 本 家 か ら 生 産 手 段 Ⅰ 1000v を 購 入 し 、 こ れ を 貨 幣 に 転 形 さ せ る 。 こ う し て 、 第 I 部
門 の 資 本 家 が 投 下 し た 貨 幣 1000 は 、 か れ の 手 元 に 還 流 し 、 翌 年 度 再 び 労 働 者 へ の 賃 金 支
払いのために投下しうる形態になった。
残 る Ⅰ 1000m と Ⅱ 1000c と の 交 換 が お こ な わ れ る た め に は 、一 定 額 の 貨 幣 準 備 が 資 本 投
3
下もしくは所得支出のために資本家の手元に存在することが前提されなければならない。
い ま 両 部 門 の 資 本 家 が そ れ ぞ れ 500 の 貨 幣 準 備 を 手 に し て い る と 仮 定 す れ ば 、第 I 部 門 の
資 本 家 は 貨 幣 500 を 支 出 し て Ⅱ 500c の 消 費 資 料 を 買 い 、 第 Ⅱ 部 門 の 資 本 家 は こ の 貨 幣 で
Ⅰ 500m の 生 産 手 段 を 買 う 。 さ ら に 第 Ⅱ 部 門 の 資 本 家 は 貨 幣 500 を 投 下 し て I 500m を 買
い 、 第 Ⅰ 部 門 の 資 本 家 は こ の 貨 幣 で Ⅱ 500c を 買 う 。 以 上 の 諸 取 引 に よ っ て 、 両 部 門 の 資
本 家 は い ず れ も 、 か れ ら が 投 じ た 貨 幣 500 を 再 び 回 収 し た 。
Ⅱ 500v の 部 門 内 取 引 に お い て は 、 第 Ⅱ 部 門 の 労 働 者 は 第 Ⅱ 部 門 の 資 本 家 か ら 賃 金 と し
て 支 払 わ れ た 貨 幣 500 を も っ て 、 自 分 で 生 産 し た 消 費 資 料 の 一 部 Ⅱ 500v を 購 入 す る 。 こ
うして貨幣はふたたび第Ⅱ部門の資本家のもとへ還流するが、Ⅰvの場合のような回り道
を 通 ら な い で 直 接 的 に 還 流 す る の で あ る 。 消 費 資 料 Ⅱ 500m は 第 Ⅱ 部 門 の 資 本 家 相 互 の 交
換によって解決される。
生 産 手 段 I 4000c の 一 部 分 は 、穀 物 が 穀 物 生 産 に 、石 炭 が 石 炭 採 掘 に は い り こ む よ う に 、
それが生産物として出てきた当の生産部門に、または当の企業に再び入り込む。他の部分
は第 I 部門の資本家相互の交換によって解決される。
だから、諸取引を媒介する貨幣は再びその出発点に還流するのであって、これは再生産
の一つの法則なのである。
2
拡大再生産
拡大再生産のための出発表式
以 上 わ れ わ れ は 、単 純 再 生 産 の 運 動 を 、年 々 の 社 会 的 総 生 産 物 の 、生 産 手 段( Ⅰ )、消 費
資料(Ⅱ)への素材的分割と、c+v+mへの価値分割とを基礎として考察してきたが、
この基礎範疇は拡大再生産においても変わらない。拡大再生産が単純再生産と異なるとこ
ろは、剰余価値のうち資本家の消費にあてられるのは一部にとどまり、他は蓄積されて追
加資本として投下されることである。
二 部 門・c + v + m( 2 部 門 分 割・3 価 値 構 成 )に 総 括 さ れ る 年 々 の 社 会 的 総 生 産 物 が 、
いかなる価値・素材補填の運動をとおして蓄積と拡大再生産を保証してゆくか。
われわれは、拡大再生産をつぎの出発表式を用いて考察しよう。
Ⅰ
4000c + 1000v + 1000m = 6000
生産手段
Ⅱ
1500c + 750v + 750m = 3000
消費資料
Ⅰ の 生 産 物 6000、Ⅱ の 生 産 物 3000、総 生 産 物 9000 と い う 価 値 量 の 点 で は 、上 の 表 式 は
まえの単純再生産のばあいとちがわない。ちがう点は、生産物の諸要素の組み合わせ、あ
るいは機能配置である。単純再生産では、Ⅰv+m=Ⅱcが基礎的条件であった。いいか
え れ ば 、 生 産 手 段 は I・ Ⅱ 両 部 門 の 不 変 資 本 を 過 不 足 な く 補 填 す る だ け 生 産 さ れ な け れ ば
ならなかったのであるから、Ⅰc+v+m=Ⅰc+Ⅱcという等式が維持されなければな
らなかった。しかし生産を拡大するためには、今年度生産された生産手段は両部門の不変
資本を補填したうえで、なお追加生産手段をもふくんでいなければならない。だから、Ⅰ
c+v+m>Ⅰc+ⅡcあるいはⅠv+m>Ⅱcが拡大再生産の前提でなければならない。
4
上 の 表 式 で 、I の 生 産 物( 生 産 手 段 )6000 は 、Ⅰ 4000c + Ⅱ 1500c = 5500 を 補 填 し た あ
と 500 だ け 余 剰 が で る こ と に な っ て お り 、こ の 500 の 生 産 手 段 が 両 部 門 の 追 加 生 産 手 段 と
して、蓄積を可能にする物質的前提をなしているのである。
追 加 労 働 力 に つ い て は 、資 本 は こ れ を 自 由 に 購 入 し う る も の と 前 提 し て よ い 。
「資本の蓄
積」で説かれたように、資本は相対的過剰人口を創出することによって、労働人口に制限
されることなく追加労働力を確保できるからである。
表式と運動
上 記 の 出 発 表 式 に よ れ ば 、第 I 部 門 の 資 本 の 有 機 的 構 成 は 4:1 、第 Ⅱ 部 門 の そ れ は 2 :
1 、剰 余 価 値 率 は い ず れ も 100 パ ー セ ン ト で あ る 。以 下 蓄 積 に あ た っ て 、こ れ ら の 比 率 は
不変と仮定しよう。さらに、第 I 部門は剰余価値の半分を蓄積にあて、残りは個人的消費
にあてるものとし、第Ⅱ部門の蓄積額は第 I 部門のそれに依存してきめられるものとしよ
う 。 な お 、 剰 余 価 値 の う ち 資 本 家 の 個 人 的 消 費 に あ て ら れ る 部 分 を mk、 追 加 不 変 資 本 に
あ て ら れ る 部 分 を mc、 追 加 可 変 資 本 に あ て ら れ る 部 分 を mv と 書 く 。
(a)第一年度の運動形態
前 提 に よ り 、資 本 家 Ⅰ は 1000m の 半 分 500 を 蓄 積 に あ て る と す れ ば 、Ⅰ mk は 500 で あ
る 。 し た が っ て 、 Ⅰ 1000v + 500mk の 生 産 手 段 が Ⅱ 1500c の 消 費 資 料 と 交 換 さ れ る 。 こ
こ で Ⅰ 1000v + 500mk=Ⅱ 1500c と い う 等 式 が 成 立 す る 。Ⅰ 4000c( 生 産 手 段 )は I に お
け る 不 変 資 本 の 補 填 の た め に 部 門 内 で と り ひ き さ れ る 。 Ⅱ 750v ( 消 費 資 料 ) は Ⅰ の 労 働
者 に よ っ て 購 買 さ れ る 。以 上 は す で に 単 純 再 生 産 に お い て 考 察 し た 取 引 の 再 現 に す ぎ な い 。
そ こ で 、あ ら た に 解 明 さ れ な け れ ば な ら な い の は 、I で 蓄 積 に あ て ら れ る 500m と Ⅱ の 750
Ⅱの運動だけである。
( 1 ) Ⅰ に お け る 蓄 積 部 分 500m は 資 本 構 成 4 : 1 に し た が っ て 400mc と 100mv と に
わ け ら れ る 。Ⅰ 400mc は 生 産 手 段 と い う 現 物 形 態 を と っ て お り 、し た が っ て Ⅰ 内 部 の 取 引
をつうじて追加不変資本を形成する。
( 2 )Ⅰ 100mv も 使 用 価 値 的 に は 生 産 手 段 で あ る が 、価 値 的 に は Ⅰ の 追 加 可 変 資 本 に 転
化 さ れ る べ き も の で あ る 。そ こ で こ れ に 照 応 し て 資 本 家 Ⅱ は 、剰 余 価 値 の う ち 100 を 追 加
不 変 資 本 に あ て な け れ ば な ら な い 。す な わ ち 、資 本 家 Ⅰ は 、 貨 幣 100 を 準 備 し 、こ れ に よ
っ て Ⅰ 100mv の 生 産 手 段 を 購 入 し て 追 加 不 変 資 本 を 形 成 す る 。資 本 家 I は Ⅰ 100mv を 販 売
してえた貨幣をもって追加可変資本とし、追加労働者の賃金支払い にあてる。Ⅰの追加労
働 者 は う け と っ た 賃 金 100 に よ っ て Ⅱ 100mc の 消 費 資 料 を 購 買 し 、貨 幣 100 は 資 本 家 Ⅱ の
も と に 還 流 す る 。 こ う し て 、 Ⅰ 100mv( 生 産 手 段 ) と Ⅱ 100mc( 消 費 資 料 ) と の 部 門 間 取
引 が お こ な わ れ る 。 こ こ で Ⅰ 100mv= Ⅱ 100mc と い う 等 式 が 成 立 す る 。
( 3 ) 資 本 家 Ⅱ は 追 加 不 変 資 本 100 に た い し 、 資 本 構 成 2 : 1 に よ り 追 加 可 変 資 本 mv
と し て 50 を 投 下 し な け れ ば な ら な い 。そ こ で 資 本 家 Ⅱ は 、追 加 の 貨 幣 50 を も っ て 追 加 労
働 者 の 賃 金 支 払 い に あ て る 。Ⅰ の 追 加 労 働 者 は 、賃 金 50 に よ っ て Ⅱ 50mv の 消 費 資 料 を 購
入 す る 。こ う し て Ⅱ 50mv( 消 費 資 料 )に つ い て は 、部 門 内 取 引 が お こ な わ れ た わ け で 、貨
幣 50 は 資 本 家 Ⅱ に 還 流 す る 。
5
( 4 ) 資 本 家 Ⅱ は 、 剰 余 価 値 750 の う ち 100 を 追 加 不 変 資 本 に 、 50 を 追 加 可 変 資 本 に
あ て た の で あ る か ら 、個 人 的 消 費 mk の た め に 残 さ れ る の は 600 で あ る 。こ の Ⅱ 600mk の
消費資料は部門内取引によって解決される。
こ う し て 剰 余 価 値 の 蓄 積 部 分 に お い て も 、Ⅰ 400mc の 部 門 内 取 引 、Ⅰ 100mv と Ⅱ 100mc
と の 部 門 間 取 引 、 Ⅱ 50mv の 部 門 内 取 引 と い う 三 つ の 流 れ の 運 動 が お こ な わ れ る 。 こ れ に
よ っ て 、Ⅰ は 400c + 100v = 500 を 原 資 本 4000c + 1000v = 5000 に 追 加 し 、Ⅰ は 100
c + 50v = 150 を 原 資 本 1500c + 750v = 2250 に 追 加 す る こ と が で き る 。
以上の諸取引を分析図でしめせば、つぎのようになる。
Ⅰ 4000c + 1000v + 500mk+ 400mc+ 100mv
Ⅱ 1500c + 750v + 600mk+ 100mc+ 50mv
ここで下線部分は部門間取引きにはいり、その他はそれぞれ部門内取引にはいることを
し め し て い る 。 各 部 門 の 最 初 の 3 項 ( 4000 c + 1000 v + 500mk と 1500 c + 750 v +
600mk) は 単 純 再 生 産 に お け る 諸 取 引 の 再 現 を し め す 。 だ か ら 、 出 発 表 式 第 一 年 度 に お い
て は 、 各 部 門 の 最 初 の 3 項 間 で 、 Ⅰ 1000v + 500mk=Ⅱ 1500c 、 蓄 積 部 分 で Ⅰ 100mv= Ⅱ
100mc と い う 二 つ の 等 式 が な り た ち 、 こ れ を 総 括 す れ ば Ⅰ 1000v + 500mk+ 100mv= Ⅱ
1500c + 100mc と い う 等 式 が な り た つ こ と が 知 ら れ る 。
(b)第二年度以降の運動形態
以上の諸取引により、社会の総資本は、
Ⅰ 4400c + 1100v = 5500
Ⅱ 1600c + 800v = 2400
に 増 大 し た 。 剰 余 価 値 率 を 100 パ ー セ ン ト と 仮 定 す れ ば 、 こ の 結 果 社 会 の 総 生 産 物 は 、
Ⅰ 4400c + 1100v + 1100m = 6600
生産手段
Ⅱ 1600c + 800v + 800m = 3200
消費資料
と な る 。 総 生 産 物 は 9800 で あ る 。 こ の 運 動 は 、 つ ぎ の よ う に お こ な わ れ る 。
( 1 ) Ⅰ 4400c と Ⅱ 800v と は 、 そ れ ぞ れ の 部 門 内 で の 取 引 に よ っ て 解 決 さ れ る 。
( 2 )Ⅰ 1100m の 半 分 550 が 蓄 積 に 、550 が 消 費 に あ て ら れ る な ら ば 、Ⅰ 1100v + 550mk
= 1650 の 生 産 手 段 が Ⅱ と の 交 換 に は い り こ ま な け れ ば な ら な い わ け で あ る が 、 こ れ と 交
換 さ れ る べ き 消 費 資 料 Ⅱ c は 1600 に す ぎ ず 、 50 だ け 不 足 す る 。 こ の 不 足 は 、 Ⅱ に お い て
剰余価値の一部を蓄積することによって埋められなければならない。したがって、Ⅰv+
mk を 補 墳 す る た め に 、Ⅱ で は 剰 余 価 値 の う ち 50 の 消 費 資 料 を 、Ⅰ と の 交 換 に あ て て 追 加
不 変 資 本 に 転 化 す る 。 こ の Ⅱ 50mc は 資 本 構 成 2 : 1 に よ り 25mv を 要 求 す る 。 だ か ら 、
Ⅱ は 800m の う ち 50mc+ 25mv= 75 を 追 加 資 本 に あ て た の で あ り 、剰 余 価 値 の 残 り は 725
6
である。
( 3 )Ⅰ で の 蓄 積 部 分 550m は 、資 本 構 成 4:1 に よ り 440mc と 110mv と に わ か れ る 。
Ⅰ 440mc は 部 門 内 取 引 に よ っ て 追 加 不 変 資 本 を 形 成 す る 。
( 4 ) Ⅰ 110mv の 生 産 手 段 は 価 値 的 に は 追 加 可 変 資 本 に な る べ き 部 分 で あ る 。 そ こ で 、
こ れ に 照 応 し て 、Ⅱ で 110 の 追 加 不 変 資 本 が 形 成 さ れ な け れ ば な ら な い 。Ⅰ 110mv(生 産 手
段 )と Ⅱ 110mc( 消 費 資 料 )と が 部 門 間 で 交 換 さ れ 、前 者 は Ⅱ の 追 加 不 変 資 本 を 形 成 し 、後
者はⅠの追加労働者の消費にはいりこむ。
( 5 )Ⅱ で 110 の 追 加 不 変 資 本 が 形 成 さ れ た な ら ば 、こ れ に た い し て 、55 の 追 加 可 変 資
本 が 投 下 さ れ な け れ ば な ら な い 。 し た が っ て 、 Ⅱ で は 残 さ れ た 剰 余 価 値 725 か ら 110mc
+ 55mv= 165 が 控 除 さ れ た わ け で 、 消 費 に は い る 部 分 は 560mk に な る 。 な お 、 以 上 で Ⅱ
に お け る 追 加 不 変 資 本 は 50+ 110= 160、 追 加 可 変 資 本 は 25+ 55= 80 に な っ た 。Ⅱ に お け
る 560mk と 80mv は 、 部 門 内 部 の 取 引 で 解 決 さ れ る 。
以 上 に よ り 、 Ⅰ で 部 門 間 取 引 に は い る 部 分 は 、 1100v + 550mk+ 110mv= 1760、 Ⅱ で 部
門 間 取 引 に は い る 部 分 は Ⅱ 1600c + 160mc= 1760 に な る 。以 上 の 取 引 を 分 析 図 で し め せ ば 、
つぎのようになる。
Ⅰ 4400c + 1100v + 550mk+ 440mc+ 110mv
Ⅱ 1600c + 800v + 560mk+ 160mc+ 80mv
し た が っ て 、こ の 第 二 年 度 に お い て も 、Ⅰ v + mk+ mv= Ⅱ c + mc と い う 等 式 が 貫 徹 し
ている。
第二年度の運動の結果、社会の総資本はつぎのように増大する。
Ⅰ 4840c + 1210v = 6050
Ⅱ 1760c + 880v = 2640
したがって第三年度の総生産物は、
Ⅰ 4840c + 1210v + 1210m = 7260
生産手段
Ⅱ 1760c + 880v +
消費資料
880m= 3520
となり、以下同様の運動がおこなわれる。
以 上 の 考 察 か ら あ き ら か な よ う に 、拡 大 再 生 産 に お い て は 、第 Ⅰ 部 門 の c と mc、第 Ⅱ 部
門 の v 、 mk お よ び mv が そ れ ぞ れ 部 門 内 取 引 に よ っ て 解 決 さ れ 、 Ⅰ v + mk+ mv と Ⅱ c
+ mc と の 部 門 間 交 換 が お こ な わ れ る 。 こ の 三 大 取 引 き に お い て 結 節 点 と な る の は 両 部 門
間 の 取 引 で あ る 。し た が っ て 、Ⅰ v + mk+ mv= Ⅱ c + mc が 拡 大 再 生 産 の 基 礎 的 条 件 と な
る。この運動をつうじて、資本と両階級の所得が拡大再生産され、したがって資本家と労
働者の階級関係も拡大再生産される。
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