酒とタバコ:収入への関連性 谷 和泰 (カテゴリB) 株式会社 タクミインフォメーションテクノロジー システム開発推進部 背景 平成 22 年に厚生労働省は、「所得と生活習慣に関する状況」を調査し、習慣的に喫 煙している者の収入の傾向や、習慣的に飲酒しているもの収入の傾向について報告し ていた[1]。しかし、喫煙の有無と収入、飲酒の摂取量と収入の関係、タバコと酒の相 互関係と収入の関係などは調べていなかった。今回の自由課題では、確率の観点から 喫煙の有無、酒の摂取という生活習慣が、世帯の収入にどのように影響しているのか 調査する。 方法 まず、世帯の収入は世帯主の影響が大きいと考えたため、世帯主が 65 歳以下の世帯 を抽出する。 世帯主が、65 歳以上まで含めてしまうと、パートとして働く有業人員 の割合も多くなってしまうと考えた。(例 世帯主が退職し、配偶者のみパートとし て働いている。これでは、喫煙の有無、飲酒の量に関係なく収入が減ってしまう。) 次に、月収(収入)は、勤め先収入/有業人員のように定義した。これは世帯人員が多 いほど、収が多くなるのを避けるためである。さらに、次のように世帯群をグループ 分けした。1)喫煙の有無喫煙の習慣がある世帯のグループ、ない世帯のグループに 分類した。喫煙量は考慮にいれていない。2)飲酒を全くしない世帯は考えづらく、 実際に、飲酒をしない世帯は 0.6 パーセント(非飲酒世帯/全世帯数)しかいなかった ため、全世帯の酒の摂取の割合の平均を軸に世帯を分けた。(酒摂取量の割合=酒代/ 食費:食費を1としたとき、どのくらいの量の酒を飲むのか。) 結果 はじめに世帯の喫煙の有無と世帯の月収へ影響力を条件付き確率で表したい。全世 帯の平均月収が、312931 円であったため、月収の階級を[0-15 万 -<30 万 30 万-<40 万 15 万-<20 万 20 万 40 万-<50 万 50 万以上]のように分けた。階級 15-20 万の層も 大きいと考えたため、この項目の差は 5 万円とした。実際に、分析すると、条件別 に、世帯の月収が、0-15 万、15-20 万、25-30 万、30-40 万、40-50 万、50 万以上であ る確率はそれぞれ、次のようになった。 非喫煙世帯群、喫煙世帯群のどちらも、20-30 万の階級の確率が一番高かったが、そ れ以降は月収が高くなるにつれて確率が減少していった。 ここで、それぞれの世帯群の月収の階級を 30 万以上、30 万以下の二つに分けた。する と、喫煙世帯群において、月収が 30 万以上(平均給与以上)の世帯である確率は 0.434 である のに比べ、非喫煙の世帯群において、月収が 30 万以上である世帯の確率はで 0.495 であっ た。したがって、非喫煙世帯群では、喫煙世帯群に比べ、月収が 30 万以上である世帯の確 率が大きいことがわかる。また相対比とオッズ比はそれぞれ 1.14 倍、1.276 倍となるので、 非喫煙世帯群では、喫煙世帯群と比べて、月収が 30 万以上になりやすいことが分かった。 さらに、月収の階級を 50 万以上、50 万以下の二つに分けた。すると、喫煙している世帯 群に比べ、非喫煙世帯群の方が、月収 50 万以上の世帯である確率が大きくなった。相対比 は 1.38 倍、オッズ比は 1.44 倍となるため、非喫煙世帯群では喫煙世帯群と比べて、月収が 50 万以上になりやすいことが分かった。 また、各世帯群の月収の条件付期待値を比べてみると、喫煙世帯群の月収の条件付 期待値は 306,425 円にくらべ、非喫煙世帯群の月収の条件付き期待値は 327,593 円であ るため、その差、約 27,000 円となり、大きな差となった。 以上の結果から、非喫煙世帯群は、喫煙世帯群よりも、高収入の世帯の割合が大き くなる傾向があるといえるだろう。(喫煙世帯群は、非喫煙世帯群よりも、高収入で ない世帯の割合が大きくなるともいえる。) 次に、酒と月収の関係を確率で求める。食費に対しての酒の支出量が平均以下、ま たは以上である世帯群である条件において、月収が 0-15 万、15-20 万、20-30 万、3040 万、40-50 万、50 万以上の世帯である確率はそれぞれ、次のようになった。 酒の支出率が高い世帯群、低い世帯群のどちらも、 20 万から 30 万の層の確率が一 番高かったが、それ以降は月収が高くなるにつれて確率が減少していく傾向があっ た。 それぞれの世帯群の月収の階級を 30 万以上、30 万以下の二つにわけて考える。酒の支 出の割合が平均以上の世帯群において、月収が 30 万以上の世帯である確率は 0.403 であ り、 酒の支出の割合が平均以下である世帯群において、月収が 30 万以上の世帯である確 率は 0.488 であった。したがって、酒の支出の割合が少ない世帯群では、割合が多い世 帯群に比べ、月収が 30 万以上である世帯の確率が大きいことがわかった。また、相対 比は 1.20 倍となり、オッズ比は 1.41 倍となるため、酒の支出の割合が平均以下の世帯 群では、酒の支出の割合が平均以上の喫煙世帯群と比べて、月収が 30 万以上になりや すいことが分かった。 さらに、 月収の階級を 50 万以上、50 万以下と二つに分けた場合を考える。結果、 酒の支出の割合が多い世帯群に比べ、酒の支出の割合が少ない世帯群では、月収が 50 万以上である世帯の確率が大きくなり、それぞれ、0.100、0.127 となった。したがっ て、相対比、オッズ比はそれぞれ 1.27 倍、1.31 倍となり、酒の支出の割合が少ない世 帯群は、支出の割合が大きい世帯群と比べて、月収が 50 万以上になりやすいことがわ かった。また、月収の条件付期待値は 飲酒の支出率が低い世帯では 323,093 円であっ たのに対し、高い世帯は 298,481 円であり、約 25,000 円という比較的大きな差があっ た。 以上の結果から、食費に対して酒の支出割合が高い世帯群より、低い世帯群のほう が高収入の世帯の割合が大きくなる傾向があるといえる。(酒の支出の割合が高い世 帯群は低い世帯群よりも、高収入でない世帯の割合が大きくなる傾向がある。) 最後に喫煙の有無および、酒の支出の割合が、どのように月収に影響を与えるか分 析した。 それぞれ、左から順に食費に対する酒の摂取量が平均以下であり、喫煙を していない世帯群の月収に関しての条件付確率(表:①)、食費に対する酒の摂取量が 平均以上であり、喫煙をしている世帯群の月収に関しての条件付確率(表:②)、 食費 に対する酒の摂取量が平均以上であり、喫煙をしていない世帯群の月収に関しての条 件付確率(表:③)、食費に対する酒の摂取量が、平均以下であり喫煙をしている世帯 群の月収に関しての条件付確率(表:④)を表している。差は、①-②で計算し、相対比 は①÷②で計算した。 他の考察と同じように、20 万から 30 万の層の確率が一番高かったが、それ以降は 月収が高くなるにつれて確率が減少していく傾向があった。まず、酒の支出の割合が 平均以上かつ喫煙をしている世帯群を見ると、月収が 30 万以上の世帯である確率は 0.383 であり、他の条件下と比べて月収が 30 万以上の世帯である確率が最も低かっ た。対して酒の支出の割合が平均以下であり、かつ非喫煙である世帯群において、月 収が 30 万以上の世帯である確率は 0.510 であった。他の条件下と比べて、月収が 30 万以上になる確率が最も高かった。二つの世帯群を比べると、相対比は、1.33 倍であ り、オッズ比は、1.68 倍となった。つまり、酒の支出の割合が平均以下であり、かつ 非喫煙である世帯群は、酒の支出の割合が平均以上かつ喫煙をしている世帯群と比べ て、月収が 30 万以上になりやすいこと意味している。 さらに、月収の階級を 50 万以上、50 万以下と分けて考えた。酒の支出の割合が平 均以上かつ喫煙をしている世帯群で、月収が 50 万以上の世帯である確率は 0.087 であ り、他の条件下と比べて、月収が 50 万以上の世帯である確率が最も低かった。また、 酒の支出の割合が平均以下であり、かつ非喫煙である世帯群において、月収が 50 万以 上の世帯である確率は 0.146 であった。他の条件下と比べて、月収が 50 万以上になる 確率が最も高かった。二つの群を比べ、相対比とオッズ比を出すと、それぞれ 1.67 倍、1.79 倍となり、比較的大きい数値がでた。したがって、酒の支出の割合が平均以 上かつ喫煙をしている世帯群と比べて、酒の支出の割合が平均以下で、かつ非喫煙で ある世帯群では、月収が 50 万以上になりやすいことを示している。 また、二つの群の月収の条件付き期待値の差は、約 40000 円となり、かなり大きな差 となった。 次に、食費に対しての飲酒の割合が平均以上、非喫煙の世帯群と飲酒の割合が平均 以下でかつ、喫煙世帯群と比べる。前者の月収が 30 万以上である世帯の確率は 0.463 であるに、後者の月収 30 万以上である世帯の確率は 0.475 となり、1.02 倍となり、そ の差はほとんどなかった。実際に、月収の条件付き平均値の差も約 1000 円と小さかっ た。 以上の結果から、非喫煙であり、酒の支出の割合が小さい世帯群は、他の条件の世 帯群よりも、高収入の世帯が多くなる傾向があると言える。(非喫煙であり、酒の支 出の割合が小さい世帯群は、他の条件の世帯群よりも、高収入でない世帯が少なくな る傾向があるとも言える。)さらに、喫煙かつ酒の支出の割合が大きい世帯群は、他 の条件の世帯群よりも、低収入の世帯が多くなる傾向があると言える。(喫煙であ り、酒の支出の割合が大きい世帯群では、他の条件の世帯群よりも、高収入の世帯が 少なくなる傾向があるとも言える。)非喫煙であり、酒の支出の割合を多めにしてい る世帯群、喫煙しているが酒の支出の割合を少なめにしている世帯群での収入の差は 大まかにはほとんどないと言える。 総括 食費に対して、酒の支出の割合が高い世帯群より低い世帯群のほうが、高収入の世 帯の割合が大きくなる傾向があることがわかった。また、喫煙世帯群と非喫煙世帯群 を比べると、非喫煙世帯群のほうが収入が高くなる傾向が見られた。非喫煙であり、 酒の支出の割合を多めにしている世帯群、喫煙しているが、酒の支出の割合を少なめ にしている世帯群は、収入の差はほとんどなかった。 食費に対する酒の支出の割合を 多めにして、喫煙する習慣をもつ世帯群は他の条件の世帯群と比較して、収入が低め になる傾向が見られた。非喫煙かつ酒の支出の割合を抑えている世帯群は、他の条件 の世帯群と比較して、収入が高くなる傾向が見られた。 今回の結果では、酒とタバコは「ほどほど」にしている世帯群の収入が高い傾向に あることがわかった。自己管理能力の高い人が、収入が高くなる傾向があるのではな いか。 参考文献 [1] 厚生労働省「所得と生活習慣に関する状況」 http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000020qbb-att/2r98520000021c30.pdf
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