共済概念の再検討(未完)

共済概念の再検討(未完)
2015年12月18日(金)
日本保険学会関東部会
岡田 太
(日本大学)
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目次
• 研究動機と問題意識
• 共済一般の概念
• 協同組合共済と保険の異同
• 海外の共済
• まとめと今後の課題
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研究動機と問題意識①
• 共済研究の展開
• 戦前 「協同組合保険」
• 保険組合の要求
• N. Barou, Co-operative insurance, P. S. King & Son, LTD. (1936)
(賀川豊彦他訳『協同組合保険論』叢文閣(1938)/
水島一也監修・全国共済農業協同組合 連合会編『協同組合保険論』 共済保険研究会(1988))
• 賀川豊彦(1936)「保険制度の協同組合化を主張す」雲の柱社
• 賀川豊彦(1940)日本協同組合保険論
• 戦後 「(近代)共済=協同組合保険」
• 協同組合法 「共済に関する施設」(農協法10条10)、「組合員の生活の共済を図る事業」 (生協法10条4)
• 笠原長寿(1961)「共済研究に関する若干の問題点-共済概念定着化のための研究ノート-」
『保険研究』(慶應義塾保険学会)第13集
• 2000年代~ 労働組合共済、自主共済を含む概念規定→共済研究の広がり
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研究動機と問題意識②
• 研究動機
•
•
•
•
協同組合保険と協同組合共済の異同
共済一般の概念化の試み
協同組合保険、会社保険の上位概念としての「保険」とは何か
保険学への貢献
広義に解釈すれば近代的共済も「保険」である。しかし、この場合の「保険」は業法が対象とし、
規定している私保険、つまり営利保険(相互会社を含めて)とは違った高い次元のものであり、そ
の下に、組合員の相互救済を目的とした、民主的経営に基づく協同組合保険や私保険の存在が
規定されるのである。笠原(1966)「共済と保険-共済事業の性格と意義-」
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共済一般の概念①
• 「共済の概念規定なり定義なりは、・・・歴史的形成体であることを認識し、そこから出
発することが必要である」(笠原(1961))
• 共済の分類
笠原(1961)
押尾(2007)
相馬(2013)
先駆的共済の残存形態
先駆的共済の残存形態
先駆的共済の残存形態
私企業化形態
私企業化形態
私企業化形態
企業内共済形態
企業内共済形態
企業内共済形態
社会保険化形態
社会保険化形態
社会保険化形態
近代的共済事業形態
(協同組合保険)
協同組合形態
近代的共済事業形態
(協同組合保険)
-協同組合共済
-労働者共済
-「自主共済」
自主共済形態
-労働組合共済、
-非営利・協同自治組織による共済
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共済一般の概念②
金融庁
金融庁「根拠法のない共済について」
のホームページへの掲載について
共済とは、一定の地域または職域でつながる者が団体を構成し、将来発生するおそれのある
一定の偶然の災害や不幸に対して共同の基金を形成し、これら災害や不幸の発生に際し一定
の給付を行なうことを約する制度
押尾(2012)
「共済は、主に人々が地域や職域において経済的、社会的あるいは文化的にニーズを協同し
て充足するために結びつきを形成する組織を基盤にして生活保障の実現を図る相互扶助制度
であり、社会運動である」
(協同組合共済、労働組合共済、非営利・協同自治組織による組織が対象)
相馬(2013)
共済事業とは「保険の仕組みを社会運動の手段として利用した経済施設」
(協同組合共済、労働組合共済、「自主共済」が対象)
岡田(2013)
生活保障システムにおける共済は、生活の安定を図るために、地縁や職縁など特定の関係で
結びついた者が集団を形成し、相互扶助の精神に基づき、不慮の事故や災害、疾病などに備
えて共同で資金を準備し、これらの出来事が発生した際に一定の給付を行う制度
• 共済とは別の主たる事業の存在:あわせて構成員の福利厚生または福祉として共済
なぜ保障のみを行う共済は存在しなかったのか
• 事業を実施内容の多様性:慶弔見舞金程度の簡易なものから実質保険業に相当するもの
• 組織形態の多様性:協同組合や商工組合、共済組合(社会保険)、一般社団法人、一般財
団法人、公益法人、独立行政法人などの法人または任意団体
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共済一般の概念③
岡田(2013)
共済の基本スキーム
<基本>
<主要協同組合共済>
母体組織
(アソシエーション)
(単位)協同組合
設立/出資
共済事業
運営組織
加入
保障
共済集団
(構成員)
設立/出資
加入
保障
共済連合会
共済集団
(組合員・家族)
マッキーバー(R.M.MacIver)によれば、コミュニティは社会生活、社会的存在のための共同生活の範囲であり、他方、アソシ
エーションは、共同の目的、つまり共同の関心や利害の追及のため組織される団体であるという。
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共済一般の概念④
• 国家(地方公共団体)、市場、共同体の中
間領域(逆三角形の部分)
• 各セクターと重複する領域(逆三角形の周
辺部分)に存在
→サードセクターまたは社会的経済
• 基本的性質(逆三角形の部分)
①主に民間
②非営利・相互扶助
③公式の事業運営組織(民主的統治機構)
※運動性
生活改善(運動)から社会運動まで多様
ペストフ(V.Pestoff)の「福祉トライアングル」を生活保障システムに適用
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保険学との関係① 開発経済学の考え方 速水(2006)より要約
• 経済的発展における経済組織(共同体、市場、国家)の役割
「経済システムとは、社会的に最適な分業を達成するために、さまざまな経済活動を調 整する経済組
織の複合体」
• 市場
「個人の利潤追求活動を価格というシグナルと競争を通じて調整」
• 国家 「政府の命令によって、人々の資源配分を調整する」
• 共同体 「同意に基づいた協力によって、人々の分業を社会的に望ましい方向へ調整」
• 共同体が供給する地域公共財
①災害や不幸になった共同体メンバーを救済するためのセーフティーネット
②森林や牧草地など共有資源の保護
③契約取引の履行強制を保証することによって市場取引を促進
「共同体に基づいたセーフティネットが効率的に機能するためには、慣習や規範による相互依存の原理に基づいて、
すべてのメンバーが暗黙にであれ保険料の支払いを分担しなければならない」
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保険学との関係②
「保険」 集団による生活リスクに対する保障
• 共通する機能:リスク分散
• 共同体 血縁、地縁、職縁(社縁)または宗教などの絆で結ばれた人々からなる(自
然発生的な)社会集団を表し、家族共同体、村落共同体、都市共同体、同職ギルド、
宗教共同体など多様な共同体
※堺雄一氏の一連の研究
近代化による共同体の解体は個人の自立を促す一方で、共同体の保険機能が低下
• 市場 保険会社へのリスク移転(保険会社のリスク負担)
• 国家(政府) 工業化、都市化の進展を背景に急増する困窮労働者の保護
• 経済組織の理念および保障原理の違い
• 共同体「友愛」、市場「公平・公正」、国家「平等」「社会連帯」
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共同体、市場、国家における「保険」の違い
内容・様式
保障原理
集団
加入
分担
リスク配分
保険者
共同体
市場
国家
暗黙・規定
相互扶助
紐帯(共通性)
当然
平等
契約
自助(契約)
リスクの同質性
任意
期待値
効率的
あり
法令
社会連帯
なし
強制
所得
あり
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保険学との関係③
収支相等の原則と給付反対給付均等の原則との関係
〈理想的な保険〉
加入者が支払う
保険料の総額
リスク分散とは、加入者
(契約者)に発生した損失
を加入者全員で負担する
ことをいう。
リスクの大きさ
で決定 公平
(民間保険)
(給付反対給付均等の原則)
=
(収支相等の原則)
加入者に発生した
損失の総額
加入者1人あたりの
負担額(保険料)
リスクの大きさに
関係なく全員同額
(一部の共済)
平等
リスクの大きさに
関係なく経済的
負担能力で決定
(社会保険)
理念型の保険は、リスクが同じ経済主体でリスク分散を行う。
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保険学との関係④ アソシエーション
• 「なんらかの共通の目的・関心をみたすために、一定の約束のもとに、基本的には平等な資格で、
自発的に加入した成員によって運営される、生計を目的としない私的な集団」綾部(2005)
• 保険類似施設
• コレギア 多くが家族や親族を持たない者(東方出身者、解放奴隷)が社会集団を構成 家族
が行うべき葬送を擬制的に実施
• ギルド イギリスヨークの1482年クラフト仲間(大工)の規約 酒田(1991)
・フラタニティ(fraternity)の相互扶助・救貧(help and relief)
「貧困や不具あるいは不幸にして財産を失った仲間に対する救貧として毎週4ペンス支給」
• 無尽講 不確実な所得や支出にたいする一種の保険 榊原(2014)
• 友愛組合(friendly society) 17世紀末、上層労働者である熟練職人の自衛手段として共済
組合が組織され、産業革命が本格的に展開される19世紀に地方都市を中心に増大
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(近代)保険システムの生成・発展のイメージ
社会的連帯
地縁・
共同体
補完
関係
社会
保険
協同
アソシ
エーション
衰退・解体
リスク分散
機能の低下
→自立
家族・
親族
核家族化
リスク分散機能の低下
→外部化
共同体
を超え
る商業
保険
市場
商業資本
商人
中世の
海上保険
近代化
近代社会・産業
資本主義社会の
形成・発展
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協同組合共済と保険の異同①
• バルウ(N. Barou)の協同組合保険論における考察
• 運動性:産業近代化と保険排除
欧米諸国において、工業化と都市化の進展とともに近代保険が成長したが、社会の各階層間 に
おける保険普及の格差が大きかった。とりわけ、勤労大衆、賃金労働者、小農民、職人の保険加入率
は最も低く、保障額も不足していた。
• 相互性:
生活保障における相互扶助とは、集団内で不慮の災難や不幸な出来事が発生した場合、全 員で
それを分担し、損失を被らなかった者から被った者へ給付されることをいう。→保障制度の設計、加入
推進または共済金の支払いなどに影響
• 平等性:保障制度の設計において加入者(組合員)の平等性を重視
※階層性(笠原(1961)):経済的弱者と産業政策、社会政策および中小企業政策(所管官庁の支援)
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協同組合共済と保険の異同②
• 危険団体(保険団体)の考え方
• 協同組合共済
• 加入者の属性
• 加入者間の相互扶助 組合員の間または組合員と職員の間の互恵や利他的
行為
• リスク区分における平等性
• 保険会社
• 加入者間の互酬性や相互扶助意識は不可欠な要素でない。
• リスクが異なる場合には負担も異なるのが公平
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協同組合共済と保険の異同③ 組織形態の違い
• ハンズマン(H. Hansmann)によれば、企業と契約を結んでいる多様な取引相手の
なかで、市場の失敗によりもっとも大きな影響を受ける者が企業を所有すべき
→所有権のコストを含む全体の取引コストが最小化
• 株式会社 株主
• 相互会社 社員(契約者)
• 協同組合共済 組合員
ただし、連合会形態の場合は会員協同組合
• 協同組合共済の所有構造は協同組合原則に基づくが、取引コストの軽減に寄
与している可能性
• 課題 外部資金調達、外部コントロール、リスク負担
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海外の共済①
• EUの社会的経済(social economy)
• CMAF:協同組合、ミューチュアル、アソシエーション、財団
• ミューチュアル(mutual or mutual society)
「出資金はないが、利用するメンバーによって所有される組織」
相互保険会社、住宅ローン貸付組合、医療保険組合、相互保険組合
• 社会的経済の概念 Social Economy Europe(2002年6月20日)
• 個人と社会の目的の資本への優位性、自発的でオープンなメンバーシップ、
メンバーシップによる民主的な統制、メンバー・利用者および(または)一般
利益の結合、連帯と責任の原則適用の擁護、自律的マネジメントと公的権
威からの独立、剰余のほとんどは持続的成長のため、メンバーの利益そし
て一般利益のために利用 今村(2012)
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海外の共済②
• EUにおける保障ミューチュアル(共済)の定義
松崎
• 非営利で社会的目的を持つ社会的経済の一部
• 原則 ①ボランタリィで公開された(加入自由の)メンバーシップ、②1人1票
の民主制、③自律と独立(国の補助金に依存しない)、株式資本をもたない
• 医療、文化、社会サービス等にも取り組み、社会的利益を追求
• 保障ミューチュアル(共済)のタイプ
• 保険ミューチュアル(mutual insurance) 保険業法準拠
• 医療・年金ミューチュアル 社会保障制度の補完
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海外の共済③ 世界の相互、協同組合保険
• 国際協同組合保険連合(ICMIF)
• 1922年国際協同組合同盟(ICA)の保険
委員会
• 1972年国際協同組合保険連合(ICIF)
• 1993年 ICMIF
• 会員 230超(70 超の国)
• 保険料2300億米ドル
• 協同組合、相互扶助保険会社の保険料
1兆3000億米ドル
• 世界の保険市場におけるシェア27.1%
( 2014年) 生保25.0%、損保30.1%
• 従業員110万人、組合員・契約者9.2億
人以上
出所:ICMIFパンフレット(日本語版)
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地域・種類別マーケットシェア(2013年)
出所:ICMIF(2013), Figure16 and 17.
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国別マーケットシェアのランキング(2013年)
出所:ICMIF(2013), Figure38 and 39.
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まとめと今後の課題
• 協同組合保険と協同組合共済の異同
• 社会的経済への志向 「協同組合保険から協同組合共済へ」
• 共済一般の概念化
• 社会経済としての共済の位置づけ
• 共同体、市場、国家の中間領域(社会的経済)としての存在
①主に民間、②非営利・相互扶助、③公式の事業運営組織(民主的統治機構)
「日本における協同組合や非営利組織の社会的経済としての認知度は残念ながら低いとい
わざるを得ない」今村(2012)
• 海外の共済(mutual)の概念
• ガバナンスや組織形態から規定
• 公益、私益ではなく、社会的利益(共益)を追求
• 危険団体、リスク分類的な視点は不明確
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参考文献
• 部恒綾雄(2005)『イギリス史 クラブから帝国まで』山川出版社
• 石塚秀雄(2014)「第11章 共済理論研究」堀越芳明・JC総研編(2014)『協同組合研究の成果と課題
1980-2012』
• 今村肇(2012)「社会的経済・協同組合とリレーショナル・スキル-境界を超える人材と組織のながりを
求めて」『農林金融』
• 押尾直志(2012)『現代共済論』日本経済評論社
• 榊原健一(2014)「無尽講の経済的意味」『千葉大学経済研究』29(3)、133-146
• 酒田利夫(1991)『イギリス中世都市の研究』有斐閣
• 澤田康幸・園部哲史(2006)『市場と経済発展』東洋経済新報社
• 相馬健次(2013)『共済事業とはなにか 共済概念の探求』日本経済評論社
• 速水佑次郎(2006)「第1章経済発展における共同体と市場の役割」(澤田康幸・園部哲史(2006)『市場と
経済発展』東洋経済新報社)
• 松崎良(2011)「ヨーロッパにおける共済-サードセクター論及び社会的経済論に重点を置いて-」『比
較企業法の現在-その理論と課題石山卓磨先生上村達男先生還暦記念論文集』
• ICMIF(2013), Global Mutual Market Share 2013
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