情 報 報 告 ウィーン 欧州の排出量取引きの市場(その2) 9 月 29 日にベルギー・Brussels で欧州の排出量取引き市場 (European Emissions Markets)が開催された。主催者は、PLATTS 社(英国)である。 今回は、化学業界および鉄鋼業界からの排出量取引き制度がおよぼす影響に関する講演 を報告する。 3.欧州の排出量取引き市場 ~化学業界の展望~ Gunther Kellermann氏、BASF社(ドイツ) 3.1 BASF社について BASF社は持続可能な未来のために化学製品を創り出す世界最大の総合化学メーカーで ある。BASF社の化学製品はほとんど全ての業界で使用されている。 ・2013年の売上げは、739億7,300万ユーロ ・2013年のEBIT(支払い利息や税金を差し引く前の利益)は、72億7,300万ユーロ ・従業員数は、11万2,206人(2013年12月31時点) ・6ヵ所のVerbund(統合)サイトと376の生産拠点がある(図3-1参照) 各地域本部 生産施設 Verbund サイト 研究施設 出典:European Emissions Markets、Gunther Kellermann氏、BASF社 図3-1 3.2 BASF社の活動拠点 BASF社の温室効果ガス削減への取組み BASF社では生産量を増加させながら、温室効果ガス(以下、GHG)の低減に取り組んでい る。図3-2に示すように、1990年時と比較して、販売製品量が2倍以上に増加する一方で、 GHG排出量を50%以上低減させている。 ― 32 ― 情報報告 ウィーン 指標(1990 年=100) 販売製品量 絶対的 GHG 排出量 特定 GHG 排出量 年 出典:European Emissions Markets、Gunther Kellermann氏、BASF社 図3-2 3.3 BASF社の事業活動の推移(石油、ガス事業は含まず、1990年時点を100) EUの化学業界に対する影響 EUの温室効果ガスの排出量取引き制度(以下、EU-ETS)は、BASF社だけでなく、EUの 化学業界全体に影響を及ぼすものである。しかし、EUの化学業界は、すでに生産段階から のGHG排出量を大きく低減させている(図3-3参照)。 ①GHG排出量の大幅な減少(1990年から2011年の間で53%の削減)は、かなり注目すべき 数値である。同時に、EUの化学業界の生産量は61%増加している ②これは化学業界のクリーンで安全な技術、廃棄物のリサイクルプロセスに加えて環境 を保護しエネルギー効率を高めるための新しい製品を開発するための自覚ある努力に よって達成されたものである ③化学産業の革新性は下流側ユーザーや彼らの製品のエネルギー効率を高めるのに役立 っている 指標(1990 年=100) EU の化学業界の GHG 排出量 EU の化学製品の生産量(医薬品含む) 年 出典:European Emissions Markets、Gunther Kellermann氏、BASF社 図3-3 EUの化学業界の生産量とGHG排出量の推移(1990年時点を100) ― 33 ― 情報報告 ウィーン また、EUの化学業界では、GHGの排出強度(単位生産量あたりのGHG排出量)を1990年 比で3分の2まで低下させてきた(図3-4参照)。 ①過去20年間に渡り、EUの化学業界はその生産による環境への影響を最小限にするため に多大な努力をしてきた ②単位エネルギー消費量あたりのGHG排出量は、1990年から2011年の間で43%減少した ③GHGの排出強度は、1990年から2011年の間に3分の2以上(71%)減少した 指標(1990 年=100) 単位エネルギー消費量あたりの GHG 排出量 GHG の排出強度 年 出典:European Emissions Markets、Gunther Kellermann氏、BASF社 図3-4 EUの化学業界のGHGの排出量と排出強度の推移(1990年時点を100) しかし、すでに高いレベルでのGHG排出強度を達成しているので、技術的かつ物理的制 限により、さらに効率性を向上させるためには高いコストをかけるしかない。 3.4 EUの気候政策の影響 (1) BASF社のGHG排出量の変化 BASF社の生産プロセス特有のGHG排出量の低減を過去に実施してきた(図3-5参照)。 ①窒素酸化物(N2O)の排出量ついては大きな低減を達成している ②技術的制限により、生産プロセスから直接排出されるGHGの追加の低減には限界があ り、欧州化学工業連盟(CEFIC)のロードマップでは1%の低減より小さい 一方で、将来の工業生産に対する十分な排出権の割当てがあるのかといった問題もある。 ― 34 ― 情報報告 ウィーン エネルギー特有の排出量 GHG 排出量(×1,000 トン-CO2) ■集約化されたエネルギー生産から の CO2(スコープ 1) ■第三者に対する集約化されたエネ ルギー生産からの CO2(スコープ 1) ■購入したエネルギーからの CO2 (スコープ 2) プロセス特有の排出量 ■個々の施設からの CO2 分散型のエネルギー生産、廃棄物 焼却、プロセスガス(スコープ 1) ■個々の施設からの CH4、HFC、PFC、 SF6(スコープ 1) ■個々の施設からの N2O 年 出典:European Emissions Markets、Gunther Kellermann氏、BASF社 図3-5 (2) BASF社のGHG排出量の内訳 BASF社にのしかかるEUの気候政策の影響 EUの気候政策がおよぼす影響として、下記のような項目が挙げられる。そして、2.2%の 線形削減率の意味は化学業界にとって、1990年から2030年にかけてGHG排出量“70%削減” を意味している(EU目標は40%の削減である)。そのため、野心的な2030年目標は、カーボ ンリーケージ無しでは不可能である。 ①欧州委員会の提案「エネルギー・気候政策パッケージ2030」 2030年までに40%のGHG排出量の低減(ETSの対象部門: 43%、非対象部門:30%) ・線形削減率は2020年に現在の1.74%から2.2%に引き上げられる ・ETS対象部門に対する“43%の低減”は、2030年までの10年間で5億200万の業界の 排出権上限(キャップ)の削減を意味する(2005年から2020年までの15年間では4億 1,700万の排出権の減少) ②部門横断的補正係数(以下、CSCF)は、業界の生産量に対する無償排出権に対して追加 の削減をもたらす ③不確定要素として、カーボンリーケージリストがある(2019年に決定予定) EU-ETSの第3フェーズ(2013年から2020年)のBASF社に対する影響として、下記のよう な項目が挙げられる。 ①約100ヶ所あるBASFの施設(EUにおけるBASFのGHG排出量の75%から90%を占め る)は、EU-ETSの対象である ②化学的プロセスからの排出量に対して、割り当てられてられた無償のCO2排出権の数 量はベンチマークに基づいているので、我々は化学的プロセスに対する割り当てが十 分な量に近いものになることを期待している ③しかし、発電に対する全ての排出権の新しい入札ならびにCSCFによって、BASF社 が年間で百万のオーダーで割り当て量の不足に直面すると予想している ④BASF社の欧州の生産拠点における世界的競争力低下の程度は、これらのCO2排出権 の取引き価格に依存する ― 35 ― 情報報告 ウィーン 結論として、無償排出権の不足は、工業生産および電力に対してより高いコストをもた らすが、欧州域外の主要な競合企業のどこもがこのようなコストを負担していない。 (3) エネルギー集約型の産業部門に対する投資 表3-1にEUとアメリカの産業界の政策の比較を示す。EUには多くの不確実性があり、結 果的に生産量が低下し、将来への投資が減少することが懸念される。 表3-1 EUとアメリカの産業界の政策の比較 EU アメリカ 気候政策における世界的レベルの事業分野 に関する不確実性 原料コストの安さ 産業界への無償割り当てに関する不確実性 電力コストの安さ 政策的に動機付けされた欧州委員会の介入 に関する不確実性 (バックローディング、CSCF、MSRなど) 生産量の増加 高い原料および電力コストをもたらす政策 エネルギー集約型部門への新たな投資 業界の生産量の低下 より多くのガスおよび効率的な新しい施設によ るCO2排出量の減少 出典:European Emissions Markets、Gunther Kellermann氏、BASF社 3.5 化学業界のためのシナリオ 将来の化学生産は、工業生産と世界レベルの競争分野に対して割当てされる排出権の総 量と強く関係している。 売上高(×10 億ユーロ/年) 調査されたシナリ オでの需要 世界レベルの競争 分野と想定した場 合の生産量 EU 単独の気候対策 を想定した場合の 生産量 出典:European Emissions Markets、Gunther Kellermann氏、BASF社 図3-6 EUの化学製品に対する需要と生産量の関係 図3-6に示すように、化学製品に対するEUの需要は全てのシナリオで増加する。そして、 世界レベルの競争分野のシナリオでは、欧州の生産によって需要を満たすことは可能であ るが、EU単独の気候対策のシナリオでは、生産は実質的に欧州域外に移転することになる。 ― 36 ― 情報報告 ウィーン 3.6 2020年以降のEU-ETSに対する提案 (1) EU-ETSに対するBASF社の提案 ①カーボンリーケージの抑制は目的を行き過ぎる可能性がある または、カーボンリーケージの抑制は、目的の超過達成とすべきである ②EUの産業界に対する単独の追加負担の回避 世界レベルでの強力なGHG排出量削減目標と合意が必要不可欠である ③EU-ETSの改革は20%の業界目標と一致しない可能性がある ④無償排出権の割り当てに対する削減率は経済的に理にかなっている必要があり、数学 的な数値だけに基づくべきではない(化学業界の視点から、2.2%の線形減少係数の影響 は非常に大きい、1%以下の減少係数で実証しているシナリオが経済的に適当) ⑤最も効率性の高い施設に対する100%の無償排出権の割り当てと間接的な排出量(電力) 対する無償排出権の割当ては必要である (下記のBASFの提案:DIFモデル) ⑥カーボンリーケージリストは現状の維持とする (2) BASF社の提案:ダイナミック・インダストリー・基金(DIF) ①コンセプト ・異なる削減プロファイル ・能動的なベンチマークに基づく割り当て ・バックローディングからの域内の保留 割当て量を保障するための能動的な業界基金(DIF) ・市場安定化準備制度(MSR)とDIFの同時期の導入 ②メリット ・部門間の柔軟な分離: カーボンリーケージとインセンティブの両方に対する確実性が増す ・危機の場合の“割り当ての循環”の構築は不要 業界への割り当て(生産量ベース) 余剰のDIF DIFからの供給(割り当て量不足時) 年 出典:European Emissions Markets、Gunther Kellermann氏、BASF社 図3-7 ダイナミック・インダストリー・基金(DIF)のコンセプト (参考資料) ・6th European Emissions Markets、Gunther Kellermann 氏、BASF 社 ・BASF社ホームページ、(https://www.basf.com/en/company/about-us.html) ― 37 ― 情報報告 ウィーン 4.2020年以降のEU-ETSの評価 EUの鉄鋼部門への影響評価 Danny Croon氏、EUROFER(ベルギー) 4.1 EUROFERについて EUROFER は 1976 年に設立された EU の鉄鋼生産を代表する組織であり、EUROFER の会員は EU 全域の鉄鋼会社および各国の鉄鋼連盟である。また、スイスおよびトルコに ある大きな製鉄会社と国の鉄鋼連盟は準会員である。 欧州の鉄鋼業界は、約 1,700 億ユーロの売上げと高度な技術者の直接雇用数は約 35 万人 によって世界のリーダーであり、平均して 1 年間に 1 億 7,000 万トンの生産量を誇ってい る。24 ヶ国の EU 加盟国にある 500 以上の製鉄所が直接および間接的雇用と数百万人の欧 州市民の生活を提供している。欧州の製造業界と密接に関係することで、鉄鋼メーカーは EU の革新性、成長と財産のための基本材料を提供している。 4.2 EUの粗鋼生産量 世界の粗鋼生産において、中国の生産量が過去10年間で大幅に増加した。現在の生産量(約 16億1,000万トン)において、EUの11%に対して、中国は約47%を占めている。 図4-1に、EU-28ヵ国の粗鋼生産量の2030年までの推移を示す。短期的な予想については EUROFERのデータに基づいており、長期的な予想については、Boston Consulting Group とドイツ鉄鋼協会(以下、BCG/VDEh)の調査レポートに基づいている。 粗鋼生産量(×100 万トン) 電気炉 高炉/転炉 年 出典:European Emissions Markets、Danny Croon氏、EUROFER 図4-1 EU28ヵ国の粗鋼生産量 4.3 EUの温室効果ガスの排出量取引き制度の影響 (1) 検討条件 EUの温室効果ガスの排出量取引き制度(以下、EU-ETS)の影響について、以下にEUの鉄 鋼部門の二酸化炭素(以下、CO2)排出量および無償排出権の割り当ての推移について検討す ― 38 ― 情報報告 ウィーン るための条件を記す。 ①データの出典 ・CITL / EU TL データ (EU独立取引きログ) ・EUROFERのデータ ・BCG/VDEh 調査レポート 『Steel’s contribution to low-carbon Europe 2050』、 ②下記の予想事項を含む ・放出される排気ガス(プロセスガス)に対する補正 ・鉄鋼業界の外部で発生した排気ガス(つまり、主に発電所から排出される)に関係する CO2の量をCITLデータに由来する業界の不足分に追加する必要がある ・補正係数(年間の線形削減率および部門横断的補正係数(以下、CSCF)) (2) 直接的なCO2排出量 図4-2に、EUの鉄鋼部門の直接のCO2排出量と無償排出権割り当て量の推移について示す。 図中の破線は、第4フェーズ(2021年以降)期間中のベンチマークレベル、実際の生産および 補正係数無しとした場合の100%無償排出権の割当て量の曲線を示す。一方、図中の実線は 同期間中、カーボンリーケージの継続(「EU-ETS指令(2009/29/EC)」10a条第12項)と線形 削減率が年間2.2%とした場合の無償排出権割り当て量の曲線を示す。そして、現在の EU-ETSで、CSCF、線形削減率(年間1.74%)、カーボンリーケージが段階的廃止される場 合の無償排出権の割り当ては、2027年に廃止される。 直接の CO2 排出量と無償排出権割り当て量 (×100 万トン) ■CO2 排出量、■無償排出権割り当て量 年 出典:European Emissions Markets、Danny Croon氏、EUROFER 図4-2 直接のCO2排出量と無償排出権割り当て量 (3) 間接的なCO2排出量 図4-3に、EUの鉄鋼部門の電力消費による間接的なCO2排出量(電炉ルート)の推移につい て示す。この間接的なCO2排出量には、下流側のプロセス分が含まれている。 現在まで、補償の付与はドイツ、オランダ、ベルギー(Flanders)、英国およびスペインの みで行われているが、EU-ETSの国家補助ルールの下で認められる最大補償量と比較すると 少ない。 ― 39 ― 情報報告 ウィーン 付与された補償量 最大補償量 間接的な CO2 排出量と補償量 (×100 万トン) 間接的な総 CO2 排出量 年 出典:European Emissions Markets、Danny Croon氏、EUROFER 図4-3 間接的なCO2排出量と補償量 (予測の条件) ・電力消費量:電炉(EAF)の場合、粗鋼1トンあたり498kWh (ベンチマーク) 下流側プロセス、熱間圧延鋼材1トンあたり112kWh(ベースライン) ・各国特有の電力の排出強度は国家補助ルールに沿う ・熱間圧延に対する歩留は98% (4) 2020年以降のEU-ETSによる影響 表4-1に、上記の3つのシナリオに基づき、コストについてEU-ETSの影響を検討した結果 を示す。表より、CO2を完全に相殺するために必要なコストは、3つのシナリオ間で260億 ユーロから1,000億ユーロの幅があり、影響は大きい。 表4-1 シナリオ毎のCO2コストの比較 CO2排出枠の累積不足 (×10億トン) シナリオ 100%無償の割当て ベンチマークレベル、 実際に生産、補正係数 無しの場合 カーボンリーケージ は継続 CSCFはそのまま、 線形削減率は2.2% 現在のEU-ETS: CSCF、線形削減率 (1.74%)、リーケージの 段階的廃止 直接 間接 0.45 0.42 1.02 2.08 CO2 価格 (ユーロ/トン) CO2コストを完全に相殺する必要性の不足 (×10億ユーロ) 直接 間接 合計 30 13.6 [12.7*] 26 40 18.1 [16.9*] 35 30 30.7 12.7 43 40 40.9 16.9 58 30 62.3 12.7 75 40 83.0 16.9 100 0.42 0.42 (*)無償排出権割り当て量と金銭補償による相殺 出典:European Emissions Markets、Danny Croon氏、EUROFER ― 40 ― 情報報告 ウィーン 表4-1の条件として、市場安定化準備制度によって欧州委員会は2030年にCO2排出量1ト ンあたり40ユーロの取引き価格を期待している。また、Point Carbonによって提示された モデルでは、48ユーロと予想している。 (5) 営業利益への影響 表4-2に、原価償却前営業利益(以下、EBITDA)に対する規制コストの影響を検討した結 果を示す。この結果より、現在、すでに営業利益に対して大きな影響を及ぼしており、粗 鋼1トンあたり69.5ユーロのEBITDAの状況から、直接および間接的な排出権コストに対し ての保護手段がなければ、30ユーロまたは40ユーロのCO2の取引き価格によって全ての収 益を失う可能性がある。また、40ユーロのCO2取引き価格は、粗鋼1トンあたり最大50ユー ロの追加コストに相当することになり、無償排出権の割り当て(または補償)が段階的に廃止 されることになれば、業界に大きな不安定さをもたらすことになる。 表4-2 鉄鋼部門に対する規制コストとEBITDAとの比較(2002年から2011年) 項 目 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 EBITDA (ユーロ/粗鋼トン) 48 71 99 77 142 110 92 -25 38 43 EUの規制 コストの比率 (%) 28.1 18.9 13.4 17.3 9.4 12.2 14.5 -53.9 35.0 30.9 出典:European Emissions Markets、Danny Croon氏、EUROFER (6) 影響評価のまとめ ①公に入手できるCITL / EU TL データに基づく影響の評価結果から、現在のEU-ETS を変更せずに維持することは、無償排出権割り当て量の大きな不足と欧州で最も効率 的な施設であっても間接的コストの上昇をもたらす ・2021年から2030年の期間において、EUの鉄鋼部門は全体として約750億ユーロから 1,000億ユーロのコストを負担する ・EUの鉄鋼部門が、2030年までに完全なCO2低減の可能性を手に入れたとしても、同 期間で約720億ユーロから950億ユーロのコストを負担することになる それと同時に、効率性向上のための大きな投資が必要となる ②ベンチマークレベル、実際の生産、補正係数無しでの100%無償排出権の割り当てによ って、 ・電力に関する間接的なCO2排出量に対する補償が無くなる場合、鉄鋼業界は約260億 ユーロから350億ユーロのコストを負担する ・電力を通じたCO2コストの完全な相殺により、鉄鋼部門は約140億ユーロから180億 ユーロのコストを負担する 4.4 EU-ETSに対するEUROFERの提案 EUの鉄鋼業界の国際競争力を守るための必要事項として、下記事項を提案する。 ― 41 ― 情報報告 ウィーン ①技術的かつ経済的に達成可能なベンチマーク、実際の生産および補正係数無しに基づい て最も効率的な施設の10%のレベルで、実質的に100%の無償排出権割り当てをカーボン リーケージのリスクのある部門に提供し、2020年以降も100%の無償割り当てを継続する ②金銭的補償、無償割り当てまたは電力市場の再設計のいずれかによって、電力価格を通 じた炭素価格またはこれらの組み合わせを防ぐ方法として、全てのEU加盟国の電力価格 を通じてCO2コストの完全な相殺をカーボンリーケージのリスクのある部門に提供する 4.5 まとめ ①世界の鉄鋼消費量は2050年までに現在の2倍となる ③世界的にみて、鉄鋼市場は成長しており、EUの鉄鋼部門は急速に成長する経済圏が提供 している機会を獲得できるようになる必要がある ③カーボンリーケージのリスクのある部門において最高レベルの成果をあげた施設には、 2030年の枠組みによる直接または間接的なコストを無くすべきである 直接的なCO2の排出量に対する無償排出権の割り当てや間接的なCO2コストの完全な相 殺は、少なくとも国際的競争への不公平さが取り除かれるまで付与されるべきである ④鉄鋼業界はその低炭素な鉄鋼ロードマップで報告しているように、省エネルギーとCO2 低減の可能性を約束している ⑤解決策の一環であるHisarnaプロセス(鉄鉱石の直接還元と酸素吹きの2つが組み合わさ れているもの)はCCSを使用せずに鉄鋼生産からのCO2排出量を20%減少させることが可 能であり、これらの技術の経済的実現可能性も提示している ⑥しかし、Hisaarnaプロセスの拡大には、3億ユーロ規模の大きな資金が必要となる ⑦公的資金と実践的な支援は、必要とされる支援レベルに一致して提供される必要がある (参考資料) ・6th European Emissions Markets、Danny Croon氏、EUROFER ・EUROFERホームページ、(http://www.eurofer.eu/) ・EU-ETS指令(2009/29/EC) ― 42 ―
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