25-1 - 国立精神・神経センター

課題番号:25-1
課題名:大麻関連化合物を中心とした脱法ドラッグにおける精神薬理作用発現の機序解明
に関する研究
主任研究者:舩田正彦(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所)
分担研究者:栗原正明(国立医薬品食品衛生研究所)
、橋本謙二(千葉大学)、三島健一(福
岡大学)
、森友久(星薬科大学)
、関口正幸(国立精神・神経医療研究センター神経研究所)
1 研究目的
有害作用:合成カンナビノイドの有害性
近年、若年層を中心に大麻および大麻関
評価として、カンナビノイド受容体をター
連化合物の乱用が拡大しており、社会問題
ゲットにした評価を実施した。栗原らは、コ
となっている。大麻および大麻関連化合物
ンピュータ解析によりカンナビノイド CB1
の有害作用については、精神依存形成等に
および CB2 受容体の3次元構造を構築し
ついての検討が進んでいるが、精神障害、細
た。本受容体モデルにより合成カンナビノ
胞毒性および発生毒性などの総合的な有害
イドの CB1, CB2 受容体への親和力の推測
性については評価が進んでいない。大麻お
値を算出した。舩田らは、この CB1 受容体
よび大麻関連化合物の有害作用発現の分子
の推測値から中枢作用、薬物依存性および
メカニズムに基づいた危険性予測が必須で
有害作用発現強度が予測できる可能性を見
ある。一方、内因性カンナビノイド神経系は
出した。また、CB1 受容体安定発現細胞を
薬物依存症、摂食障害、統合失調症などの
作製し、合成カンナビノイド検出に利用で
様々な疾患との関連性が示唆されており、
きる事を証明した。合成カンナビノイドの
大麻関連化合物は創薬ターゲットとして期
有害作用評価システムおよび検出システム
待されている。本研究を通じて、大麻関連化
を構築した。
合物の作用発現の分子基盤に基づいた治療
有効作用:橋本らは、内因性カンナビノイ
薬としての有用性を明らかにし、それを踏
ド等の脂質代謝を抑制する可溶性エポキシ
まえた乱用危険性等の有害性を評価するシ
ドヒドラーゼ sEH 阻害薬 AS2586114 の効
ステム確立を目指す。
果を検討し、sEH 阻害薬はフェンサイクリ
ジン(PCP)投与による行動異常の発現を
2 研究方法(最後に、倫理面への配慮につ
いて、記入のこと)
抑制することを見出した。また、関口らは、
CB1 受容体が条件性恐怖記憶の修飾に関わ
カンナビノイド受容体作用薬および拮抗
り、この修飾には食物由来の不飽和脂肪酸
薬について、動物実験および細胞による実
分子種(多価高度不飽和脂肪酸や膜結合型
験を実施し、有効作用および有害作用につ
コレステロール)の摂取バランスが関わる
いて検討した。
すべての実験は NCNP およ
ことを見出した。CB1 受容体および内因性
び各分担研究 施設の倫理委員会の承認を
カンナビノイド脂質代謝調節は情動制御に
得て実施した。
関わる可能性が示唆された。三島らは、高脂
肪嗜好性マウスモデルを作製し、視床下部
3 研究結果及び考察
において内因性カンナビノイドリガンドで
ある 2-アラキドノイルグリセロール量が増
changes and neurotoxicity in mice after
加しており、この効果は 2 週間以上維持さ
administration
れることを見出した。高脂肪餌に対する嗜
Psychopharmacology 231, 159-166, 2014.
好性は CB1 受容体拮抗薬である O-2050 の
3. Yamada D, Takeo J, Koppensteiner P. et
処置により抑制されることから、CB1 受容
al.: Modulation of fear memory by dietary
体拮抗薬は高脂肪食等に対する嗜好性や摂
polyunsaturated
食異常の治療に応用できることが明らかに
cannabinoid
なった。同様に、森らは、CB1 受容体作動
psychopharmacology 39, 1852-1860, 2014.
薬は、モルヒネの精神依存形成を抑制する
4. Koppensteiner P, Aizawa S, Yamada D.
ことを見出した。この抑制のメカニズムに
et
ついては、モルヒネによる側坐核内ドパミ
glucocorticoids in the developing mouse
ン遊離増加の抑制が重要であり、腹側被蓋
basolateral nucleus of the amygdala.
野 領 域 に お け る CB1 受 容 体 を 介 す る
Psychoneuroendocrinology
GABA 遊離抑制が関与していることを明ら
2014.
al.:
of
methamphetamine.
fatty
acids
receptors.
Age-dependent
via
Neuro-
sensitivity
46,
to
64-77,
かにした。本研究結果から、合成カンナビノ
イドは、情動異常、摂食異常、薬物依存症な
どの精神疾患の候補薬物として期待される。
6 知的所有権の出願・取得状況
なし
7 自己評価(次の 4 項目について記入のこ
4 結論
合成カンナビノイドの有害作用評価シス
と。
)
テムおよび検出システムを構築した。また、
1)達成度について:当初の目標を達成した。
有効作用については、情動異常、摂食異常、
2)学術的、国際的、社会的意義について:
薬物依存症などの精神疾患の候補薬物とし
合成カンナビノイドの有効作用及び有害作
て期待される。
用評価における基本システムを構築した。
また、得られた研究成果を国際的学術誌に
5 研究発表
発表した。
口頭発表 19 件、論文発表 14 本
3)行政的意義について:薬物取り締まりに
1. Tomiyama K, Funada M.: Cytotoxicity
関する行政機関へ危険ドラッグの規制根拠
of synthetic cannabinoids on primary
として、有害作用に関する情報提供を行っ
neuronal cells of the forebrain: the
た。
involvement
CB1
4)その他特記すべき事項について:危険ド
receptors and apoptotic cell death. Toxicol
ラッグの有害作用について、新聞やテレビ
Appl Pharmacol. 274(1) 17-23, 2014.
ニュースなどへ情報を提供し、国民への危
2. Ren Q, Zhang JC, Ma M, et al.:
険ドラッグ乱用防止に係る啓発活動を行っ
Protective effects of TrkB agonist 7,8-
た。
of
dihydroxyflavone
cannabinoid
on
the
behavioral