平方 秀樹先生 秋葉 隆先生 濱野 高行先生 友杉 直久先生

第45回日本腎臓学会西部学術大会ランチョンセミナー1
司会
講演1
平方 秀樹先生
福岡赤十字病院 副院長
秋葉 隆 先生
東京女子医科大学
腎臓病総合医療センター血液浄化療法科 教授
濱野 高行先生
大阪大学大学院医学系研究科
腎疾患統合医療学 寄附講座准教授
友杉 直久先生
金沢医科大学 名誉教授
講演 2
平成27年
時間
10 23
月
(学会1日目)
日(金)
会場
12:00∼13:00 第
2会場(金沢歌劇座 2F 大集会室)
共催:第45回日本腎臓学会西部学術大会 鳥居薬品株式会社
Lecture 1
鉄補充;
「かつ」
か
「または」か?
濱野 高行 先生
大阪大学大学院医学系研究科腎疾患統合医療学 寄附講座准教授
2008年版腎性貧血ガイドラインでは、
鉄補充開始基準として、
「TSAT<20%かつフェリチン
経歴
<100ng/mL」
が提示された。
この帰結として、
2012年末統計調査では、
TSAT<20%が実に
平成10年 3月
平成10年 6月
平成11年 6月
平成12年 6月
平成13年 4月
平成17年 4月
平成17年 4月
平成19年 4月
平成20年10月
平成24年 4月
平成27年 4月
35%、
フェリチン<50ng/mLが35%近くとなった。
そもそも、
鉄は透析患者ではマイナスバラ
ンスであり、一年間ずっと鉄を投与しないですむ患者は稀である。TSAT, フェリチンともに
枯渇してはじめて鉄が投与できるこの基準では、
1年の特定の時期のみに鉄を集中的に投与
することになる。
しかし、
この二条件が成立するときに鉄を投与すると、
明瞭に鉄欠乏状態時
に鉄を投与することになるので、
必ずと言ってよいほどHbは急上昇し、
結果的にESAをあわ
てて減じることになる。
これによりまたHbは低下し、
一年間で複数回のHbサイクリングを産
むことに繋がる。
マイナスバランスであれば、
そのマイナス分だけを維持的に補填することが
理に適っている。
これによりフェリチン、
TSATは一定になり結果的にESAを増減する必要が
なくなり、Hbサイクリングが減衰することに繋がる。マイナス分だけを維持的に補填するに
は、
1年で数回だけのパルス的経静脈的鉄投与はそもそも不向きであり、
経口投与の方が維
持的であると言える。
最近報告されたREVOKE 研究では、
鉄の経静脈投与は経口投与より
も心血管イベント、感染の発症頻度が2倍以上になった。逆に言えば、今まで経静脈投与で
あったが故に鉄投与のリスクが高かったわけで、このリスクはそのまま経口投与に当てはま
らない。
では、
鉄を全く投与しなければよいという極端な意見も出るかもしれないが、
欧米の
研究に見る通り、
少量の鉄投与をしている方が全く無投与よりも死亡率が低い。
これは鉄投
与を全くしなければ、ほとんどの透析患者で鉄欠乏になり、ESA抵抗性が高い状態でESA
を高用量使用するためかもしれない。また最近の心不全のRCTにおいて、機能性鉄欠乏で
も鉄投与が入院リスクを下げ、腎機能を改善していることを考えると、鉄投与の恩恵も確実
にある。これらの報告を考えれば、経口投与ならば「または」に緩和するのが妥当と言えよ
う。
欧米における第三相RCTでは、
セベラマーと酢酸Caのactive control群に比し、
クエン
酸第二鉄群では、
一回以上入院した患者の割合が実に24%減少した
(感染入院は25%、
消
化器系疾患は49%、心血管イベント入院は45%低下)。これは、経静脈の鉄とESAを減らせ
たせいであろう。
入院回数もクエン酸第二鉄群で58回少なく、
入院費用の差は一人1年換算
で3002ドルに昇った。
これは特筆すべき医療経済上の利点である。
Lecture 2
鉄代謝の概念変化
友杉 直久 先生
所属学会
日本内科学会、
日本腎臓学会、
日本透析医学会、日本骨代謝学会、
日本骨粗鬆症学会、
国際腎臓学会、
アメリカ腎臓学会、
欧州腎臓透析移植学会
平成19年より日本透析学会統計調査委員
平成20年・21年度、平成26・27年度日本腎臓学会卒前・卒後教育委員
平成22年∼日本腎臓学会ISN/JSN連携強化委員
(現グローバル連携強化委員)
平成24年∼”
Journal of Bone and Mineral Metabolism”Editorial Board
平成25年∼日本腎臓学会AFCKDI委員会委員
平成26年∼日本透析医学会 腎性貧血ガイドライン評価委員会 副委員長
平成26年∼日本腎臓学会CKD-JACII委員会サイエンティフィックコミッティー
平成26年∼日本透析医学会 統計調査委員会 解析小委員会主事
平成26年∼日本透析医学会 ガイドライン手順書作成ワーキンググループ
専門医
日本内科学会総合内科専門医、
日本腎臓学会腎臓専門医
専門
CKD-MBD、CKD一般、骨代謝一般
受賞歴
1)2004 ERA,EDTA
(欧州腎臓透析移植学会)Best Abstract by Young Author Award
2)2005 ERA,EDTA Best Abstract by Young Author Award
3)平成16年度日本内科学会奨励賞
4)平成17年度日本骨代謝学会奨励賞
5)平成18年日本透析学会ゴールデンリボン賞
6)2007 ERA,EDTA Best Abstract by Young Author Award
7)平成27年度日本腎臓学会大島賞
∼分子レベルでの理解から実践へ∼
金沢医科大学総合医学研究所 名誉教授
鉄代謝は、前世紀末のhemochromatosis gene(HFE)の発見以来、Divalent Metal
学歴
T ranspor ter1( DM T1),fer ropor tin( Fpn),hepcidin,transfer r in receptor1/ 2
昭和50年3月
(TfR1/2),hephaestin,hemojuvelin,iron responsive element /iron regulatory protein
など分子レベルでの体系的な理解が進み、
個体/細胞/肝細胞レベルで鉄濃度を感知する、
非常に厳密な鉄代謝制御機構が明らかになってきた。
その本質は、
排泄系を持たず少ない
鉄を回転再利用してATP産生に寄与することに加え、鉄を過剰に体内に取り込まずに血中
鉄濃度の恒常性を保つことである。
その為には、
3つの鉄供給ルートが同調しながら機能す
ることが求められる。
①食事中の鉄を吸収した腸粘膜細胞②鉄を貯蔵する肝細胞③老化赤
血球を呑食したマクロファージ等、
各々の細胞の膜に分布する鉄エクスポーターであるFpn
を制御し、
その分泌量に応じてFpn の細胞膜分布密度が調整され鉄が供給され血清鉄濃
度の恒常性が維持される。
つまり、
このTfR2-hepcidin-Fpn系は、
血清鉄濃度を一定に保つ
ためのフィードバック機構であり、
鉄は主として血清鉄-ヘモグロビン鉄-マクロファージ貯蔵
鉄-血清鉄と0.8-1.0mg/hの率で回転利用されている。
このように、
TfR2-hepcidin-Fpn系
で緻密に制御されている鉄代謝系に、
40-50mgもの静注用鉄剤が非生理的に突然投与さ
れれば、
鉄代謝制御系が攪乱されることは容易に想像が付く。
一方、
生理的な鉄吸収ルート
である腸管系に、多量の鉄が負荷された場合の鉄代謝制御系への影響については十分に
解明されていないが、一過性の負荷に対しては、DMT-1が反応し腸上皮細胞への取り込み
が抑制され、
慢性の負荷に対してはhepcidinが反応しFpnを制御して血中への供給が制限
されると考えられている。
しかしながら、
近年使用され始めたクエン酸第二鉄の経口摂取結
果から、
従来経験されないレベルの効率の良い造血への影響が明らかになっている。
2-3日
ごとに脱落と再生を繰り返す腸上皮細胞の特性と膜表面のFpn分布密度、
更にトランスフェ
リンとの結合の優位性等、新たに考慮すべき課題が明確になってきており、本ランチョンセ
ミナーでは、
クエン酸第二鉄投与の自験例
(MIZUHO-Riona Study)
のデータを踏まえ検
金沢大学医学部卒業
研究・職歴
昭和50年4月
昭和58年10月
昭和61年4月
∼昭和62年10月
平成9年12月
平成18年5月
平成18年8月∼
平成18年10月
を介したバランスのとれた鉄供給である。
血中鉄濃度はTfR2が感知して、
hepcidin発現量
討したい。
大阪大学医学部医学科卒業
大阪大学医学部附属病院内科研修医
旧大阪府立病院
(現大阪府立急性期・総合医療センター)
内科研修医
関西労災病院内科レジデント
大阪大学大学院医学系研究科入学
同修了
大阪大学医学部附属病院血液浄化部医員
大阪大学大学院医学系研究科老年・腎臓内科助教
ペンシルバニア大学臨床疫学・生物統計学フェロー
大阪大学大学院医学系研究科腎疾患統合医療学寄附講座助教
大阪大学大学院医学系研究科腎疾患統合医療学寄附講座准教授
平成19年4月∼
平成27年4月∼
平成27年5月∼
金沢大学医学部研修医(第一内科学)
金沢大学医療技術短期大学部助教授
「衛生技術学科」
英国王立大学院大学
(RPMS)
ハンマースミス病院留学、
内科腎臓部門研究員
金沢医科大学助教授
「腎臓内科学」
金沢医科大学助教授
「総合医学研究所」
(株)
エムシープロット・バイオテクノロジー代表取締役
金沢医科大学 教授
(総合医学研究所先端医療研究領域加齢制御研究分野
/ 腎臓内科併任)
石川県臓器移植推進財団 理事
金沢医科大学総合医学研究所
プロジェクト研究センター 寄附講座
天然変性蛋白質創薬科学研究部 教授
金沢医科大学 名誉教授