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透析拒否・中断を
繰り返す患者との関わり
(医)社団城南会西條クリニック下馬1)
(医)社団城南会西條クリニック鷹番2)
渡部千恵子1) 藤島由紀子1) 奥脇美奈1)
内田基1)古澤健人1) 武藤見佳子1)
西條公勝2)西條元彦1)
はじめに
透析治療の受け入れが出来ない患
者は多く、生涯続く透析治療への不
安や苦痛で、常にストレス状態であ
る。患者は、その思いをさまざまな
形で表出しようとする。
今回は透析導入時より来院拒否と
透析中断を繰り返し、対応に苦慮し
た事例を経験したので報告する。
倫理的配慮
患者には口頭で主旨を説明し、同
意を得た。個人が特定されないよう
に配慮した。
事例
A氏女性
62歳
透析歴9年
原疾患 不明
 生活保護を受給していたが犬を飼
うため受給を辞め転居。2012年
9月当院へ転院。



透析導入時にも来院拒否、透析中
断がみられていた。
アルコール依存症
変形性膝関節症治療中、杖歩行
看護の実際
来院拒否時の状況と対応
 来院しない為、電話をすると「今日
は行かない。苦しくなったら行くか
らよろしくね。」迎えに行くことを
伝えると「行かないから来ても無駄
だよ。」と話す。
 自宅訪問し、話を聞く。愛犬につい
て心の支えであり、世話をすること
が生きがいであることを話はじめる。
その後「今後の事を考えたら自分が
先に死んじゃうかもしれない」

生活の事を考えたら「無職で貯金
もすくなくなってきた。」と金銭
的に不安であることを話し始めた。
看護師側からの対応
 「今後の事を考えると、誰もが生活
や健康などに対し不安を持っている
ことは、当然の感情です。」
 「A氏が透析をきちんと受けて元気
でいることが一番大切。生活・経済
面で不安なことは区役所などに相談
し解決していきましょう。」
透析中断の状況と対応
穿刺部が痛い。
 身体がかゆい、透析をやるとひどく
なる。
 「もうやめる。針を抜かないなら自
分で抜くよ。」
 「もう二度とこんなところくるか」
などと不穏状態になり、ベッドサイド
にスタッフ1名が付き添いA氏の訴え

を傾聴することにした。
スキンケアについて指導するも、お
風呂は熱くなければ嫌。軟膏はベタベタ
するから嫌と、受け入れてくれなかった。
スタッフの状況
治療の受け入れ拒否や透析中の不穏状
態で、怒りやケアの困難さにストレスを
感じていた。なぜ拒否中断を繰り返す行
動をとるのか検討した。今後の生活の不
安、透析をしても良くならない事が原因
と考えた。
スタッフの対応
生活保護受給検討
 透析治療について検討・説明
・透析治療の変更
HDからオンラインHDF前希釈48ℓ
・透析拒否、中断時期と十分な透析を
行えた時期の血液データの比較

2.1
Kt/V
10
2
Ca
6
400
3
1.7
4
2
200
1.6
2
1
0
前
後
前
後
PTH-int
600
4
6
1.8
800
5
8
1.9
iP
前
後
前
後
透析不足は身体のだるさ、痒みの原因の
一つである事。食生活についての指導も
行った。
血液データーでは著名な変化はみられな
かったがA氏は透析治療の必要性を改め
て考える事ができた。
スキンケアの指導
痒みの原因は透析不足やアレルギー
反応など透析特有のものから皮膚の乾
燥や体内物質のバランス異常など複数
の因子が関与していることを説明。

・入浴方法の再指導・洗浄剤低刺激の
ものをすすめる。
・外用薬は皮膚・痒みの状態を皮膚科
医に相談し検討した。透析中に軟膏
塗布し痒みの程度・変化を観察した。
初めはステロイド剤使用していたが、
皮膚保湿剤のみで、落ち着いている。
具体的な対策を提案し、取り組みを統
一してあきらめず根気よく働きかけ
た。
「身体の怠さや、痒みは透析不足も原
因なんだよね。透析をしっかりすると
元気になれそうなきがしてきた。」
「この軟膏ならそんなにベタベタしな
くていいね。痒みが少しずつ良くなっ
ている。続けられそう」という言葉が
聞かれるようになり、中断も無くなっ
てきた。
結果
患者の思いに寄り添いながら話を
傾聴し、スタッフ全体で患者背景や
ありのままの感情を、受け入れる事
が出来た。それにより統一したケア
を実施でき、来院拒否は無くなり、
透析を中断することもほとんど無く
なった。また、スタッフもA氏に対
してのケアの難しさを軽減していく
事が出来た。
考察・結語
患者の現状を理解し向き合うこと
の重要性を再認識した。
治療を受け入れられない患者では
なく、治療を受け入れられずに葛藤
している患者と捉え、患者の生活環
境や価値、信条を理解することが大
切である。
参考文献
1.
2.
3.
4.
春木繁一(2010)『透析患者のこころを受け
とめる・ささえるサイコネフロロジーの臨床』
メディカ出版
福西勇夫(2002)『事例からわかりやすく学
ぶサイコネフロロジー透析医療の「困った患者
さん」への対処』テンタクル
福西勇夫(1994)『やさしいサイコネフロロ
ジー入門』東京医学社
透析ケア(2010)『透析スタッフの患者対応
スキル』p.12~60メディカ出版
日本透析医学会
COI 開示
筆頭発表者名: 渡部 千恵子
演題発表に関連し、開示すべきCOI関係にある
企業などはありません。