農地の転用期待が経営規模に与える影響とその評価 The impact and evaluation that conversion expectation of the farmland gives in a management scale 公共システムプログラム 13M43302 山森大作 指導教員 樋口洋一郎 Public Policy Design Program Daisaku Yamamori, Adviser Yoichiro Higuchi ABSTRACT In Japan, farmland can be sold for nonagricultural purpose at prices many times higher than for agricultural uses. Therefore, it has been pointed out that farmers are not willing to sell out their farmland in expecting diversion sales opportunities for non-agricultural uses, and consequently farming scale has been obstructed to expand. This thesis quantitatively analyzed the effect of expected income from farmland diversion sales on farming scales. As the result of the analysis and that of farmland prices for agricultural uses, or if the diversion probability falls to one-fifth of the current level through more strictly regulating the diversion permission, then the average scale of the management farmland are would expand with reducing the share of small-scale farmers, and increasing that of medium-scale farmers. This paper has empirically indicated that the expansion of the management farmland was disturbed by the presence of the expectation of diversion. 1.背景と本研究の目的 2.先行研究 1.1.研究背景 2.1.先行研究 日本では長年にわたり農地利用の大規模化をその政策目標 農地の転用期待が農家の経営規模に与える影響について分 としてきた。1961 年に「農業経営の規模の拡大を図る」と明 析した先行研究としては、斉藤・大橋(2008)が挙げられる。 記された旧農業基本法制定以来、以後 50 年近くにわたって農 この研究では、1990~2005 年において県別・経営耕地別のデ 地の流動化と集積を図る政策を施行してきた。しかし、課題 ータを用いて、農家の転用収入への期待が農業経営の規模や の認識から 50 年以上たつにも拘らず、農業構造に飛躍的な変 稲作の生産性に与える影響に関して定量的な分析を行なった。 化は見られない。神門(2006)では、農業における経営規模の 結果として、仮に 1995 年以降、転用目的の田の売却価格が耕 拡大が進まない最大の理由として、農地転用から得られる期 作目的における売却価格に等しくなっていたならば、2005 年 待収入の存在を挙げている。ここで、農地の転用とは、農地 における稲作の平均作付面積は現実値と比較して約 30%増加 を住宅、工場、道路等に用地変更することを意味している。 し、労働生産性は約 23%向上することを示唆した。 1.2.農地の転用の問題点 2.2.先行研究の問題点 農地転用が農地の売買ないし貸借を阻害し、流動化を妨げ 先行研究の問題点は、農地の転用期待収入がもたらす内生 る理由として、神門(1996)は農地転用規制の運用が暖昧かつ 性への対処を行っておらず、推定値にバイアスをもたらすこ 不透明で地域エゴで歪められることがあること、農地転用機 とが考えられる。これは、農地の転用売却価格や農地を転用 会得れば莫大なキャピタル ・ゲインを得ることを挙げている。 できる確率は、農家の規模の意思決定に影響を与える。しか 1.3.研究の目的 し、農地の転用売却価格や農地の転用確率は農地の土地需要 農地の転用期待が、日本の農地の規模の拡大に与える悪影 響については、広く指摘されてきた。しかし、その影響の定 や県の経済状況によって決まってくると考えられ、内生性へ の対処を行う必要がある。 量的な分析はされてきていない。そこで、農地の転用期待が また、斉藤・大橋(2008)は転用期待収入が減少する状況と 稲作の経営規模に与える影響と、農地の転用期待がなくなっ して農地の売却価格が転用なしの農地価格にまで下落する状 た際に農家の規模の拡大に与える影響を明らかにする。また、 況を考えている。転用期待収入が減少する要因として転用許 土地利用には多くの側面が存在をするが、本研究では農産物 可基準を徹底すること、厳しくすることも考えられる。そこ 生産者側の側面に限定をして議論を進める。 で、本研究では転用確率が現状より下がるという状況も経営 耕地規模の遷移をシミュレートする。 の離散選択モデルを考える。ここでは、農家は第1段階の選 3.使用データ 択として農業経営を継続するか否かを選択し、継続を選択し 本論文では農業生産のデータとして、2000 年、2005 年、2010 た農家は第2段階として経営耕地規模を選択するものとする。 年、3 時点における農林業センサスを用いる。農林業センサ 今期に経営耕地規模𝑖を保有する農家の選択モデルを考え スは、販売農家に関して詳細な調査および公表を行っている。 る。この農家が来期に農業経営を継続する確率を𝑃𝐿𝑖 とする。 本論文では「農林業経営体調査報告書-農林業経営体分類編 農業経営を継続することを決めた規模𝑖の農家が、2段階目の -」を通して公表される経営耕地規模別の統計を用いること 選択として規模𝑗(𝑗 = 1, 2, … , K)を選ぶ確率𝑃𝑖𝑗|𝐿 を用いて規模𝑖 で、異なる規模の農家のデータを作成する。これにより、農 の農家が、翌期に規模𝑗(𝑗 = 1, 2, … , K)を選ぶ確率は、以下の 家の規模別のデータを得る事が出来、実証分析においてもサ ように表現できる。 𝑃𝑖𝑗 = 𝑃𝐿𝑖 × 𝑃𝑖𝑗|𝐿 ンプルサイズを増やす事が出来る。また、北海道、東京都、 神奈川県、大阪府、沖縄県を除いた 42 府県を分析対象とする。 農林業センサスに記載されている経営耕地は稲作・畑作・果 (4.1) 規模𝑖の農家が、次の期に規模𝑗から得られる効用を𝑈𝑖𝑗 とする。 ′ ′ 𝑈𝑖𝑗 = 𝑉𝑖𝑗 + 𝜀𝑖𝑗 = 𝑥𝑖𝑗 𝛼 + 𝑦𝑖𝑗 𝛽 + 𝜀𝑖𝑗 (4.2) 樹作の合計値である。稲作、畑作、果樹作では生産の構造も ここでは、𝛼は規模の選択に関するパラメータ、𝛽は継続の 異なるが、分析の都合上、本研究では日本の農産物の中で最 選択に関するパラメータ、𝑥は規模の選択に関する説明変数、 大のシェアを持つ稲作に着目をする。 𝑦は継続の選択に関する説明変数である。 ネステッドロジットの形式を仮定し、内生性へ対処しやす 3.1.農業経営の規模と転用の関係 転用の期待収入が大きくなれば、農業経営からの利潤が少 くするために、Berry(1994)を参考に式変形を行うと、以下の ない農家であっても農地を保有し続ける事が考えられる。つ 式が導出でき、この式を GMM 推定行う。ここで、𝑃0𝑖 は農家 まり、生産性の劣る小規模農家が滞留し、農業経営の規模拡 の離農する選択確率を指す。操作変数として、それぞれ県別 大が進まないことが予想される。本研究では、転用から得ら に人口密度、県内 GDP、平均所得、平均所得の 2 乗を用いた。 れる 1 年あたりの期待収入額を転用確率×(転用目的の売却価 格−耕作目的の売却価格)と定義し、図 1 に転用から得られる 1 年あたりの期待収入額を縦軸にとり、販売農家の平均稲作 ln 𝑃𝐿𝑖 ′ ′ = 𝑥𝑖𝑗 𝛼 + 𝑦𝑖𝑗 𝛽 − 𝜆ln𝑃̅𝑖𝑗|𝐿 + 𝜀𝑖𝑗 𝑃0𝑖 (4.3) 4.2.稲作の生産関数の推定 作付面積を横軸にとる地域別の散布図を描いた。図 1 から転 本節では稲作の生産関数を推定し、平年並みの作況に基準 用の期待収入が大きい地域は、販売農家の平均稲作作付面積 化された稲作産出の予測値を作成する。なぜなら、農家は意 が小さいという負の相関関係を示しているが見てとれる。 思決定を行う際には基準化された稲作産出量を考慮すると考 えられるためである。まず、時点𝑡、地域 𝑝、経営耕地規模𝑖と 2 する。稲作の実質産出額𝑌𝑡𝑝𝑖(万円)に対して、稲の作付面積 1 年 あ た り の 転 用 期 待 収 入 額 𝐺𝑡𝑝𝑖 (a アール=100 ㎡)、自家稲作労働𝐿𝑡𝑝𝑖 (延べ人日)、稲作用機 1.5 械𝐾𝑡𝑝𝑖(万円)を生産要素とした生産関数を推定する。上記 3 1 2010年 0.5 種類の生産要素に加えて、時点別の固定効果𝐷𝑇𝑡 、地域別の 固定効果𝐷𝑃𝑝 、作況指数𝑆𝑡𝑝 を用いる。 生産関数には Cobb-Douglas 型、Stone-Geary 型、Translog 型、 CES 型 (Constant Elasticity of Subsitution の略)の 4 つの関数形 0 0 0.5 1 1.5 農家の稲作作付面積の平均[ha]) 図 1 2 農業経営の規模と転用の関係 4. 離散選択モデルによる推定 4.1. 農家が直面する離散選択モデル 農林業センサスの構造動態統計では、標本抽出を行い、抽 を用いる。Cobb-Douglas 型、Stone-Geary 型、Translog 型の推 定式は下式を用いて表すことができる。 ln𝑌𝑡𝑝𝑖 = 𝛾0 + 𝛾𝑔 ln(𝐺𝑡𝑝𝑖 + 𝛾𝑔𝑏 ) + 𝛾𝑙 ln(𝐿𝑡𝑝𝑖 + 𝛾𝑙𝑏 ) + 2 𝛾𝑘 ln(𝐾𝑡𝑝𝑖 + 𝛾𝑘𝑏 ) + 𝛾𝑔2 (ln𝐺𝑡𝑝𝑖 ) + 𝛾𝑙2 (ln𝐿𝑡𝑝𝑖 )2 + (4.4) 𝛾𝑘 2 (ln𝐾𝑡𝑝𝑖 )2 + 𝛾𝑔𝑙 ln𝐺𝑡𝑝𝑖 ln𝐿𝑡𝑝𝑖 + 𝛾𝑙𝑘 ln𝐿𝑡𝑝𝑖 ln𝐾𝑡𝑝𝑖 + 出した農家の前回調査からの経営耕地規模の変化を公表して 𝛾𝑔𝑘 ln𝐺𝑡𝑝𝑖 ln𝐾𝑡𝑝𝑖 + 𝛾𝑑𝑡 𝐷𝑇𝑡 + 𝛾𝑑𝑝 𝐷𝑃𝑝 + 𝛾𝑠 𝑆𝑡𝑝 + 𝜀𝑡𝑝𝑖 いる。本論文では、この構造動態統計に対応し、農家は 5 年 また、CES 型の推定式は、以下のように表すことができる。 ごとに経営耕地規模を選択するものとする。 ln𝑌𝑡𝑝𝑖 = 𝛾0 − 1 −𝛾𝑝 ln{𝛾𝑔 (𝐺𝑡𝑝𝑖 )−𝛾𝑝 + 𝛾𝑙 (𝐿𝑡𝑝𝑖 ) + (1 − 𝛾𝑔 𝛾𝑝 −𝛾𝑝 − 𝛾𝑙 )(𝐾𝑡𝑝𝑖 ) } + 𝛾𝑑𝑡 𝐷𝑇𝑡 + 𝛾𝑑𝑝 𝐷𝑃𝑝 + 𝛾𝑠 𝑆𝑡𝑝 + 𝜀𝑡𝑝𝑖 (4.5) 以上 4 つの関数形を最小二乗法を用いて推定を行った結果が 表 1 である。 図 2 農家の意思決定モデル 農家の経営規模の決定について上記の図 2 のような2段階 表 1 稲作生産関数の推定 VARIABLES <継続に関する説明変数> 総経営耕地面積(10ha) 耕作利潤の現在価値(千万円) 転用待ちの条件付稲作価値-貸出価値(千万円) <規模の選択に関する説明変数> 稲作の作付面積の乖離の絶対値(10ha) 稲作の作付面積(10ha) 稲作の作付面積(10ha)×農家の平均年齢 耕作利潤の現在価値×作付面積(千万円) max[耕作放棄の価値, 貸出の価値] ×稲作の作付面積の減少分(千万円) 2000~2005年の遷移ダミー λ:inclusive value 時点ダミー うに経営規模を選ぶことが考えられるため、耕作から得られ (1) OLS (2) GMM 0.000747*** (2.87e-05) 3.619*** (0.228) -8.970*** (0.685) 0.000781*** (3.95e-05) 4.260*** (0.342) 6.731** (2.721) -0.152*** (0.0573) -3.88e-05 (4.45e-05) 1.48e-06 (2.38e-06) 0.000659 (0.00237) -0.00277*** (0.000864) 0.495*** (0.0430) -0.00212 (0.00397) 0.504*** (0.0403) yes -1.283*** (0.412) -7.81e-05 (5.03e-05) 1.48e-05*** (5.35e-06) 0.00626* (0.00327) 0.0376** (0.0156) 0.398*** (0.0767) 0.00264 (0.00501) 0.407*** (0.0722) yes -4.311 (2.625) 10,842 0.585 -11.03*** (3.291) 10,842 0.510 県ダミー 定数項 Observations R-squared Robust standard errors in parentheses *** p<0.01, ** p<0.05, * p<0.1 る割引現在価値と翌期の稲作作付面積の積を用いる。最後の 説明変数として、経営耕地規模を減少した場合、稲作作付面 積が減少した場合、農家は耕作放棄をしたか農地を貸し出し たかと考えるのが自然である。そこで、稲作作付面積の減少 分に耕作放棄もしくは貸出現在価値の大きい方を乗じる。 また、農地の転用期待収入の影響を受ける、転用待ちの条 件付稲作価値-貸出価値(千万円)、max[耕作放棄の価値, 貸 出の価値] ×稲作の作付面積の減少分(千万円)を内生変数 とした。農地の転用は県内の経済状況、土地需要、所得によ って決まってくると考え、 操作変数として人口密度、 県内 GDP、 平均所得、平均所得の 2 乗を用いた。 6.推定結果 離散選択モデルを推定した結果が表 3 である。(4.5)式を最 小二乗法を用いて推定した結果が(1)である。また、(4.5)式を GMM 推定したものが(2)式である。Durbin–Wu–Hausman (DWH)検定の帰無仮説が棄却され、過剰識別検定の帰無仮説 は棄却されない。以上より本研究で用いた操作変数の妥当性 が示される。 稲作の作付面積が 1%上昇すると、稲作生産も 1%前後上昇 表 2 することが分かる。このことから、稲作産出の増加には作付 面積の拡大が重要であることを示している。多くの推定にお いて稲作用機械が負に有意と直感と異なる結果が得られため、 本章で推定する離散選択モデルに用いる説明変数の作成には、 検定量 P値 検定結果 DWH検定 過剰識別検定 51.6124 0.0000 2.3424 0.3100 転用期待収入の影響がある変数としては、max[耕作放棄の CES 型の生産関数を用いていく。 価値, 貸出の価値]、耕作放棄の価値×稲作の作付面積の減少 4.2. 説明変数について 分であり、これらが着目する変数である。内生性への対処を そこから、農家の離農•継続、規模の選択に与える影響につ いて影響を与える説明変数について説明する。 行った結果、予想と整合的な結果が得られ、以後 GMM 推定 の結果について解釈を行う。 𝑦は、継続するか離農するかの説明変数が含まれる。ここで まず、継続に関する説明変数について結果の解釈を行う。 は、以下の 3 通りの説明変数に着目する。1 つ目としては、 耕作利潤の現在価値については、正に有意と仮説に整合的な 畑や果樹園を含めた総経営耕地面積が大きい農家は継続する 結果が得られた。つまり、稲作からの利潤が大きい場合には 傾向があると考えられるため、総経営耕地面積𝑦𝑔 (10ha)を用い 農家は継続する傾向があると考えられる。転用待ちの条件付 る。稲作からの利潤が大きい場合には農家は継続する傾向が 稲作価値-貸出価値について、有意に正という結果になり、 あると考えられるため、𝑦𝑣 として耕作利潤の現在価値用いる。 転用の期待収入が貸借の現在価値を上回る分だけ、小規模農 また、利潤があれば農家は耕作を行い、負であれば耕作放棄 家であっても 農地貸付による離農を行わず、農業を継続する する場合の現在価値と貸借の現在価値の差分を用いる。なぜ と考える。 なら、転用の期待収入が貸出の現在価値を上回る分だけ、小 規模の選択に関する説明変数として稲作の作付面積の乖離 規模農家であっても 農地貸付による離農を行わず、農業を継 の絶対値については有意に負であることから、現在の規模に 続すると考えるためである。また、農家の継続・離農に影響 残るという選択肢を選びやすいということが言える。これは、 を与える要因としてコントロール変数を用いる。 規模を変更することで発生する追加的なコストのために農家 また、規模の選択に影響を与える説明変数として、以下の は規模を変えないという選択肢を選ぶことを示唆している。 5 つを用いる。1 つ目の変数に規模を変更させることで発生す max[耕作放棄の価値, 貸出の価値] ×稲作の作付面積の減少 る追加的なコストを表す代理変数として𝑥𝑔 として今期と翌期 分については、有意に正であることから農家は耕作放棄もし の稲作の作付面積の乖離の絶対値を用いる。第 2 の変数とし くは農地の貸出を選択肢と捉えて、規模を選択していること て翌期の稲作作付面積を用いる。なぜなら、農家は翌期の稲 が示唆される。 作作付面積を考慮して規模を選択するためである。第 3 の変 数として、翌期の稲作作付面積と現在の期の農家平均年齢を 用いる。この変数からは高齢な農家ほど小さい規模を選ぶこ とが予想されるため、負であることが予想される。第 4 の説 明変数として、農家は稲作から得られる利潤を最大化するよ 表 3 推定結果 VARIABLES <継続に関する説明変数> 総経営耕地面積(10ha) 耕作利潤の現在価値(千万円) 転用待ちの条件付稲作価値-貸出価値(千万円) <規模の選択に関する説明変数> 稲作の作付面積の乖離の絶対値(10ha) 稲作の作付面積(10ha) 稲作の作付面積(10ha)×農家の平均年齢 耕作利潤の現在価値×作付面積(千万円) max[耕作放棄の価値, 貸出の価値] ×稲作の作付面積の減少分(千万円) 2000~2005年の遷移ダミー λ:inclusive value 時点ダミー (1) OLS (2) GMM 0.000747*** (2.87e-05) 3.619*** (0.228) -8.970*** (0.685) 0.000781*** (3.95e-05) 4.260*** (0.342) 6.731** (2.721) -0.152*** (0.0573) -3.88e-05 (4.45e-05) 1.48e-06 (2.38e-06) 0.000659 (0.00237) -0.00277*** (0.000864) 0.495*** (0.0430) -0.00212 (0.00397) 0.504*** (0.0403) yes -1.283*** (0.412) -7.81e-05 (5.03e-05) 1.48e-05*** (5.35e-06) 0.00626* (0.00327) 0.0376** (0.0156) 0.398*** (0.0767) 0.00264 (0.00501) 0.407*** (0.0722) yes -4.311 (2.625) 10,842 0.585 -11.03*** (3.291) 10,842 0.510 県ダミー 定数項 Observations R-squared Robust standard errors in parentheses *** p<0.01, ** p<0.05, * p<0.1 7.1.結論 本研究において、農地の転用期待が存在する事で小規模農 家が滞留し、農地の大規模化が阻害されることを示した。農 地の転用期待収入が小さくなる状況をシミュレートし、農地 の転用期待が低下する事により経営耕地面積が 1.7%〜2.4% 程度向上する事が示された。本研究では、2000 年〜2010 年の という結果が得られたが、長期的な視点で見ると規模の拡大 以下の二通りの状況を考える。 ② 農家数のシェアの推移 2 回の遷移のみしか追ってない事より、約 1.7~2.4%程度向上 6.シミュレーション分析 ① 図 5 7.結論と今後の課題 はさらに進む事が予想される。 2000 年の農地転用売却価格が転用なしの農地価格までの 日本の農業の生産性を上げるためには、農地の転用売却価 中間値まで下がるとした場合 格を農地価格に近づける事が一つの案である。しかし、その 2000 年から農地の転用確率が1/5倍になる場合 ようになることは現状難しいかもしれない。斎藤・大橋(2008) ①についての結果が図 3、②についての結果図 4 である。 の提案のように、そうした政策論議を促すためにも、まずは 以下の結果から小規模農家、特に 0.5ha 以下の農家の減少が 農地の売買価格を詳細に公表していくことが重要であると考 多く見られ、中規模特に 1.0ha~10.0ha の農家が増加するとい える。それにより、農地価格の情報が透明化され、転用期待 う結果が得られた。①、②の状況の場合、平均耕地面積が約 が持つ問題の深刻さを政策の場で共有することができる。 1.7~2.4%の向上が見られた。また、②についての農家数のシ また、転用確率を現状より低くすることによって経営耕地 ェアの推移についての図が図 5 である。やはり小規模農家が 面積の拡大が見られるという結果が得られたことより、転用 10%程度減少し、中規模農家が増えている。①、②の状況に 規制をさらに強める必要があることが示唆される。現状の農 大きな違いは見られなかった。 地転用許可基準は曖昧かつ、違反転用が多くみられる。まず、 万 農 家 数 25 農地転用許可基準を地域のエゴに関わらず共通化するために、 20 農地転用許可事務の運用の適正化を図り、違反転用について 15 10 5 転用期待あり 転用期待なし は、圧倒的に事後許可を行っている現状を変えるべきである。 7.2.今後の課題 本研究では農家の意思決定を集計データの農林業構造動態 0 調査を用いて分析した。農家の意思決定においては、個々の 農家の異質性の影響が強くあると考えられる。また、本研究 では農地の転用期待収入は県内の農家は同じであると仮定を 図 3 万 農地転用売却価格が農地価格までの中間値に低下 そこで、個票データを用いて農家の規模の意思決定を分析す 25 ることで新たな知見が得られると思われる。 20 農 15 家 10 数 5 したが、農地の区分等によっても異なることが考えられる。 8.主要参考文献 転用期待あり [1]斎藤経史・大橋弘(2008) 「農地の転用機会が稲作の経営 転用期待なし 規模及び生産性に与える影響:日本ではなぜ零細農家が滞留 し続けるのか」経済産業研究所(DP-08-J-059) 0 [2]Berry, S. (1994) “Estimating discrete-choice models of product differentiation. Rand Journal of Economics” 25(2):242–262 [3] 神門善久 (1996)「農地流動化、農地転用に関する統計的把 図 4 農地の転用確率が𝟏/𝟓倍になる場合 握」 『農業経営研究』第 34 巻第 1 号(通巻 88 号), 62~71.
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