2:Sensuous Cityの価値評価

2
Sensuous Cityの
価値評価
Generic Cityとの対比における
「居住価値」の検証
HOME'S総研 チーフアナリスト
中山登志朗
出版社を経て、1998年より不動産調査会社にて不動産マーケット分析、知見提供業務を担当。不動産市況分析の専門家として
テレビ、新聞、雑誌、ウェブサイトなどメディアへのコメント提供、寄稿、出演多数。2014年9月より現職。
■ はじめに
建築家および都市計画の専門家として知られるオランダ
味なものにしていく」
ことで、奥行きや感度といった擬人
【1】は、1995 年に出版
のレム・コールハース(1944∼)
化されるべき都市のエモーショナルな側面=今回のテーマ
された著書「S,M,L,XL+」のなかで、ジェネリック・シティ
であるセンシュアス・シティ的アクティビティが、再開発お
(Generic City)という言葉を用いて、地球全体を覆って
よび複合開発という名のもとに画一化された風景として再
いる市場経済とグローバリゼーションの拡大およびそのパ
構築されることによって、徐々に、確実に失われつつあるの
ワーが、効率性、利便性の際限ない追求によって、都市空
かもしれない。効率性と利便性を重視するジェネリック・シ
間の有り様を、特にそのパブリックな空間の成り立ちを変
ティは善悪の判断基準たりえないが、都市の住み心地や個
質させつつあることを、克明かつ淡々とした無機的な描写
性、コミュニティの形成に大きな違いを与えるという意味に
によって示した。
おいて好悪の判断基準となり得るだろう。特に我が国にお
ここでいうジェネリックとは、ジェネリック医薬品と同じ
いては、首都圏をはじめとする各都市圏の中心部および湾
く、あくまでも一般的な、特許や知的所有権に関わらない
岸エリアで建物の超高層化が進み、また 2020 年東京オリ
領域に都市空間とその空間を構成する人間が移行した状況
ンピック・パラリンピック開催前の“街の化粧直し”が相次
を指すと解釈することができる。コールハースの言葉を借
ぐことで、さらなるジェネリック・シティ化の進行可能性が
りれば、
「歴史自体が腹立たしくも価値を半減させ続け(中
あることを指摘しておきたい。
略)
『個性/キャラクター』を果てしなく追い求める雪崩が、
然は然りながら、人はその日常的な行動、都市空間から
大人気のアイデンティティといえども粉々にすり潰し、無意
見ればブラウン運動のようなランダムな動きによって、出会
086
2. Sensuous City の価値評価
●データの概要
2015 年 6月に不動産ポータルサイト
「HOME'S」に掲載された賃貸マンショ
ン(地方圏の一部の行政区ではサンプル数が得られないことからアパートを
含めている)の募集賃料について、築 9 年以上11年未満の物件を対象とし
て、今回掲出された行政区単位で平均賃料を算出し、シングル向けは25㎡
換算、ファミリー向けは 50㎡換算して掲出。賃料は月額、単位/円。10 円
以下は四捨五入して表記している。
また、今回掲出された全 134 行政区について便宜上、総合順位の上位:1位
∼45位、中位:46位∼90 位、下位:91位∼134位に区分し、参考データと
してランクごとの平均賃料を算出した。
【 1】 レム・ コールハースは 、 建 築 設 計
事務所O M A(Office for M etropolitan
Architecture)を主宰しており、福岡の「ネ
クサス・ワールド」内の分譲住宅であるレ
ム棟およびコールハース棟の設計者として
1992 年に日本建築学会賞を受賞している
ことでも知られる。OMA出身者には、新国
立競技場を設計した脱構築主義建築家のザ
ハ・ハディッドがおり、日本との因縁も浅か
らぬことが窺われる。
い、別れを繰り返し、また議論し会食し、その他にも多く
したがって、今回の試みにはそれ自体のボラティリティが
の活動を行うことによって、結果的に“都市の個性を形成
小さく
(粘着性)
、景気変動から遅れて緩慢に動く
(遅効性)
する要素”を醸成し続けている。今回、センシュアス・シティ
性質を有する賃料がより適当である。また、一般に都市圏
(コールハースが問題提起するために概念化したジェネリッ
においては、利便性の高い都心ほど賃料が高く、都心から
ク・シティとは或る意味で対極に位置する言葉である)をラ
の距離・通勤時間が延びるに従って賃料が下がる傾向があ
ンキングする試みにおいては、その都市の個性を形成する
る。不動産市場のこの特性は、賃料水準が、エリアのジェ
人間の行動が数量化された結果と見ることもできるが、で
ネリック的な価値を一定程度反映するという仮定が可能で
はそのセンシュアス・シティの都市機能および実際の住み
ある。
心地を、何かの指標によって推し量ることは可能だろうか。
以上のような判断から、本稿ではセンシュアス・シティ・
何らかの理由によって特定のエリアに住みたいという好
ランキングと賃料水準との整合性を検証した。賃料は、地
悪の判断指標たり得るのは、一般的に分譲および賃貸住
域によって固有の相場が比較的大きく異なるため、ここで
宅の流通価格あるいは賃料である。ただし、分譲住宅の
は便宜的に、東京 23 区および東京 23 区以外の首都圏、
流通価格は景気変動に基づく買い進み、もしくは売り惜し
近畿圏に区分して、エリア内センシュアス・シティ・ランキ
みなどの影響を受けて価格のボラティリティが拡大すると
ングと賃料水準の比較を試みた。
いう側面がある(2015 年のマンション流通市況はまさしく
価格のボラティリティが拡大する時期と見ることができる)
。
087
1
首都圏/東京 23 区
(対象行政区:23)
東京 23 区は、わが国で最も「ヒト、モノ、カネ」が集中
表1:首都圏/東京 23 区
築10 年賃貸マンションの平均賃料(単位:円)
するエリアであり、当然の帰結として人が“都市の個性を
形成する要素”を最も活発に醸成し続けるエリアでもある。
人口の絶対数が多く(東京都によれば 2015 年 5月1日現
エリア内
順位
行政区名
シングル向け賃料
(25㎡換算)
ファミリー向け賃料
(50㎡換算)
189,400
1
文京区
127,900
在の推計で約 920万人、都下は約 415 万人に留まる)
、サー
2
目黒区
122,300
179,600
ビスも極めて高い水準を維持しており、まさしくセンシュア
3
台東区
78,700
160,400
ス・シティとして出会いやエンタテインメントを演出・提供
4
品川区
107,900
168,900
する“装置”が万遍なく整っているといえる。
5
港区
138,800
207,700
全国 1位に輝いた「文京区」を始め上位には東京 23 区
6
千代田区
137,600
229,500
7
渋谷区
128,600
202,600
8
荒川区
77,600
166,900
9
葛飾区
80,100
157,300
の 56.5%に相当する13 区がランクインしている。全 134
行政区に占める上位の割合も9.7%に達し、センシュアス・
シティの好例が東京 23 区内に多数存在していると言って
10
江戸川区
115,000
163,700
良い。
11
世田谷区
130,700
213,500
これら東京 23 区の総合順位に対して、シングル向け(25
12
豊島区
87,100
161,100
㎡換算)およびファミリー向け(50㎡換算)の賃貸マンショ
13
中央区
123,400
197,800
ン月額平均賃料を算出すると表1のようになる。いずれの
14
中野区
113,400
189,400
行政区も、ジェネリック・シティの必須要素とも言えるニー
ズと利便性の高さに応じて賃料は高めに設定されており、
15
練馬区
90,500
171,200
16
江東区
86,400
158,200
17
大田区
86,600
147,900
18
足立区
72,700
169,400
ティの指標たり得る賃料においても高水準を維持している
19
新宿区
110,400
183,200
ことが明らかである。つまり、東京 23 区においてはセンシュ
20
杉並区
109,200
180,800
アス・シティの条件とジェネリック・シティの条件が両方揃っ
21
北区
94,400
151,700
ているエリアが多数あることになる。
22
墨田区
67,700
162,600
23
板橋区
90,000
161,300
センシュアス・シティの代表的なエリアがジェネリック・シ
ただし、センシュアス・シティ・ランキングとシングル向
け賃料のランキングを比較すると、東京 23 区でも、傾向
としては「よりセンシュアス的」なエリアと「よりジェネリッ
が可能になる。
ク的」なエリアに大別することができる。単純比較するこ
一例を挙げれば、センシュアス・シティNo.1の文京区は
とは避けなければいけないが、生活利便性および交通利便
23 区内の賃料ランキングでは 5 位に留まり、飲食や人との
性と賃料水準に高い相関性があることを前提とすると、こ
出会い、娯楽、環境的な要素が様々充実していることと
こに掲出された行政区が相対的にセンシュアス的であるか、
比較すると、シングル向け月額平均賃料127,900 円は相
それともジェネリック的であるかを判断する目安とすること
対的に安価に設定されているように見える。反対に、港区
088
2. Sensuous City の価値評価
は東京 23 区で 5 位、総合順位でも10 位のセンシュアス・
24.5%低下)であり、基本的には利便性が高いこと=ジェ
シティではあるが、賃料は東京 23 区で最も高い月額平均
ネリック的であることと、飲食や人との出会い、娯楽、環
138,800 円に達しており、賃料水準との関わりにおいて文
境的な要素が様々充実していること=センシュアス的であ
京区と比較すれば、港区は多少「ジェネリック的」
、つまり
ることとは、都市の見立てのアプローチは正反対であって
これまで列挙してきたセンシュアス・シティの要素よりも賃
も、矛盾する概念ではないことが改めて認識できる。
料水準に代表される利便性や効率性という要素・側面がや
や強く訴求されていることになる。
表1-2:首都圏/東京 23 区
「センシュアス的」シティと「ジェネリック的」シティ
同様に、センシュアス・シティ・ランキングとシングル向
エリア内
順位
シングル向け賃料
(25㎡換算)
行政区名
行政区名
1
文京区
港区
2
目黒区
千代田区
137,600
3
台東区
世田谷区
130,700
賃料ランキングよりもセンシュアス・シティ・ランキングが高
4
品川区
渋谷区
128,600
く、
「センシュアス的」な要素が強いエリアと見ることができ、
5
港区
文京区
127,900
反対に港区、千代田区、渋谷区、江戸川区などはどちらか
6
千代田区
中央区
123,400
といえば「ジェネリック的」なエリアと見ることができる。も
7
渋谷区
目黒区
122,300
ちろん、上記の通り東京 23 区ではセンシュアス・シティと
8
荒川区
江戸川区
115,000
9
け賃料のランキングを比較し、順位の変動を矢印で示した
のが表1-2で、行政区ごとの「特性」をイメージとして把握
することができる。文京区、目黒区、台東区、品川区などは、
ジェネリック・シティ双方の条件が揃っているエリアが多数
あるのだが、特に台東区、葛飾区、荒川区などはセンシュ
138,800
葛飾区
中野区
113,400
10
江戸川区
新宿区
110,400
杉並区
109,200
107,900
11
世田谷区
アスな要素が様々充実していて
「楽しく、ヒューマニスティッ
12
豊島区
品川区
クに生活する」ことを重視したい向きには、比較的安価な
13
中央区
北区
94,400
生活コストで居住することができる魅力的なエリアとなる。
14
中野区
練馬区
90,500
一般論として、下町で人と人との距離が近く、決して上品
15
練馬区
板橋区
90,000
とは言えないイメージがあったとしても、人情の機微に触れ
16
江東区
豊島区
87,100
つつ地域コミュニティに参画できるエリアは「住みやすい」
もしくは「住んで楽しい」という、経済的側面とは異なる価
17
大田区
大田区
86,600
18
足立区
江東区
86,400
19
新宿区
葛飾区
80,100
20
杉並区
台東区
78,700
なお、東京 23 区内でセンシュアス・シティの上位にラン
21
北区
荒川区
77,600
クインした行政区のシングル向け平均賃料は111,200 円
22
墨田区
足立区
72,700
なのに対して、中位の行政区では 95,600 円(上位平均
23
板橋区
墨田区
67,700
値のあるエリアと認識する蓋然性が高まると言えるのだろう。
に対して14.0%低下)
、下位の行政区では 84,000 円(同
089
2
首都圏/東京 23 区以外
(対象行政区:45)
東京 23 区をコアとする首都圏では、その周辺である都
ク的都市構成要素である交通および生活利便性が東京 23
下、神奈川県、千葉県、埼玉県において東京 23 区とは対
区と比較してやや劣ることが、センシュアス的な要素にも
照的な結果となっている。
ややネガティブに影響している可能性が窺われる。
すなわち、センシュアス・シティの上位占有率は東京 23
東京 23 区以外の首都圏でランキングが最も高いのは
区では過半を超える 56.5%に達するが、周辺エリアでは
総合順位第 3 位の武蔵野市である。
「住みたい街ランキン
20.0%で、反対に下位が42.2%を占めている。ジェネリッ
グ」で毎回1位となる吉祥寺に代表される人気エリアであり、
表 2-1:首都圏/東京 23 区以外
築10 年賃貸マンションの平均賃料(単位:円)
シングル向け賃料
(25㎡換算)
エリア内
順位
行政区名
1
武蔵野市
141,300
205,700
24
町田市
2
横浜市保土ヶ谷区
128,200
184,400
25
東京都下その他
3
八王子市
112,300
150,900
26
川崎市
4
昭島市
5
横浜市中区
6
7
ファミリー向け賃料
(50㎡換算)
エリア内
順位
行政区名
シングル向け賃料
(25㎡換算)
ファミリー向け賃料
(50㎡換算)
107,200
135,500
71,400
154,200
112,500
183,300
91,700
127,400
27
横浜市戸塚区
125,800
162,000
104,400
158,100
28
横浜市金沢区
126,300
189,200
青梅市
70,400
136,500
29
多摩市
131,600
172,300
府中市
104,200
165,400
30
国立市
104,300
167,100
8
横浜市港北区
123,000
176,800
31
東大和市
76,900
120,500
9
横浜市鶴見区
131,000
190,400
32
立川市
105,600
165,500
10
あきる野市
73,400
117,000
33
さいたま市
78,500
145,600
115,200
131,600
34
千葉市
72,100
131,100
96,100
122,700
35
東村山市
162,000
36
横浜市泉区
11
横浜市栄区
12
稲城市
13
横浜市青葉区
132,000
113,600
151,900
68,500
122,400
14
小金井市
125,900
166,100
37
相模原市
106,900
163,300
15
横浜市西区
92,400
178,600
38
国分寺市
130,000
185,000
16
東久留米市
96,000
154,200
39
日野市
109,600
143,700
84,400
173,900
40
横浜市緑区
120,400
152,800
100,800
164,700
41
小平市
125,500
159,400
17
横浜市都筑区
18
西東京市
19
横浜市神奈川区
116,900
171,200
42
横浜市瀬谷区
122,100
153,300
20
三鷹市
138,900
199,500
43
横浜市磯子区
73,400
153,300
21
調布市
122,200
192,200
44
横浜市南区
77,500
133,500
22
狛江市
119,500
186,300
45
横浜市旭区
114,100
171,300
23
横浜市港南区
134,200
184,200
090
2. Sensuous City の価値評価
利便性と様々なアクティビティがバランス良く整うという点
表 2-2:首都圏/東京 23 区以外
「センシュアス的」シティと「ジェネリック的」シティ
では、都心と比較しても遜色がない。
また上位および中位には東京都下および神奈川県の行
シングル向け賃料
(25㎡換算)
エリア内
順位
行政区名
行政区名
1
武蔵野市
武蔵野市
141,300
2
横浜市
保土ヶ谷区
三鷹市
138,900
政区のみが登場し、さいたま市および千葉市は下位にラン
クされている。ベッドタウンとしての生活および交通利便性、
居住環境やインフラの整備による居住快適性は確実に向上
横浜市
港南区
横浜市
青葉区
134,200
3
八王子
にするアクティビティは、都市圏中心部と比較すると多様
4
昭島市
性がやや不足している可能性がある。
5
横浜市中区
多摩市区
131,600
6
青梅市
横浜市
鶴見区
131,000
東京 23 区以外の首都圏は行政区が多いため、便宜上、
7
府中市
国分寺市
130,000
上位から25 番目までの主要行政区のセンシュアス・シティ・
8
横浜市
港北区
横浜市
鶴見区
横浜市
保土ヶ谷区
横浜市
金沢区
10
あきる野市
小金井市
125,900
11
横浜市栄区
横浜市
戸塚区
125,800
12
稲城市
小平市
125,500
13
横浜市
青葉区
横浜市中区
124,400
123,000
しているものと考えられるが、都市型生活をより豊かなもの
ランキングとシングル向け賃料のランキングを比較した。
9
東京 23 区同様にセンシュアス的なエリアとジェネリック
的なエリアに大別できるが、例外的に武蔵野市だけはセン
シュアスなアクティビティとジェネリックな利便性のバラン
スが保たれていて、都心でも類を見ない独自の生活圏・文
化圏を有していて、
「住みたい街No.1」としての根拠たり得
132,000
128,200
126,300
るバランスの良さが表れている。
14
小金井市
横浜市
港北区
対照的なのは隣接する三鷹市で、センシュアス的な要素
15
横浜市西区
横浜市西区
122,400
は武蔵野市を大きく下回るが、シングル向け賃料は武蔵野
16
東久留米市
調布市
122,200
市をわずかに下回る高い水準となっており、三鷹市は良好
17
横浜市
都筑区
横浜市
瀬谷区
122,100
な生活および交通利便性を反映した賃料水準の高さが訴
18
西東京市
横浜市緑区
120,400
求される、ジェネリック的な要素が強いエリアであることを
19
横浜市
神奈川区
狛江市
119,500
示している。同様に横浜市青葉区、鶴見区、小金井市など
は相対的にジェネリック的なエリアと考えられ、横浜市保
土ヶ谷区、中区、港北区、神奈川区など横浜市中心部を
116,900
20
三鷹市
21
調布市
22
狛江市
東村山市
113,600
23
横浜市
港南区
横浜市栄区
113,200
24
町田市
川崎市
112,500
25
東京都下
その他
八王子
112,300
含む一帯にはセンシュアス的エリアが多く存在している。
091
横浜市
神奈川区
横浜市
旭区
114,100
3
近畿圏/主要都市
(対象行政区:26)
近畿圏主要都市のセンシュアス・シティ・ランキングに
表 3-1:近畿圏/主要都市
築10 年賃貸マンションの平均賃料(月額賃料 単位:円)
は極めて明確な特徴があり、大阪市北区および西区、中
エリア内
順位
央区のランキングが突出して高いのに対して、これら大阪
市中心部以外のエリアは順位が下位に集中するという“二
行政区名
シングル向け賃料
(25㎡換算)
ファミリー向け賃料
(50㎡換算)
1
大阪市北区
90,900
137,400
極化”現象が示されている。これは首都圏における東京
2
大阪市西区
87,700
126,100
23 区と周辺エリアとの関係性に酷似しており、地域に寄ら
3
大阪市中央区
93,100
138,700
ず、都市圏の中心部ではセンシュアス・シティとして出会い
4
大阪市都島区
74,200
129,100
やエンタテインメントを演出・提供する環境が整っているこ
5
京都市
79,400
147,100
との証明と言える。ただし、首都圏は都市形成基盤が極め
6
大阪市阿倍野区
82,900
128,200
て大きいため、東京 23 区と周辺エリアという対比になるが、
7
大阪市
(福島区/此花区)
71,100
137,600
近畿圏では大阪市中心部(および京都市)とそれ以外のエ
8
大阪市住吉区
88,600
128,600
9
大阪市住之江区
79,200
141,000
10
神戸市
85,600
143,900
リアという対比になって表れる。シングル向けおよびファミ
リー向け賃貸マンションの賃料がランキング上位に登場す
る大阪市中心部の各行政区で高水準を維持していることか
らも、これら大阪市中心部は東京 23 区と同様に、センシュ
11
奈良市
74,200
121,000
12
大阪市港区
82,800
149,300
91,500
144,100
13
大阪市旭区
アス的な要素とジェネリック的な要素がバランス良く整って
14
大阪市平野区
77,200
124,300
いることがわかる。
15
和歌山市
70,300
113,800
上位の占有率は 34.6%で、近畿圏の1/3 の行政区がセ
16
大阪市西淀川区
82,600
131,100
ンシュアス・シティ・ランキングの上位に入っているが、大
17
大阪市淀川区
82,900
127,600
18
大阪市東淀川区
88,400
127,400
阪市港区以降、57.7%と過半を超える行政区が下位に登
場している。中位には神戸市と奈良市を数えるのみであっ
た。これは、大阪市中心部からわずかに離れただけで、セ
19
大阪市東成区
69,600
139,800
20
大阪市生野区
80,400
123,800
21
大阪市鶴見区
52,600
112,600
80,900
134,600
77,200
118,600
ンシュアス的な要素が大きく変化することを意味している。
22
しかし、上位にランクインした行政区のシングル向け平均
賃料は 80,600 円、中位は 89,900 円、下位は 81,100 円
大阪市
(天王寺区/
浪速区/大正区)
23
堺市
と大きな差異が発生しておらず、この点では近畿圏の各行
24
大阪市東住吉区
91,800
126,800
政区の特性としてセンシュアス的であることと、賃料水準
25
大阪市城東区
79,000
134,200
=ジェネリック的であることとの相関性はほぼ認められない
26
大阪市西成区
69,300
103,900
という結果となった(ファミリー向け平均賃料を比較しても
上位:132,600 円、中位:132,500 円、下位:128,800
円と明確な差異は発生していない)。近畿圏は、全体とし
092
2. Sensuous City の価値評価
ては交通利便性などの効率性要素とセンシュアス的なアク
表 3-2/近畿圏主要都市
「センシュアス的」シティと「ジェネリック的」シティ
ティビティの要素に、東京 23 区のような明確な相関性が
エリア内
順位
見られないという点に大きな特徴があると言えるだろう。
対象となった近畿圏 26 行政区のセンシュアス・シティ・
ランキングとシングル向け賃料のランキングを比較して
も、賃料水準にボラティリティの大きさが認められないた
め、結果的にはわずかな差異がセンシュアス的であるかジェ
行政区名
1
大阪市北区
京都市
97,400
2
大阪市西区
大阪市中央区
93,100
3
大阪市
中央区
大阪市
東住吉区
91,800
4
大阪市都島区
大阪市旭区
91,500
京都市
大阪市北区
90,900
大阪市
阿倍野区
大阪市
大阪市
住吉区
大阪市
東淀川区
5
ネリック的であるかを分けることとなった。大阪市中心部
6
の賃料は高水準を維持しているが、京都市や大阪市東住吉
7
区、東淀川区などでもほぼ同水準もしくはそれ以上の水準
シングル向け賃料
(25㎡換算)
行政区名
(福島区/此花区)
88,600
88,400
8
大阪市住吉区
大阪市西区
87,700
9
大阪市
住之江区
神戸市
85,600
10
神戸市
大阪市
阿倍野区
82,900
いエリアを擁する大阪市北区は、センシュアス的な要素が
11
奈良市
大阪市淀川区
82,900
近畿圏で最も高いわりに、生活効率=ジェネリック的要素
12
大阪市港区
大阪市港区
82,800
である賃料水準が相対的に低く、近畿圏で最もセンシュ
13
大阪市旭区
大阪市
西淀川区
82,600
アス的なエリアと見ることができる。大阪市西区、都島区、
14
大阪市
平野区
大阪市(天王寺区
/浪速区/大正区)
80,900
阿倍野区、福島区および此花区なども同様の傾向が認めら
15
和歌山市
大阪生野区
80,400
れ、大阪市中心部および周辺エリアのセンシュアス・シティ
16
大阪市
西淀川区
大阪市
住之江区
79,200
としての特性が浮き彫りになっている。一方、京都市、大
17
大阪市淀川区
大阪市城東区
79,000
阪市中央区、神戸市などはわずかながらジェネリック的な
18
大阪市
東淀川区
大阪市平野区
77,200
要素が強くアピールされているようだ。
19
大阪市東成区
堺市
77,200
20
大阪市生野区
大阪市都島区
74,200
21
大阪市鶴見区
奈良市
74,200
22
大阪市(天王寺区
/浪速区/大正区)
和歌山市
70,300
23
堺市
大阪市東成区
69,600
24
大阪市
東住吉区
大阪市西成区
69,300
となっており、上述の通りエリアのセンシュアス的な違いが
ジェネリック的差異にははっきりと結びついていない。
それでも梅田や北新地など大阪市内で最も繁華性が高
093
25
大阪市城東区
26
大阪市西成区
大阪市
(福島区/此花区)
大阪市鶴見区
61,100
52,600
■ さいごに
今回、
都市のエモーショナルな側面=センシュアス・シティ
市に居住する楽しさ」は「価値」と同時に存在することにな
としての要素と、都市の利便性および効率性=ジェネリッ
り、センシュアス・シティとジェネリック・シティとは見立て
ク・シティとしての要素の対比を通じて、
「都市に居住する
が正反対であるだけで、相容れない概念ではない。それを
楽しさと価値」を検証した結果、
実際に示しているのが、今回の調査でランキングの最上位
1. 都市圏の中心部である東京都心部と大阪市中心部、
に登場する文京区であり、大阪市北区であり、武蔵野市で
および居住エリアとして非常に人気の高い武蔵野市などは
あるということになる。
センシュアス的要素とジェネリック的要素がバランス良く
したがって、都市が都市として、またセンシュアス・シティ
整っており、都市に居住し生活するためのアクティビティと
として存在するためには、前提としてジェネリック的な要素
利便性=居住価値がともに高い
である効率性や利便性が必要であるとの結論が導かれるの
2. 首都圏および近畿圏といった大都市圏の郊外では、
であり、カオス理論における初期値鋭敏性のごとく、わず
都市圏中心部との対比において、概ねセンシュアス的要素
かな利便性(この項では賃料で示した)の違いが、都市の
よりもジェネリック的要素が強く訴求されるエリアが多い
居住性やセンシュアス・シティとしてのアクティビティの違
3. 東京下町の台東区、荒川区、葛飾区、横浜市保土ヶ
いに表れることになる。
谷区など、一般に穴場と言われるようなエリアでは、ジェネ
また、都市圏の中心市街地ではジェネリック要素が増え
リック的要素(賃料水準)に比べて、センシュアス要素が
ることで事業集積と人口集積が進み、センシュアスな要素
高い傾向が共通してみられる
も並行して増えるが、対照的に都市圏の郊外ではジェネリッ
4.(今回の分析には含めなかったが参考までに)人口規模
ク要素が増えて利便性が向上することが、必ずしも事業集
が小さい地方都市ではセンシュアス的要素とジェネリック
積と人口集積には直結しないので、センシュアスな要素も
的要素の相関性は失われ、特に生活圏・文化圏としての独
増えるとは限らない。むしろ、ジェネリック要素が増加して
自性が強調されるエリアが、センシュアス・シティの上位に
均質化してしまうことで、センシュアス要素がエリアから失
登場している。特に、金沢市、福岡市、仙台市、京都市
われ、個別性を没してしまう結果を招く可能性が高まって
などはセンシュアス的要素とジェネリック的要素がバランス
おり、それが順位に反映しているとも言えるだろう。したがっ
良く整っている
て、例えば川越のように、観光資源としても活用される景
といういくつかの特徴が示された。
観や伝統的な産業などを保護・保全するエリアを設け、エ
冒頭述べたように、レム・コールハースはジェネリック・
リア内でのジェネリック的な要素の導入に濃淡をつけるこ
シティを「中心の束縛、アイデンティティの拘束から解放さ
とで固有の地域性を維持する意識が高まれば、都市圏郊
れた」利便性と効率性が優先されるエリア、大量生産され
外においても、センシュアス的要素とジェネリック的要素
均質化される複製都市として表現しており、センシュアス・
のバランスを取ること=都市の奥行きを維持することが可
シティの対極にある概念としてその痛烈な批判には傾聴す
能になる。地方圏における拠点性の高い都市(人口が一定
べき指摘が数多く含まれているが、実際には生活効率や利
のパイを維持する前提で)のなかでも、独自性の強いエリ
便性が高いエリアは安定や快適性を伴うこともあって「楽し
アがセンシュアス・シティの上位にランクされ、都市の奥行
さ」とは別に「経済的価値」が認められることは衆目の一致
きを示すことに成功していることを見ても、郊外エリアでの
するところである。また、生活効率や利便性が高いエリア
こういった「仕掛け」が奏効する可能性が期待される。
は「ヒト・モノ・カネ」を呼び込むこととなるため、必然的
センシュアス・シティとしての居住価値は、経済的価値と
にアクティビティも充足し、都市にセンシュアス的な要素が
は別に、また同時に存在するものであり、利便性や効率性
増える結果を招く。そのことがさらに「ヒト・モノ・カネ」を
と都市のアクティビティとは重層するものとして、都市に住
呼び込む拡大再生産的な活動につながるのだとしたら、
「都
む楽しさや本来有する価値を顕在化し続けているのである。
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