遮断 TM モードを利用した左手系導波路の構成に関する研究

平成 26 年度
電子通信工学領域
修 士 論 文 要 旨
6625047 水谷 夕貴
遮断 TM モードを利用した左手系導波路の構成に関する研究
1 まえがき
左手系導波路は, その特異な伝搬特性により
多くの研究者の関心を惹きつけ, 様々な導波路
系について研究が進められている. 導波管系の
左手系としては, 矩形導波管の遮断 TE10 モード
を利用した構成法が提案されている[1][2].
また, 遮断 TM モードを利用した左手系導波
路が提案されている[3]. TM モードが遮断周波数
以下の状態になれば, 実効的に負の透磁率特性
を示すことから, これに並列インダクタンスを
装荷することによって, 負の誘電率を発現させ
て左手系線路が実現する.
本論文では, 遮断 TM モードを利用した左手
系方形導波路の構成を試みている. TM11 モード
は放射状に電界の広がる対称モードであるが,
スタブを用いて並列にインダクタンスを装荷す
ることで左手系導波路になることを示す. 数値
計算例として, 分散特性と散乱パラメータの周
波数特性を示す.
2 構成原理
一般に金属導波管は, 遮断周波数以下では,
TE モードは実効誘電率が, TM モードは実効透
磁率が負の一次元波動(非伝搬)とみなせる. す
なわち, それぞれ並列に L, 直列に C が分布した
伝送線路と等価になる. したがって, TE モード
では直列に C を, TM モードでは並列に L を周期
装荷すれば左手系伝搬特性の実現を期待できる.
このことから, 左手系線路を構成できることを
等価回路的に説明する.
2.1 遮断 TE モードによる左手系線路
図 1(a)は, TE モード導波管等価回路とその両
端に直列キャパシタンスを接続した状態を表し
ている. TE モード導波管等価回路は, 右手系伝
送線路に相当する直列の LR と並列の CR に, 並列
の LL が装荷された状態で表現され, TE モード遮
断周波数は LL と CR の共振周波数により決まる
が, 遮断領域では, CR より LL 成分が優勢になる
ことから非伝搬になると解釈できる. したがっ
て, これに何らかの方法で直列キャパシタンス
を付加すれば左手系線路になることが期待でき
る. すなわち, 遮断 TE モード導波管に図 1(a)中
の CL で表わされるような直列キャパシタンスを
別途装荷すれば, 直列 CL と並列 LL で左手系線路
が構成されると期待できる.
2.2 遮断 TM モードによる左手系線路
図 1(b)は, TM モード導波管等価回路とその両
端に並列インダクタンスを接続した状態を表し
ている. TM モード導波管等価回路は, 右手系伝
送線路に相当する直列の LR と並列の CR に, 直列
の CL が装荷された状態で表現され, TM モード遮
断周波数は LR と CL の共振周波数により決まる
が, 遮断領域では, LR より CL 成分が優勢になる
ことから非伝搬になると解釈できる. したがっ
て, これに何らかの方法で並列インダクタンス
を付加すれば左手系線路になることが期待でき
る. すなわち, 遮断 TM モード導波管に図 1(b)中
の LL で表わされるような並列インダクタンスを
別途装荷すれば, 直列 CL と並列 LL で左手系線路
が構成されると期待できる.
LR
CL
CR
LL
TE mode waveguide series capasitance
(a)
LR
CL
CR
TM mode waveguide
LL
parallel inductance
(b)
図 1 導波管型左手系線路の等価回路 (a)TE
モード導波管等価回路+直列キャパシタンス
(b) TM モード導波管等価回路+並列インダクタ
ンス
3 数値計算
図 2 に, 遮断 TM モードを利用した左手系方形
導波路の構造を示す. 中空の方形導波管(幅 b1,
高さ a1 の長方形導波管)にストリップ導体を各側
壁の中央に配置した構造である. ストリップ導
体は幅 a2, 奥行き b2, 厚さ h の金属とする. スト
conductor
2p
a1
a2
b2
h
strip conductor
b1
図 2 遮断 TM モードを利用した左手系導波路
電界
磁界
図 3 TM11 モード電磁界分布
0
βp (rad)
π/4
π/2
24
3π/4
Frequency (GHz)
a1=18.0mm
b1=9.0mm
a2=7.0mm
b2=8.0mm
p=10.0mm
h=0.3mm
LH mode
16
π
βp
αp
RH mode
20
12
0.0
0.5
1.0
1.5
αp (Np)
2.0
2.5
3.0
図 4 遮断 TM モード左手系導波路の分散特性
0
|S11|,|S21| (dB)
リップ導体は周期 p の間隔で繰り返して配置さ
れる. 図 3 は TM11 モードの電磁界分布を示して
おり, 放射状に広がる対称モードである. これ
に, 図 2 に示すようなストリップ導体を中心部
付近と外周部の間に装荷することで並列に素子
が接続された状態となり, これがインダクタン
スとなるように調整することで左手系導波路が
構成できる.
本論文では, 方形導波管寸法として, 幅
b1=18.0mm, 高さ a1=9.0mm を仮定する. これは,
TM11 モードの遮断周波数が 18.6GHz, TE10 モー
ドの遮断周波数が 16.7GHz となる場合である.
ストリップ導体の厚さを h=0.30mm に固定して,
導体寸法 a2, b2 およびセル周期 p を調整して左手
系線路を構成した. このときの分散特性を図 4
に示す. 実線は, 位相定数×周期 βp(rad), 破線は
減衰定数×周期 αp(Np)を表している. 12.7GHz か
ら 17.4GHz で左手系モード, 21.8GHz 以上で右手
系モードとなる分散特性が得られている.
次に単位構造を 12 周期接続して, 散乱パラメ
ータの周波数特性を計算した. 本構造は, 同軸
で励振することで TE10 モードを抑圧し, TM11 モ
ードを得る. このときの散乱パラメータの周波
数特性を図 5 に示している. 分散特性に対応し
て 12.7GHz から 17.4GHz に左手系モードの通過
特性, 21.8GHz 以上に右手系モードの通過特性が
確認できる.
5 結論
本論文では, 遮断 TM モード, および遮断
TE・TM モードを利用した左手系導波路の設計
について検討した. 導波管の TE モードが遮断周
波数以下の状態になれば, 実効的に負の誘電率
が発現すること, および導波管の TM モードが
遮断周波数以下の状態になれば, 実効的に負の
透磁率が発現することを波動インピーダンスの
観点から説明した. そして等価回路を用いて,
遮断 TM モード導波管で左手系モードの伝搬を
実現するには, 並列インダクタンスの装荷が必
要であること, 遮断 TE モード導波管と遮断 TM
モード導波管を交互に接続することで左手系モ
ードの伝搬を実現することを明らかにした.
参考文献
[1] 多 恵 馬 , 真 田 , 久 保 , 2008 年 信 学 総 大 ,
C-2-74, 2008.
[2] 池内, 太田, 岸原, 河合, 松本, 2010 年信学
総大, C-2-104, 2010.
[3] 岸原充佳, 太田勲, “遮断 TM モードを利用
した左手系円形導波路の構成法~円形 TM01
モードおよび方形 TM11 モードの利用~,”
信 学 技 報 , MW2013-65, pp. 109-114, July.
2013.
S21
-10
-20
-30
-40
10
S11
15
20
Frequency(GHz)
25
図 5 遮断 TM モード左手系導波路の
散乱パラメータの周波数特性(12 周期接続)
.