FinTech 産業を巡る日本の法的課題 早稲田大学教授

FinTech 産業を巡る日本の法的課題
早稲田大学教授
久保田隆
はじめに
先行する英米に続き、日本でも IT 分野における金融の新規事業(startup)を指す FinTech(Finance
と Technology をかけた造語)が注目され、様々なビジネスが続々と立ち上がっている。FinTech の健
全な発展に向けた法整備は如何にあるべきか。まず破壊者と法のせめぎ合いについて隣接分野の実例
(UBER, Airbnb)と FinTech の実例(SPIKE, Bitcoin)を紹介した後、FinTech 産業を巡る日本政府(金
融庁、経済産業省、総務省)の対応を紹介し、法的課題を指摘したい。以下は法的課題の一例である。
1.金融業の IT 事業への参入
金融庁は現在、金融グループの IT 戦略の観点から、Virtual Mall の運営が解釈上認められている米
国のように金融 IT 業への出資・買収を可能にし、電子商取引企業(例:Amazon)が行う決済サービ
スへの出資等を可能にすることを検討している。銀行業は、①証券業など金融他業との垣根と②不動
産業など商業との垣根を前提に制度構築されたが、収益機会を求めて金融他業への進出が認められた
が、長らく商業への進出は閉ざされていた。欧州は銀行と商業は相互に参入可能だが、米国は相互に
参入不可能で、日本は 2000 年以降「インターネット専業銀行」(例:ソニー銀行、楽天銀行)の形
で商業から銀行への参入が容易化されたが、銀行から不動産業への参入が不動産業者の反対で認めら
れなかった。今回、銀行子会社の業務範囲を限定列挙する方式(銀行法 16 条の 2(1))を改めて銀行
から IT 事業への参入が認められれば、従来の銀行業の位置づけを巡る議論を再検討する必要が出て
くる2。
2.電子決済関係法制の課題
FinTech と関係の深い現行法は4つある。第一に、犯罪収益移転防止法(マネーロンダリング規制)
で FATF 勧告に従って法整備を進めてきたが、パレルモ条約(国連国際組織犯罪防止条約)の批准な
ど未達課題も多く、今後も継続的に法改正が必要である。第二に、出資法(預かり金規制)、第三に、
銀行法(為替業務規制)である。第四は資金決済法で、銀行法の為替業務規制を緩和し、届出・登録
し資金保全義務・表示義務・払戻義務を満たせば小口の電子決済ビジネスを営業可能となる。2015
年に法の見直しが予定されており、実務からは 1 回当たり送金限度額(現行 100 万円相当額以下)の
引上げ等が要望されている。
以
上
詳しくは、Takashi Kubota, Chapter III: IT Development and the Separation of
Banking and Commerce: Comparative Perspective of the U.S. and Japan, Takashi
Kubota Ed., Cyberlaw for Global E-Business, Information Science Reference, 2008 参照。
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