札幌市のIT産業振興の取り組み 札幌市経済局産業振興部産業開発課長 1 瀬川 誠 札幌の都市特性と情報産業の立地基盤 札幌は,日本列島の北に位置し,首都圏等の大消費地から遠いとい う「重厚長大型」の製造業の立地には致命的ともいえるハンディキャ ップを負っています。日本の高度経済成長期を通じても,札幌は他の 国内大都市の多くがそうであるような工業都市にはなり得ませんでし た。 しかし,そうした札幌でこそ成り立つ新しい「ものづくり」はない か,札幌市は,都市の産業基盤の確立のための製造業振興の方策を永 く模索してきました。その中で,札幌市は,1980年代から急速に 始まった全国的な「情報化」の流れを積極的に取り込み,情報産業の 振興を産業振興施策の柱としてきました。 札幌は,首都圏等の大消費地から遠い場所ですが,生産される「も の(付加価値)」が知的生産物のように無形・無量のものである場合は, 消費地からの距離は,ハンディキャップにならないはずです。 札幌は,知的生産物を創造する活動に適した場所です。日本の中で は極めて特徴的な冷涼な気候風土のもと,豊かな自然環境に抱かれな がら,人口180万を有する大都市ならではの都市環境も備えていま す。 このような自然環境と都市環境の調和が,コンピュータソフトウェ ア等を生産する情報産業の立地基盤といえます。 2 情報産業振興策のねらい 札幌市は,情報産業を集積し,それにより地域に得られる情報技術 をもって,あらゆる分野の地域の企業活動の合理化,技術の高度化を 進め,もって,商業・サービス業などの第3次産業に大きく傾斜して いる札幌市の産業全体の体質強化を目指しています。 3 これまでの振興策の展開 ○ 第1期(1985年∼1992年) 施策コンセプトは, 「企業の集積・育成」 。 1985年から,全国に先駆けて,研究開発型企業団地「札幌テ クノパーク」を造成・分譲(第1期)するとともに,その中核施設 として「札幌市エレクトロニクスセンター」を設置し,同時に,研 究開発助成等を行う組織として「財団法人札幌エレクトロニクスセ ンター」を設立しました。 また,企業立地と研究開発を促進するための助成制度を創設する など,創業間もない地元のソフトウェアハウス,システムハウスの 集積,育成を図りました。 1988年からは,札幌テクノパークの第2期造成・分譲を実施 し,それまでにテクノパークに集積した地元情報関連企業との連携 や技術移転を狙い,首都圏等のコンピュータメーカーを中心とした 道外大手,中堅企業を誘致しました。 ○ 第2期(1993年∼現在) 施策コンセプトは, 「技術者の交流,企業の技術連携」 。 バブル崩壊以後,時期を重ねるようにコンピュータのダウンサイ ジング化など急激な技術革新が起こり,これに伴うユーザー側のニ ーズも高度化,多様化してきました。 これにより,情報関連企業を取り巻く経営環境は激変し,企業は, 極めて多岐にわたる専門・特化した技術とノウハウを求められるこ とになりました。 そこで,激化する市場競争の中で,比較優位性を確保できる地元 情報関連企業群を確立するため,それぞれの企業が持つ専門的技術 やノウハウを強化し,これらの有機的な連携を目指した施策を展開 することにしました。 ハード面では,1993年に,企業の技術者などが技術交流や情 報交換をコンピュータを通して行えるコンピュータネットワーク機 器群を,また,1996年には,マルチメディア製品開発の本格的 なシステムとして,「デジタル工房」を,札幌市エレクトロニクスセ ンターに整備するなど,高度な技術への対応を図る企業を支援して きました。 ソフト面では,財団法人札幌エレクトロニクスセンターが,産と 学のコーディネーターとなり,次世代の技術テーマについての共同 研究開発を進めるなど,企業連携の強化とその仕組みづくりを進め ています。 4 情報産業の集積を生かした今後の振興策の方向性 市内の情報産業全体でみると,1984年と現在とで比較した場合, 企業数は約2倍の300社,従業員数で約2.8倍の1万1,000 人,売上高は約5倍の1,800億円と,市内の他の製造業と比較し てずば抜けた伸びを示しており,情報産業は,札幌市の基幹産業の一 つとして成長しています。 今後は,これらの情報産業の集積を生かして,さらに札幌に次代の 核となるべき産業を創造・開発を図っていくことにしていますが,札 幌市(産業開発課)としては,今後の地域情報産業の発展・支援の方 向を,次の4つのイメージで考えています。 ○ 情報技術製造業の分野 情報技術そのものを作り,それを売っていく企業群。 引き続いて,財団法人札幌エレクトロニクスセンターが産学官の かなえとしてのコーディネーターになり,次世代の主要な技術テー マを題材に,共同研究開発・広報普及などのプロジェクトを推進す ることにより,支援していこうと考えています。 ○ 情報システム構築・開発サービス業の分野 情報技術を使って,他の産業分野の企業に情報システムを提供し ていく企業群(情報システムの受託開発を行う企業群) 。 本年5月に,市内中心部に「札幌市情報ビジネス支援センター」 を開設(主体は財団法人札幌エレクトロニクスセンター)し,ここ を拠点として,札幌市が情報関連企業と他の分野の企業のつなぎ役 となることにより,支援していこうと考えています。 ○ ITを活用した新たなビジネスの分野 ITを活用して,新しい知的・物的サービスを構築していく企業 群。例えば,電子商取引やコールセンタービジネスなどです。 札幌市では,1998年度から,「電子流通促進事業」をスタート しました。電子商取引の普及促進を図るため,産学官の連携により, 「電子流通促進協議会」を組織しています。この会員企業の中から, 現在,北海道の特産品の販売など3つの電子商取引のプロジェクト が活動しています。 また,札幌の物産等を全国の札幌のファンに売り込んでいくため, 「サッポロ・フューチャー・スクエア」というインターネット上の HPを同協議会の事業として運営しています。 コールセンタービジネスについては,北海道とも連携をとりなが ら,初期投資費用の補助制度,融資制度を設けるとともに,札幌の 強みである「人材」に着目し,その育成事業を本年度から実施して います。 ○ デジタルコンテンツの分野 世の中にある芸術文化資産をITを活用して創造・加工・編集し ていく企業群。 札幌は,北方の新しい芸術文化の創造を目指し,その拠点として 「札幌芸術の森」を建設する一方,デザインやアート等の分野での 優れた人材を養成するため,市立の高等専門学校を設けるなど,い わゆるデジタル・クリエーターを生み出す土壌づくりに積極的に投 資してきました。 この分野は,このような土壌を生かした新しい札幌の産業として ふさわしいものとして,今後,重点的に支援していきたいと考えて います。そこで,市の旧教育研究所施設を改修して,このようなク リエーターのスタートアップ施設として開設しようと考えています。 これは,来年の4月にオープンする予定で,現在,準備中です。 5 地場産業としての情報産業 最近では,札幌駅北口周辺の情報関連企業が中心となって,新しい ビジネスのきっかけづくりを目指す「サッポロ・ビズカフェ」を開設 したり,あるいは,桑園駅前おいて「ITフロントゾーン」としてコ ールセンターと情報関連企業を対象とするITビルの建設が行われる など,民間主導による動きも盛んになってきています。このような動 きを札幌市としてもバックアップしていきたいと考えています。 情報産業は,今や,札幌の地場産業といってよいと考えています。 今後も,経済社会の動向に対応して,あるいはそれを先取りして,地 域の企業群の新たな事業の創造・開発を支援していきたいと考えてい ます。
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