稀発月経、月経周期の延長(経遅)

第5 章
── 婦人科系症状
稀発月経、月経周期の延長(経遅)
(けいち)
本症は、40 日前後の月経周期となり、併せて下記のような身体症状を伴うものを指し、中医
体症状を伴わないものは本章には含まれない。
では経遅あるいは月経後期という。ただし、たまたま月経の間隔が空いただけのものや、他の身
血瘀
経血希薄で暗紅、量は少ない、寒
がる、
下腹部が冷える、
下腹部の下
墜感、腰が冷えてだるい、量が多く
水様の白帯、
小便清長、
下痢など。
月経後半あるいは月経終了後に下
腹部隠痛
(喜按)
、面色萎黄または
淡白で不華、口唇や爪が淡白、不
眠、めまい、
目のかすみ、四肢の痺
れ感など。
舌質−淡、
舌苔−白薄。
脈−沈、
遅など。
舌質−淡。
脈−細弱など。
衝任虚寒
血虚
温経散寒、
調補衝任
養血調経
・経遅。
・月経前や月経期に強い下腹部痛
経血紫暗で量が少なく血塊が混じ
る、
下腹部痛は固定性で、
甚だしい
ときは腹部に腫塊を形成する。
経血暗紅、経量が少なく粘稠、 血
塊に線状物が混じる、粘稠な白帯
または黄帯、浮腫、痰が多い、胸苦
しい、
水分を飲むと吐く、
食欲不振、
頭重、
めまいなど。
経血は暗紅色〜暗黒色で薄くて少
量、血塊が混ざる、面色蒼白、四肢
の冷え、
寒がるなど。
舌質−紫暗、
瘀斑、
瘀点など。
脈−渋など。
または舌脈正常。
舌苔−白膩。
脈−滑など。
舌質−淡暗、
舌苔−白滑。
脈−沈遅、
沈緊など。
血瘀
痰湿阻滞
寒凝胞宮
活血化瘀、
調経
去痰降濁、
調経
温経散寒、
調経
・下腹部の強い痛み
(刺痛あるいは
絞痛)
を伴い、
血塊が多く、
血塊が
排出されると痛みは軽減する。
・手足や陰部、
全身の湿りを伴う。
(絞痛などで拒按)
・痛みは温めると軽減し、冷やした
り腹部を押さえると増強する。
・帰来
(灸頭鍼
(瀉法)
)
、気海
(灸頭
鍼
(瀉法)
)
−温経散寒
・次髎
(瀉法)
−駆邪散滞
肝気欝結、寒邪や熱邪、湿邪など
の停滞による気滞からの波及、
ある
いは外傷、
手術、
悪露の阻滞などが
原因となって瘀血が生じて胞宮に
阻滞するために経遅となる。
脂濃いものや甘いもの、
味の濃いも
のの過食やアルコールの常飲、外
界の湿邪、
月経期に性交する、
ある
いは肝欝気滞から痰湿阻滞を引き
おこすなどによって生じた痰湿が胞
宮に侵入する、
あるいは胞宮の気
機も阻滞させるために経遅となる。
月経期や妊娠期に風寒の邪を感受
したり、冷たいもののを多飲・多食
する、雨に濡れるなどによって身体
を冷やし、
そのために寒邪が胞宮に
侵入し、胞宮の気機を阻滞させる
ために経遅となる。
病因・病機
病因・病機
・豊隆
(瀉法)
−化痰降濁
・気海
(瀉法)
、
中極
(瀉法)
−行気利
水、
通調胞宮
取穴例
取穴例
・太衝
(瀉法)
、
三陰交
(瀉法)
−理気
活血
・気海
(瀉法)
−行気散滞
治法
治法
・経遅。
・経量は少なく淡紅で清稀。
・経遅。
・帯下を伴うことが多い。
弁証
弁証
・経遅。
・月経後半や月経終了後に下腹部
・経遅。
・経色紫暗で血塊が混じる。
舌脈
舌脈
衝任虚寒
随伴症状
随伴症状
寒凝
鑑別点
鑑別点
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痰湿
冷痛
(隠痛、
喜按)
・温めたり押さえると痛みは軽減し、
冷やすと痛みは増強する。
血虚
・関元
(灸または灸頭鍼
(補法)
)
、
腎
兪
(灸または灸頭鍼
(補法)
)
−温
補腎陽
・気海
(補法)
、
帰来
(補法)
−調補衝
任
・血海
(補法)
、
三陰交
(補法)
、膈兪
(補法)
−健脾、
大補営血
・子宮
(補法)
−調補衝任
陽虚の体質、房室過度、若年の出
産、
出産過多などにより気虚が生じ
て胞宮を栄養できないなどから胞
宮の虚寒が生じ、胞宮を温煦でき
なくなるために経遅となる。
脾虚による生血不足、失血過多、
久病、多産による精血の消耗など
のために血虚となると、
血海が充足
できなくなるために経遅となる。
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第5 章
稀発月経、月経周期の延長(経遅)
─ 鑑 別と治 療 のポイント ─
── 婦人科系症状
月経周期が不安定(経乱)
(けいらん)
本症は、月経が正常な周期通りに来潮せず、早すぎたり、遅すぎたりし、併せて下記のような
身体症状を伴うものを指し、中医では経乱、月経先後無定期、あるいは月経紊乱などという。た
だし、絶経期あたりの年代での経乱、あるいは身体症状を伴なわないものは本章には含まれない。
経遅は、血瘀、陰寒内盛(虚寒、実寒)
、痰湿
や湿熱阻滞、血虚によっておこる。
◎寒凝
寒凝によるものは、下腹部の冷痛を伴い、冷え
◎血瘀
ため腹部は拒按となることが鑑別のポイント。
い下腹部痛を程し、血塊が多く、血塊を排泄する
温法を加えるとよいが、実寒証のため鍼の手技は
と下腹部痛は軽減する。また、長く瘀血が阻滞す
すべて瀉法を行う。ただし、下腹部痛、下腹部の
ると下腹部に腫塊を形成することが特徴となる。
拒按が軽減してきたらすべての穴への瀉法は中止
また、口唇が青色や紫色となることもある。
し、補法に切り替えるとよい。温法の併用も効果
的である。
ある。ただし、下腹部痛が軽減する、血塊が減少・
◎衝任虚寒
衝任虚寒によるものは、胞宮自体が虚寒となっ
子宮に補法を行うとよいこともある。状態を診な
ているもので、下腹部の冷痛を伴い、冷えると痛
がら加減するとよい。
みは悪化し、暖めると軽減し、腹部は喜按となる
◎痰湿阻滞(湿熱阻滞)
痰濁や湿邪の阻滞によるものは、帯下を伴うこ
治療は、関元、腎兪などに補法を行う、あるい
は灸頭鍼や棒灸など温法を併用して腎陽を補う。
とが多く、
手足や 陰部、全身が湿る、
むくみやすく
気海や帰来も同様である。鍼の手技はすべて補法
なることが鑑別のポイントとなる。
である。
病因・病機
ことが鑑別のポイントとなる。
取穴例
消失したら気海や気衝への瀉法は中止し、気海や
治法
衝などで下焦の理気を図る。手技はすべて瀉法で
弁証
治療は、三陰交と太衝で理気活血を、気海や気
舌脈
治療は、散寒を目的に帰来、気海、次髎などに
随伴症状
血瘀によるものは、固定性で刺痛や絞痛など強
肝気欝結
鑑別点
ると痛みは悪化し暖めると軽減するが、実寒証の
・経乱。
・経量も不定となる。
経色暗紅、
イライラ感、
精神抑欝感、
易怒、
た
め息が多い、胸脇部や少腹部、乳房の脹満
感や脹痛など。
腎気虚
・経乱。
・経血希薄で淡色、
量は少ない。
月経後半あるいは月経終了後に下腹部鈍痛
(喜按)
、腰膝酸軟、
めまい、頭のふらつき、耳
鳴り、
性欲低下など。
舌質−紅、
舌苔−白薄。
脈−弦。
舌質−淡紅、
舌苔−白薄。
脈−沈細などで、
尺脈無力。
肝気欝結
腎気虚
疏肝理気、
調経活血
補益腎気、
調補衝任
・太衝
(瀉法)
、陽陵泉
(瀉法)
、支溝
(瀉法)
−
疏肝理気
・気衝
(瀉法)
−通調血室
・関元
(補法または灸頭鍼
(補法)
)
、腎兪
(補
法)
、
血海
(補法)
−温補腎陽、
補益精血
・子宮
(補法)
−調補衝任
長期にわたってストレスを感じ続けたり、精
神的な抑欝が続いたり、突然に強い精神的
ショックを受けたり、
陰血不足などによって肝
気欝結となると、
胞宮の気機も阻滞するため
に経乱となる。
先天不足、房事過度、久病あるいは出産時
の失血過多による精血の不足などにより腎
精が不足すると、
衝任胞宮を充足することが
できないために経乱となる。
治療は、去痰の要穴である豊隆に、下焦の気機
を回復するために気海に、利尿を促進するために
中極に瀉法を行い、気海などで下焦の理気を図る。
◎血虚
血虚によるものは、経質が淡紅で清稀、また、
手技はすべて瀉法であるが、痰湿が阻滞するため
喜按な腹部の隠痛が月経後半や月経終了後におこ
に胞宮自体は虚している場合もあるので、必要に
り、面色や口唇、爪の色が淡白となるなどを伴う
応じて気海や子宮には補法を行うとよい。
ことが鑑別のポイントとなる。
治療は、血海や三陰交、膈兪などで養血を図り、
子宮で調補衝任を図るとよい。
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