02~05 プロジェクトK

〝運動・スポーツで子どもたちを豊かに育み、そして輝かせる〟
12 月
昨
記事に関する問合せ先
生涯学習課 スポーツ振興係
☎ ︲4850
今、子どもの体力低下、学力低下、情緒的問題、コミュ
ニケーション問題等々、全国的に深刻な問題となってい
ます。嘉麻市でも例外ではありません。
このような子どもを取り巻く問題を解決しようと、運動生
理学を専門とし、脳科学を基盤にした運動と行動の制御を研
究されている、徳島大学大学院 荒木秀夫教授と連携し、科学
的知識と実践法による運動を行うことで、子どもたちの脳を
活性化し、豊かに育む﹁プロジェクトK﹂を開始します。
﹃子どもの遊び、昔と今﹄
6.8
6.60
6.6
6.55
6.5
6.70
12 月
8月
4月
8月
112.25
115
なぜ 体力低下? 学力低下?
最近はどうなったかといえ
ば、 ほ と ん ど の 子 ど も 達 は、
学 習 塾、 音 楽、 ス ポ ー ツ、 習
い事の教室に通うことが普通
に な り ま し た。 こ の 傾 向 は、
年 ほ ど 前 か ら 見 ら れ ま す。
しかし、その子ども達はどう
か と い う と、 体 力 低 下、 学 力
低 下、 情 緒 不 安 定、 意 思 が 弱
い、我慢強さが足りないなど
と散々言われていますね。な
ぜ、みんなが学習塾に行って
20
12 月
115.83
120
110
105
4月
97.43
95
90
85
12 月
8月
12 月
8月
6.50
6.67
6.7
6.63
6.65
6.4
音 楽、 ス ポ ー ツ を、 そ し て 勉
強をと早いうちから習わせ
て、少しでも優秀児になって
文責 荒木
秀夫
欲しいと思うのが親心という
﹁子どもは天才﹂、これはよ ま す。 子 ど も は、 何 気 な い 大 ものでしょう。子どもがもっ
く聞く話です。親から見れば、 人の言葉を真似るし、すぐに と能力を伸ばす良い方法がな
わが子が言葉をしゃべり始め 覚 え ま す。 音 楽 に し て も、 外 いものかと思うのも自然な願
たり、歩き始めたりすること 国語にしても、とにかく覚え いです。
は当たり前のことでも、とて るのが早いというのが子ども
何 十 年 も 前 の 時 代 は、 学
もうれしく思うし感動さえし の特徴ですね。そんなわけで、 習 塾 は そ こ そ こ あ っ た も の
の、スポーツ教室や音楽教室
は、そうやたらにあるもので
はありませんでした。学習塾
に通うとしても、週に 2回ほ
ど通う程度でしょう。生活の
基本は、毎日遊ぶことにあり
ま し た。 遊 ぶ に し て も、 家 の
中よりは外で遊ぶのが大好き
で、当時の親がよく口にする
言 葉、﹁ 中 に い な い で、 さ っ
さと外で遊びなさい﹂。
6.75
8月
プロジェクト K 始動
嘉麻市立保育所(年長児)体力測定結果(抜粋)
もに少しずつ体力は伸びますが、グラフに示したように運動指導を取り入れることによっ
て、はっきりと伸びることがわかります。
「幼児は、わずかな期間で大きく変わる!」
いるのに学力低下なのか、な
ぜ、みんながスポーツ教室に
行っているのに体力低下なの
か⋮。よく二極化ということ
も言われています。できる子
と、できない子が分かれてい
るという意味です。学力も体
力運動能力も二極化している
と ⋮。 し か し、 勉 強 が で き て
も運動が苦手、運動ができて
も勉強が苦手といった子ども
が多く、ひとりの子どもが運
動も勉強もできるという子は
どれだけいるでしょうか。体
力テストと学力テストは県単
位でみると相関関係にありま
す。しかし一人ひとりを見て
いくと、そういう結果にはな
りません。かつては両方得意
な子どもが多くいました。
57
2
3
6.9
6.80
上のグラフは、市内保育所の子ども
達の体力テストの結果の一部を示した
ものです。4カ月ごとの結果ですが、
この間に子ども達に対して、コオー
ディネーショントレーニングを中心と
した運動指導を行っています。子ども
達は、4カ月ぐらい経つと、成長とと
100
7.0
6.85
7.1
8月
6.90
12 月
7.18
7.2
6.9
6.95
※ 25 m走及びテニスボール投げの
初回データについては、雨天のため
計測していません。
【 立ち幅跳び 】
(㎝)
7.3
7.00
【 テニスボール投げ 】
(m)
【 25 m走 】
(秒)
K 始動
プロジェクト
嘉麻市モデル
は、遊びの違いということで 丸 出 し と ま で は い か な く て
はないでしょうか。というよ も、かなり自然の欲求に従い
りは﹁遊びの工夫﹂の違いで ます。その欲求とは何でしょ
す。 今 は、 遊 び 道 具 が 豊 富 で う。 実 は、 そ れ こ そ が 身 体 の
す。 い ろ い ろ な 用 具 が、 店 に 発 達、 脳 の 発 達、 心 の 発 達 を
行 け ば 何 で も 手 に 入 り ま す。 促すための、生きるための欲
そ の 遊 び の 中 心 は ゲ ー ム に 求なんですね。その欲求がな
なってしまいました。決めら け れ ば、 工 夫 を し な い、 創 造
れた使い方、決められた攻略 し な い、 改 良 し な い、 つ ま り
法です。外遊びはどうでしょ は 遊 び に 創 造 性 が な い ま ま、
うか。昔のように、真冬の凍っ 誰かに言われるままに、決め
た田んぼの上で、竹ベラでス られた通りに﹁遊ぶ﹂という
ケートをすることはなく、今 ことになるでしょう。満たさ
は立派なスケートリンク上で れない欲求は、いつしか変質
スケート靴を履いて滑ること するか、消え去っていきます。
ができます。素手でゴムボー
ルを使って野球をする。道具 意欲をかき立てる課題
があってもグラブとバット
だ け で 原 っ ぱ で 野 球 を す る。
人間は、過酷な環境の中で
キャッチャーミットやマスク 進 化 し、 適 応 し て き ま し た。
は夢のまた夢、ましてやベー 豊富な食べ物があれば、何の
ス な ん て 使 っ た こ と が な い。 工夫もいりません。食べ物が
これが昔の野球でした。今は、 不足すれば、何とか探そうと
野球といえば、少年野球チー し、作ろうと工夫してきまし
ム で、 ベ ー ス が あ り、 用 具 も た。一人の人間にとっても同
そろって、指導者もいる、バッ じことがいえます。十分に満
ティングマシンさえあるとい 足していれば、何も工夫しよ
遊びの工夫
うのが子どもの野球です。少 う と し ま せ ん。 工 夫 を し て、
年野球チームに入っていない 少しずつ満足できたら達成感
どうやら塾に通わせて、ス
ポーツを習わせて、音楽も習 子どもが﹁野球もどき﹂をし を感じ喜びを感じます。ただ
わせる⋮それだけではすばら ている様子はまずお目にかか し、そのためには二つのこと
が前提となるでしょう。一つ
しい人間に育っていくという りません。
保証はなさそうですね。昔の 遊びの工夫は、結局のとこ には、その工夫があまりにも
子ども達と今の子ども達は何 ろ﹁創造の場﹂で芽生えるこ 難しすぎないことです。難し
が ど う 違 っ て い る の で し ょ とになります。子どもは動物 すぎると工夫し創造するとい
う か。 ま ず 思 い 浮 か べ る の ともいわれていますが、本能 う意欲が湧きません。つまり、
まり親がやろうとすると﹁僕 で十分な効果が期待できるこ
がやる!﹂と叫ぶ子と、
﹁やっ とがたくさんあります。子ど
て!﹂とねだる子の違いです。 もが工夫し創造すること、課
題を自分から見つけ自分で
やろうとすること⋮、そんな
子どもの生活の中に
工夫を! ことを科学の目から、そして
日常生活の目から見てみる
と、子どもとの接触も楽しく
なるし、希望が持てるのでは
ないでしょうか。まさに子ど
もの生活の中に、子どもとの
触れあいの中に、大人の誰も
が実践できる様々な科学と経
験からの成果を取り入れてみ
て は ど う で し ょ う か。﹁ 子 ど
もの工夫﹂を促す﹁大人の工
夫 ﹂ で す。 そ こ で、 次 回 か ら
は、こうしたことをテーマに
して、いろいろなことを考え
てみたいと思います。
▲リズムに合わせてボールを上にあげてキャッチ
できそうでできない微妙な課
題であることが、やる気を起
こすということになります。
そ し て、 二 つ 目 に は、 課 題 は
常に自分で探すということで
す。 指 導 者 や、 親 や、 教 師 が
与えた課題だけでは、やがて、
誰かが課題を見つけてくれる
という感覚が身について、主
体性がなくなってしまうで
しょう。たとえ誰かに与えら
れた課題であっても、子ども
が自分なりに課題を作り替え
る余地を与えてやるとどうで
しょうか。自分なりに課題を
見 つ け る こ と の 準 備 と な り、
やがて自分で課題を見つけ自
分でやるということに興味を
持ち始めます。これが人間と
動物との学習の違いです。つ
“嘉麻市モデル”とは、乳幼児から高校生に至
るまで、各年代のためのコオーディネーショント
レーニングのプログラムを立案し、これを広く嘉
麻市民の間に広めて、実践的に普及させることを
目的とした事業のことです。家庭、学校、地域の
中にスポーツや健康運動を定着させ、体力向上を
図るだけでなく、主に、コオーディネーション理
論による子どもたちの知性、感性を育むことを
狙ったものです。
“嘉麻市は人材の宝庫”…いつしか、そんな言
葉がささやかれるようにしたいものです。決して
夢で終わらせることなく、小さなこと、些細なこ
との積み上げが大事です。赤ちゃんから高校生、
そして青年から高齢者、障がいを持つ子どもや大
人達、誰もが生き生きと生活できる嘉麻市を目指
して、誇れる市民文化を創りましょう。
この 数年来、脳の科学は
大 き く 進 歩 し、 ま た、 い ろ い
ろな学問の進歩によって、多
くのことが少しずつ、着実に
明らかにされてきました。そ
のことによって、子どもの能
力を、より確かに伸ばす方法
を考えることもできるように
なりました。この子どもの能
力を伸ばすという方法は、決
して高度な知識がなければで
きないというものではありま
せん。ほんのささやかなこと
▲体の傾きを意識しながらコーンの間を駆け抜けます
20
○荒木 秀夫(あらき ひでお)プロフィール
徳島大学大学院 ソシオ・アーツ・アンド・
サイエンス研究部 教授
運動生理学を専門として、脳科学を基盤にし
た運動と行動の制御を研究テーマとしている。
実践的には、スポーツ・子どもの発達・学習問
題などと関係する脳の刺激感受性の向上を目的
としたコオーディネーション理論によるトレー
ニング・学習の普及に取り組んでいる。
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K 始動
プロジェクト