海塩を含む汚損雪で人工冠雪を形成した 66kV ポリマーがいしの漏れ

平成 20 年電気学会電力・エネルギー部門大会
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海塩を含む汚損雪で人工冠雪を形成した
66kV ポリマーがいしの漏れ電流特性
國府盛秀,池川豊年(東北電力),
我妻一希,夘野
智章,佐藤
大介,東山
禎夫(山形大学)
Characteristics of the Leakage Current Flowing through the 66kV
Polymer Insulator Capped with the Artificial Snow Polluted by the imitated Sea Salt
Morihide Kokufu, Yutaka Ikegawa
(Tohoku Electric Power Co., Inc.),
Kazuki Agatsuma,Tomoaki Uno,Daisuke Sato, Yoshio Higashiyama (Yamagata University)
1. はじめに
筆者らは,ポリマーがいしの多雪地域での適用性などを
確認するため,各種試験を実施している。(1)
本論文では,導電率の高い雪がポリマーがいしのひだ間
に詰まった場合の絶縁性能について調べるため,模擬海塩
を混ぜた雪で人工的に冠雪を形成させたがいしの漏れ電流
の時間変化,および放電現象などについて調査した。
2. 試験概要
図 2 試験装置回路図
Fig.2. Circuit diagram of examinatal setup
<2.1>供試がいし
試験は,東北電力株式会社 米沢実験場で行った。表1に
供試ポリマーがいしの主な諸元を,図 1 に形状を示す。な
<2.3>人工汚損雪の作成と冠雪形成
お,アークホーンはなしとしている。
人工汚損雪は,米沢実験場内の構内から採取した清浄雪
(雪の融雪時導電率:約 30μS/cm)に模擬海塩(NaCl:
表 1 供試ポリマーがいしの諸元
Table 1. Dimensions of polymer insulator
MgCl2 = 約 7:3)を一様に混ぜ合わせて,雪の融雪時導電率
が 300μS/cm となるようにして作成した。また,冠雪形成
全長 有効長 笠数 笠径 笠間隔 胴径 漏れ距離
[mm] [mm]
[枚] [mm]
[mm] [mm]
[mm]
大 14 大117
1172 1040
38
23
3516
小 13 小83
時には雪密度を 0.5~0.6g/cm3,冠雪厚さを笠上 2 cm を目
標として作成した。また,比較のために通常の清浄雪を用
いた試験も行った。
3.試験結果
図1 ポリマーがいしの形状
Fig 1 Shape of polymer insulator
<3.1>漏れ電流の様相と放電発生状況
図3に清浄雪,および模擬海塩による汚損雪による冠雪が
いしの漏れ電流の時間変化を示す。清浄雪においては,漏
<2.2>試験回路
れ電流はほとんど流れず,ところどころで局部アーク放電
図 2 に試験装置回路図を示す。人工的に冠雪させたポリ
と考えられる波高地約10mAの漏れ電流が発生している程
マーがいしを垂直に吊し,40kV(66 kV 送電線の相電圧相
度である。汚損雪では,最大で波高値が約100mAの漏れ電
当)を印加した。印加電圧は分圧器を用いて,漏れ電流は
流が流れ,冠雪による漏れ電流経路が遮断したと推定され
CT および検出抵抗を用いて測定した。
る約7分後以降は主に負極性の放電が確認された。
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平成 20 年電気学会電力・エネルギー部門大会
図4に汚損雪の漏れ電流波形を示す。課電開始とともに正
課電側
課電側
弦波の漏れ電流(図4 a)が流れ,ギャップが形成され局部ア
ーク放電が発生した(図4 b)後,ギャップが広がって放電が
ギャップ
形成
おさまる(図4 c,d)。
図5に汚損雪の紫外線カメラによる放電発生状況を示す。
冠雪には,漏れ電流のジュール熱による融雪の進行によっ
接地側
てギャップが形成され,そこで放電が発生していることを
接地側
確認した。また,電界が集中する課電側,および接地側で
a.1分後
b.5 分後
もギャップが形成され,放電が発生していることを確認し
た。
課電側
課電側
接地側
接地側
a.清浄雪
c.8 分後
d.12 分後
図 5 紫外線カメラの映像(模擬海塩による汚損雪)
Fig.5. Pictures of UV camera
(Artificial snow polluted by the imitated sea salt)
b.模擬海塩
汚損雪
表 2 がいし冠雪の融雪水 pH(模擬海塩による汚損雪)
Table 2. Snowmelt pH of capped-snow
(Artificial snow polluted by the imitated sea salt)
冠雪による
漏れ電流経路
遮断推定時間
試験
№
図 3 漏れ電流の時間変化
1
Fig.3. Time variations of leakage current
2
pH
部位
課電前
7.2
6.9
6.8
6.6
6.3
6.4
課電側
中央
接地側
課電側
中央
接地側
課電後
5.1
4.4
※注
6.2
4.5
4.5
※ 着雪脱落のため測定できず
<3.3>漏れ電流による融雪量
表3に,漏れ電流による融雪量を示す。融雪量は,漏れ電
流と印加電圧から求めた積算電力量から求めた。融雪量は,
がいし冠雪全体の3割弱となった。
a. 1分後
b. 5 分後
表 3 がいし冠雪の融雪量(模擬海塩による汚損雪)
Tabele3. Snowmelt rate of capped-snow
(Artificial snow polluted by the imitated sea salt)
試験
№
1
2
c. 8分後
図4
d. 12分後
冠雪量
[kg]
7.30
5.35
積算
融雪量/
電力量 融雪量 冠雪量
[kJ]
[kg]
[%]
634
1.89
25.9
526
1.57
29.3
4.あとがき
漏れ電流の波形(模擬海塩による汚損雪)
Fig.4 Waveforms of leakage current
(Artificial snow polluted by the imitated sea salt)
本研究により,垂直に吊した冠雪ポリマーがいしの漏れ
電流様相,放電発生個所,冠雪の pH の変化,および冠雪の
融雪量について知見を得ることができた。今後も,ポリマ
<3.2>がいし冠雪の融雪水pHの測定結果
ーがいしの汚損雪に対する適用性について継続して調査す
表 2 に,模擬海塩による汚損雪がいし冠雪の融雪水の pH
の測定結果を示す。課電後は課電前と比べて,どの部位に
おいても pH が小さくなった。放電の発生により硝酸が生成
されたものと考えられる。
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る予定である。
文 献
(1) 東山 青山 佐藤 國府「66kV 耐張吊がいし上の漏れ電流」
(平成 19 年電気学会電力・エネルギー部門大会)など