参考資料13-鋳鉄の溶接

鋳鉄の溶接 鋳鉄の溶接方法および特徴
1. 熱間溶接法
方法▶鋳鉄心線を用いて行なうガス溶接と、鉄心線あるいは鋳鉄心線に
被覆剤を塗布した溶接棒を用いて行なうアーク溶接とがあります。
一般に母材は500〜600℃の高温に加熱して行ない、溶接中もこの
温度を保持します。溶接後は600℃で1時間保持し徐冷することが
望まれます。
特徴▶母材を高温に加熱して溶接するので、溶着金属または母材融合部
のセメンタイト生成を防止できます。一方鋳物自体にひずみが発生
したり、割れが生じやすい欠点があります。
2. 冷間溶接法
参考資料(鋳鉄の溶接)
方法▶アーク、ティグおよびミグ溶接などで予熱なしまたは局部的低温予
熱を行なって溶接します。溶接棒は純Ni、Ni-Feなどの延性のある
合金心線の溶接材料を用います。
特徴▶加熱によって鋳鉄自身にひずみが生じたり、割れが発生すること
が少ないが、溶接部が急熱急冷され白銑化されます。したがって、
融合部の白銑化傾向の少ないニッケルまたはニッケル系合金溶接
材料を使用します。
3. ブレージング法
方法▶鋳鉄より溶融点の低いブロンズなどの合金心線を使って、鋳鉄母
材を溶かさずにろう付する方法です。
特徴▶溶着金属は、一般に鋳鉄より溶融点がはるかに低いので鋳鉄自身
を全く溶融しないか、またはごく僅かに溶融して接合することがで
きます。なお鋳鉄との色調が異なる欠点があります。
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鋳鉄の溶接 ■被覆アーク溶接による母材の欠陥に対する施行基準
母材の欠陥の種類
溶接棒の種類
巣埋め
巣埋め、割れ補修、突合せ溶接
ECNi-CI
ECNiFe-CI
V形、皿形、U形
巣埋め
ECNi-CI
ECNiFe-CI
V形、皿形、U形
開 先
割れ
補修、
突合せ
溶接
70 ~ 80° 80 ~ 90° 70 ~ 80°
V形
V形
V形
―
なし、または 100 ~ 200℃の予熱
なし、または 200 ~ 600℃の予熱
運
① 50mm 以下のストレートビード
にて飛石または断続溶接。
② 2 層目以後の溶接はアークを
直接母材にあてない。
連 続 溶 接
棒
使用電流
できるだけ低電流値を使用する。
3.2mmφ 70 ~ 110Amp
4.0mmφ 100 ~ 140Amp
5.0mmφ 130 ~ 170Amp
4.0mm φ
4.0mm φ
130 ~ 150Amp 110 ~ 150Amp
ピーニング
各ビード毎に十分行なう。
一般に行なわない。
なし、または層間温度より徐冷。
なし、または層間温度より
徐冷、または 650℃で後熱。
バタリング
採用できるものは採用する方がよい。
巣埋め面積の大きい場合に
は第 1 層目にニッケル系の棒
でバタリングする方がよい。
ボルト、
カスガイに
よる溶接部
の補強
必要なし
必要なし
後
熱
− 500 −
参考資料(鋳鉄の溶接)
溶 接 施 工 基 準
予熱および
層間温度
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鋳鉄の溶接 鋳鉄の特殊溶接方法
1. バタリング溶接
大型鋳鉄で溶着金属、境界部などに亀裂が発生しやすい場合の
溶接に使用されます。
(1)
‌図の開先面にNi系溶接材料で1〜2層溶接を行ないます。
参考資料(鋳鉄の溶接)
(斜線部分)
(2)‌溶接は冷間溶接方法にて行ないます。
(3)‌開先は80〜90°V形が適しています。
2. スタッド溶接
この方法は大型鋳物の溶接、割れなどの補修に利用される方法
で、スタッド
(ボルト)によって溶着金属と母材を結合させ、溶着金
属の収縮応力の緩和をはかります。
11
− 501 −
鋳鉄の溶接 スタッドの径
(D)
:母材の形状、寸法によって異なるがー般に6〜10mm
植込み深さ
: 径
(D)の1〜2倍
φが適当です。
スタッドの間隔
:植込み配置はジグザグにし、間隔はできるだけ狭くす
る方がよい。一般には径
(D)の4倍程度が適当です。
※施行上の注意
(1)
スタッド周辺から溶接して下さい。
(2)スタッド間の溶接は十文字または対角線的にビードを置き、母材全面
を覆うようにします。
(3)スタッドは溶着鋼と一緒に溶かさないように注意して下さい。
参考資料(鋳鉄の溶接)
スタッドの露出長さ: 10〜20mm
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鋳鉄の溶接 ■鋳鉄溶接材料の選び方
種 類
溶 接 部 の 諸 性 能
DM-100
DMA-100
ティグ
―
ミ グ
―
DM-150
DMG-150
DMB-136
DM-150R
DM-55R
DM-136R
DM-150M
DM-55M
DM-136M
DM-60V
DM-70
―
―
―
―
母材との
すぐれている
なじみ性
すぐれている
すぐれている
耐亀裂性 良好
極めて良好
極めて良好
不良
(熱処理すれば普通)
二番部硬化 極めて良好
極めて良好
良好
不良
(熱処理すれば良好)
機械加工性 極めて良好
極めて良好
良好
不良
(熱処理すれば良好)
母材との色調 異なる
異なる
同じ
特 徴
ねずみ鋳鉄
参考資料(鋳鉄の溶接)
適 用 母 材
(ダクタイル鋳鉄)(黒心および白心) (パーライト)
球状黒鉛鋳鉄
可 鍛 鋳 鉄 可 鍛 鋳 鉄
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アーク
良好
同じ
冷間溶接用であらゆる 冷間溶接用であらゆる
鋳鉄の補修、 巣埋め 鋳鉄の補修、 巣埋め、 一般には、 予熱、 後熱
冷間溶接用であらゆる
、 接合に使用、 特に強 接合に使用、 特に材質 が必要である。 特に母
鋳鉄の補修、 巣埋め、
度を必要とする場合に の変化した鋳鉄のなじ 材と同じ色調を必要と
接合に使用。
適する。 普通鋳鉄、 高 み性が良好で母材と同 する場合の巣埋用に適
普通鋳鉄、 高級鋳鉄、
級鋳鉄、 合金鋳鉄、 可 じ色調を必要とする場 す。普通鋳鉄、 可鍛鋳
合金鋳鉄、可鍛鋳鉄。
鍛鋳鉄、球状黒鉛鋳鉄 合の巣埋用に適す。 普 鉄など。
(ダクタイル鋳鉄)
。
通鋳鉄、可鍛鋳鉄など。
巣埋
め
◉
◉
◉
◉
接合
◉
◉
◎
×
割れ
補修
◉
◉
◎
×
巣埋
め
◎
◉
◎
△
接合
○
◉
○
×
割れ
補修
○
◉
○
×
巣埋
め
◉
◉
◎
◎
接合
◎
◉
◎
×
割れ
補修
○
◉
○
×
巣埋
め
◉
◉
◎
◎
接合
◉
◉
◎
×
割れ
補修
◉
◉
◎
×
注 ◉極めて良好 ◎良好 ○普通 △やや不良 ×不良
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