鋳鉄の溶接 鋳鉄の溶接方法および特徴 1. 熱間溶接法 方法▶鋳鉄心線を用いて行なうガス溶接と、鉄心線あるいは鋳鉄心線に 被覆剤を塗布した溶接棒を用いて行なうアーク溶接とがあります。 一般に母材は500〜600℃の高温に加熱して行ない、溶接中もこの 温度を保持します。溶接後は600℃で1時間保持し徐冷することが 望まれます。 特徴▶母材を高温に加熱して溶接するので、溶着金属または母材融合部 のセメンタイト生成を防止できます。一方鋳物自体にひずみが発生 したり、割れが生じやすい欠点があります。 2. 冷間溶接法 参考資料(鋳鉄の溶接) 方法▶アーク、ティグおよびミグ溶接などで予熱なしまたは局部的低温予 熱を行なって溶接します。溶接棒は純Ni、Ni-Feなどの延性のある 合金心線の溶接材料を用います。 特徴▶加熱によって鋳鉄自身にひずみが生じたり、割れが発生すること が少ないが、溶接部が急熱急冷され白銑化されます。したがって、 融合部の白銑化傾向の少ないニッケルまたはニッケル系合金溶接 材料を使用します。 3. ブレージング法 方法▶鋳鉄より溶融点の低いブロンズなどの合金心線を使って、鋳鉄母 材を溶かさずにろう付する方法です。 特徴▶溶着金属は、一般に鋳鉄より溶融点がはるかに低いので鋳鉄自身 を全く溶融しないか、またはごく僅かに溶融して接合することがで きます。なお鋳鉄との色調が異なる欠点があります。 11 − 499 − 鋳鉄の溶接 ■被覆アーク溶接による母材の欠陥に対する施行基準 母材の欠陥の種類 溶接棒の種類 巣埋め 巣埋め、割れ補修、突合せ溶接 ECNi-CI ECNiFe-CI V形、皿形、U形 巣埋め ECNi-CI ECNiFe-CI V形、皿形、U形 開 先 割れ 補修、 突合せ 溶接 70 ~ 80° 80 ~ 90° 70 ~ 80° V形 V形 V形 ― なし、または 100 ~ 200℃の予熱 なし、または 200 ~ 600℃の予熱 運 ① 50mm 以下のストレートビード にて飛石または断続溶接。 ② 2 層目以後の溶接はアークを 直接母材にあてない。 連 続 溶 接 棒 使用電流 できるだけ低電流値を使用する。 3.2mmφ 70 ~ 110Amp 4.0mmφ 100 ~ 140Amp 5.0mmφ 130 ~ 170Amp 4.0mm φ 4.0mm φ 130 ~ 150Amp 110 ~ 150Amp ピーニング 各ビード毎に十分行なう。 一般に行なわない。 なし、または層間温度より徐冷。 なし、または層間温度より 徐冷、または 650℃で後熱。 バタリング 採用できるものは採用する方がよい。 巣埋め面積の大きい場合に は第 1 層目にニッケル系の棒 でバタリングする方がよい。 ボルト、 カスガイに よる溶接部 の補強 必要なし 必要なし 後 熱 − 500 − 参考資料(鋳鉄の溶接) 溶 接 施 工 基 準 予熱および 層間温度 11 鋳鉄の溶接 鋳鉄の特殊溶接方法 1. バタリング溶接 大型鋳鉄で溶着金属、境界部などに亀裂が発生しやすい場合の 溶接に使用されます。 (1) 図の開先面にNi系溶接材料で1〜2層溶接を行ないます。 参考資料(鋳鉄の溶接) (斜線部分) (2)溶接は冷間溶接方法にて行ないます。 (3)開先は80〜90°V形が適しています。 2. スタッド溶接 この方法は大型鋳物の溶接、割れなどの補修に利用される方法 で、スタッド (ボルト)によって溶着金属と母材を結合させ、溶着金 属の収縮応力の緩和をはかります。 11 − 501 − 鋳鉄の溶接 スタッドの径 (D) :母材の形状、寸法によって異なるがー般に6〜10mm 植込み深さ : 径 (D)の1〜2倍 φが適当です。 スタッドの間隔 :植込み配置はジグザグにし、間隔はできるだけ狭くす る方がよい。一般には径 (D)の4倍程度が適当です。 ※施行上の注意 (1) スタッド周辺から溶接して下さい。 (2)スタッド間の溶接は十文字または対角線的にビードを置き、母材全面 を覆うようにします。 (3)スタッドは溶着鋼と一緒に溶かさないように注意して下さい。 参考資料(鋳鉄の溶接) スタッドの露出長さ: 10〜20mm 11 − 502 − 鋳鉄の溶接 ■鋳鉄溶接材料の選び方 種 類 溶 接 部 の 諸 性 能 DM-100 DMA-100 ティグ ― ミ グ ― DM-150 DMG-150 DMB-136 DM-150R DM-55R DM-136R DM-150M DM-55M DM-136M DM-60V DM-70 ― ― ― ― 母材との すぐれている なじみ性 すぐれている すぐれている 耐亀裂性 良好 極めて良好 極めて良好 不良 (熱処理すれば普通) 二番部硬化 極めて良好 極めて良好 良好 不良 (熱処理すれば良好) 機械加工性 極めて良好 極めて良好 良好 不良 (熱処理すれば良好) 母材との色調 異なる 異なる 同じ 特 徴 ねずみ鋳鉄 参考資料(鋳鉄の溶接) 適 用 母 材 (ダクタイル鋳鉄)(黒心および白心) (パーライト) 球状黒鉛鋳鉄 可 鍛 鋳 鉄 可 鍛 鋳 鉄 11 アーク 良好 同じ 冷間溶接用であらゆる 冷間溶接用であらゆる 鋳鉄の補修、 巣埋め 鋳鉄の補修、 巣埋め、 一般には、 予熱、 後熱 冷間溶接用であらゆる 、 接合に使用、 特に強 接合に使用、 特に材質 が必要である。 特に母 鋳鉄の補修、 巣埋め、 度を必要とする場合に の変化した鋳鉄のなじ 材と同じ色調を必要と 接合に使用。 適する。 普通鋳鉄、 高 み性が良好で母材と同 する場合の巣埋用に適 普通鋳鉄、 高級鋳鉄、 級鋳鉄、 合金鋳鉄、 可 じ色調を必要とする場 す。普通鋳鉄、 可鍛鋳 合金鋳鉄、可鍛鋳鉄。 鍛鋳鉄、球状黒鉛鋳鉄 合の巣埋用に適す。 普 鉄など。 (ダクタイル鋳鉄) 。 通鋳鉄、可鍛鋳鉄など。 巣埋 め ◉ ◉ ◉ ◉ 接合 ◉ ◉ ◎ × 割れ 補修 ◉ ◉ ◎ × 巣埋 め ◎ ◉ ◎ △ 接合 ○ ◉ ○ × 割れ 補修 ○ ◉ ○ × 巣埋 め ◉ ◉ ◎ ◎ 接合 ◎ ◉ ◎ × 割れ 補修 ○ ◉ ○ × 巣埋 め ◉ ◉ ◎ ◎ 接合 ◉ ◉ ◎ × 割れ 補修 ◉ ◉ ◎ × 注 ◉極めて良好 ◎良好 ○普通 △やや不良 ×不良 − 503 −
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