会社法(商法)と法人税法の会計包括規定 1 統一論題報告⒡⒢会社法と税務会計 甲南大学大学院 会社法︵商法︶と法人税法の会計包括規定 は じ め に 河 﨑 照 行 経済基盤や産業構造の急激な変化を背景に、会社法制の現代化を目的として、平成一七年六月に会社法が成立し、 平成一八年五月から施行された。会社法の創設で、理論的に最も重要な改正点の一つが、﹁一般に公正妥当と認めら れる会計慣行﹂︵会計包括規定︶である。 この会計包括規定は、旧商法では、﹁公正ナル会計慣行ヲ斟酌スベシ﹂︵旧商法三二②︶とされていたものが、会社 ) 計算されるものとする﹂︵法人税法二二④︶とされている。 とされており、法人税法では、各事業年度の所得の金額は、﹁一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って 総理大臣が一般に公正妥当であると認められるところに従って⋮⋮作成しなければならない。﹂︵証券取引法一九三︶ た。他方、同様の規定は、証券取引法と法人税法にも存在する。証券取引法では、財務計算に関する書類は、﹁内閣 ( 法では、﹁一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとする﹂︵会社法四三一︶という表現に変更され 1 2 このことから、これらの会計包括規定はいかなる関係にあるのか、また、そもそも会計包括規定︵﹁一般に公正妥 当と認められる会計慣行﹂︶とはいかなるものか、といった問題が議論すべき理論的課題として浮上してきた。 本稿の目的は、そのような問題意識の下で、これらの会計包括規定について、その意義と関係を論じることにあ る。本稿の具体的課題は、次の四点である。 ① ⅵ一般に公正妥当﹂︵公正性︶なる概念について、その論理構造を制度会計との関連で闡明にすること。 ② 会社法︵商法︶上の会計包括規定について、諸規定を整理し体系化するとともに、会社法の計算規定の特徴を 論じること。 ③ 証券取引法上の会計包括規定について、諸規定を整理し体系化するとともに、会社法︵商法︶上の会計包括規 定との関係を論じること。 ④ ①から③の議論を踏まえ、税法上の会計包括規定について、その意義と内容をめぐる論点を整理し、そのあり 方を検討すること。 Ⅰ 制度会計と﹁一般に公正妥当と認められる会計慣行﹂の論理構造 一 制度会計の性格 ⑴ 制度会計の意義 制度会計とは、﹁法律制度の枠内で営まれる会計一般﹂を総称する。この制度会計の基底をなしているのが、﹁商人 の健全な実務慣行﹂︵﹁一般に公正妥当と認められる会計慣行﹂︶である。 会社法と確定決算基準 23 統一論題報告⒡⒢会社法と税務会計 会社法と確定決算基準 は じ め に 早稲田大学 品 川 芳 宣 法人税の課税所得計算は、会社法上の利益計算規定に密接にリンクしている。例えば、減価償却費の損金算入限度 額を法人税法の規定によって算定し得るとしても、それが会社法上の利益計算規定によって費用又は損失として処理 されていない限り、当該損金算入限度額は、法人税の課税所得金額の計算上、そのまま損金の額に算入されることは ない。このような法人税法と会社法との結合関係は、一般に﹁確定決算基準﹂と称せられる。 ところで、旧商法から独立して会社法が制定され、その会社法の中で、新たな利益計算規定が盛り込まれるように なると、当該利益計算規定と前述の確定決算基準との関係にも影響を及ぼすことになる。また、会社法上の利益計算 規定は、近年変遷が目まぐるしい企業会計基準の影響を受けることが一層著しくなってきているので、当該企業会計 基準の動向を見据えた上で、確定決算基準のあり方を論じる必要がある。 そこで、本稿では、課税所得計算の見地から見た会社法の特質と企業会計基準の動向を概観し、かつ、確定決算基 24 準の今日的意義を確認した上で、会社法との関係において確定決算基準のあり方を論じることとする。 Ⅰ 会社法の施行と確定決算基準 一 会社法の特質 平成一八年五月に施行された会社法については、法人税の課税所得計算の観点から考察すると、次のような特徴を 挙げることができる。そして、これらの特徴は、確定決算基準に対しても、直接的又は間接的に影響を及ぼすことに なる。 ⑴ 資本制度 会社法の特徴の一つは、平成二年に制定された最低資本金制度︵株式会社一、〇〇〇万円、有限会社三〇〇万円︶ を廃止したことである。また、会社法上の純資産の部は、資本金・準備金︵資本及び利益︶及び剰余金に区分される ことになる︵会社法四四五、四四六︶。 ︶、その内 ︶。しかし、前記会社法 他方、法人税法においては、従前、﹁資本等の金額﹂という概念を使用し、それは﹁資本の金額又は出資金額と資 本積立金額との合計額﹂をいうものとされていた︵平成一八年度税制改正前の法人税法二 の改正に呼応し、平成一八年度税制改正後の法人税法においては、﹁資本金等の額﹂に改められ︵法法二 容は、一括して政令の定めに委ねられ、資本積立金額の概念は消滅している︵法令八︶。 いずれにしても、この資本金等の額は、寄附金の損金不算入額︵法法三七︶や交際費等の損金不算入額︵措法六一 の四︶等の計算に影響を及ぼし、税額︵税率︶計算︵法法六六、六七︶にも関係することになる。 シンポジウム〉会社法と税務会計 89 シンポジウム 会社法と税務会計 は し が き 総合司会 山本 守之︵千葉商科大学 ) 富岡 幸雄︵中央大学︶ 野田 秀三︵桜美林大学︶ 武田 隆二︵大阪学院大学︶ 櫻田 譲︵北海道大学︶ 右山 昌一郎︵税理士︶ 大淵 博義︵中央大学︶ 浦野 晴夫︵元立命館大学︶ 本稿は、平成一八年一〇月八日、税務会計研究学会第一八回大会統一論題﹁会社法と税務会計﹂における研究報告 に基づいて行われた、シンポジウムの議事録である。 品川 芳宣︵早稲田大学︶ シンポジウムにおける報告者は、次のとおりである︵発言順︶。 河﨑 照行︵甲南大学︶ 白土 英成︵公認会計士︶ 弓削 忠史︵九州共立大学︶ 吉岡 正道︵東京理科大学︶ また、質問者は、次のとおりである︵発言順︶。 武田 昌輔︵成蹊大学︶ 粕谷 晴江︵税理士︶ では証取法会計、商法会計、今後は会社法会計ですが、 の三つを揃えておられました。河﨑先生のご報告におい が先にありまして、証取法会計、会社法会計、税務会計 瑣末なことで恐縮でしたが、﹁制度会計﹂という言葉 た。 た。河﨑先生のご報告については、同感で感動しまし て、すばらしい研究のご発表をいただいて感動しまし 富岡幸雄︵中央大学 ) 昨日、河﨑先生は非常に明快 な理路整然とした、しかも資料を十分揃えていただい 考えられているようです。 ども、富岡先生は、税務会計は制度会計に含まれないと 務会計も制度会計に含めるようなご趣旨のようですけれ ﹁制度会計とは何か﹂ということです。河﨑先生は、税 まず、富岡先生から河﨑先生に対するご質問です。 催させていただきます。 司会︵山本守之︵千葉商科大学︶ )シンポジウムを開 もの、もう一つは﹁制定的制度﹂といわれるものです。 いかと考えています。一つは﹁生成的制度﹂といわれる 私自身は、大きく二つに分けることができるのではな かというのは、いろいろな見解があり得ると思います。 したように、﹁制度﹂という概念をどのように理解する 用させていただきました。富岡先生のご説明にもありま 度﹂という言葉ですが、法律的な枠組みという意味で使 河﨑照行︵甲南大学 ) ご質問、どうもありがとうご ざいます。私が報告で用いました﹁制度会計﹂の﹁制 に重要ではないかと思いまして、お尋ねしたわけです。 て、しかも今日、会社法がこのような状態になったとき 学会が学問としての税務会計を追求していくのにあたっ ることもないかと思いますが、これから、税務会計研究 分類の仕方は学者によって自由ですし、あまりこだわ 会計制度としての制度会計ではないと考えています。 重要な規制があり、実務には大変な影響がありますが、 それを制度会計ととらえ、税法は会計の領域においても ては、必ずしも主要な問題でないことはよくわかってい ﹁生成的制度﹂といわれるものは、商人の行為基準とい 一 制度会計と税務会計 ますが、学界にとっては大事な問題です。私は、これま 90
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