(考察編)平成 28 年度診療報酬改定(感染防止対策加算

株式会社メディカ出版 INFECTION CONTROL 編集室
「感染防止対策等に関する平成 28 年度診療報酬改定に係わる資料」
(考察編)平成 28 年度診療報酬改定(感染防止対策加算)の行方についての一考察
-厚遇されている「感染防止対策加算」と冬の時代の「医療安全対策加算」の格差-
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注目される平成28年度診療報酬改定の動向
インフェクションコントロール誌の読者の皆さんの最大の関心の的は、何といっても来年
(2016年)4月に行われる「平成28年度診療報酬改定」の行方であろうと思われます。具体
的には「感染防止対策加算」
(現在は加算1=400点、加算2=100点、地域連携加算=100点)が
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どのように取扱われるかということです。
診療報酬改定は御存知のように厚生労働省の中央社会保険医療協議会(中医協)の場で議
論されます。所管している厚労省の部署は〈保険局医療課〉です。わが国の院内感染対策
全般の事業を所管しているのは〈医政局地域医療計画課〉ですが、所管が違うため地域医
療計画課が診療報酬改定に関与することはできません。中医協の場では平成28年度診療報
酬改定の議論がすでに開始されていますが、本格化するのは平成27年12月~平成28年2月頃
になると思われます。
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厚遇される感染防止対策加算と医療安全対策加算との格差
平成24年度~27年度までの4年間、診療報酬で厚遇されているともいえる「感染防止対策加
算」ですが、平成28年度改定は厳しいと言わざるを得ません。その理由は何でしょうか。
平成28年度診療報酬改定の行方を考察するにあたって重要なポイントになると思われるの
が「医療安全対策加算」がどのように取扱われるかです。医療安全対策加算の診療報酬点
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数は現在、加算1=85点、加算2=35点となっています。
平成19年4月に施行された改正医療法により〈医療の安全の確保〉が新たに章立てされ、施
行規則においてすべての医療機関に対して①医療の安全を確保するための措置について、
②医療施設における院内感染の防止について、③医薬品の安全管理体制について、④医療
機器の保守点検・安全使用に関する体制について、の4項目が法的遵守事項に位置づけられ
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ました。
その後の診療報酬改定により、院内感染対策は厚遇されたものの、医療安全対策は冬の時
代を過ごしてきました。診療報酬上は個別に評価されている院内感染対策と医療安全対策
ですが、厚労省の医療安全対策検討会議が平成17年6月にまとめた報告書「今後の医療安全
対策について」では、院内感染対策については『今後は医療安全の一環として総合的に取
り組んでいくこととする』と記されています。つまり、厚労省としては、院内感染対策は
医療安全対策と一体的に行っていくというのが基本的な立場であるということなのです。
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クローズアップされるであろう医療安全対策加算
医療法改正により法的遵守事項に位置づけられたにもかかわらず、感染防止対策加算と医
療安全対策加算の診療報酬上の評価には大きな格差が拡がっているのが現状です。しかも、
最近では医療安全を取巻く環境には大きな変化が生じつつあります。その主なものは、①
特定機能病院での医療事故、②厚労省に「大学附属病院等の医療安全確保に関するタスク
フォース」が設置されたこと、③本年(平成27年)10月に「医療事故調査制度」が新たに
施行されること、の3点です。しかも、診療報酬改定の議論が本格化する直前の今秋までに
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「感染防止対策等に関する平成 28 年度診療報酬改定に係わる資料」
はタスクフォースで医療の安全管理体制などの状況が取りまとめられることから、議論の
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そじょうにのせることができるデータが厚労省によってまとめられることになっています。
こうした環境の変化を踏まえると、これまで長い間冬の時代が続いていた「医療安全対策
加算」に今回は大きな風が吹いていると思われます。つまり、平成28年度診療報酬改定で
は医療安全対策がクローズアップされることになる公算が極めて高いと思われます。平成
28年度診療報酬改定は医療安全対策加算の年であり、感染防止対策加算の年ではないとい
うことです。
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感染防止対策加算には厳しい改定になる!?
では、感染防止対策加算はどのように取扱われる可能性があるのでしょうか。常識的には
①点数減、②点数据え置きで施設基準の厳格化、③従来通り、の3通りが考えられますが、
基本的には診療報酬点数のアップは望めないと思われます。つまり、どう考えても平成28
年度診療報酬改定において感染防止対策加算がプラスになると思われる要素はなく、厳し
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い改定を覚悟せざるを得ない状況に置かれていることになります。
政府の「社会保障と税の一体改革」による社会保障の充実によれば、消費税引上げによる
増収分は、すべて社会保障の充実・安定化に向けられることになっています。しかし、消
費税の再増税(8%→10%)が先送りされたことで環境は厳しくなりました。さらに、先に
行われた介護報酬の改定がマイナス改定されています。介護の重要なキーワードである「地
域包括ケアシステムの構築」においては地域における医療と介護の連携が必要不可欠です。
車の両輪ともいえる医療と介護の片方がマイナス改定されただけに、医療のみプラス改定
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されたのでは、両者のバランスがとれなくなります。
今後、各地で地域支援ネットワークが拡大推進され、感染防止対策が施設から地域に拡が
りをみせれば、現在加算1とのセット点数とされている「感染防止対策地域連携加算」が独
立して評価される可能性もあり、地域支援ネットワークの構築が今後の診療報酬改定を考
える上からも重要なキーワードになると思われます。厚遇されたこの4年間の蓄積がどの程
度のものであったのか。そのことを評価審判されるのが平成28年度診療報酬改定であり、
わが国の院内感染対策の新しい動きが、そこから新たに始まることになるのだろうと思わ
れます。
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新しい視点-求められる厚労省以外へのアンテナ
院内感染防止対策や医療・介護・福祉に関することは、これまでは厚労省の動向をウォッ
チしておくだけで十分でした。しかし今後は、経済財政諮問会議や産業競争力会議、財政
制度審議会など、内閣府や政府や財務省などにおける審議動向についてもフォローしてい
く必要性が高まっています。そうした会合で重要な問題が議論され、重要視されることが
多くなっているからです。地域支援ネットワークの拡がりにより、感染防止対策が医療だ
けでなく、介護や福祉との接点を増やしつつある今、求められるのは新しい視点だと思わ
れます。
〈メディカル ドゥ編集部/平野泰弘〉
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