ユダヤの巻物、メギラー−ユダヤのプリム祭

ユダヤの巻物、メギラー−ユダヤのプリム祭
カティア・モナステリオ・シュライヤ
年末年始の休暇シーズンが終わって、満ち足りた祝福のときを思って少し目が眩みます。ハヌカ(ユダヤの冬の休日)、クリスマ
ス、そして、お正月がすべて終わって、しばらくは日常の生活が続きます。
ユダヤ人にとっての、次のまとまった休日は3月の初めです。ユダヤのほとんどの祭日と同様、この休日も聖書の物語にちなんだ
祭日です。ペルシア帝国の王妃となったユダヤ人女性の物語です。ユダヤ人は神聖な書物をメギラーと呼ばれる伝統的な巻物に
して伝えてきました。ですから、その女性の物語は「メギラー・エステル」つまり、エステルの巻物、と呼ばれています。
エステル記の舞台は古代ペルシア帝国。一人の王が、新しい妻となる人を探していました。アハシュエロス(クセルクセス1世)
という名のその王は、ペルシア帝国全土に、各地方で最も美しい独身女性を宮殿に連れてくるよう命じました。王はその中から
王妃を選ぶつもりだったのです。選ばれたのは、エステルという美しいユダヤ人女性でした。エステルの叔父であるモルデカイ
は、ユダヤ人であることを秘密にしておくようエステルに忠告しました。そして、エステルは王妃となりました。
姪であるエステルを案じるモルデカイは、宮殿近くで大半の時間を過ごしました。すると、2人の廷臣がアハシュエロス王暗殺を
計画しているという情報を耳にしました。王への通報がなんとか間に合って、その計画を阻止することができました。そんなあ
るとき、ハマンという大臣がモルデカイのそばを通りかかり、「私の前でひざまずくことはできまい」とモルデカイを挑発しま
した。モルデカイは「私がひざまずくのは神の前だけだ」と切り返しました。激怒した大臣ハマンは、モルデカイだけでなく、
全てのユダヤ人を虐殺しようと考えました。ユダヤ暦でアダルの月の13日に、ペルシア帝国に住む全てのユダヤ人を殺すように
と、ハマンは国民に命じたのです。
モルデカイとエステルはいち早くその策略を知り、ペルシア帝国のユダヤ人はみな救いを求めて断食し祈りました。エステルも
断食しました。そして、王の元へ駆けつけ、もし私がユダヤ人だとしたら、私のことを殺させますか、と尋ねました。絶対にそ
んなことはさせない、と王は答えます。そこで、エステルは自分がユダヤ人であると告白し、ハマンが国民に命じたユダヤ人虐
殺令のことを王に伝えました。
物語は、ハマンが処刑されて終わります。ペルシア帝国のユダヤ人は救われ、ハッピーエンドで物語は幕を閉じます。
プリムはユダヤの祭日の中でも少し変わっています。みんなが集まってメギラーと呼ばれる巻物を読み上げていくのです。それ
には、一緒に朗読することで、その物語を忘れないようにするという意味がこめられています。一方、プリムは騒がしい祭日で
もあります。ユダヤのマルディ・グラス、つまりハロウィンのようなものです。ユダヤ教の礼拝堂にあたるシナゴーグでは特別な
日となります。
礼拝堂に集まった人々は、メギラーの物語を大声で読み上げます。信仰深い聴衆のほとんどはそういう場合は静かにしています
が、プリムでは、ガラガーと呼ばれる音の出る道具を用意して、ハマンの名前が読み上げられるたびに、敵意を示すためにその
ガラガーを鳴らしたり足を踏み鳴らしたり、できうる限りの騒音をたててハマンの名前をかき消すのが伝統です。物語自体は伝
えていきたいのですが、敵の名前は騒音で聞こえなくしてしまうのです。
また、友人に食べ物を贈ったり、困っている人に施したりもします。断食したエステルにならって断食もしますが、その後でお
祭り騒ぎもします。お菓子、ワイン、帽子や耳の形をした食べ物が、贈り物の定番です。子どもたちがそういった贈り物を持っ
て近所の家を訪れ、ハロウィンのトリック・オア・トリートの逆のようなことを行う地域もあります。
プリムは大量の飲酒が許される祝日でもあります。普段控えている人もこの日ばかりはたくさん飲むよう勧められるのです。そ
のためメギラーの朗読は娯楽性に富んだものになります。贈り物にワインが好まれるのはこのためでもあります。中東ではワイ
ンではなくアラックが、東欧ではウォッカやプラムブランデー(スリヴォヴィツ)が飲まれます。
プリムはまた、礼拝堂で馬鹿騒ぎをする数少ない機会でもあります。人々は仮面や様々な衣装を身につけて、プリムの物語の登
場人物や漫画のキャラクター、また、動物などに扮します。ラビ(ユダヤの師、偉大な賢者)は、プリムの物語には奇跡が隠さ
れている、だから、私たちも自分を隠し装う行為として仮装するのだと述べています。出エジプト記の十の災いにしても、ハヌ
カの石油の奇跡にしても、ユダヤ人を救うために神が世界のルールを変えたという、壮大かつ明白な奇跡の物語です。しかし、
聖書の物語には珍しく、メギラーの中に神は登場していません。エステルは、最初はユダヤ人であることを隠しているのですが、
それよりもまず、物語全体から神の存在が隠されているのです。奇妙な偶然の連続の影に、ペルシア帝国のユダヤ人を救った奇
跡さえも隠されています。全ての人が、自然のままに動くのですが、最終的には善が救われ悪が罰せられるのです。
仮装、大酒、お祭り騒ぎ、そして楽しい物語。プリムがユダヤの老若男女に愛される祝日となっているのも不思議ではありませ
ん。
訳: 小越 二美 (Fumi Kogoe)
Graggers, traditional noisemakers to drown out the name of Haman
ガラガー ハマンの名前をかき消すために使われる伝統的な道具
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I-News 102 February/March 2015 The Winter Issue
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