意見書 1 意見書 (横浜環状南線釜利谷トンネルと日野隧道の交差箇所の危険性について) 柴崎 直明 (福島大学共生システム理工学類教授 地質学 福島市) 1.日野隧道について 「都市型トンネル施工技術検討会第1回検討会資料」(NEXCO 東日本・高速道路技術セ ンター,2007)によれば, 「検討区間の特徴及び検討すべき課題」として,計画されている 横浜環状(圏央道)南線釜利谷トンネルの下に日野隧道(上水管)が通っていることが図 示されている(図 1) 。横浜環状南線(圏央道)対策連絡協議会(以下,連協とする)が 2014 年(平成 26 年)に横浜市水道局に情報公開を請求した際の横浜市水道局から説明メモによ れば,日野隧道は 1963 年(昭和 38 年)に建設され 1965 年(昭和 40 年)に供用された横 浜市水道給水のための施設であり,幅 3 m,高さ 4 m の馬蹄形トンネルである。水道産業 新聞(2008 年(平成 20 年)8 月 4 日(第 4422 号)によると,神奈川県内広域水道企業団 は同年 7 月 1 日に綾瀬浄水場から横浜市水道局港南台配水池への送水を開始した。送水の ための施設整備は,横浜市の隧道配水池(日野隧道)を企業団に移管し,内部に送水管を 敷設するなど横浜市の協力を得て進められたとのことである。 2014 年(平成 26 年)10 月 16 日の NEXCO 東日本による日野隧道(釜利谷側で南線と地 下で交差)の補強工事に関する説明資料によると,横浜環状南線は日野隧道直上を横断する 計画となっており,交差部での高さの差はわずか 6~13 m となっている。しかも,交差部 では本線 2 本,ランプ 2 本の計 4 本のトンネルが日野隧道の上を通ることになっており, 日野隧道上端と本線下りトンネルおよび本線上りトンネル下端の距離は, それぞれ 6.2 m と 6.5 m と計画されている。そのため,NEXCO 東日本は日野隧道交差部の約 140 m 区間に ついて,裏込め注入工,目地補強工,内面補強工による補強対策工事を行うと説明してい る。 なお, 「都市型トンネル施工技術検討会第4回検討会資料(概要版)」 (NEXCO 東日本・ 高速道路技術センター,2008)では,釜利谷トンネルについて,本線 4 本,ランプ 2 本の 比較的短いトンネルに分割されており,シールド工法を採用した場合,それぞれのトンネ ルごとに発進・到達設備が必要となること,本線とランプとは断面が異なるため別のシー ルドマシンが必要となること等,施工の合理性,効率性が非常に低いため,シールド工法 での施工には適さない,としている。 1 意見書 1 図 1 釜利谷トンネルと日野隧道の関係 (NEXCO 東日本・高速道路技術センター, 2007) 2.釜利谷トンネルと日野隧道の交差箇所の地質について 「平成 19 年度横浜環状南線庄戸地区土質調査報告書」 (NEXCO 東日本・復建技術コン サルタント,2008)の「図 4.2.9 地層想定縦断面図」によれば,釜利谷トンネルと日野隧 道の交差箇所付近には,野島層の凝灰質砂岩(Nts)が分布している。交差箇所に最も近い 地点に H01.No.1 ボーリング柱状図が図示されており,これは連協からの情報によると横浜 市が掘削したものであるが,すでにオリジナルのボーリング柱状図は破棄されているとの ことで,詳細な地質状況は確認できない。ただ,縮小された地質柱状図の模様から類推す ると,交差箇所付近には砂岩や泥岩がおおまかな互層状に分布しているものと読み取れる。 同報告書に掲載されている詳細なボーリング資料で交差箇所に一番近い柱状図は, H19No.1 である。同報告書の地質想定断面図が正しいとすれば,H19No.1 の深度 20m 付 近が,日野隧道との交差箇所とほぼ同層準の地層になる。H19No.1 の深度 20m 付近は暗灰 ~帯褐灰色の凝灰質砂岩であり,おおむね亀裂の少ない棒状コアとして採取されている。 しかし,コアの硬軟は C(一部 D)とされており,岩級区分は CM(一部 CL)となってい る。N 値は 50 以上で最大コア長が 35~50cm と記載されている。深度 18.45 m と 18.70 m には茶色に変色した亀裂があり,傾斜はそれぞれ 5°と 50°と記録されている。深度 18.45 ~18.85 m には軽石凝灰岩の薄層がある。さらに,深度 21.30 m には掘進中に全漏水した 弱風化の亀裂(傾斜 5°)があり,深度 21.5 m には傾斜 25°の亀裂(新鮮密着)がある。 深度 21.2~21.7 m には泥岩層が,深度 24.45~24.55 m には多孔質な細礫岩層が挟在し, 24.50 m には風化変色した傾斜 5°の亀裂がある。 このように,交差箇所と同層準の地質は,亀裂が所々にみられる凝灰質砂岩であり,亀 裂の一部は茶色に風化変色し,しかも全漏水するような透水性の高い亀裂も存在する。こ のような地質条件から,釜利谷トンネルと日野隧道の交差箇所付近の地質も同様に亀裂が 2 意見書 1 みられ,しかも亀裂に沿って風化していたり透水性が高かったりする可能性がある。 同報告書に記載された一軸圧縮試験の結果によると,凝灰質砂岩 Nts(CL)は qu=1,471 (kN/m2)、凝灰質砂岩 Nts(CM)は qu=3,995(kN/m2)の値を示し,一般にいわれる軟岩の範 囲 20,000 kN/m2 以下に比べると、 軟岩の中でも強度の低いグループに属するとされている。 3.トンネル施工中および工事後に懸念される問題 前述のような地質条件から,日野隧道との交差箇所付近ではトンネル施工中および工事 後に次のような問題が発生することが懸念される。 ① スレーキングによる凝灰質砂岩の劣化 ② 施工中の振動や水位低下,応力開放による亀裂の開口や岩盤強度の劣化 ③ 工事後の道路供用による振動等による亀裂の開口や岩盤強度の劣化,隧道の変形 ① スレーキングによる凝灰質砂岩の劣化 スレーキングとは,湿潤と乾燥に伴う膨張・収縮の繰り返しによって岩石が砕片化,粒 状化する現象のことである。一般的に,スレーキングを起こす岩石は,第三紀から第四紀 の堆積岩で,凝灰岩や泥岩に多い。土木地質的には,スレーキングを起こしやすい岩は, 盛土材料としては強度低下を起こしたり圧縮沈下を起こしたりする原因となる。切土の場 合は,スレーキングにより風化速度が速くなり,深部にまで風化が進みやすい。また、強 度低下により斜面崩壊や地すべりの要因となる。 日野隧道は建設後 50 年近くが経過しており,2008 年(平成 20 年)に隧道内部に送水管 が敷設される前は,隧道内に直接水が流れるとともに,隧道内の水位を調節して貯水機能 も有していた。そのため,凝灰質砂岩や泥岩がスレーキングにより劣化している可能性が ある。また,トンネル施工時や供用時の影響により,スレーキングによる岩盤劣化が一層 進行する可能性がある。 ② 施工中の振動や水位低下,応力開放による亀裂の開口や岩盤強度の劣化 前項で述べたように,交差箇所と同層準のボーリング資料によれば,野島層の凝灰質砂 岩(Nts)には亀裂が所々にみられ,しかもその一部は茶色に変色したり風化したりしてい て,掘削中に全漏水したところもある。そのため,とくにトンネル施工時の振動や水位低 下,トンネル掘削に伴う応力開放等により亀裂が開口したり水が抜けたりするなどの問題 が発生することが懸念される。 ③ 工事後の道路供用による振動等による亀裂の開口や岩盤強度の劣化,隧道の変形 工事後の道路供用により,日野隧道の直上 6 m に位置する 4 本の道路に 1 日あたり 5 万 台もの自動車が通行することになる。その振動や経年的な岩盤の劣化により隧道や道路ト 3 意見書 1 ンネルの変形,最悪の場合には送水管の破損や道路の陥没等の重大な危険が発生すること も考えられる。送水管の破損が発生すると市民生活に多大な影響を及ぼすことになり,そ こから水が溢れ出すと道路の安全性にも深刻な影響を及ぼす可能性がある。また,復旧工 事にも多額の経費がかかるであろう。 5.まとめ 以上のことから,横浜環状南線釜利谷トンネルと日野隧道の交差箇所は両者が 6~13 m と近接しており,地質条件にも問題があるので,危険性があると判断される。NEXCO 東日 本が計画している日野隧道交差部の約 140 m 区間についての裏込め注入工,目地補強工, 内面補強工による補強対策工事だけではこの危険性を排除することはできず,道路計画そ のものを見直す必要があると思われる。 以上 4
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