平成27年1月21日付けで提出を受けた住民監査請求について、地方自治法第242条第4項 の規定により監査を行い、下記のとおり、平成27年3月21日に請求人へ通知しました。 矢巾町監査委員 立 花 純 幸 同 秋 篠 忠 夫 住民監査請求(矢巾町職員措置請求)の監査結果について(通知) 平成27年1月21日に提出のあった矢巾町職員措置請求について、地方自治法第242条第4 項の規定により監査を行ったので、同項の規定によりその結果を次のとおり通知します。 第1 請求人 (省略) 第2 請求のあった日 平成27年1月21日(水) 第3 請求の受理 本請求書は、所要の法定要件を具備しているものと認め、平成27年1月21日付 でこれを受理した。 第4 請求の要旨(措置請求書の原文のとおり) 矢巾町長は、2015年2月に矢幅駅前に複合施設を建設するため12億円の予算で工事 を実施しようとしています。 この施設の駐車場は、敷地内には5台分しかなく離れた所に専用として30台、隣接 に共用として35台あるだけで極めて少なく、町民の多くが移動手段として車を使用す ることを考えれば不便で利用しづらい施設となっています。 2階の図書センターは棚と棚の間が狭く、車椅子の方や高齢者には使いづらく、 「高齢者、障がい者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」の基準を満たしていま せん。 また第六次総合計画には図書館の構想はなく、議会答弁の通り第七次総で検討すべ き課題です。 3階の子育て支援センターの子どもの一時預かりは、町内保育園で実施しており不 便を生じていません。また安全上子どもの保育施設は1階が原則です。 町が実施した子育て世代のアンケートでは最も力を入れて欲しいことは経済的支援 でした。 日本共産党が実施したアンケートでは、複合施設を望む意見は9%だけと少なく、 最も多い37%が人口減、税収減が予想される中建設の有無を含めて再検討すべきと答 えており、29%が必要性が感じられず建設中止をと答えており、町民のニーズの低さ を示しております。 1 本町の財政状況は増え続ける区画整理事業等によりプライマリーバランス(基礎的 財政収支)は赤字であり、借入金は2012年度で198億円余りに達しています。さらに 駅前の区画整理事業に要した費用と複合施設の維持管理費年間1億円を20年間に亘っ て払い続けなければならないことは将来に大きな負担を残すことになります。 本町の人口計画は3万人としておりますが、日本創成会議によると2040年には2万 人に減少し、若い女性も51%減少すると試算されています。また本町の2012年度の特 殊出生率は1.23と県下最下位であり人口減、税収滅は避けられません。 この複合施設は安全安心上の問題、利用しづらいことに加え財政上も大きな負担と なるものです。 上記各理由により、本件工事の実施は矢巾町及び矢巾町民に多大な損害を与えるも のであり、当該工事に係る今後の公金支出を停止するために必要な措置を講ずること を求めます。また、当該工事は2015年2月に着工が予定されており地方自治法第242 条第3項に規定する「暫定的停止勧告」を行なうことも併せて求めます。 第5 1 監査の実施 監査対象課等 監査は、企画財政課、住民課、区画整理課、社会教育課を対象に実施した。 2 監査の期間 平成27年1月22日(木)から3月21日(土)まで 3 請求人の証拠の提出及び陳述 請求人に対して、地方自治法第242条第6項の規定により、平成27年2月4日に証拠 書類の提出及び陳述の機会を与えた。請求人は本件請求の趣旨を補足する図面等の事実 証明書の提出をし、陳述を行った。 なお、地方自治法第242条第7項の規定により、関係職員の立会を許可したことから、 企画財政課、住民課、区画整理課の関係職員が出席した。 4 関係職員の調査 企画財政課、住民課、区画整理課、社会教育課の関係職員に対し、平成27年2月18日 事情聴取を行った。 なお地方自治法第242条第7項の規定により、請求人の立会を許可したことから、請 求人3名が出席した。 5 監査対象事項 請求人から提出された措置請求書及び事実を証する書面、並びに請求人の陳述要旨か ら次のように解した。 矢幅駅前に複合施設を建設するため12億円の予算で工事を実施しようとしている件に 関し、 2 (1)駐車場が極めて少なく、町民の多くが移動手段として車を使用することを考えれ ば不便で利用しづらい施設である。 (2)2階の図書センターは棚と棚の間が狭いため車椅子の方や高齢者には使いづらく、 「高齢者、障がい者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」の基準を満たしてい ない。 (3)第六次総合計画には図書館の構想はなく、第七次総で検討すべき課題である。 (4)3階の子育て支援センターの子どもの一時預かりは、町内保育園で実施しており 不便を生じていない。また安全上子どもの保育施設は1階が原則である。 (5)アンケートでは、子育て世代の最も力を入れて欲しいことは経済的支援であり、 複合施設を望む意見は少なく、多くが再検討、建設中止を訴えていることから、町 民のニーズが低い。 (6)増え続ける区画整理事業等によりプライマリーバランス(基礎的財政収支)が赤 字であり、複合施設の維持管理費年間1億円を20年間に亘って払い続けなければな らないことは将来に大きな負担を残す。 (7)人口減が予測される上、本町の特殊出生率は1.23と県下最下位であることから、 税収滅は避けられないことからも財政上問題がある。 上記各理由により、この複合施設は安全安心上の問題、利用しづらいことに加え財政 上も大きな負担となり、矢巾町及び矢巾町民に多大な損害を与えるものであることから、 当該工事全般に係る今後の公金支出を停止するために必要な措置を講ずることを求めた ものである。 なお、請求書では、地方自治法第242条第3項に規定する「暫定的停止勧告」を行う ことも併せて求めているが、勧告は監査委員の職権で行うものであることから、要望と 捉え請求の内容として馴染むものではないと判断した。 第6 監査の結果 関係課から提出された関係書類の精査を行い、関係課職員から事情聴取をした。 監査にあたり、本件と深く関わりのある矢幅駅前地区土地区画整理事業及び複合施設 の概要及び施行に至る経過等について調査を行った。 結果は次のとおりである。 (1)矢幅駅前地区土地区画整理事業の概要及び施行に至る経過 矢幅駅周辺の土地区画整理事業は本町の中心市街地として、また、本町の顔として長 年にわたる地域住民のみならず町民全体の要望等を踏まえ、国の事業認可に至るまでに 地域懇談会やまちづくり検討委員会での協議を重ね進めてきた、土地区画整理法第3条 第4項の規定による整備事業である。 本町の総合計画を踏まえ、矢幅駅周辺のみならず町民全体の利便性の向上を図るもの である。 さらには、矢幅駅前地区土地区画整理事業においては、県内医療の中心的機関である 岩手医科大学附属病院の町内移転に伴い、矢幅駅の利用者が急増し交流人口の大幅な増 加が見込まれることから、まちの顔にふさわしい都市基盤整備と中心市街地としての活 3 性化が求められる中で進められてきたものである。 (2)民間活力の活用 矢幅駅前地区土地区画整理事業の推進にあたっては、いかに効率的に進めるべきかを検 討する中で、民間活力を利用する手法が取り入れられた。良好な都市景観と活性化に向け た整備、維持管理、運営を一体的な事業とすることで、早期整備を目指し、町財政負担の 軽減及び平準化を実現しつつ、公共サービスの向上を図るため、民間活力を導入すること とし、公募型プロポーザル方式で民間業者から企画提案の募集を行った。 平成21年に矢幅駅前地区整備等提案審査委員を委嘱し、公開プロポーザルを実施した。 その結果1グループから提出があり、提案内容を審査して事業に対する有効性を確認し、 さらには住民説明会を開催して意見に耳を傾けながら進めてきた。 そうした経緯を経て、平成22年の矢巾町議会第3回定例会にて10,750,000,000円を限度 とする債務負担行為に関する補正予算が議決され、特別目的会社(SPC)として結成さ れた矢幅駅前開発株式会社と平成22年9月15日付けで仮協定を、平成22年の矢巾町議会第 2回臨時会の議決を経て平成22年9月30日付けで10,728,463,000円にて業務全体の協定を 締結、工事に関しても同じく平成22年9月15日付で仮契約、議会の議決を経ることで平成 22年9月30日付けで8,409,572,667円にて本契約を締結した。なお、この協定、契約には 当初から複合施設の整備も含めて進められてきたものである。 (3)複合施設について 矢幅駅前地区は、良好な住環境の形成だけでなく、交通結節機能の強化と中心市街地と しての活力の向上も求められている地区である。このことから、土地区画整理事業の設計、 施工、補償等の業務のほか、駅周辺の利用者のための駐車場・駐輪場、さらには人々の交 流を促す複合施設についても併せて整備、維持管理、運営について一体的な事業とするこ とで効率的に事業が進展するよう、前項で述べた協定及び契約の中に盛り込まれた。 複合施設の内容は、利用者の交流促進機能を目的とした地域交流センター、2階は書架 を配置し図書サービス・学習支援機能を持たせた図書センター、親子での遊びやサークル 活動により子育て世代の学習・交流促進の場と目的を中心として、子供の一時預かりも行 う子育て世代活動支援センターを、不審者への侵入対策面を考慮し3階に設置するという 構成となっている。 複合施設の建設にあたっては国土交通省が示す都市再生整備計画事業の内容に基づき事 業が計画され、国の社会資本整備総合交付金を有効活用し財政面での負担軽減が図られて いる。 こうした経緯を経て事業が進められ、平成27年1月28日に建築基準法第6条第1項の規 定による確認済証が発行となったことを受け、2月2日に当初の工事契約8,409,572,667 円のうち、建設工事の交付金事業に関する1,078,938,000円分に関し契約を交わし、着手 する運びとなったところである。備品等の付帯経費を合わせると、およそ12億円の事業費 となるものである。 4 (4)ブラッシュアップについて 事業が進展する中、不幸にも東日本大震災が発生し、そのことに起因する建設資材や人 件費高騰の影響を受けることとなった。 また議会の全員協議会、特別委員会の場で逐次状況を説明するとともに、地権者への説 明や広報掲載による住民の意見吸い上げを経て、ブラッシュアップを図ってきた。 その結果、複合施設に関し4階鉄筋コンクリート造が3階鉄骨造に、図書コーナーが図 書センターに、さらには蔵書数の充実を図るなど、変遷してきたものである。 (5)複合施設の維持管理費 複合施設の維持管理費については現在も協議継続中のものであるが、平成27年2月25日 時点において全体の維持管理費としてそれぞれ年間22,616,550円(人件費含む。)、地域 交流センター運営費として3,872,880円、図書センター運営費として41,149,625円(人件 費含む。)、子育て世代活動支援センター運営費として28,285,454円(人件費含む。)の 計95,924,509円が積算されており、平成28年度から平成46年度の19年間にわたって支払っ ていく計画である。 (6)高齢者、障害者等の円滑化の促進に関する法律との関係 本件対象の複合施設を「高齢者、障害者等の円滑化の促進に関する法律」及び同施行令 に照らし合わせると、不特定多数の人が利用する公共的な集会場や商業施設、図書館など の「特別特定建築物」と位置付けられる。 同法第14条第1項によると特別特定建築物を建設しようとするときは政令で定める「建 築物移動等円滑化基準」に適合させなければならない。ただし同条で適合義務がある規模 は政令で定めるとあり、同法施行令第9条によると、建築規模について床面積2,000㎡以 上のものが対象とされている。 本件複合施設においては、図書センターに係る部分の床面積は1232.46㎡となっている。 第7 監査委員の判断 監査の結果に記載のとおり、矢幅駅前地区土地区画整理事業は、岩手医科大学及び附属 病院移転に伴う、矢幅駅の利用者急増による交流人口の増加を視野に、まちの顔にふさわ しい都市基盤整備と中心市街地としての活性化が求められる中で進められてきた。 その間、議会や地権者との協議、町民からの意見を取り入れながらブラッシュアップを 図り、このたび中心市街地の核として複合施設の着工に至ったものである。 以上のことを踏まえ以下のとおり判断するものである。 (1)複合施設は、駐車場が極めて少なく不便で利用しづらいということに関して、駅前に 複合施設を建設するという条件を鑑みると、駅利用者の利用も予想され、十分な駐車場 を確保することは望まれる。しかしながら、駐車場の規模が何台あれば適正と言えるの かの判断は難しいところであり、必ずしも計画台数が著しく少ないと言えるものでもな く、そのことをもって不便で利用しづらい施設と言えるものではないと考える。 (2)図書センターは棚と棚の間が狭く、「高齢者、障害者等の円滑化の促進に関する法律」 の基準を満たさない旨の指摘に関しては、同法において適合義務が求められる「建築物 5 移動等円滑化基準」にある「移動等円滑化経路」の要件に照らし合わせると、書架は居 室内に置かれているものであり、要件を満たす必要がある廊下等に該当するものでない と判断した。 そもそも本件施設のような複合型の場合は、各施設の用途ごとに適合を判断し、図書 センターに係る部分の床面積は1232.46㎡であることから、この法律の第14条第1項の 対象外と解釈する。 (3)第六次総合計画には図書館の構想はなく、第七次総で検討すべき課題であるとの指摘 に関しては、総合計画はまちづくりの指針的なものと考えられ、総合計画に無い事業で あるからと言って不当というべきものでもなく、事業の執行はその時々の行政を取り巻 く状況により首長が判断する裁量権の範囲にあるものと考えられる。 (4)子育て世代活動支援センターの子どもの一時預かりは町内保育園で実施しており、不 便を生じていないとのことであるが、そもそもこの施設の一時預かりは、駅や駅周辺の 商店等を利用する父兄のための子どもの一時預かりであり、定常的に保育することを目 的とする町内保育園とは目的が異なるものである。このことから、現在、町内保育園で 充足していると言えるものではない。 安全上子どもの保育施設は1階が原則であるとの指摘に関しては、現状の計画では子 育て世代の学習・交流促進の場を主目的としており、定常的に保育することを目的とし たものではないことから保育所とは言えず、認可外保育所設置基準の適用を受けないと 考えられる。そもそも認可外保育所設置基準においても原則は1階としつつも、2階以 上を否定したものではない。また、子どもも出入りすることを考えると、避難経路等は 安全性を追求することが望ましいが、請求人の陳述において述べられた避難経路の安全 性に関しても前述の理由により縛られるものではないものと考える。 (5)町が実施した子育て世代のアンケート結果及び日本共産党が実施したアンケート結果 に関してであるが、この事業の推進には、様々なニーズや意見を取り入れ総合的に判断 し進めてきたものであることから、一部の結果のみをもって町民ニーズが低いと言い切 れるものではない。 (6)プライマリーバランスは赤字であるとの指摘であるが、その動向はおおむね黒字であ り、財政健全化審査においては赤字は計上されておらず、将来負担比率、公債費比率は いずれも早期健全化基準を下回っている。また、維持管理費1億円を20年にわたり払い 続けることは、将来に大きな負担を残すとの指摘であるが、町財政負担の軽減及び平準 化を視野に、整備、維持管理、運営を一体的な事業とすることで余分な経費を削減しつ つ早期整備を図るため、民間活力を導入したものであり、請求人の陳述で述べられた年 間の維持管理費1億円に関する不当さも、施設ごとに見れば田園ホール等町内他施設の 運営費用に比して高すぎるとは認められないことから、将来大きな負担を残すとの認識 には当たらない。 (7)人口減により税収減は避けられないことから財政上問題がある点についてであるが、 将来の人口減による税収減の予想をもって、公金の支出が不当と言えるものではなく、 今現在の複合施設の建設にあたっての不当、違法性の指摘にはなんらあたらないもので ある。 6 第8 結論 よって、請求対象事項にある理由に関しては不当、違法とは言えず、本措置請求におけ る複合施設の工事全般に係る今後の公金支出停止を求める措置に関し理由がないのでこれ を棄却する。 7
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