~~文京白山の郷 医務室便り 平成 27 年 9 月号~~ 東京オリンピックの競技場建設に多額の費用がかかるというニュースを観るたびに、 「あのお金 が福祉に使われれば…」と思う今日この頃、皆様いかがお過ごしですか。 今回も在宅医療に携わる医師が書いた本を 3 冊紹介します。是非読んでみて下さい。 ☆小笠原先生、ひとりで家で死ねますか? 著者:上野千鶴子 小笠原文雄 朝日新聞出版 2013 年 2 月 この本は、社会学者である上野氏が、在宅医療に携わる小笠原医師に様々な質問をして、それに答え てもらう形で書かれています。その中のいくつかの質問を抜粋しました。小笠原医師がどう答えている のか、興味のある方は是非読んでみて下さい。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ・第 2 章 PPK(ピンピンコロリ)と逝けますか Q28 在宅はどうしても無理、というのはどんなケースでしょうか。(80 ページ) ・第 3 章 老衰で死ぬのは幸せですか Q31 老衰とはどんな死に方をさすのでしょうか。それは幸せな死に方ですか。(87 ページ) Q32 老衰で死ぬにはどうすればいいですか。(91 ページ) Q33 独居でも老衰死はできますか。(94 ページ) Q34 どんな手だてを尽くしても自分の親には 1 分 1 秒でも長く生きてほしい、 と思ってしまうのは、 子どもの側のエゴイズムでしょうか。(97 ページ) ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ☆家族が選んだ「平穏死」 著者:長尾和宏 上村悦子 祥伝社 2013 年 7 月 終末期の「脱水は友」(172 ページ) 人は、老衰やがんの終末期になれば、食べたり飲んだりする量が減ります。 終末期におけるゆるやかな脱水は自然な現象であり、 「省エネモード」への移行といえます。もはや 身体が水分を欲さなくなっているという証拠でもあって、いいことだらけなのです。 最小限の水分やエネルギーでも上手に生命を維持できますから、心臓に負担がかからず、心不全にな りません。ベッドの上でも呼吸が楽にできます。しかも、むくみが少なく、脱水のほうが結果的に長生 きできます。胸やお腹に水がたまらないので、いろいろな苦痛も少なくなるのです。 人間は昔から枯れるように死んでいきました。終末期の脱水はせっかくの「自然の恩恵」なのに、病 院ではがん・非がんにかかわらず脱水を指摘され、1 日に 1000~2000ml もの点滴を打たれます。 その結果、がんが栄養を摂ってどんどん大きくなり、胸水や腹水がたまって、腸閉塞になり、嘔吐や 呼吸困難などの苦痛が増すだけです。 よく「胸水や腹水を抜く」と言いますが、この場合、水分と一緒にアルブミンという貴重なたんぱく 質や栄養素まで抜いています。赤血球を除いた血液を抜いているようなもので、血液をたくさん抜けば 当然、患者さんは弱ります。 また、水を抜いても抜いても、またすぐにたまってきます。病院では抜いた分だけ点滴することが多 いようで、これでは何をしているのかさっぱり分かりません。 人間は口から水が飲めなければ、自然に体内にある水分を使うようにできています。幸い胸やお腹の 中には、何リットルもの水が貯蓄されていて、しばらくはその水を使って生きられるのです。食べなく ても、飲まなくても、尿は結構出ます。 脱水のおかげでお腹の中や消化管粘膜、全身のむくみが取れて、心不全、呼吸不全、腸閉塞が改善さ れ、また少し食べられるようになった方もいます。 仮に胸水や腹水がたまっても、それは「ラクダのコブ」のようなもの、 「胸水・腹水はあわてて抜か なくて大丈夫!」と、毎日のように患者さんに伝えています。私は昨年、約 90 人を看取りましたが、 腹水や胸水を抜いた人はゼロでした。 がんや老衰で不治、かつ末期の状態になり、これから平穏死に向かおうという人にとって、 「脱水は 友」と言えるのです。 もう一つ、 「脱水」だけでなく、 「貧血も友」です。貧血でがん細胞に供給される血液が減ると、がん の進行も遅くなります。 つまり、すでに省エネモードに入った臨終期の患者さんに多量の点滴をすることは「苦痛だけ」で利 益はありません。 「余分な治療をしない在宅での最期」がすべて平穏な理由はこの点です。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ☆在宅医療のリアル 著者:上田聡 幻冬舎 2015 年 2 月 点滴が身体の負担になることもある(26 ページ) 家族の「食べさせたい」という希望はよくわかるが、老衰の傾向が顕著に出てきた場合、無理に食べ させても良い結果は出ない。もちろん、たとえ口からでなくても、胃に強制的に栄養を入れることも然 りだ。 食べないから痩せてくるのではなく、痩せてくるので食べないでもよい身体になっていくのだ。 この時期の点滴は、かえって身体に負担になる。 入れた分だけ身体に滲みわたることでうるおいが出て、元気を取り戻せば良いのだが、そうでない場 合、つまり身体が水分を処理する能力を失っている場合は、浮腫んだり、過剰な水分が痰となって出 てきたりする。そしてその痰の吸引のために、余計な苦痛を強いられる。 平成 27 年 9 月 文京白山の郷 医務室主任看護師 神山さとし
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