報告書(PDF - 北海道大学 大学院獣医学研究科・獣医学部

北海道大学
博士課程教育リーディングプログラム
「One Health に貢献する獣医科学グローバルリーダー育成プログラム」
海外出張報告書(教員用)
2015 年 3 月 23 日提出
氏名
山﨑 剛士
所属
獣医学研究科 応用獣医科学講座 獣医衛生学教室
職
助教
出張先
World Health Organization Western Pacific Region (WPRO), マ
ニラ, フィリピン
出張期間
2015 年 3 月 7 日~11 日
目的
リーディングプログラム人獣共通感染症対策専門家養成のための教
育研修として、WPRO における感染症対策の実際を学ぶ
活動内容(2,000 字程度、活動内容が判る様な写真や図表を加えて下さい)
World Health Organization Western Pacific Region (WPRO) は、オーストラリア、
日本、ニュージーランド、韓国、シンガポールなどの先進諸国および中国やベトナム
などの急成長経済圏に加えて、種々の未発展諸国を含む西太平洋地域を管轄とする
WHO の事務局である。WPRO は Communicable Diseases, Health Security and
Emergencies, NCD and Health through the Life-Course, Health Sector
Development, Pacific Technical Support, Administration and Finance の 6 つの部
局から構成される。今回は、西太平洋地域における感染症制御のために WHO が実際
に行っている活動を学ぶ目的で、Health Security and Emergencies 部局 (DSE) に
属する Emerging disease surveillance and response (ESR) 課を訪問した。
訪問初日の午前は ESR のサーベイランス業務を見学した。ESR では、早朝から、
日々更新される管轄地域内の健康被害に関する情報を収集する。ここでは、感染症だ
けでなく、化学物質による土壌・水資源汚染や中毒、食品安全などといった広範なト
ピックから、緊急性のある報告や監視の必要のある事例が注意深く、そして迅速に選
別されていた。選別されたトピックは ESR の早朝ミーティング時にメンバー間で情
報の共有がなされ、さらに WPRO として対策が必要なトピックに関しては、DSE 全
体のミーティングで協議された。訪問当日は、緊急を要するトピックがなかったため、
DSE のミーティングは早々に終了した。
午後は、WPRO の活動の概要を DSE 主任の Li 博士に、リスクアセスメントにつ
いて CK 博士に説明いただいた。現在 WPRO の管轄する西太平洋地域で注視されて
いる感染症としては、鳥インフルエンザ A (H7N9) および 鳥インフルエンザ A
(H5N1)、中東呼吸器症候群 (MERS)、手足口病、デング熱、ジカ熱、チクングニア
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「One Health に貢献する獣医科学グローバルリーダー育成プログラム」
熱、麻疹が挙げられる。また、昨年から西アフリカで流行が見られているエボラ出血
熱に関しては WPRO 管轄地域でも監視が続いている。WPRO として対策が必要か否
かの決定には、事例のリスクアセスメントが重要となる。信頼性と重要性の高い情報
を収集し、これをもとにリスクアセスメントを行い、さらにその結果を部局内で共有
すること、および WPRO 組織上層へ報告することは、ESR の重要な業務のひとつで
あることが窺えた。また、緊急性が高く情報の少ない新興感染症のリスクアセスメン
トと対応に関しては、WHO の経験と各種専門家の協力に基づいて対策が為されると
いう話は、感染症の専門家がどのように国際的な公衆衛生業務に貢献できるかを考え
る上で印象的であった。
訪 問 2 日 目 も 早 朝よ り ESR を 訪 問 し た 。 私 た ち も Global Public Health
Intelligence Network (GPHIN) を利用したサーベイランスを試験的に実施した。
WPRO として対策が必要と考えられる報告事例を採集するのだが、その事例がいか
にヒトの健康被害に重要であるか、発生国での対応が可能か、これまでの発生事例と
比較して異常事態であるか、緊急性があるか、などを判断して事例を抽出する必要が
あり、適切な判断を行うには、疾病に関する知識だけでなく WPRO 管轄地域の状勢
に熟知している必要があるように感じた。当日の DSE 全体ミーティングでは、前日
と同様の近況報告に加え、鳥インフルエンザ A (H7N9) 、エボラ出血熱、MERS、ポ
リオに関する情報が更新、共有された。
午前から午後にかけて、Technical Officer である Frank 博士に WPRO による
laboratory の構築に関する説明を伺った。感染症の定期的なモニタリングや感染症発
生時の緊急対応を行うためには、西太平洋地域全体として laboratory を整備するこ
とが必須である。WPRO が管轄する地域内には様々な国が含まれるため、そのなか
には自力で検査・診断および対応が可能な国もあれば、そうではない国もある。WPRO
では、地域全体として検査や診断を担う laboratory の能力を向上することを目的に、
laboratory network の構築や診断技術の提供や向上を行っている。また、External
Quality Assessment という laboratory の質の評価システムを利用して、診断技術の
向上と維持を行っているとのことであった。
最後の研修として、ESR で研修中の直さんが主導する重症熱性血小板減少症候群
(SFTS) のリスクアセスメントの協議に参加した。獣医学領域の研究者としては、ダ
ニの SFTS ウイルス保有状況や感染環に興味が持たれるが、WPRO としては管轄地
域内で SFTS ウイルスがヒトの健康にどれだけ脅威であるかに関心があるようであ
る。特に、SFTS ウイルスがヒトからヒトへの伝播を起こすかどうかはリスクアセス
メントを行う上で非常に注目されている事項であった。獣医師としては動物中心に感
染症を捉えてしまう傾向にあるが、公衆衛生に貢献するための人獣共通感染症対策専
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「One Health に貢献する獣医科学グローバルリーダー育成プログラム」
門家としては、ヒトへの健康被害を中心に感染症を俯瞰する必要があると感じた。
この度、WPRO での研修を終えて、感染症の専門家が実際にはどのようにして
WHO のような国際機関において疾病制御に貢献できるのかが少し理解できたように
思う。今回の訪問では、特に効率的な情報収集とリスクアセスメント、そして国際的
な協力関係の構築が、感染症対策に重要であることを実感した。一方で、研究者とし
て感染症制御に貢献するには、どのようなリサーチが必要なのかも見えてきたように
思う。特に、サーベイランスの基礎となる疫学的知見や、疾病の重篤性の指標となる
病態の解明および診断技術や治療法の開発は、疾病のリスクを考える上で重要であり
ながら、研究機関でなければ実施できないリサーチのように考えられた。今後、今回
の WPRO での研修で得られた様々な知見や理念を、本学リーディング大学院での教
育と研究へ活かしていきたいと思う。
※1 電子媒体を e-mail で国際連携推進室・リーディング大学院担当に提出して下さい。
提出先:国際連携推進室・リーディング大学院担当
内線:9545
e-mail: [email protected]