人が訪れる川づくり~河川管理用通路の舗装について

人が訪れる川づくり~河川管理用通路の舗装について~
五島振興局
建設部
河港課
◎
藤崎
将仁
○
野口
大樹
1.はじめに
長崎県において管理する河川の数は211水系376河川あり、その総延長
は約1,150kmにも及ぶ(平成26年4月1日時点)。県が管理する河川で
は、県民からの様々な要望があり、昨今、その内容は高度化し、頻度も多くな
っていると感じている。
本稿では、河川管理の中でも特に多い伐採要望に着目し、河川管理の手法に
ついて考察し、河川管理行政の負担軽減につなげたい。
2.現状と課題
河川整備の進捗により河川構造令に定める幅(計画流量に応じて3m又は4
m)で河川管理用通路の整備が進んできている。
しかしながら、維持管理費用(特
に伐採費用)の慢性的な不足により、
適正な維持管理が図られず、管理用
通路がヤブ化、さらにはジャングル
と化している区間も見られる。(写
真1参照)
草木の繁茂した区間では、河川管
理者が巡視を実施するにも川に近
づくことすら困難な場所もあり、適
正な河川管理の妨げとなっている。
また、そのような場所では、ヘビ
や害虫等の発生のため地元からの
苦情も多く、苦情への対応に追われ
るうえ、予算確保の面から解決に至
らない場合も多いことから対応が
長期化し、他の業務にも支障を来し
ている。
写真1.管理用通路の繁茂状況
(上段
福江川、下段
後の川)
伐採要望の増加の背景には、耕作者の減少が一因として考えられる。河川の
近くで耕作している場所では、耕作者の方が自ら伐採を行っていたものの、昨
今の後継者不足等により耕作を行わない耕作放棄地も増え、管理の行われない
土地では草木が生えたままになっている。
また、非耕作者の増加に伴って、草刈機やカマ等の道具を持っている家庭も
少なくなっていることも要因となり、次第に行政に依存せざるを得ない状況と
なっているものと推察され、住民の協力をいかにして得るかが課題となってい
る。
3.これまでの対応
3.1
対策工法例
○ 簡易舗装
五島振興局において多く施工されている対応
策である。管理用通路の天端部分を伐採、表土剥
ぎ取り後に真砂土にセメントを混合して敷き均
写真2.簡易舗装攪拌状況
すものである。(写真2参照)
雑草の繁茂を抑制することができ、一定の効果が見られているが、管理用通
路の勾配、セメントの配合量や現地への流入水(表流水、湧水、地下水位)の
有無等の状況により経年変化、耐久性に違いが見られる。
また、橋梁取付部のような勾配がある区間では、大雨の際に表流水により簡
易舗装が流出している事例もあり、現地状況によって使い分けが必要である。
○ コンクリート舗装
管理用通路部分を10cm程度のコンクリートで覆うものである。他の対策
と比べ、コンクリートによる堅固な表面保護効果と高い防草効果が長期に渡っ
て得られる。河川環境の観点からは明度が高く周辺環境になじみにくいため、
本工法の採用にあたっては景観にも留意する必要がある。
○ 防草シート
管理用通路の法面部にシートを貼り保護する
ものである(写真3参照)。堤防天端部に設置す
ると車両通行が難しいため、堤防天端部を簡易舗
装等により対策し補助的に法面部の保護として
防草シートを併用することが望ましい。
防草シートによる施工を行う場合、接合部から
雑草が生える(シート内に光が入れば雑草が生長 写真3.コンクリート舗装、防草
し接合部を破る)ことがあるため、接合部を確実
シート施工状況
に密着する必要がある。
3.2
五島振興局における防草対策事例
五島振興局での防草対策事例では、簡易舗装が多く見られ真砂土1m3 に対し
セメント50kg を配合した簡易舗装で一定の防草効果が認められている。
施工方法に関して、原位置で攪拌する①安定処理工法(図 1 参照)と、改良
ヤードで攪拌した改良材を現地に搬入し敷均す②掘削土の石灰処理工(図2参
照)歩掛を準用した工法があり、これらを比較したものを表1に示す。
【安定処理工による施工フロー】
①固化材散布、混合
②敷均し、締固め
図1.安定処理工イメージ
【掘削土の石灰処理工による施工フロー】
②DT運搬
①断面整形、散布、混合
③敷均し、締固め
図2.掘削土の石灰処理工イメージ
表1.天端舗装における施工方法
項目
積算基準書
該当頁
特徴
概算費用
※
①安定処理
②掘削土の石灰処理工
Ⅱ-1-⑥-1
ⅱ-1-②-3
・原位置で作業でき
残土も発生しない
・良質土と置換える場合
残土が発生する
・舗装厚が薄い場合
施工が難しい。
・改良ヤードから現地
までの運搬が必要
900円/m2
900円/m2
※セメント系改良材50kg/m3、t=10cm
安定処理の場合、薄層の改良をバックホウで行うことは困難かつ品質に疑問
があり実現性に乏しいと思われ、天端舗装の際は改良ヤードでの攪拌混合が望
ましい。
五島振興局管内の二級河川鷹ノ巣川において施工した簡易舗装の施工後の状
況を示す。(写真4参照)
着工前
竣工時 H23.9
現況
H27.9(4年経過)
着工前
竣工時 H23.9
現況
H27.9(4年経過)
写真4
鷹ノ巣川における簡易舗装の例
一部の区間では草の繁茂が確認されるが、舗装上に堆積した土砂から根付い
た草が繁茂しているもので、轍部分等簡易舗装が露出した部分を確認したとこ
ろ、草が根付いた箇所はほとんど確認できなかった。
堆積する土砂の撤去など簡易な維持管理を適切に施すことで防草効果が期待
できるものと思われる。
3.3
実施予算について
伐採等の工事を実施する予算については、
五島振興局では護岸又は護床整備と併せて
河川自然災害防止工事として実施している
事例が多い。
河川伐開費もあるが、草木を伐採するだけ
では、1年後には元通りになってしまい、抜
本的な対策とはならない場合が多い。このた
め、河川伐開費は、河川内の高木の除去にの
み活用したほうが良いと思われる。
写真6.河道内の高木繁茂状況
4.これからの河川整備
今後の河川整備の進め方として、提案する項目を以下に示す。
①河川整備時の管理用通路舗装を原則化
長崎県では、十分な河川の維持管理が行われているとはいい難く、限られた
予算の中で対処療法的な対応しか出来ていない。河川伐採に着目した場合、従
来のように局部的に伐採を実施しても1年程度で元に戻ってしまうため、これ
からは草木繁茂の抑制に力を傾注することが必要である。しかし、新たに簡易
舗装を実施していくには、県単独事業による対応では予算面から実現性に疑問
が残る。
このため、現在実施中の補助事業内における河川整備段階での管理用通路の
舗装を実施することで予算面での実現性は高まる。なお、河川構造令にも舗装
に関しての根拠が示されており、県内の統一事項として「河川環境上の支障を
生じる場合」を定義付けし、これを除いたすべての区間で原則的に舗装を行う
事を提案する。
……堤防天端は、雨水の堤体への浸透抑制や河川巡視の効率化、河川利用の
促進等の観点から河川環境上の支障を生じる場合等を除いて、舗装されている
ことが望ましい。……
(改定 解説・河川管理施設等構造令 P122 一部抜粋)
②河川整備時点における愛護団体募集を定型化
管理用通路を舗装することで、人のふれあいや
地域の憩いの場が生まれ、水辺のにぎわいと共に
様々な産業の活性化等のストック効果が期待でき
る。このような効果を維持していくためには、予
算確保の面で行政の力には限界があり、地元住民
の協力が必要となってくる。
現在でも河川愛護団体やアダプト制度等の地元
活動を援助する制度が存在し、県から広報を行っ
ているものの、いわゆるPULL型の情報発信し
かなされておらず必ずしも周知がなされていると
は言い難い。
そこで、整備段階に行政側から地域
の各種団体へ呼びかけることについて
事務要領を定め、PUSH型の情報発
信を実施していく事を提案する。すべ
ての河川で愛護団体等の加入を募るこ
とは難しいが、一定の活動に繋がるも
のと思われる。これにより、現在より
も多くの河川において地元主導での定
期的な維持管理が実施され、ストック
効果の長期発現が期待できる。
写真7.福江川の清掃活動の様子
5.今後の展望
「川の365日」という言葉が提唱されかなりの年月が経つが、
(もはや使わ
れなくなってきている?)河川(水辺)に近づける状況を確保することにより、
住民が訪れやすい河川となることに期待している。
自然公物であるはずの河川は、河川整備を行った途端に人工公物となり、住
民からの苦情の対象となっている。水辺に近づける川づくりが実現できれば、
河川は地域に愛される場所となり、自発的な活動の活発化も期待できる。
地域主体の活動が活発になれば行政への苦情は減少し、それらの対応に要す
る行政コストの減少につながる。さらには、伐採予算の施設整備への流用、苦
情対応以外の業務への集中が可能となり業務の効率化も期待できる。
また、当然のことであるが、河川は、水に棲む生物だけではなく、植物や鳥
類といった様々な生物の生息環境となっている。生物の存在は、子ども達(川
ガキ達)を引きつけ、河川は彼
らの格好の遊び場ともなり、こ
れは同時に学習の場ともなるも
のである。管理用通路の整備に
よる人が訪れる川づくりは、人
づくり地域づくりとなり、未来
の創出につながるものと確信し
ている。
私自身も「川のあり方」を考
えながら、これからの職務を遂
行していきたい。
写真8.後の川の学習活動の様子