自動車用リチウムイオン電池の内部短絡試験方法

JARI Research Journal
20150902
【研究速報】
自動車用リチウムイオン電池の内部短絡試験方法の調査
Investigation of Internal Short Circuit Test Methods of Lithium-Ion Batteries for Vehicles
高橋
昌志 *1
前田
Masashi TAKAHASHI
清隆 *1
Kiyotaka MAEDA
Abstract
We investigated internal short circuit test methods of lithium-ion batteries for vehicles.
We performed a Forced Internal Short Circuit test, Blunt Nail test and Ceramic Nail test for
the purpose of comparing reproducible confirmation and events. As a result, we confirmed
that there was a technical problem in each test method. It is necessary to acquire verification
data to optimize internal short circuit test methods in international standards.
1. はじめに
リチウムイオン電池は,
例えば取り扱いを誤り,
過充電,過放電,外部短絡といった状況になった
場合には,電池内部で自己発熱反応が起こり,最
終的には熱暴走に至る可能性がある.通常,リチ
ウムイオン電池を使用する場合には安全装置を内
蔵した電池を使用したり,制御系統に保護回路を
設けて,そのような事態が発生することを未然に
防いでいる.しかし,2006年頃に多数発生したノ
ートパソコンや携帯電話向けリチウムイオン電池
の発熱・発火事故の原因となった,
微小金属粉の混
入や集電体の折れ曲がりによる内部短絡は,安全
装置や保護回路が正常に作動していても防ぐこと
のできない事象である.
このような保護回路等で防ぐことができない内
部短絡に対して,安全性を確保する目的で作られ
た試験法がJIS C8714(携帯電子機器用リチウム
イ オ ン 蓄 電池 の 単 電池及 び 組 電 池の 安 全 性試
験)1)に規定されている単セルの強制内部短絡試
験である.本試験の要求事項は発火が無いことと
なっている.また,JIS C8714をベースとして,
国際標準であるIEC 62133 Ed. 2.0(携帯電子機器
用蓄電池の安全性試験)2)にも強制内部短絡試験
が規定されている.ただし,本試験法の適用を承
認したのは,日本,フランス,韓国,スイスの4
カ国である.さらに,携帯電子機器用よりも大き
な産業用リチウムイオン電池に関しても,JIS C
8715-2(産業用リチウム二次電池の単電池及び電
池システム-第2部:安全性要求事項)3)に同様の
試験法である耐熱暴走特性の耐内部短絡特性試験
が規定されている.また,JIS C 8715-2では耐内
部短絡特性試験と並列で,電池システムによる耐
類焼特性試験4)が規定されており,どちらかの試
験を実施すれば良いこととなっている.耐類焼特
性試験の要求事項としては,電池システムの外装
に発火または破裂が無いこととなっている.
一方,自動車用リチウムイオン電池に関しては,
2013年に電動車両の電池パックが溶損および発
火する不具合が発生した5).原因は,検査工程で
の落下・衝撃に起因する電池内部の部品や不純物
(金属片)による内部短絡が原因であると報告さ
れている.自動車用リチウムイオン電池でも携帯
電子機器用や産業用と同様に内部短絡が発生する
リスクがあることから,関連する規格に内部短絡
試験を規定するための検討が行われている.
そこで,本報では種々の内部短絡試験方法に関
して調査したので,その結果を報告する.
2. 種々の内部短絡試験方法
従来,SAE J2464(電気自動車用蓄電池の安全
性と濫用試験)6)などに規定されている鋼製の釘
で単セルを貫通させる貫通試験は,内部短絡時の
状況を簡便に把握するための試験として実施され
ていたが,貫通により全層を短絡させるため,実
際に市場で起こる不純物などの微小短絡とは別の
事象であることなどから,内部短絡を模擬する試
験としては適切ではないとの認識が広がっている.
近年,国内外で貫通試験に替わる内部短絡試験方
*1 一般財団法人日本自動車研究所 FC・EV研究部
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(2015.9)
法が検討されているので,強制内部短絡試験を含
めて主な試験法を以下に示す.
2. 1 強制内部短絡試験
JIS C8714に規定されている強制内部短絡試験
の手順は次の通りである. 1) 充電した状態で単
セルを解体して電極体を取り出す. 2) 活物質間
等にニッケル小片を配置して電極体を巻き戻す.
3) 電極体をポリエチレン等の袋に入れた状態で
10×10mmの加圧ジグによりニッケル小片を配置
した部分を加圧する. 4) 電圧降下が認められた
時点で加圧を停止する.円筒形は最大800N,角形
は400Nまで加圧する.
充電した状態で単セルを解体するには内部構造
を熟知し,かつ熟練した作業員が行う必要があり,
危険がともなう作業である.このことが,IEC
62133で本試験法の適用を承認する国が少ない理
由の1つとなっている.大型の電池では,さらに
危険性が増すことから,JIS C 8715-2では電池作
製時または放電状態でニッケル小片を配置しても
良いこととなっている.さらに,内部短絡試験以
外に電池システムによる耐類焼特性試験が選択可
能となっている.
強制内部短絡試験の利点としては,短絡を単層
間(正極,負極層間)で発生させることができる
ため,不純物などによる微小短絡を模擬できるこ
とが挙げられる.課題としては,前述した通り,
危険がともなう作業であり,電池製造メーカなど
特定の機関でないと試験ができないことや,電極
体をセルケースに入れた状態で試験するか,また
は取り出して試験するかで短絡発生時の必要荷重
が変わる可能性が挙げられる.本試験法を自動車
用単セルに適用する場合,最大荷重設定の有無を
検討する必要がある.最大荷重を設定しない場合
は,内部短絡の発生まで試験することとなるが,
最大荷重を設定した場合には,その荷重の根拠を
示すことが必要となる.
2. 2 Blunt Nail 試験
Blunt Nail試験は2008年の国連輸送規制に関
する会議でアメリカ保険業者安全試験所
(Underwriters Laboratories Inc.)から提案され
た試験法である7).本試験法は,先が尖っていな
い釘(先端r=0.9mm)により,単セルを外部から
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押して,セルケースを突き破らずにセル内部で短
絡を発生させようとするものである.現在も,釘
の太さや先端rを変えた同様の試験法が,自動車
用リチウムイオン電池の国際標準を討議する場で
提案されている.日本でもNTTファシリティーズ
総研が同様の試験法を推奨している8).
Blunt Nail試験の利点としては,電池を分解せ
ずに簡便に試験が可能なことである.課題として
は,電池構造によってはセルケースを突き破り電
池内部まで釘が到達するため9),多層での短絡を
形成したり,短絡により発生した熱が釘を通して
外部へ放散するなど,結果的に貫通試験と同様の
事象となることが挙げられる.
2. 3 セラミックス釘刺試験
セラミックス釘刺試験は,2009年に株式会社
KRIが特許を出願した試験方法である10).先端部
分のみを金属製とした先の尖ったセラミックス釘
を使用し,これを単セルの外部から挿入して,先
端の金属部分によりセル内部で微小短絡を発生さ
せようとするものである.先端以外はセラミック
ス製であるため,短絡により発生した熱が釘を通
して外部へ放散するのを防ぐ効果があるとされて
いる.また,セル表面の釘挿入部分に,予め接着
性樹脂層を形成させることで,内部で発生したガ
スが外部に排出されることを抑止することが可能
とされている.なお,本特許は2014年3月に登録
されたが,請求の範囲はセル表面に接着性樹脂層
を形成させることのみである.
2. 4 その他試験
フランスの電池製造メーカであるSAFTは,電
気的に不活性な電池製造時にマイクロヒータをセ
ル内に挿入する方法を提案している11).電流線を
使用してマイクロヒータによりセパレータを溶か
すことで極限られた場所をトリガーとすることが
可能である.
アメリカ国立再生可能エネルギー研究所
(National Renewable Energy Laboratory)では,
200μm程度の厚さの内部短絡デバイスを予め電
池内部のセパレータ部分に埋め込み,温度40~
60℃程度で短絡させる方法を開発している12).
いずれの方法も電池製造時または解体して作業
する必要があり,容易には試験できない.
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(2015.9)
3. 内部短絡試験
再現性の確認および発生事象を比較する目的で,
強制内部短絡試験,Blunt Nail試験,セラミック
ス釘刺試験を実施したのでその結果を報告する.
3. 1 供試電池
供試電池はメーカの異なる3種類のパウチ形単
セルを使用した(Table 1).強制内部短絡試験
(Forced ISC)では1種類,Blunt Nail試験では
3種類,セラミックス釘刺試験では2種類の単セ
ルを使用し,それぞれn=3で試験した.
Table 1
Cell #
Cell
type
A
Pouch
B
Pouch
C
Pouch
Experimental cells and items
Items (n=3)
Capacity
Forced
ISC
Blunt
Nail
Ceramics
Nail
-
✓
✓
-
✓
✓
✓
✓
-
Approx.
10Ah
3. 2 試験方法
各試験方法をTable 2に示す.強制内部短絡試験
はJIS C8715-2に準拠して実施した.具体的には,
ニッケル小片をセル製造時に挿入し,セルケース
(アルミラミネート)に電極体を入れた状態で,
加圧ジグによりセルケース上面を加圧して試験し
た.なお,試験の終了条件はJIS C8715-2に記載
のとおり電圧降下を検出した時点,または荷重
400Nまでとした.電圧降下が認められない場合は,
追加の試験として荷重をさらに増加させた試験を
行った.
Table 2
ISC
method
Internal short circuit procedure
Forced ISC
(JIS C8715-2)
Ni particle +
pressurization
Pressurization
Jig or Rod jig surface:
form
10×10mm
Jig or Rod
speed
Blunt Nail
(UL proposal
method)
Ceramics Nail
(KRI method)
pressurization
insertion of
metal tip
3. 3 試験結果
Table 3に強制内部短絡試験結果を示す.JIS
C8715-2規定の荷重400Nでは,3回とも変化無し
となった.荷重をさらに増加させると,1回目試
験では5kNで発煙,2回目では6kNで変化無し,3
回目では4kNで電圧降下となった.電圧降下した
3回目試験のセルを分解して確認した結果,高荷
重で加圧した影響で加圧ジグにより部材が打ち抜
かれ,2枚目の正極材表面までダメージを受けて
いた(Fig. 1).このことから,ニッケル小片によ
り短絡して電圧降下したのか,押し切られた部材
の端部などで短絡したのか判断ができない状態で
あった.比較的大型の電池をセルケースに電極体
を入れた状態で,目的とする単層間での短絡をニ
ッケル小片によって発生させるには,試験方法の
再検討が必要であると考えられる.
Table 4にBlunt Nail試験およびセラミックス
釘刺試験結果を示す.Blunt Nail試験では,ほぼ
全ての試験で,セルケースを突き破り電池内部ま
で釘が到達した後に,
発煙や発火に至った.
また,
同じセルでも事象が異なる結果となり,再現性が
低いことを確認した.本試験は,セルケースを突
き破らずに外部から加圧してセル内部で短絡を発
生させることを目的とする試験であるが,狙い通
りの試験とならない結果となった.
セラミックス釘刺試験では,同じセルで事象が
同一になったことから,今回の試験の範囲では,
再現性が高いことを確認した.試験後にセルBを
解体した結果,短絡した電極層は5~8層程度であ
った.強制内部短絡試験と同様に単層間での短絡
を模擬するには,さらに検討が必要である.
Table 3
Cell #
Rod diam.:3mm Rod diam.:3mm
Rod tip:r=0.9
Rod tip: acute
mm, angle 45° angle 60° at
metal tip
0.1mm/s
0.1mm/s
C
n
Forced ISC test results
Event
Load at 400N
> 400N
1
No event
Smoking at 5kN
2
No event
No event at 6kN
3
No event
Voltage drop at 4kN
damaged area
0.1mm/s
Stop the jig
Stop the rod
Stop the rod
End-of when voltage
when voltage
when voltage
drop is detected drop of more
-test
drop is detected.
condition or the load
than 100 mV is
reaches 400 N. detected.
10 mm
4th separator
Fig. 1
2nd cathode
Surface of separator and cathode after the third
Forced ISC test (pressurization at 4 kN)
JARI Research Journal
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Table 4
Cell #
A
B
C
n
本研究は,資源エネルギー庁/(株)三菱総合
研究所の委託により実施した「新エネルギー等共
通基盤整備促進事業」の成果の一部である.
Blunt Nail and Ceramics Nail test results
Event
Blunt Nail
Ceramics Nail
1
Fire
Fire
2
Smoking
Fire
3
Fire
Fire
1
Smoking
Voltage drop
2
Voltage drop
Voltage drop
3
Smoking
Voltage drop
1
Smoking
-
2
Fire
-
3
Smoking
-
参考文献
1) JIS C8714:2007, 携帯電子機器用リチウムイオン蓄電
池の単電池及び組電池の安全性試験, 2007-11-12
2) IEC 62133 Ed. 2.0:2012 (b), "Secondary cells and
batteries containing alkaline or other non-acid
electrolytes - Safety requirements for portable
sealed secondary cells, and for batteries made from
them, for use in portable applications," 2012-12-06
3) JIS C 8715-2:2012:産業用リチウム二次電池の単電
池及び電池システム-第2部:安全性要求事項,
4. まとめ
今回,幾つかの内部短絡試験を実施して得た結
果を以下に記載する.
 強制内部短絡試験は,電極体をセルケースに入
れた状態で試験した結果,JIS C8715-2規定の
最大荷重では内部短絡は発生しなかった.比較
的大型の自動車用単セルに本試験法を適用す
る場合,荷重規定や加圧ジグ形状など試験方法
の再検討が必要であると考えられる.
 Blunt Nail試験は,今回の試験ではセルケース
を突き破り電池内部まで釘が到達し,再現性が
低い結果となった.狙い通りの試験をするには
適切な釘形状の選定手段など難しい課題があ
ることがわかった.
 セラミックス釘刺試験は,今回の試験では再現
性が高い結果となった.ただし,短絡した電極
層は少ないもので5層程度であったことから,
強制内部短絡試験と同様に単層間での短絡を
模擬するには,さらに試験方法の検討が必要で
ある.
日本では,民生用リチウムイオン電池に関して
電気用品安全法の技術基準に強制内部短絡試験な
どを取り込むことにより,市場での発火等の事故
を減少させた経緯がある.
有効な試験法であるが,
他国では本試験法の実施に否定的な国もあり,
種々の内部短絡試験方法が検討・提案されている.
よって,国際標準などで内部短絡試験法の適正化
を図るには,今後も種々の試験方法に関する検証
データの取得を進める必要がある.
JARI Research Journal
2012-07-20
4) 冨岡純一ほか:自動車用リチウムイオン電池の熱暴走
発生方法の調査, JARI Research Journal 20140606
(2014)
5) 三 菱
自
動
車
ウ
ェ
ブ
ペ
ー
ジ
,
http://www.mitsubishi-motors.com/publish/pressrele
ase_jp/corporate/2013/news/detaild424.html
(2015.7)
6) AE J2464, "Electric Vehicle Battery Abuse Testing,"
03-01-1999
7) PRBA ウ ェ ブ ペ ー ジ , UL Presentation, UN WG
Meeting on Lithium Batteries - November 2008,
http://www.prba.org/laws-regulations/un-wg-meetin
g-on-lithium-batteries-november-2008/ (2015.7)
8) 磯部ほか:市販リチウムイオン電池の釘刺し試験法に
関する考察(その4), NTT ファシリティーズ総研レ
ポート, No.24, pp73-77 (2013)
9) Josua Lamb et. al., "Evaluation of mechanical abuse
techniques in lithium ion batteries," Journal of
Power Source, Vol. 247, pp189-196, 2014
10) 野村一彰ほか:蓄電デバイスの安全性評価方法, 特許
第5503183号, 登録日2014年3月20日
11) Kamen Nechev et. al., "Studies of Large Batteries
for Defense Applications," Abstract #656, IMLB
2010
12) Matthew Keyser et. al., "Numerical and
Experimental Investigation of Internal Short
Circuits in a Li-ion Cell," 2011 DOE Vehicle
Technologies Program Review
- 4 -
(2015.9)