事業継続マネジメント(BCM)とは(1)

2016 March Special-1
東京海上日動 WINクラブ
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事業継続マネジメント(BCM)とは(1)
東日本大震災では、
被災地を中心に多くの企業が打撃を受け、
事業の存続を諦めざるを得ないケースも相次ぎました。
今後発生するであろう首都直下型地震や東海地震のような巨大地震は、必ずやまた多くの企業の経営を危機に晒すこと
になるでしょう。また、地震だけでなく昨年の鬼怒川の堤防決壊のような豪雨災害等も、事業継続を危うくする大きな
リスクです。企業としては、これらの災害対策を着実に進めていくことが必要です。
本稿では、今回から 3 回に分けて、企業の災害対策において重要な役割を果たす「事業継続マネジメント(BCM)
」
について紹介していきます。第 1 回は、BCM の概要と必要性、企業の取組みの現状について解説します。
Ⅰ.BCP と BCM の違い
「事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)
」とは、大地震をはじめとする自然災害、新型インフルエンザ
等の感染症の蔓延、事故やテロといった危機的事態が発生しても、重要な事業を中断させない、もし中断したとしても
できる限り早期に復旧させるために、企業としての方針や体制、対応手順等を整理した計画です。
そして、
「事業継続マネジメント(BCM:Business Continuity Management)
」は、BCP が危機発生時に効果を
発揮できるよう、計画の定期的な見直しや従業員への教育・訓練等によって継続的に改善していく活動を指します。
BCM は本
来、あらゆる
BCMの概念
BCPの概念
危機を対象に
事業を継続さ
事業継続マネジメント
せようとする
取組みですが、
教育・訓練
地震災害のリ
事業継続計画
見直し
スクの大きい
経営層の
チェック・承認
日本の企業で
は、地震を対
マネジメントサイクルによって
事業継続を継続的に改善
象に取組みを
進めるケース
が多く見られます。
【図表1:BCP と BCM の概念】
Ⅱ.なぜ BCM が必要か
冒頭に述べたとおり、東日本大震災では多くの企業が事業活動の継続に大きな影響を受けました。しかし、その一方
でBCM の取組みが功を奏し、
危機を切り抜けることができた例も報告されています。
図表2に掲載した二つの企業は、
施設・設備の甚大な被害や長期間の停電等、最悪の事態に直面しながらも、日頃からの BCM の取組みが効果を発揮し、
①従業員の迅速で的確な行動、②関係先との通信の確保、③代替先での重要業務の実施等に成功し、事業中断の影響を
最小限に食い止めることができました。
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BCMの取組み
【S社】
東日本大震災で発揮されたBCMの効果
 2008 年 に BCP の 検 討 を 始 め 、
2009年に第1版を策定。
従業員:67名
従業員の避難や安否確認を迅速に実施、全員の無事を早い段階で確認できた。
•
衛星電話により処理施設の修理業者と速やかに連絡が取れ、震災翌日には修理業
 社内研修会では外部の専門家も参
資本金:6,000万円
者が復旧の確認作業を開始。官公庁や顧客とも連絡を行い、地震翌日から各市町
加してもらい、BCP の机上演習や
事業内容:産業廃棄
物の収集運搬、中間
•
模擬演習を実施。
 緊急用の通信手段として衛星電話
処理、上水・下水施
及び顧客の復旧作業にも参加した。
•
自社処理施設の復旧までは、県外の同業者の協力を得て廃棄物の処理を実施した。
•
産業廃棄物の収集運搬及び清掃業務、リサイクル業務は震災後約1週間、その他
を設置。
の中間処理業務は約1か月と早期に復旧できた。
設の清掃等
【K社】
 2007年の新潟県中越沖地震の際
従業員:214名
資本金:8,000万円
事業内容:施設の配
タマイズ盤の受注生
最重要方針として出荷停止による顧客喪失の防止を決めていたことで、被災工場
の早期復旧と非被災工場での代替生産の組み合わせによる製品供給継続と、営業
BCP策定プロジェクトに参加し、
部門による詳細な情報提供による顧客との信頼関係構築に絞り込んだ対応が機能
2010年にBCPを作成。
した。
 シミュレーション訓練を実施(本
電盤・制御盤のカス
•
にBCPの必要性を認識、東京都の
社ヘの安否報告、BCPの機能確認
•
シミュレーション訓練によって「動いてみる・考えてみる」経験をしていたこと
が、経営者と従業員の判断・行動につながった。
等)。
産
【図表2:東日本大震災で BCM が役立った事例】
【出典】中小企業庁「中小企業白書 2011」
、及び東京海上日動火災保険株式会社「TALISMAN 東日本大震災と事業継続計画(BCP)
」
をもとに TRC 作成。
また、東日本大震災では、特定企業の事業中断によるサプライチェーン途絶のリスクも改めて認識されました。代替
が難しい製品・サービスを供給する企業の事業が中断すると、サプライチェーン全体に致命的なダメージを与えかねな
いため、自動車や電機をはじめ複雑なサプライチェーンを構成する業種では、完成品メーカーが取引先やグループ会社
に BCM の取組みを要請する動きも広まっています。実際、中小企業庁の調査1では、BCP 策定のきっかけとして「親
会社からの要請」
・
「国内の取引先からの要請」を挙げる企業も目立っています。
企業単独やサプライチェーンだけでなく、地域社会の継続の面でも企業の BCM の取組みは重要です。住民への製品・
サービスの供給、雇用の創出といった面で周辺地域と密接な結びつきを持つ企業の存続は、地域社会の継続に欠かすこ
とのできないものです。また、東日本大震災のように広域かつ甚大な被害をもたらす大災害では、行政だけの対応に限
界があることから、震災後には災害対策基本法が改正され、建設や物流、医薬品や食料品のメーカー等、災害応急対策
や復旧に関係の深い一部企業について、事業継続の努力義務が明文化されました。
Ⅲ.中小企業にとっての BCM
現状では、中小企業の BCM の取組みは、大企業に比べて遅れています2。その理由としては、BCM の必要性が理解
されていない、BCM の取組みに必要な資金・人員・時間が確保できない、BCM の知識・ノウハウが不足していると
いった様々なものが推測されます。また、起こるかどうかも分からない危機に対して、一定の経営資源を投入して BCM
に取り組むことに二の足を踏むケースもあると考えられます。
しかし、既に述べたとおり、BCM は企業自身の危機対応力を強化し、事業中断の被害を最小限に食い止めることが
できます。また、BCM の取組みに対して、サプライチェーン途絶を懸念する取引先や、行政・地域等からの期待が高
まっていることも忘れてはなりません。取組みが十分に広がっていない現在のタイミングは、BCP 策定や BCM 構築
に着手することで他社との差別化を図り、顧客や地域の信頼を獲得するチャンスと捉えることもできます。BCM にま
だ取り組んでいない企業においては、BCM が自社にもたらすメリットを整理し、できるところから取組みに着手して
いくことが望まれます。
次回は、実際に BCM の取組みを進めていくプロセスについて紹介する予定です。
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中小企業庁委託調査「平成23 年度中小企業のリスクマネジメントに関する調査」
(平成24 年3 月)参照。
中小企業庁委託調査「平成23 年度中小企業のリスクマネジメントに関する調査」
(平成24 年3 月)によれば製造業の中小企業のうちBCP 策定済みの企業
は4.1%、総務省「平成24 年版情報通信白書」によれば中小企業のうちBCP 策定済みの企業は14%となっている。一方、内閣府「企業の事業継続の取組に
関する実態調査」
(平成24 年3 月)によれば、BCP 策定済みの企業は、大企業で45.8%、中堅企業で20.8%となっている。
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