マイナス金利が住宅ローンに与える影響 チャイナリスク、オイルリスクに挟撃され、あれよあれよの株価となった東京ストックマーケッ トに、再び黒田バズーカが撃ち込まれた。金融政策としては最後の切札とも言えるマイナス金利 導入である。今回は、異次元の緩和から次の異次元に入りつつある金融政策の住宅ローンへの影 響について触れる。 ■ 米住宅ローン リスクとリターンに関する選択肢 ■ 米国住宅市場の回復が目覚ましい。2016 年の米国新設着工数は 150 万戸の予測が出るほどの 好調ぶりだ。金融が不動産と建築を回転させている米国の住宅ローンを再確認しておく。 米国では債務不遡及型ノンリコース住宅ローンを義務化している州と任意の州とに分かれてい る。任意の州ではノンリコースローンと債務遡及型のフォワードローンの選択が可能となってい るが、あえてフォワードローンが選ばれるには相応の理由がある。 米国の住宅価格は、短期のアップダウンを繰り返しながら長期傾向では上昇を継続している。 不動産時価が抵当価値を上回るとホームエクイティ(住宅資産価値)が発生し、そのホームエ クイティが担保となり旺盛な消費や2戸目の住宅投資に振り向けられる。しかし一方で、不動産 下落により抵当価値がローン残債を下回るネガティブエクイティも発生する。 そうなると、今度は逆に住宅ローン返済額の増額を請求されることになる。住宅取得という高 額な投資を住宅ローンというレバレッジをかけて行う以上、リスクとリターンに関して複数の選 択肢が用意されているわけだ。 リスクを避けるならノンリコースローンを選べばよいし、資産形成を目論むのであればフォ ワードローンが有効となる。 ■ 貧困リスクとリバースモーゲージ ■ 米国住宅ローンの特徴の1つとしてリバースモーゲージ(ホームエクイティコンバージョン ローン)がある。後期高齢者 1 割負担で済む日本のような手厚い社会保障制度が存在しない米国 においては、疾病の貧困リスクは極めて高く、リバースモーゲージが社会保障のサブシステムの ような位置づけとなっているとも言える。 2009 年のリバースモーゲージの利用状況を見てみると 13 万件、360 億ドルの契約高があり、 利用者の平均像(1997 年データ)は年齢 76 歳、年収 1 万ドル、年金 8,000 ドルとなっていて、 “ラ ストリゾート”の呼び名にほど遠くつましい。 ■ 日本のマイナス金利への感応度には疑問符 ■ 日本より早く 2015 年 11 月よりマイナス金 利が始まった欧州では、デンマークやスウェー デンで住宅ローンのマイナス金利が始まって いる。 デンマークのノルディアクレジットでは 2016 年上半期の住宅ローン金利を- 0.3%に 設定したと報じられている。 ローン融資に事務手数料がかかるので利用 者は多少の費用負担は行うとのことだ。それで もマイナス金利効果は目覚ましく、バブルに 近い不動産価格上昇がデンマークでは起こっ ている。 さては日本である。マイナス金利というター ボチャージャーは住宅給付金程度の効果はあるだろう。但し、それ以上でも以下でもない。 なぜならば経済には強い粘性があり、日本のデフレ脱却は未だ久しからずであるからだ。住宅 取得者はキャピタルゲイン(資産価値)への期待はとうになくしている。つまり、米国や欧州の ような正の金利感応性で住宅需要を活性化させるための基本条件は、一にも二にも資産価値の上 昇が不可欠となる。 ■ 2016 年のお勧め住宅ローン まずは 10 年 ■ 2016 年は 10 年固定型住宅ローンをお勧めする。メガバンクが先導して、1%を切る 10 年固 定型住宅ローンの販売が年度内に予定されている。 長期固定の安心と短期変動のメリットを足して 2 で割るような中途半端さはさることながら、 混迷する経済状況の中でリスクを取りつつ予見できない将来をヘッジできる次善策としてお勧め できる商品だ。 10 年で仕事や家族も環境も変わる。そしてローン減税の期間も 10 年間である。いわゆる教育 家族が必要とするコアの住生活期間も最低 10 年である。 10 年固定ローンのリスクシミュレーションを試みる。① 3,000 万円を三井住友信託銀行 10 年 固定 0.79%ローンで借り入れると、総返済額は 3,271 万円となる。② 30 年償還計画とすると、 月次の返済額は 96,510 円となり、10 年間で 1,158 万円となる。③現在中古実勢相場の 10 年落 ち6掛けで計算すると、1,800 万円の再販価値が残る。つまり、①-(②+③)= 313 万円が経 済的リスクである。
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