JAトップインタビュー 園芸を重点に、 生産振興を最優先 河野 豊 千葉県JA長生 代表理事組合長 長年、園芸農家だった経験から、農家の気持ちをつか んだ営農指導を展開。 「組合員と話ができ、要望に応 えられる」職員づくりに力を入れています。 ◆生産量復活への期待 で、全体の農業生産額が落ち込んでおり、こ ――地域農業のビジョンについて、お聞かせ れが問題です。もともとこの地域は県内でも ください。 有数の長ネギの産地ですが、最盛期に比べて 管内は温暖な気候で、海岸部から内陸部 生産量は半減しています。いまJAの目標は、 の山間地を含み、海岸沿いの平たん部は米と これを元の水準にまで戻すことで、そのため、 園芸、山間部は米の単作が中心です。米のほ さまざまな対策に取り組んでいます。 か、トマト、キュウリ、メロンなどの施設園 そのひとつが、昨年の11月に建設した長ネ 芸、長ネギ、タマネギなどの露地野菜、梨 ギの出荷調製施設です。長ネギは、出荷のた か き ガーベラやスプレーストックなどの花卉など めの生産労力の 6 割を出荷調製作業が占めま があり、それぞれの条件を生かした多様な農 す。これをJAが肩代わりすることで、生産 業を展開しています。 者は泥ネギのまま持ち込めばよく、特に若い ただ最近は、生産者の高齢化と後継者不足 生産者の規模拡大につながると、期待してい ます。 昨年は試験段階でしたが、今年の出荷から 本格稼働する予定です。長ネギは最盛期には 年間70万ケースの出荷だったものが13万ケー スにまで減りましたが、いま20万ケースくら いにまで戻っています。 トマトも力を入れている品目です。ひと昔 前まで200万ケースを出荷していたのですが、 いまは半分の100万ケースほど。この 3 月に JA長生本所 12 月刊 JA 2016/03 は、 5 人の若い生産者による5,000坪の施設 こうの・ゆたか 平成元年生産者組織「白子グリー ンファーム」設立に尽力、18年 JA長生野菜部会長、22年JA 長生非常勤理事、25年代表理事 組合長、26年JA千葉中央会副 会長に就任。 撮影・JA長生企画部企画課 美濃川 雅 (トマト団地)が完成するので、復活への弾み 活力を育み、その結果としてJA事業の拡充 がつくと思っています。こうした取り組みが功 を図ろうというものです。 を奏して、管内では作付面積が増え、遊休農 また、安全・安心な農産物生産の取り組み 地の解消がかなり進みました。 にも重点を置いています。さらに平成26年度 には、農家の高齢化への対応、あるいは規模 ◆担い手支援体制を強化 拡大を目指す生産者支援のために、 「JA長生 ――営農面でどのような支援をしていますか。 あぐり・アシスト農業無料職業紹介所」を設 長ネギは、生産者による「長生ネギの今後 けました。 を考える会」 、トマトは「長生トマトの今後 水田地帯では、行政が集落営農づくりを働 を考える会」などをつくって指導してきまし きかけていますが、JAも農地の利用集積事 た。こうした指導をするために、生産者の要 業で、これを支援しています。 望もあって今年度から、担い手支援課の体制 個人経営を含め、平たん部の水田農業はか を強化しました。 なり規模拡大が進んでいます。 ここでは、組合員の要望に応じながら、地 こうした生産者は法人化し、ライスセン 域ごとの特性を生かした地域づくりを進めて ターなどの精米・貯蔵施設を自分で所有して います。経営支援をすることで、地域農業の います。そうした法人に地域の水田農業は任 2016/03 月刊 JA 13 JAトップインタビュー 長ネギの出荷調製作業 トマト施設を巡回し、今後の栽培管理を指導 せていいのではないかと思っています。ただ、 には、これまであまり積極的に取り組んでき このところの米価格の下落によって、水田の ませんでした。 借り手が少なくなるなどの傾向が出ており、こ しかし、組合員サービスを充実させるには うした経営の生産意欲に与える影響を心配し 准組合員を増やしていく必要があると感じて ています。 います。 昨年は、243ha ほど飼料用米に取り組みま 信用・共済事業の員外利用比率の問題もあ した。一定の所得が確保でき、主食用米の価 りますが、今年から准組合員の拡大に取り組 格下落の影響を抑えることができます。法制 もうと思っています。 化の話が出ていますが、そうなれば日本の稲 作は何とか維持できるのではないかと期待し ◆常に変革・改革の意識を ています。 ――JA改革の中心になるのは職員です。こ れからどのような職員が必要でしょうか。 14 ――JA長生として、今後どのような方向に いかに「組合員に奉仕できるか」が、ポイ 進むべきと考えていますか。 ントです。組合員として長年農業に従事した JAの使命は、農業生産の振興・拡大にあ 経験からいうと、組合員は意外とわがままな ります。農業生産がしっかりすれば、購買・ ものです。 販売の経済事業は、おのずとついてくるもの 私もそうでしたが、それだけJAに求めるも です。 のは大きいということです。 一方、JAの事業展開を進めていくために それに対応できる職員でなければならない は、正組合員だけでは限界があります。後継 でしょう。それも組合員のいいなりではなく、 者の多くは都会に出て、地元にはお年寄りだ 対等に会話のできる職員であってほしい。そ けが残っているというのが実態です。 れが農家へのサービスでもあるのです。 そうなると、准組合員を増やさないとやっ そうでないと、農家に行って怒られ、怒ら ていけません。正組合員だけではJAの活動 れるから行かなくなります。それが不満だか も事業も維持できなくなるのは明らかです。 ら農家は職員を叱る。するとますます行かな いま、JA長生は、正組合員約 1 万人に対 くなる。 して准組合員は約5,000人。准組合員の拡大 悪い循環で、結局、職員は知識が身に付き 月刊 JA 2016/03 JAトップインタビュー 担い手支援課職員は、タブレットを使って具体的に指導 管内のスーパーマーケット店内のインショップ ません。 た。 担い手支援課では、積極的に農家訪問をす 最初は管理職を対象にしていましたが、管 るようにさせています。管内はいろいろな作目 理職のレポートに「一般職にも読ませたい」 があるので、農家の要望も多様です。それを という意見があり、対象を広げました。 「読ん きちんとつかめる職員になってほしいです。 だおかげでこういうふうに仕事をやるようにな 特に担い手支援課の職員には、それを期待 りました」といううれしいレポートもありま しています。設立して6 年ほどですが、この2 した。 ~ 3 年でかなり成長したのではないかと思っ このほか教育文化セミナーなど、全職員の ています。 教育の場を、できるだけつくるようにしていま 職員に望むことは、変革・改革を常に念頭 す。組合員には、青年部や女性部、生産組合 に置いて仕事に臨んでほしいということです。 などの生産者組織などに、積極的に県外研修 のんべんだらりの職場では、楽しくないはず するよう勧めています。先進地でもどこでも、 です。常に、どうすれば能率や生産性が上が 自分の目で見ること、これが大きな勉強になり るかを考えて改革していけば、職場も楽しく ます。 なります。 (写真は全てJA長生提供) 組合長になった当初、30年、40年とJAに 勤めている年配の職員と、話がなかなか合い ませんでした。私はずっと農業を経営し、生 産者の組合をつくったり部会長をやったりし て、世間や他業者とも付き合ってきました。 ◎JA長生の概況 昭和51年、長生郡内6町村の8JAが合併、同61年に茂原市の 1JA、同13年に同市の1JAと合併して、現在のJA長生になる。 千葉県 ▽組合員数 1万5,601人 (うち正組合員1万317人) ▽貯金残高 1, 263億7,388万円 ▽長期共済保有高 3,677億9,379万円 ▽購買品取扱実績 37億9,418万円 ▽販売品取扱実績 53億1,053万円 ▽職員数 243人 JAにはそうした経験の豊富な職員が、少な いと感じました。 昨年、『トヨタ 仕事の基本大全』 (中経出 版)を260人の全職員に読ませ、感想をレ ポート提出させました。仕事に対する意識を 統一したいと考えてのことでしたが、反響が あり、特に若い職員が喜んで読んでくれまし JA長生 (平成27年12月末) 2016/03 月刊 JA 15
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