第 62 号 発行:名古屋大学文学部 広報体制委員会 [email protected] 教員コラム―No.61 野茂投手と地理情報科学 奥貫 圭一(地理学) ちょうど 20 年前の 1995 年 5 月,野茂英雄投手がアメリカ大リーグでデビューしました。野茂投手 が所属したのはロサンゼルス・ドジャース。デビュー戦の相手はサンフランシスコ・ジャイアンツでし た。野茂投手の活躍は素晴らしく,同じ年の 7 月にテキサス州アーリントンで開催されたオールスター ゲームで栄えある先発投手に選ばれました。野茂投手は,その後も 2 度のノーヒットノーラン(無安打 無得点試合)を達成するなど,まさに野球史に残る大選手でありました。 さて,現在,大リーグには 30 球団があり,それぞれが北米のいずれかの都市をホームとしています。 ニューヨークとシカゴのように複数球団のホームとなっている都市や,ボルチモアとワシントン D.C. のように近接する都市もありますので,大リーグ球団のホームとなっている都市の数はおよそ 25 と考 えて良いでしょう。この 25 の都市をできるだけ効率的に回るにはどうしたらよいでしょうか。この問 いは,セールスマンがお客さんを訪ねていく順路を求める問題として有名で, 「巡回セールスマン問題」 などと呼ばれています。こうした地理的な問題をいかに論理的に考えるかという研究はひとつの分野と して成立していて,ちょうど野茂投手が大リーグで活躍したのと同じ頃に「地理情報科学」と呼ばれる ようになりました。現代では,スマートフォ ンに触れれば,いつでも,どこでも,容易に 街の情報(つまり地理情報)が手に入るよう になりました。地理情報科学の果たすべき役 割はますます大きくなっていると言って良 いでしょう。 25 都市は,どのような順番で回ったらよ いでしょうか。ぜひ,皆さん考えてみて下さ い。 学生たちの研究生活―File8 マイナス 20℃の国で 研 究 室 名 : 言 語 学 研 究 室 私は博士課程の大学院生として,言語学研究室でフィ ンランド語を研究しています。一般に外国語というと英 語,中国語,フランス語などが思い浮かぶと思いますが, それらは世界に数千ある言語のうちの一つに過ぎません。 メジャーであれマイナーであれ,話者数が多かれ少なか れ,それぞれの言語・文化には,豊かな世界が広がって います。私の留学の話で,その一端を感じてもらえれば 幸いです。 2 年前,フィンランドの古都に 1 年間留学しました。トゥルク大学の,外国人用フィンランド語専攻 で学んだのですが,はじめは先生のフィンランド語があまり理解できず,半泣きでのスタートでした。 でも,クラスメートや先生,チューター,友人の助けも借り,落ちこぼれながらも授業は楽しく,帰国 2015 年 6 月 10 日 したいと思ったことは一度もありませんでした。 また,住んでみてはじめて,その国の文化に深く触れることができます。私は行事,伝統工芸,自然, 食べ物と,好奇心旺盛に貪欲に吸収しました。フィンランドは,夏が白夜で美しい分,冬の寒さは厳し く暗いです。トゥルクでも‐20℃の日がありました。そんな中でも人々は日常生活を営んでおり,冬な らではの楽しみもあります。 「凍った湖に穴を開けて泳ぐ→サウナで温まる→水着で雪の上に転がる」 というクレイジーな体験や,頭上に広がるオーロラは,忘れることができません。 言語だけでなく,その国をまるごと学ぶことができる,そんな留学が,大学では可能です。また,名 大には外国人留学生も多く,彼らが日本を体感するお手伝いや,彼らを通して世界を広げることもでき ます。ぜひ,どちらも体験してみてください。Kiitos lukemisestasi!(読んでいただきありがとうござい ます。 ) [久保田 樹(博士後期3年) ] 学生たちの研究生活―File9 考古学と人間観察 研 究 室 名 : 考 古 学 研 究 室 僕は大学4年次の卒業論文のなかで,平安時代の陶器職人について研究していました。平安時代とい うと,みなさんはどんなイメージを持っているでしょうか。おそらく学校の古典や歴史の授業で主に扱 われるのは,貴族など社会の上層部の人々がほとんどかと思います。しかし,陶器職人をはじめ,社会 の中下層部の人々(一般人といってもいいかもしれません)の歴史というのは,実はわかっていないこ とがまだまだたくさんあるのです。考古学は,遺跡の発掘をとおして,文字記録を残すことのなかった 一般の人々の歴史をひもとくことができる学問です。僕はそうした考古学の強みを生かし,遺跡から発 掘された遺物を手がかりにして,当時の陶器職人たちのことを明らかにしようと試みました。研究の結 果,彼らが周囲の状況(需要など)に応じて,複数の窯を柔軟に渡り歩きながら生産活動を行っていた ことがわかりました。 僕が陶器職人について興味を持ったのは,大学構内 における発掘調査がきっかけでした。名古屋大学の構 内には,古墳時代 平安末期頃の窯業遺跡があります。 その発掘のなかで,遺跡や遺物に直に触れるという経 験をし,窯業や職人たち,ひいては平安という時代そ のものにも関心を持つようになりました。 ところで,僕にとって研究の大きな力となったのは, 日々の人間観察でした。考古学を勉強している人がこ う言うと,ひょっとしたら意外に思えるかもしれませ ん。しかし,歴史にしろ,言語や文学にしろ,研究の最大の目標の一つは「人間」への理解を深めるこ とです。自分と同じ時代―現代―に生きる人々への関心を持ち続けることで,過去の人々への洞察を深 めていけると僕は信じています。 [岡田 紘和(博士前期 1 年) ] 最近の文学部 ゴールデンウイークが終わり,もうすぐ梅雨 「恋の時節です,僕はもうすぐ 17 歳になります[…]」 。1870 年 5 月 24 日,フランスの片田舎で無名の高校生だ ったアルチュール・ランボーが,パリの高名な詩人に宛てた手紙の冒頭です。高校では中間試験もある憂鬱な時期 ですが,145 年前に早熟の天才詩人が,生命力あふれる初夏の自然を完成度の高い詩にしています。(YK記) 名大文学部の WEB サイト *本紙では,名大文学部の多彩な内容を順に紹介していきますが,それまで待てない人は… http://www.lit.nagoya-u.ac.jp/ まで( 『月刊名大文学部』のバックナンバーもあります)
© Copyright 2024 ExpyDoc