時代の潮流と都区制度

時代の潮流と都区制度
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東京都知事によるオリンピック開催都市の申請
2020年オリンピック・パラリンピック競技大会は、「東京」が、イスタンブール
とマドリードに競り勝って開催地となった。東京オリンピックを成功させなけれ
ばならないことは論を俟たない。開催準備と大会本番では、依然として地方から
の人口流入が続く「東京」はさらに社会的にも経済的にも勢いづくであろう。
オリンピック憲章には、「オリンピック競技大会の開催都市となるための申請
は、その都市の管轄権限を持つ当局により、その国のNOCの承認を添えてIO
Cに提出しなければならない。」
(規則33付属細則1.
2)とある。「その都市の管轄権
限を持つ当局」とは、「イスタンブール」の場合はイスタンブール大都市自治体(イ
スタンブール県の県都)の市長であり、「マドリード」は、マドリード市(マドリー
ド州の州都、マドリード県の県都)の市長であった。
「東京」は東京都の知事であ
る。オリンピックの開催地申請は「市」
(我が国でいう基礎的な地方公共団体)が行
うのが普通である。もし東京に「県都」があれば、その都市自治体の当局が開催都
市の申請を出しただろう。
日本の首都が東京であることは確かでも、東京都の首都(県都、中心の都市自
治体)はどこかと問われれば戸惑うだろう。現在の都庁所在地は新宿区である
が、新宿区が「県都」とは見なされていない。昭和39年(1964)年に第18回夏季オリ
ンピックは東京で開催されたが、そのときの東京都は、地方自治法上は、特別区
が存する区域においては市たる性格を併せもつ基礎的な自治体とされていた。し
かし、平成10
(1998)年の地方自治法改正によって特別区が基礎的な地方公共団体
であると法定された後でも、いずれの特別区も「県都」にはなれないでいる。基礎
的な自治体としての「県都」は不在なのである。ここに特別区が「都の区」である実
態の一端を垣間見ることができる。
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平成10年地方自治法改正の意義−特別区が基礎的な地方公共団体へ
平成10
(1998)年5月公布の改正地方自治法によって、東京都は、
「特別区の存
する区域において、特別区を包括する広域の地方公共団体」、特別区は、「基礎的
な地方公共団体」と規定された。ただし、都は、市町村が処理するものとされて
いる事務のうち、「人口が高度に集中する大都市地域における行政の一体性及び
統一性の確保の観点から当該区域を通じて都が一体的に処理することが必要であ
ると認められる事務を処理するものとする。」とされている。この改正の意味を一
言でいえば、特別区を都の内部団体的に扱ってきたあり方を転換し、基礎的な地
方公共団体として明確に位置づけたことであった。
今日、特別区が基礎的な地方公共団体であるといっても、当たり前ではないか
巻頭論文
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