特定の数・立体の水酸基を有するポリオールを選択的に合成する触媒

特定の数・立体の水酸基を有するポリオールを選択的に合成する触媒反応を開
発
~医薬品や生体材料の開発加速につながると期待~
1.発表者: 金井 求(東京大学大学院薬学系研究科薬科学専攻 教授)
松永 茂樹(東京大学大学院薬学系研究科薬科学専攻 准教授(研究当時)
/現:北海道大学大学院薬学研究院 教授)
2. 発表のポイント: ◆ポリオール(注 1)を含むさまざまな医薬品等の開発が世界規模で進められている中、特定
の数・立体を有するポリオールを選択的に合成する触媒(注 2)反応の開発に成功した。 ◆これまで合成が困難であった医薬品や新たな生体材料の開発加速につながると期待される。 3.発表概要: 東京大学大学院薬学系研究科 金井 求 教授、松永 茂樹 准教授(研究当時/現:北海道
大学大学院薬学研究院 教授)らの研究グループは、特定の数・立体の水酸基(注 3)を有す
るポリオールを選択的に合成する触媒反応の開発に成功しました。
多くの医薬品や生体材料には、複数の水酸基を有するポリオールと呼ばれる構造が含まれて
おり、薬理作用や材料としての機能に重要な役割を果たしています。このため、ポリオールを
含むさまざまな医薬品等の開発が世界規模で進められています。ポリオールを合成するために
は、アルデヒド(注 4)に複数のエノラート(注 5)を結合させる手法(アルドール反応、注 6)
が用いられますが、アルデヒドに対して特定の数のエノラートを特定の方向から連続的に結合
させることは非常に難しく、結果として、さまざまな数・立体の水酸基を有するポリオールの
生成物が混合物として得られてしまうため、これを解決する反応の開発が望まれていました。
本研究グループは、アルデヒドに対して特定の方向から結合させられる独自のエノラートを
発生させる手法を見出し、これを用いることで、特定の数・立体の水酸基を有するポリオール
を選択的に合成することに成功しました。また、さまざまな添加剤と組み合わせて用いること
により、これまでは 2 連続が限界であったアルドール反応を、3 連続および 4 連続で達成する
ことに成功しました。
今後、本触媒反応を用いることにより、これまで合成が困難であった医薬品や新しい生体材
料の開発加速につながるものと期待されます。
本研究成果は、米化学会誌「Journal of the American Chemical Society」のオンライン速報
版で日本時間12月4日に公開されました。
4.発表内容: <研究の背景> 水酸基は、水に溶けやすく生体適合性の良い官能基(注 7)です。多くの医薬品や生体材料
には、複数の水酸基からなるポリオールと呼ばれる構造が存在し、薬理作用や材料としての機
能に重要な役割を果たしています(図 1)。このため、ポリオールを含むさまざまな医薬品等
の開発が世界規模で進められています。ポリオールを合成する手法としてアルドール反応が挙
げられます(図 2)。これは、アルデヒドにエノラートを結合させることで水酸基を構築して
いくものです。しかしながら、従来の手法では、アルデヒドに対してエノラートを特定の方向
から連続的に結合させることが非常に困難でした。このため、膨大な種類の異なる立体を持つ
生成物が得られてしまいます。例えば、エノラートを 1 回結合させる場合には 4 種類、2 回で
は 16 種類、3 回では 64 種類、4 回では 256 種類・・・となり、必ずしも特定の数のエノラー
トを結合させられるわけではないため、状況はさらに複雑です。結果的に、さまざまな数・立
体の水酸基を有するポリオールの生成物が混合物として得られてしまうという問題がありま
す。
<研究の内容> 本研究グループは、有機合成反応において生成物の立体を制御するために用いられる「不斉
分子(注 8)
」を組み込んだエノラートであれば、アルデヒドに対して特定の方向から結合させ
られるのではないかと考えました(図 3)。このようなエノラートを発生させる独自の条件を
見出し、検討の結果、生成し得る膨大な種類の生成物のうち、たった 1 種類を高収率で選択的
に合成することに成功しました。また、反応の途中で逆の立体を有する不斉分子を組み込んだ
エノラートを用いると、別の立体の水酸基が導入された生成物が選択的に合成されることが分
かりました。これは、本触媒反応において、不斉分子を適切に選択することにより、異なる立
体の水酸基を有するポリオールを自在に作り分けられることを意味しています。
連続的にエノラートを結合させるためには、アルデヒド生成物が次のエノラートと結合しや
すい状態を維持する必要があります。しかしながら、アルデヒド生成物は生成後すぐに消失し
てしまうため、従来のアルドール反応では、連続的にエノラートを結合させられるのは 2 回ま
でが限界でした。本研究グループでは、2 回目以降のエノラートと結合しやすいアルデヒド生
成物を長時間維持することのできる添加剤を見出し、これを用いた検討の結果、世界で初めて、
3 連続および 4 連続のアルドール反応を達成しました。連続反応においても、生成し得る膨大
な種類の生成物のうちたった 1 種類を高収率で選択的に得ることができ、本触媒反応が非常に
高効率なものであることが分かりました。
<今後の展開>
今後、本研究によって見出された、特定の数・立体を有するポリオールを選択的に合成する
手法は、従来のアルドール反応の効率を凌駕した次世代のアルドール反応です。本触媒反応を
用いることにより、これまで合成が困難であった医薬品や全く新しい機能を有する生体材料の
開発加速につながるものと期待されます。
5.発表雑誌: 雑誌名:「Journal of the American Chemical Society」
論文タイトル:Catalytic Asymmetric Iterative/Domino Aldehyde Cross-Aldol Reactions for
the Rapid and Flexible Synthesis of 1,3-Polyols
著者:Luqing Lin, Kumiko Yamamoto, Harunobu Mitsumuma, Yamato Kanzaki,
Shigeki Matsunaga*, Motomu Kanai*
DOI 番号:http://dx.doi.org/10.1021/jacs.5b11192
アブストラクト URL:http://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/jacs.5b11192
6.問い合わせ先:
東京大学大学院薬学系研究科
教授 金井 求(カナイ モトム)
〒113-0033 東京都文京区本郷 7-3-1
Tel:03-5841-4830 Fax:03-5684-5206
E-mail:[email protected]
7.用語解説:
(注 1)ポリオール
アルコール性水酸基を複数有する化合物。
(注 2)触媒
特定の反応を進行させやすくする分子。
(注 3)水酸基
ヒドロキシ基とも呼ばれる。一般式は―OH で表され、アルコールやフェノールの官能基で
ある。「官能基」は (注 7)を参照。
(注 4)アルデヒド
カルボニル基(C=O)とこの炭素原子に結合した水素原子(H)および任意の基(―R)か
ら構成される分子。一般式は R―CHO で表される。
(注 5)エノラート
炭素-炭素二重結合(C=C)上の炭素に直接ヒドロキシル基(―OH)が結合した化合物のヒ
ドロキシル基の水素原子(H)がプロトンとして解離して生成する陰イオン。
(注 6)アルドール反応
活性なエノラートの酸素原子(O)に結合した炭素の隣の炭素がアルデヒドに付加する反応。
(注 7)官能基
有機化合物を特徴づける原子団。例えば、アルコールのヒドロキシル基(―OH)、カルボ
ン酸のカルボキシル基(―COOH)、アミンのアミノ基(―NH2)など。
(注 8)不斉分子
鏡に映したときに重ね合わせることができない関係にある 2 種類の分子。
8.添付資料: O
OH
O
HO
OH
OH OH OH OH
図 1.抗生物質ロキサチシンに含まれるポリオールの構造
複数の水酸基(―OH)で構成されている。水酸基は紙面に対して手前(太線)に向いている
ものと奥(点線)に向いているものの 2 種類の立体が存在する。
O
O
OH O
OH OH O
OH OH O
OH OH O
OH OH O
OH O
OH OH O
OH OH O
OH OH O
OH OH O
OH O
OH OH O
OH OH O
OH OH O
OH OH O
OH O
OH OH O
OH OH O
OH OH O
OH OH O
−
×
図 2.従来のアルドール反応
アルデヒドにエノラートを連続的に結合させると、さまざまな数・立体の水酸基を有するポリ
オールの生成物が混合物として得られてしまう。
O
O
OH O
OH OH O
OH OH OH O
OH OH OH
OH O
×
図 3.本グループが開発した次世代のアルドール反応
アルデヒドに「不斉分子」を組み込んだエノラートを連続的に結合させることで、特定の数・
立体の水酸基を有するポリオールが選択的に得られる。