鐘秀 - 沖縄県立西崎特別支援学校

平成26年度
実践・研究報告書
鍾 秀
中学部3年生
沖縄県立西崎特別支援学校
巻
頭
言
沖縄県立西崎特別支援学校
校
長
久 保 田 和 枝
平成26年度の教育実践・研究報告集「鍾秀」が発刊され、誠に喜びにた
えません。「鍾秀」という言葉には、鍾乳石のように一滴一滴があつまれば巨
大なものになるという深い意味が込められています。
この教育実践・研究報告集は、平成12年度に創刊、平成15年度には、
名称も「鍾秀」となり、以来、毎年途切れることなく発刊されております。
職員が互いに切磋琢磨し、日頃の授業改善のための教材研究や指導内容・方
ひい
法等の工夫改善、県外研修や自己研修等を通して深めた成果のうち秀でたも
あつ
しようしゆう
のを鍾めまとめたものがこの「 鍾 秀 」であります。
今年度の研修テーマを「将来の自立と社会参加に向け、幼児児童生徒が個
々の実態に応じた指導・支援~幼児児童生徒の課題に応じた班での研修を通
して~」と設定し、全体研修・各学部研修・個人研究と取り組んできました。
校内研修組織として2年目となる「性教育班」「ICT班」「自閉症班」「そ
の他班」とそれぞれの班で取り組み、様々な課題解決に向けた実践・研究報
告が今年度「鍾秀」には多数収録されており、本校職員の本テーマに対する
関心の高さと意気込みを感じます。また、学校経営のキーワードとして「チ
ームワーク」「笑顔」「信頼」を掲げるとともに特別支援教育の専門家として
自信と誇りに満ちた教職員をめざしてきました。さらに学校組織として「同
僚性」を重視して取り組みました。このような積極的な校内研究は、日々の
教育活動を支えるものであり、必ずや学校教育目標を達成するための土台に
なるものと確信し、学校力の向上につながることを期待します。
今年度は初任者研修2名、10年経験者研修3名、県総合教育センター長
期研修1名が授業研究や課題研究等に取り組みました。県外研修にも14名
の職員が参加し、校内研修等でその報告・発表を行いました。今後も校内外
の研修に全職員が積極的に関わるとともに、専門性を高め、資質の向上を図
るためにも、この教育実践の記録が本校の知的財産として継承され活用され
ることを願っています。末尾となりましたが、本実践・研究報告集の作成に
あたりご尽力をいただきました研修部をはじめ関係する皆様に心から感謝申
し上げます。
平成27年2月
A 児のコミュニケ―ションの工夫
-ipad の写真と音声を通しての理解と表現を深めることを狙って-
職
員
対
名:
象:小学部6年2組
男子1名
日時:平成 26 年9月~12月
1
テーマ設定の理由
A 児はシェーグレン‐ラルソン症候群、知的障害、自閉症を有する小学部6年の男児である。基
本的生活習慣はほぼ身に付いているが、体調や情緒に左右されることが多い。コミュニケーション
は、ジェスチャーや表情、発声等を使い、自分の欲求や伝えたいことを表現するが、日頃一緒に関
わる大人以外には伝わりにくい。その伝わらなさからかんしゃくを起こすことが多い。そこで、音
声・視覚的に分かりやすく、伝わりやすい代替コミュニケーション手段として ipad を使用するこ
とによって、自分の欲求や伝えたいことが伝わりやすくなり、A 児も自分の伝えたいことが伝わる
嬉しさや安心できる環境を整えられると考えた。また、級友が ipad のアプリで遊んでいると、自
分から触ったりボタンを押したりと ipad に興味を持ってきている実態に加え、人前で発表したり
司会をしたりすることが好きなことから、毎日の朝の会、帰りの会の司会を ipad を使って進行で
きることを目標に ipad を導入することにした。他にも、小学部6年生ということもあり、修学旅
行のあいさつの言葉や司会進行も ipad を活用して進行することにした。
(1)ipad を使った朝の会や帰りの会の司会進行を通して、ipad 活用に慣れる。
(2)ipad を活用して、修学旅行でのあいさつや司会進行に取り組む。
2
研究の実際
(1)ipad を使った朝の会や帰りの会の司会進行を通して、ipad 活用に慣れる。
① 絵カード利用の朝の会の司会から ipad 活用への変換
学習内容
A 児の目標
児童の様子・評価
・呼名の進行は絵
・絵カードを選択した
・呼名の活動時は、友達の絵カードを選択したり、発
カード(文字入
り、皆に見せたりす
り)の提示にて
ることができる。
1学期の朝の会
声したりすることができた。
進めた。
2学期の朝の会
・呼名の進行を
・ipad の画面をタッチ
・複数の指や爪でタッチしたり、ipad の画面切り替え
ipad の画面をタ
することができる。
ボタンを押すことが多く、ipad の操作に慣れない様
ッチして、音声
・画面の写真をタッチ
読み上げ機能を
すると同時に音声
活用しながら、
がを聞き、タッチし
進行を進める。
た名前と人を理解
子から、教師と一緒にタッチする活動を行った。
することができる。
4
② 帰りの会の帰り先の確認(お母さん・デイサービスはばたき)
学習内容
A 児の目標
児童の様子・評価
・教師の言葉やジェ
・
「ちがうよ、お母さんだよ!はばたきさんだよ!」
1学期の帰りの会
・帰り先の確認時は、教
師の言葉とジェスチャ
スチャーを理解
ー(お母さんならハン
し、自分の帰り先
ドルのジェスチャー、
が分かる。
と、確認後、かんしゃくを起こすことが多かった。
デイサービスはばたき
なら鳥が飛ぶジェスチ
ャーを行った)を見て
理解する。
2学期の帰りの会
・帰り先の確認時に、ipad
・ipad の画面をタ
・教師と一緒に画面をタッチし、写真や音声を聞い
をタッチして確認す
ッチすることが
て、頷く様子が見られた。かんしゃくを起こすこ
る。
できる。
とが無くなり、帰り先の確認がスムーズになっ
・画面の写真を見て
た。
理解したり、タッ
チした時の音声
を聞いたりして、
帰り先の確認が
できる。
(2)ipad を活用して、修学旅行でのあいさつや司会進行に取り組む。
① 修学旅行でのあいさつ(ホテルの入所式等)
教師と一緒に ipad の画面をタッチし、音声を出すことができた。音声でのあいさつの間は、
静かに聴くことができた。
② 修学旅行での司会進行
教師と一緒に ipad の画面をタッチしながら、司会進行することができた。
3
成果と課題
(1)成果
① 帰りの会の帰り先の確認になると、自分から ipad を探し、確認しようとする様子が見ら
れるようになった。
②
言葉やジェスチャーのみの帰りの確認時は、帰りの確認時に納得できずにかんしゃくを起
こす様子が見られたが、Ipad の視覚・聴覚の効果によって、帰りの会での帰り先の理解が
一回で確認・理解することができ、かんしゃくを起こすことが無くなった。
(2)課題
①
Ipad の操作の指タッチが難しく、タッチペン等の活用が必要である。また、複数画面の
タッチをしてしまうことや、画面ボタンの理解が難しく、ipad ボタンの操作に注意がいっ
てしまうので、ボタン式(押す感覚が分かる代替コミュニケーション教材を使うことが望ま
しい。また、引き続き継続活用し、ICT機器を活用した活動に慣れ親しませることが必要
である。
②
ipad よりも絵カード(朝の会の出席確認時)の方が、A 児一人で進めやすい様子が見られ
たことから、ipad のみの司会進行ではなく、A 児の操作しやすい絵カードも取り入れた司会
進行が望ましい。
5
自閉症の生徒への支援の工夫
- 実践研究会を通して -
グループ:自閉症班
対象:各学部児童生徒
1 テーマ設定の理由
生徒の実態が重度・重複化、多様化の傾向がみられる中、同時に自閉症を併せ有する生徒の個々のニ
ーズに応じた指導の充実も求められている。本校では昨年度まで、生徒に応じた課題解決のために指導
形態や集団構成の工夫、構造化や教材教具のあり方等の研究を各個人で行ってきた。自閉症に対する教
材のあり方や、注意喚起、STとの連携継続的な支援の在り方等、昨年度の様々な継続課題に対し、今
年度は、生徒の学習が将来豊かな生活を送るために必要な力とどのように結びついていくか等をグルー
プや班全体で実践の様子をビデオや資料を見せ合い皆で検証し、話合いをしながら研修を行った。実践
研究会を通して生徒の実態に応じた活動内容を充実させ、こどもが「わかる、できる、自信をもつ」体
験の積み重ねから、将来必要な力へとつなげていきたい。実践研究会では、生徒の目標を明確にし、実
践に使用した教材や、実践の様子の VTR をみながら、お互いによかったことや、生徒の気になる様子、
感想などを発表し合った。支援の目標、目的や手立て、指導形態、手順、タイミングや系統性など客観
的な振り返りにつながる意見交換ができるよう一連の過程を大切にして研修を進めた。
「その子にとって豊かな生活」とは何かということを目指し、教師がそれぞれ専門性を生かした実践
の積み重ねと、さらに研究会を通して学部を超えた意見交換を活発に行い情報共有することで、一つの
授業改善から学部を超えた全体的なこどもの成長・発達を意識した継続的な支援の体制作りや一人一人
への効果的な指導の充実が図れるのではないかと考え本テーマを設定した。
2 研究仮説
自閉症を併せ有する生徒の支援において、実践研究会を実施し意見交換を通して実践の改善を行
うことで、発達や特性を意識した子供への一貫性をもった指導へつながるであろう。
3 研究の実際
(1) 研修計画及び実施内容
月日
研修
内容
学部・個人
6月25 日
第1回
班別研修会
・今後の取り組みなど
・自閉症について学習会(自閉症について・手法等)
・付箋を活用したグループ討議(生徒の課題の把握)
対象生徒
を決める等
夏季休業期
7月
第2回
班別研修会
・各学部の計画の確認
・自閉症の支援について実践事例の紹介
7 月 28 日
選択研修
7 月28日(月)高山恵子さん講演会へ参加
糸満市農業改善センター
8 月26日
(火)
第3回
班別研修会
◎進路企画(事業所との職業自立地域推進協議会へ参加し事例を聞く)
○ビデオ(実践)研究会の方法の確認
50
就労先で求められ
る力を具体的に知
る
9 月24日
(水)
学部別研修
●学部別研修 ビデオを撮る日やクラス決め、使用する教材教具や場面
の決定など 各学部で検討
学部で内容や日程
を決める
10月22日
(水)
学部別研修
●班別研修(各学部・小、中は合同)
各学部でビデオ撮りした授業の研究会をする。中間報告に向け5分に
まとめる
PP作成
10月24日
(金)
第4回班別
研修会
●太田ステージ 武藤先生の授業観察(午前)及び
太田ステージに関する基礎講義(午後)
11月26日
(水)
第5回
班別研修会
●班別研修(中間報告会)
各学部からよかった事例を全体で実践研究会
学部を超えて意見交換の場とする
12月9日
(火)
班別研修会
報告書作成
PP 作成など
●各学部で、実践のとりまとめ、レポート作成等を行う。
○自閉症学習会及び、実践事例の紹介の実施(6・7月)
第1回、2回の班別研修では、自閉症についての概要や、手法、考え方等を簡単に説明し、実
践事例も映像をみながら参考にできるよう実施した。担当生徒にどんな力を育成したいか、また、
研修をどのようにすすめるか等を具体的に話し合い、学部ごとに発表を行った。
○職業自立地域推進協議会への参加(8月)
職業自立地域推進協議会では、様々な事業所から実態に合わせた支援方法の工夫や仕事の
定着に向けた細やかな支援等、様々な事例を伺うことができ、充実した内容となった。学校
でも、「やってはいけないこと」は小さいときからしっかり教え、それが障がい特徴でも少
しずつ改善が必要。また、意思決定や自己選択の能力の育成も必要等、支援者としての基本
姿勢などを考えるよい機会となった。
○太田ステージ
武藤先生の授業観察及び、基礎講義(10月)
武藤直子先生に来校していただき、太田ステージの視点から小学部の授業観察と助言をし
ていただいた。その後、全学部へ呼びかけて太田ステージの基礎的な考え方を講義してもら
った。具体的な考え方や教材教具を使ったステージの把握の方法等を知り、実態把握をする
ことで生徒の次の課題をどのように組み立てていけばよいのか等、丁寧に教えていただくこ
とができた。
(2)実践研究会(ビデオ検討会)の実施
・実践研究会(ビデオ検討会)についての確認内容(以下、特別支援教育の学習指導案と授業研究:
ジアース教育新社より参照)
●実践研究とは?
授業研究は授業のPDCAサイクルや、授業作りの過程や全体について、個人や複数の教師で分
析し、検討する取り組み。
目的①こどもに豊かな学びを実現
(実態に合わせた教材教具、発問や目標の到達度等について考える)
目的②授業者を含む教師同士の学び合い支え合う機会に。
(学び合いの意識の向上が専門性を高める)
●充実した実践研究会にするために
51
今回の研修での実践研究は、「毎日の授業や取り組みを少しでもよりよいものに」して、生徒の
豊かな生活や社会参加に向けて、何ができるか、どんな力をつけたらいいのか?教材教具の研究等、
学部を超えて情報交換や意見交換をしながら実施する。
○準備物 ・授業の略案(簡単なものでいいので、ビデオや資料を見ながら授業や取り組みのねら
いや目的が分かるプリントを準備)
・授業や取り組みのVTRまたは資料
●授業研究会の手順
①ルールの確認。
・授業者に感謝(授業を実施してくれた先生に敬意を表し、建設的に話す)
(授業者の意図、思いや考えを尊重する)
・教師同士お互いに学び合う気持ちで参加
(教師自身の授業の見え方、学んだことの交流を行う場である)
(授業の「面白さ」や「難しさ」を共有する場である)
(一人一人の教師が持っている子供の情報を共有する場である)
・授業の事実と感想を分けて話す(私だったら…は×)
・時間を守る
(タイムタイマー等を活用してスムーズに進める)
②実践ビデオや資料を見る
・授業者は略案やプリントをもとにして、授業を説明したり、意見がほしいことを伝える。
・授業の目標に関する場面や意見をもらいたい場面をビデオなどで示す。
・参加者は、ビデオや資料をみながら以下の視点について気付いたことを記入する。
○子供が学んでいたところ
(よかった点)
○子供がつまずいていたところ(気になった点)
○感想
③付箋に書く(全員参加しやすく、発表者の振り返りに活用)
・子供が学んでいたこと等(ピンクの付箋)
・子供がつまずいていたところ(黄色の付箋)
・感想
(青の付箋)
実践研究会が終わった後も詳しく話ができたり、書いたこと
に対して意見交換ができる。
付箋は、たくさん書くことを目的とせず、優先順位をつけて
精選して書くのがポイント。
④付箋をもとにして発表する
・付箋の記入の後は、模造紙に付箋を貼りながら、一人30秒程度
で発表する。時間内に分かりやすく伝えることがポイント。
・授業者に敬意を忘れずに、自分だったらこうする等の意見ではなく、よかった点や学びに困っ
ていたのでは?という子供の学びを探し合い、自分なりのアイデアにする。
⑤学びの背景を検討する
・発表後は、各学部や学年、グループに分かれ付箋が重なっていたところを中心に「なぜ子供の
この姿がみられたのか」
「どう改善したらいいか」等の背景や授業、取り組み改善策等を検討。
・実践研究で出された様々なアイデアや何をどの順番で取り入れるかは、授業者が、子供の実態
やこれまでの学習の流れ等を考慮しながら決定する。
52
※付箋を貼る模造紙例(項目は使用しにくい位場合、生徒の実態や取り組みに合わせて内容変更可能)
学習活動
生徒の実態や取り組み内容に
学んでいたところ
(学びに)つまづい
よかった点
ていたところ
感想
気になった点
意見や感想、質
問等を書く
導入
(作業・授業
場面・もしく
は計画等)
展開
児童生徒の様子
や姿を書く
付箋が重なったところを中心
に検討
評価やまとめ
等
(3)授業実践(各学部の取り組み)
各学部の実践のページ参照
3 成果と課題
個人研究と合わせながら、班全員で活発に意見交換の場を持つことは、時間的な制限や考え方の
違いなども含め課題が多い中、多くの先生方に協力していただいて実施することができた。学部を
超えて研修を進めることができたことで、生徒の発達段階を意識したり、取り組みの客観的な振り
返り、教材や教具のアイデアの共有等、情報共有の機会が広がったのではないかと考える。以下、
各学部からの感想や意見を成果と課題としてまとめた。
(1)成果(よかった点)
・各学部の取り組みや支援方法がわかり、勉強になった。
・一つの実践に対して、様々な角度から先生方の意見やアドバイスをきくことができよかった。
・検討会をすることで、自分たちのやっている実践の整理もできたのでよかった。
・他学部の実践事例などを共有して、指導に活用した教材、指導の様子(動画など)について知る
ことができてよかった。
・他学部の具体的な取り組みがわかり、卒業後の進路に向けて小学部段階では、何をすべきか、何
をさせたいのかを考える時間ができた。
・VTR で生徒の様子をみることができたので、とてもわかりやすかった。また、先生方からのアド
バイスで自分では気づけなかった改善点に気づくことができ、とても勉強になった。
(2)課題(改善が必要なこと)
・小・中・高で全体で検討する時間がもう少し必要だと感じた。
(3)その他、感想等
・班全体での検討会の時、初めて聞く専門的な言葉が多く、勉強不足を痛感した
・各学部の取り組みにしてもらえたので、やりやすかった。
参考文献
鹿児島大学教育学部編「特別支援教育の学習指導案と授業研究」P164
53
ジアース教育新社
2013
自分の思いを伝えよう
自分の思いを伝えよう
~
帰りの会と国語の授業を通して
帰りの会と国語の授業を通して
~
自閉症班
中学部
グループ職員名:
対象生徒:中学部2年男子生徒
1
生徒の実態
生徒の実態
・自閉症
・自分の気持ちや要求を表出することが苦手
・質問されても質問を繰り返す
・答えたくないことや解らないことがあると「うううぅ」という言葉を発する。
・帰りの会において「れんらくノート」に今日の振り返りの欄を設け、意思伝達の向上を目指し
ている。対象生徒は、ノート記入時によく隣の生徒の真似をして書くため、
「見ないで」や「真似
しないで」などと言われることが多かった。
*今後、仕事や生活場面でも自分のしたことや意思を伝える力は必要と考え、伝える力の育成を
学級や教科で連携して取り組むこととした。
2
取り組み内容
(1)学級
帰りの会において「れんらくノート」を記入。4月から9月中旬まで「れんらくノート①」を
使用。対象生徒は、何をどう書いていいのかわからない様子で隣の生徒の真似をして書くことが
多く、他の生徒から「見ないで」や「真似しないで」と毎日のように言われていた。その後、国
語の授業とタイアップし、対象生徒が意思伝達を行いやすいように具体的な項目(「いつ」「だれ
と」
「何をした」
「その時の気持ち」)を設けた。9月中旬から12月初旬まで「れんらくノート②」
を使用。12 月中旬からは、自立のために「活動の報告がきちんとできること」を目的に「何をし
た」の部分を3つから2つに減らし、各項目を独立したまとまりとした。また、バロメーターを
使うことで自分の気持ちをより表現しやすくなると考え、「れんらくノート③」の型を使用した
れんらくノート①
れんらくノート②
れんらくノート③
(2)国語の授業
授業の始めに報告文の作成と発表を行った。報告文は「い
つ」
「だれと」
「何を」
「その時の気持ち」の枠をあらかじめ
設け、記入していく形になっている。
ワークシート①
対象生徒のワークシート①への取り組みが定着したため、
ワークシート②へ変更した。ワークシート②では、「何を」
の項目を「始め」「次に」「最後に」と具体的に書けるよう
にした。
ワークシート②
文字のバランスをとるためにワークシート②からワーク
シート③に変更し、文字記入の部分を括弧ではなく四角に
した。
「何を」の部分を「初めに」
「次に」
「最後に」と3つ
の出来事を記述できるよう設けていたが、対象生徒の記述
は上記の「ワークシート②」に見られるように、
「おれたち
のうたをおどりました」
「たいそうをしました」、左記の「ワ
ークシート③」に見られるように「いいことあるさ」、「栄
光のかけはしを歌いました」と、ほぼ2つの出来事であっ
た。グループで話し合い、対象生徒に3つの出来事を書か
せるのではなく、2つの出来事を具体的に書かせることを
目標にした。
ワークシート③
ワークシート④は、
「始めに」と「次に」の2つの出来事
の記述にしている。ワークシート①から③では「だれと」
の記入枠は 1 つであったが、2つの出来事を具体的に記述
することを目標としたため、ワークシート④では「始めに」
「次に」のそれぞれに「だれと」の欄を設けた。
ワークシート④
対象生徒のワークシート④を書く力が定着してきたため、
ワークシート⑤に変更した。授業研究で他学部から助言を
もらい、
「気持ち」の尺度を表す欄を挿入した。対象生徒が
感じた「気持ち」がどれぐらいの数値なのかを、丸をつけ
たり色を塗ったりして表せるようにした。
ワークシート⑤
3
授業研究を通して
(1)授業研究会の視点
育てたい力
生徒の様子
具体的な改善策
改善後の様子等
活動したことをきち
隣の生徒の真似をし
ワークシートの項目
他の生徒の真似をし
んと報告する。
て書く。自分の要求や
をより具体的にする。 なくなった。以前より
活動したこと、気持ち
具体的な発表になる
等を単語で伝える。
ことが増えた。
(2)他学部の意見
・他の気持ちがでてきた時に、ぜひ共感して、広がりを見せていけるといいなあと思った。
・具体的に何をやったのか様式を変えることで本人の気持ちの振り返りができてよいと思った。
・○周とか、やったことを文にあらわす、伝えることが増えたことがすごい
・自分の気持ちを伝える!って大事ですね!5W1H でわけ、自分の気持ちを書くのがよいと思っ
た。もっと感情表現がひろがったらいいですね!
・スモールステップで段階を踏み課題に取り組むのが良い。達成感が自信につながったのでは。
4
まとめ
(1)成果
① 学級
・記入する項目を具体的に示すことで他の生徒の「れんらくノート」を見て、真似することな
く「今日の振り返り(できごと)」を記入することができた。
・発表内容がわかりやすくなった。
・行事の感想を発表させたとき、自ら手を挙げて最初に発表をすることがあった。
② 国語の授業
・隣の生徒の記述を真似しなくなった
・関わった人についての記述が増えた
・初期に比べ具体的に書けるようになった
③
授業研究を通して
・視覚的な支援がされたこと(ワークシートの工夫)で、内容が深まっている感じがしました
・学級での指導と教科での指導とが連携できている点が良いと思いました。
(2)課題
①
学級
・教師側がアドバイスすると「暑かったけど楽しかったです」や「3位でしたがうれしかった
です」と書くことができるようになっている。しかし、まだ自分の気持ちを書くことを苦手と
しており「楽しかったです」や「うれしかったです」と書くことが多い。
・感情を表現する言葉とその意味を理解していない様子が見られる(「れんらくノート④」の
「気持ち」の欄に「さむかったです」と書きながらバロメーターでは楽しかったをレベル5で
表現)そのため、感情を表現する言葉とその意味を理解させるアプローチが今後必要である。
れんらくノート④
②
国語の授業
・具体的に書ける力の育成と定着
・報告する力の育成
「れんらくノート④」の下半分の拡大
自分のからだとこころを大切にする性教育
―
続けよう性教育
―
グループ名:性教育班
対
象:各学部の児童生徒
性教育班の職員
1
テーマ設定
テーマ設定の
設定の理由
本校では昨年度より、校内研修において「性教育班」を置き、性教育の充実を図るべく試行錯誤
を繰り返し研修を行ってきた。昨年度はスタートの年であり、「はじめよう!性教育」をテーマに、
とにかく第一歩を踏み出すことを目標にした。各学部や学年で、児童生徒の実態に応じ取り組んだ
授業では、目を見張るような大きな変容は見られなかったものの、授業に取り組む子どもたちの表
情や言動に手ごたえを感じた。昨年の成果としては、各学部や学年の実態に応じ性教育の授業が行
われたこと、授業を実施しての成果と課題を共有でき、性の学びの重要性を感じた教職員がほとん
どであった。また、性教育の指導案や実践記録を残したことで、前例を作ることができたことも大
きな成果であった。課題としては、一か年の成果にとどまらず続けること、性教育班以外にも教職
員全体の共通理解を図り、指導体制を確立していくことが挙げられた。
性教育の内容は幅広く、からだの機能や生殖、性感染症の理解と予防だけにとどまらない。昨今
では、性教育を人間関係の教育と捉え、性の多様性などさらに内容が多岐にわたるようになってい
る。特に、人間として豊かな社会生活を送るために必要不可欠な自尊感情を高めることを重要視し
た内容を充実させることが大きく取り上げられている。
そこで、本研究では昨年の成果と課題を踏まえ、子どもたち一人一人が豊かな生活を送るために
性教育の視点で必要な力とは何かを考え、継続的な指導の必要性を感じ、本テーマを設定した。
2
研究の実際
(1)性教育班職員研修
日本ではいまだに国としての性教育の指針がなく、教える側の教師が「性教育とは何ぞや」と
いう状態にある。性教育を受けてきていない教師が性を教えるためには、教師自身が性を学ばな
くてはならない。性教育を続けるためには、教師自身も性の学びを続けなければならない。
そこで、性教育班では性教育実践に必要な知識の取得や人権感覚を磨くために、以下の研修を
行った。
①
資料『性を人権ととらえる-青年・成人を「心と体の主人公に」』読みあわせ
性教育を始める前にいちばん大切な心構えを持つために、本資料の読みあわせを行った。
②
各学部昨年の実践の振り返り
授業実践を始める前に各学部で昨年の実践を「鍾秀」を活用して振り返った。
③
学習会「月経と射精」
関口久志氏の授業実践をもとに、昨年も行った「ちょうちん持ち授業」方式で、二次性徴に
欠かせない月経と射精についての学習会を行った。昨年度経験した職員からも「同じ内容な
のに質問や答えが違っていたので、面白かったです。性に関することはやはり個人差(情報
の得方も)が大きいもの。画一的な答えだけではない結果を共有できたことがよかったと思
いました。」という感想があった。科学的な性の知識を学ぶことで、性の多様性についても考
えることができる良い学習会となった。最後にセクシャルマイノリティについて触れる機会
90
を持ったことで、セクシャルマイノリティについて知りたいという意見が多く出たため、次
回の学習会で取り上げた。
④
学習会「セクシュアリティとは」
性教育班以外の教職員も参加可能な日時で学習会を行い、他班の職員も多数参加があった。
ア
性的指向(sexual orientation)
イ
生物学的性(biological sex)
ウ
性自認(gender identity)
エ
社会的性役割(gender role)
以上の 4 点について資料をもとに学習した。
「世の中、いろんな人がいるんだなぁ。私がふつ
うって思ってるのって思い違いだね…。」「性で分けるのではなく、その人を見ることが大事
だと思った。性=生→自分らしさということ、いろんな人がいてこの社会は成り立っている
こと、違いを認めていくことが大事だと思いました。」「ふだん何気ないことに傷ついてる思
いがあること、教える立場の人間として知っておくべきこと、よく伝わりました。」など、同
様の感想が多くあり、性の多様性について知る機会の少なさがうかがえた。今後さらに深め
たい研修内容である。
⑤
事例検討会
性的な課題があった過去の事例を高等部より提示し、学部をプールにしたグループで「私た
ちに何ができて、何ができなかったのか」を話し合った。グループでの話し合い後、全体で
お互いの話し合った内容を発表し、意見交換を行った。各グループで活発に話し合いが行わ
れ、それぞれの意見を共有することができた。実際の事例とあって、小、中学部の職員から
は「衝撃的だった」との感想がいくつかあった。
⑥
学習会「保健室の教材を使った授業の展開案を考える」
11 月の「性(エイズを含む)に関する教育指導月間」を前に、保健室にある性教育教材を持
ち出し、学部をプールにしたグループで教材を活用した授業案を検討した。各グループの授
業案を発表し、全員でアイディアを共有することができた。直に教材を確認できたことで、
11 月の実践に活用することもできた。また、グループ内に各学部の職員がいることで、授業
内容の検討をしながら子どもたちの実態を共有し合うなど、学部間の共通理解も図られた。
⑦
各学部で今年度の実践報告会
各学部ごとに、学年やグループでの授業実践を報告しあい、成果と課題を共有した。
⑧
性教育班での各学部実践報告会
各学部での報告会をもとに、性教育班全体での実践報告会を行った。小学部から高等部まで
の幅広い生活年齢における実践を共有することで、子どもたちが育つ道筋をたどることがで
きた。
(2)各学部での取り組み
各学部のページを参照。
3
成果と課題
2 年目の性教育実践では、教師の変容が確実に見られた。
「性教育って何をやればいいのか、どう
やればいいのかわからない。」というわからないことだらけの 1 年目を乗り越え、自ら性の科学的な
知識を得ることで、教師が目の前の子どもたちに必要な「性教育」とは何なのかと考えることがで
きるようになってきた。取り組むべき性教育の内容が見えれば、他の授業と同様にどう教えればよ
り伝わるのかを考え、工夫するだけである。内容や取り組み方についてお互いで相談し、検討しあ
うという雰囲気もでき、教師集団で授業を作り上げる実践ができた。昨年の授業実践記録や教材、
指導案の存在も今年度の取り組みへの良い後ろ盾となった。教師の変容は確実に子ども達に伝わる。
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性の話をしてもいいんだ、聞いてもいいんだという思いが子どもたちに育ってきている様子も見ら
れた。性の授業を終えた時の子どもたちの晴れやかな表情が最大の成果であった。
課題としては、性教育班以外の職員との連携やすり合わせがまだ十分ではない点が挙げられる。
ティームティーチングで進める授業は、性教育班以外の職員も入り、一緒に授業を展開する。事前
の打ち合わせや指導案の提示など、共通理解を図る努力はしているが、性に関する知識の相違など
を埋める時間を十分にとることは現在の多忙な状況では難しかった。学校全体として、教える側の
教職員が性の科学的な知識や人権感覚を習得する必要がある。そのためには、班単位での研修では
なく、全体研修として性の学びを深める機会を年間を通して複数回持つことが必要であろう。今年
度、他班の職員も参加したセクシャリティの学習会では、知らなかったことへの気づきが得られた
という感想が多かった。知らないことは教えることが難しく配慮も難しいがために、知らず知らず
のうちに相手を傷つけている場合があることを、教師が気付くきっかけを作れたのは幸いであった。
また、性教育の成果は即結果として見えるものとは言い難く、即効性を求められる現在の教育界
では受け入れられにくいところも出てくるであろう。しかし、社会で生きていくために必要な人間
関係を築く力や自己肯定感を高める内容に繰り返し取り組むことで、確実に子どもたちの中に生き
る力が備わるものと信じ、続けていくことが最大の課題だと考える。性教育の取り組みを始めて 2
年、中学部や高等部に関しては、ほぼ全員が 2 年連続で性の授業を受けることができた。次年度は
3 年目にあたり、3 年間系統的に学んだ実績を作ることで、今後の取り組み方の方向性が見えてくる
のではないかと考える。次年度以降も性教育実践を続け、西崎特別支援学校独自の指導計画と指導
体制づくりを進めることを課題としたい。
──────────────────参考文献─────────────────────
1) 永野佑子著「みんなのねがい 11 月号」p34
全国障害者問題研究会出版部
2013
2) 関口久志著「[性教育の壁]突破法!~失敗を乗り越える【理論と実践講座】」十月舎
3) 金子由美子著「季刊 SEXUALITEY No.65」
エイデル研究所
92
2014
p23
2004
生活単元学習学習指導案(略案)
日
場
対
授
1
2
3
4
時
間
導
入
10
分
展
開
50
分
ま
と
め
10
分
時:11 月 7 日(金)2・3校時
所:中学部ワークスペース
象:中学部2学年
(男子 16 名、女子 2 名計 18 名)
業 者:T1
2学年職員7名
単元名「こころとからだの学習」
単元目標
①自分のからだとこころについて知る。
②思春期(中学生)のこころとからだの変化を知る。
③他者とのふれあいや関わりを通して、ここちよさを体験する。
本時の目標
・からだの名称と二次性徴について知る。
展開
*生徒の反応次第で学習内容に変更が出る
学習内容及び学習活動
指導上の留意点
備考
(準備物等)
・対象生徒たちの写真を見せながら発言を促
・はじめの挨拶
す
PC
・昨年の振り返り
・中学生は大人に向かって変わる ・生徒の言葉から出る様々な変化を大人に向 TV
かう変化として肯定的に言語表現する
時期(思春期)
・「中学生のこころとからだ」を ・PPT を利用して、二次性徴についておおま
かに確認する
知ろう
①ホルモンのはたらきによる ・時々、質問も交えながら楽しい雰囲気で進
めるように心がける
変化を知ろう
・生徒の自由な発言を否定しないようにする
②二次性徴ってなんだろう
③こころの変化を知ろう
*T1以外の職員は生徒の言葉を拾い、代弁
④からだの変化を知ろう
する等、理解を助ける配慮を行う。
・からだの名前を思い出そう
・昨年作った人体図を見てからだの名称を確
人体図
認する
―トイレ休憩―
・絵本「おんなのこってなあに?おとこのこ
・男女の違いって何?
ってなあに?」読み聞かせ
PC
・人体図を使って性器の違いを確認
TV
・PPT を使って内性器の確認をする
・からだの名称や二次性徴について確認する
・本時のまとめ
・次時予告
・次回の学習について4つのグループに分か
れることを予告する
・各学級に戻り、学級の実態に応じて事後学
習を行う
・おわりの挨拶
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生活単元学習学習指導案(略案)
日
時:11 月 12 日(水) 2・3 校時
場
所:中学部 2-3 教室
対
象:中学部2学年
しっかりグループ(男子 3 名女子 1 名 計 4 名)
授 業 者:
1
2
3
4
単元名「こころとからだの学習」
単元目標
①自分のからだとこころについて知る。
②思春期(中学生)のこころとからだの変化を知る。
③他者とのふれあいや関わりを通して、ここちよさを体験する。
本時の目標
・からだの名称と射精、月経の仕組みと手当について知る。
・多様な性について知る。
展開
*生徒の反応次第で学習
学習内容及び学習活動
導
入
10
分
展
開
50
分
備考
(準備物等)
・はじめの挨拶(学年全員)
・グループのメンバー確認
・グループ分け、移動
・からだの名称や「二次性徴」という言葉を
・前回の振り返り
生徒に質問し、定着具合を確認する
・中学生は大人に向かって変わる
時期(思春期)
・「自分のからだ」を知ろう
①自分のからだはどっち?
(男のからだ・女のからだ)
②内性器を知ろう
③月経の仕組みと手当を知ろ
う
④射精の仕組みと手当を知ろ
う
―トイレ休憩―
フリートーク
・「二次性徴」について
・プライベートゾーンの確認
・多様な性
ま
と
め
10
分
指導上の留意点
教材
・男女のからだの図から自分のからだを確認 女の子の成長
する
・内性器の名称と役割を図と文字カードを見 男の子の成長
ながら確認する
・月経、射精ともに肯定的に受け止められる
ように言葉を選んで説明する
・生徒からの質問を引き出し、疑問点に丁寧 絵本
に答えていく
・プライベートゾーンの確認と約束をプリントに記 プリント
入する
・LGBT について具体例を出しながら話をす 自伝本
る
・「困った時は相談する」ことを強調して伝
える
・本時のまとめ
・次時予告
・おわりの挨拶
・教材を見ながら今日の学習を振り返る
・次回の学習について予告する
・各学級に戻り、学級の実態に応じて事後学
習を行う
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