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■発表:地域乗数効果についての説明
明石 修氏:武蔵野大学 環境学部 准教授
ただいまご紹介いただきました、武蔵野大学・環境学部の明石です。
大学では環境を中心にしながら持続可能な社会について研究しています。
私の方からは、今、新津さんから発表があった、地域経済の「漏れバケツ理論」
の理論的なバックグラウンド、枠組みについて説明したいと思います。私の発
表は、地域の個別の取り組みを見るときに、経済的な観点からこのように位置
づけられるという視点を理解するためのものです。
「漏れバケツ理論」という考え方は、地域がバケツだとして、地域の外からお
金が入ってきたときに、地域のバケツの中でお金がぐるぐるまわっているのが
良い状態です。でもそのバケツには穴があいていて、その穴からお金がどんど
ん流れ出てしまうということです。特産品を作って売ったり、観光業で人に来
てもらってお金を稼いだりしてお金が地域の外から入ってきたとしても、お金
が出て行ってしまっては地域のためにならない、外から入ってきたお金がどれ
だけ地域のためになっていくか、ということを経済的な理論の枠組みで説明し
たいと思います。
わかりやすく、地域の中に3つの産業がある、という仮定で考えてみたいと思
います。
1 つ目は外貨を獲得する産業です。たとえば、特産品を作って外に売ることに
よって外貨を獲得するような産業です。2 つ目は外貨獲得産業やこの後に説明
する小売業に対して原材料を供給する産業、原材料供給産業といいます。3)3
つ目は小売業です。食料品や日用品など主に地域内の需要に満たす産業です。
これら3つの産業と、そのほかに家計部門があります。家計部門は、労働の対
価として賃金を得て、それを消費にまわします。このような、3つの産業と家
計がある地域を考えてみたいと思います。
こちらの図が、この地域のモデルです。図の青い部分が先ほどの「漏れバケツ
理論」でいうバケツだと思っていただければよいと思います。
JFS 「地域の経済と幸せ」プロジェクト 2014-2015
このバケツに対して外から売上が入ってきます。外貨獲得産業が特産品を売る
などして外貨を獲得します。そのお金がどこにいくかというと、その特産品を
作るのにも原材料が必要なので、その原材料の購入費用として原材料供給産業
にいきます。ここでは簡単にするために、原材料供給産業は一次産業で、地域
の自然・資源から原料を獲ってくる、つまり他の産業からの原料の調達はない
と仮定しています。その売上が、従業員の賃金として家計に入ります。その家
計が、生活必需品を買うなどして、スーパーなどの小売業へ行きます。その小
売業も原材料が必要なので、原材料産業からモノを調達します。そうすると原
材料供給産業にまたお金が行くと。そしてさらにそのお金が家計に入っていく
と。それがまたモノを購入することによってスーパー(小売業)に行くと。ス
ーパーでも従業員が働いているので従業員の所得になって家計に入って、それ
がまた消費にまわる。そういう風にして、地域にいったん入ってきたお金がぐ
るぐるぐるぐるまわります。これが地域の外にお金が出ていかない状態、先ほ
どの漏れバケツでいうと穴がない地域が理想の状態です。そうすると、外から
モノを買ってこないので、お金がぐるぐるまわり続けるんですね。その分まわ
るたびに所得になっていくということになります。
しかし実際には、地域の外からモノを買ってきます。たとえば外貨獲得産業が
外貨を獲得する。その原材料を地域の中だけでなく地域の外からも買ってくる。
そうするとバケツの外にお金が出ていきますね。もちろん売上は家計に入って
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いって、さらにその家計は地域のスーパーからモノを買うんですが、外のスー
パーからもモノを買うと。例えば隣の町に大きなショッピングモールがあり、
そこに買いに行くということですね。それで、そこでもお金が漏れる。次にス
ーパーは原材料を買うんですけれども、そのときの原材料も内と外から買う、
するとまたお金が漏れる。このようにいろいろなところから漏れていって、消
費の部分と原材料の調達の部分で徐々に漏れていきます。
ここで「地域内乗数効果」という考え方があります。この考え方は、いったん
地域に入ってきたお金が完全に外に出ていってしまう前に地域内を何回くらい
まわるか?というものです。今見たようにモノを買うことによって売り上げが
出る。それが所得になります。その所得が消費になって、その消費は地域内の
売り上げなのでそれがまた誰かの所得になる、という関係性があるんですが、
その各段階でお金が地域の外に漏れていくんですね。これは New Economics
Foundation というイギリスの団体が言っている理論の定義なのですが、もう
少しわかりやすく具体的に定義しなおしてみると、地域の中に入ったお金が先
ほどのようにまわっていくごとに消費→賃金→所得になっているんですね。そ
れが地域内をまわって外へ出て行く前に、どれだけ所得を作り出すかという観
点から考えてみましょう。
ここでひとつ、ゲームを考えてみたいと思います。地域経済活動を実際にシミ
ュレーションするようなゲームなんですが、たとえばロールプレイングとして
それぞれの人に産業役をやってもらって、産業と家計に分けてお金をまわすと
いうことを大学のゼミでやってみました。
いったん入ってきたお金が獲得した外貨によって地域の所得がどれくらい増え
るんだろうか、ということで、図を見ていただくと、ケース1では、外貨 100
万円したとします。産業の原材料と家計の消費をどこから買ってくるかという
ことでこのケースでは、50%を外から買ってくるという想定にします。逆に言
うと 50%を自給するわけです。このときお金が地域内をまわった結果、所得が
どのくらい地域に残ると思いますか?すなわち、外から入ったお金が地域内を
何回まわるかということなのですが、これは 120 万円になるんですね。元の
100 万円を超えるんです。それは、所得はお金が循環するたびに入ってくるの
で、1.2 回地域内をまわることになるんですね。この場合、100 万円が 120
万円になる。すなわち地域乗数効果は 1.2 倍ということになります。
ケース2として、外から入ってくる外貨 200 万円だったとしたらどうか。外か
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ら入ってくるお金が単純に2倍になるだけ、それぞれのお金の取引額が2倍に
なるだけなので、倍額の 240 万円、これも 1.2 倍になります。このケースは、
がんばって特産品を外にいっぱい売って、2倍売って、外貨をたくさん稼いだ
ケースですね。
では、ケース3は、外から入ってくるお金はケース1と同じく 100 万円のまま
ですが、自給率を 80%にした場合どうなるか。これはなんと 320 万円の所得
になるんです。そうすると 3.2 倍に増幅することになるんですね。もちろんこ
れは単純化したモデルの世界ですけれども、地域内の自給率を高めることはこ
れだけの効果があるということを示しています。これが地域内乗数効果といい
ます。ここで言いたいのは、地域の活性化を考えるときに、外貨をいっぱい獲
得しよう、という話になることが多いと思うんですが、それだけではなくて、
地域の循環をできるだけ強化することによって、獲得した外貨をより効率的に
地域の所得に変えていく必要があるということです。
今のような視点で考えて、地域内の経済循環を強化するためにはどうしたらよ
いのかというと、今の例でおわかりいただけたかと思いますが、最終消費財の
地域内率を向上させる。地産地消、最近では地消地産ともいうそうですが、地
域で消費するものを地域の中で作る。すなわち中間投入、原材料を地域内でで
きるだけ調達する。ただ、この2つには注意があって、全部を地域内でやろう
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ということではないです。地域の得意・不得意、ある資源やない資源、ある技
術やない技術がありますので、地域の強みや、すでに資源としてあるものを有
効に活用して地域の力を高めていきましょう、という話です。
次はは所得の漏れを防ぐということです。
先ほどのモデル図にはなかったですけれども、実際には企業が稼いだお金は地
域の人のものになるだけではなくて、企業が外部企業だったら儲けが東京の本
社に送られるということがありますね。そういうような企業での所得の漏れと
か、人材でもそうです、外から働きに来ている人がいて、その人が地域外に持
っていく。そういった漏れをできるだけなくし、地域の人材を活用するという
ことです。もうひとつは、地域内再投資の活性化です。地域で儲けたお金のう
ち直接消費に回らなかった分は銀行に預けられますが、そのお金が地域内に再
投資されることが大切です。つまり銀行がどこにお金を投資するかです。そこ
が地域の中で貯蓄がちゃんとまわっているかというところです。お金を地域に
投資する。ここを強化するかによって、地域内の循環が高められるということ
です。
地域内経済循環の強化するためには
• 最終消費財の域内率向上※
- 地産地消、地消地産
• 中間投入(原材料)域内率を向上※
- 域内産業連関の強化
• 所得の漏れを防ぐ
※ただし、すべて自給しようとす
るのではなく、地域の強みや、す
でにあるもの・ポテンシャルがあ
るものを有効に活用
- 地元企業、地域人材の活用
• 地域内再投資
- 地域の貯蓄を地域内へ投資
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まずは、これらの循環が現状でどうなっているか知る、計測していくというこ
とが大切です。それを地域内で計測しようとしたときに、どのようなデータが
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必要か、というポイントをまとめました。
計測手法は2つあります。実際に地域でやろうとした時に、個別の製品につい
て、この商品の原材料費はどのくらいなのかということをそれが所得にどれく
らいまわっているのかを地道に追跡していくようなボトムアップ的方法と、も
うひとつには産業連関表という地域の中でのモノの取引をマクロ的にすべてお
さえた表が国にありまして、その地域版をつくりながらマクロ的な方向から地
域の経済活動をつかんでいくという方法があります。
こうした地域内経済循環を意識しながら、地域の取り組みをおこなっていくこ
とが重要だと思います。
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