「歴史的建築物における付帯要素の位置付け」

「歴史的建築物における付帯要素の位置付け」
―北陸・金沢の事例を通して―
鷲田 誠史
はじめに
はじめに
古都・金沢は戦災や大きな自然災害がなかったことから、歴史的建築物が
広域的かつ多数実存している都市である。このことは調査結果からも明らか
である。
はじめに
歴史的建築物=29.0%
戦前までの建物=38.1%
はじめに
都市は時代と共に変化し、建築はそこに住む生活者と共にある。過去のものを多く残
す金沢では、過去と現在とが繰り広げる連続的かつ有機的な変化そのものが重要な
課題となる。
そこで本研究はその変化によって発生する付帯要素に着目し、その機能、発生要因、
付帯性の重要性を示すことで、変化する都市における付帯要素の位置付けを明らか
にする。
付帯要素の機能活動
付帯要素の機能活動
1、付加的屋外空間
→洗濯物干場
生活にとって欠かすこ
との出来ない機能
付帯要素の機能活動
2、付加的緑
→私的な緑化
趣味的欲求、街路の
演出効果
付帯要素の機能活動
3、付加的駐車場
→駐車場
歴史的建築物のファサードデザ
インを大きく変えるもの
付帯要素の機能活動
3、象徴的付帯要素
→象徴・広告
地域完結社会の崩壊
による産物
付帯要素の発生要因
付帯要素の発生要因
1、付加的屋外空間
東京の気候
金沢の気候
北陸特有の気候から、島村昇氏の「金沢の町家」によると、金沢町家は京町家に比べ、
中庭空間の発達が未熟だった。
よって、金沢において都市型住宅の囲み型の屋外空間は環境が悪く、特に洗濯物を
干すという機能には適さないことがわかる。
表:「東京管区気象台より」
(1971~2000の記録)
付帯要素の発生要因
低町家(藩政期)
高町家(明治以降)
この低町家から高町家の発展した理由は、藩政期の封建的社会制度がなくなったか
らである。その社会制度とは、町民が武家を出来るだけ見下ろすことを禁じたものであ
る。
付帯要素の発生要因
明治42年の写真
藩政期が終わり明治が始まってから一斉に付加的屋外空間が取り付き始めた。この
付加的屋外空間の発生要因は社会制度の変化であることがわかる。
このことは同時に、歴史的建築物が付加的屋外空間の機能、つまり洗濯物干しという
機能に対して意識がなかったこともわかる。
付帯要素の発生要因
2、付加的緑
藩政期の建築を町家と共に代表する武家屋敷は広大な敷地を有
し、豊富な緑を都市に提供していた。それが武家没落と共になくな
り都市部から緑が激減した。都市生活から緑が消えてしまったので
ある。
武家屋敷の私的な緑がなくなり、その代わりとして、付加的緑という
「私的」な緑が発生したと考えられる。
付帯要素の発生要因
3、付加的駐車場
鉄道とバスの乗客人数の傾向
この付加的駐車場の発生要因は、個人交
通である自動車の普及と、公共交通の衰
退が主な要因である
大正8年に開業し、昭和42年に閉業した市街電車
付帯要素の発生要因
町家は商業と住居の併用住宅であったが、
職住分離が進み、商業を行うハレの空間
が、自動車の普及に伴い駐車場空間へと
変化していった。
付帯要素の発生要因
4、象徴的付帯要素
地域完結社会が崩壊し、人は都市を歩き
回りようになった。そのことが、商業のスタイ
ルを「顧客相手」から「不特定多数の客相
手」へと変え、それに連なり建築も変化した。
藩政期の町家は商品を蔵に置いていたが、
近代からは、道行く人々に商品を見せ注
目を浴びることで集客をした。
象徴的付帯要素はこのような商業スタイル
の変化により発生した。
付帯性そのものについての可能性
歴史的意匠における付帯要素の可能性
画一化する都市空間
都市計画の主な手法としての用途地域指定は近代の都市部への人口集中に対して合
理的問題解決するものであった。
この手法は都市活動を単調にする他、建築形態をも単調なものにしてしまう。
機能活動と形態は密生な関係がある。
調査結果からも
住居機能がない地域に、
屋根構えでは陸屋根、
主な屋根仕上げでは陸屋根用仕上げ、
主要構造ではRC造、
階高では中層、
と用途と建築形態が呼応する結果が得られた。
歴史的意匠における付帯要素の可能性
住宅機能の有無
主な屋根構え
歴史的意匠における付帯要素の可能性
主な屋根仕上げ
主要構造
歴史的意匠における付帯要素の可能性
階高
歴史的意匠における付帯要素の可能性
地域の用途を指定することは建築形態の均一化を招く可能性がある。
地域の建築の用途と同時に形態も均一化されてしまえば都市に界隈はなくなってしまう。
このような都市空間の均一化に対して、
付帯要素は街路に対しての表現力が非常に高く、また生活者の生活感をかもし出すこ
とで付帯性を加味することができる。
都市景観における付帯要素の検討
歴史的意匠における付帯要素の可能性
付加的屋外空間
洗濯物干場だけの機能だけでなく、積極的にデ
ザインすることで都市住宅に貴重なオープンス
ペースを提供する可能性がある。
付加的緑
この私的な緑は本研究の付帯要素の中で最も多
く見られたものである。格子と組合わせるなど建築
デザインに取り込む必要性が高い。
歴史的意匠における付帯要素の可能性
付加的駐車場
駐車場の問題はインフラと関係しており抜本的に
解決するにはブラジルのクリチーバのように公共
交通の整備というヘビーな方法しかない。土地私
有が基本である我が国ではそれは現実的ではな
く、シャッターなどのライトな対応が有効である。
象徴的付帯要素
この付帯要素は存在そのものがその機能上、問
題となる。商業システムの変化がその発生要因と
なったことから、顧客相手の商業を歴史的建築物
に誘致するなど、ハードではなくソフト的解決方法
が有効である。
結論
歴史的意匠における付帯要素の可能性
「グレイゾーンとしての付帯要素」
現在の金沢では歴史的建築物が広域的かつ多数実存していることから、例えば「建築
/都市」「専門家/生活者」「形態/機能」というように、「過去/現在」を軸として様々な
二元論が複雑に絡みあっていた。そして、それらの葛藤が都市のダイナミズムになって
いたことは本研究の付帯要素を通して理解できよう。
現在の都市問題は近代の頃と違い一元論的方法では解決できないことは明確である。
その複雑な問題の中間領域として、つまり「グレイゾーン」として付帯要素に着目し、取り
組むことはそれらの問題において有効である。
持続的都市環境が求められている今、凍結保存という一元論的方法ではなく、変化を
取り入れ有機的に対処していく必要性があり、その可能性が付帯要素にある。金沢とい
う都市が、付帯要素を積極的にデザインできれば、都市のアーカイブとして新しい可能
性を見出すことができる。
御清聴ありがとうございます