抗酸菌症エキスパート制度と薬剤師の役割(Vol.97)

抗酸菌症エキスパート制度と薬剤師の役割
∼石崎武志先生(日本結核病学会 抗酸菌症エキスパート制度委員会 委員長)に聞く∼
現在、
日本において結核は撲滅できておらず、多剤耐性結核菌
(MDR -TB)
や超多剤耐性結核菌
(XDR -TB)
の
出現が問題となり、抗結核薬の適正使用が不可欠となっています。また患者の高齢化に伴う合併症への対応
など、近年、新たな課題も生じています。このような状況を受け、医師だけでなく薬剤師、看護師など多職種が
専門知識を持ち、
チームで治療を進めるべく、日本結核病学会は2014年3月に
「抗酸菌症エキスパート制度」
を設けました。本制度の意義や内容、薬剤師に求められる役割などについて、
日本結核病学会 抗酸菌症エキス
パート制度委員会委員長の石崎武志先生に伺いました。
抗酸菌症エキスパート制度
設立の背景と目的
抗酸菌症エキスパート制度設立
た結 核の再 燃や新
たに結核に感染する
図表1 新規登録結核患者に占める高齢者
(70歳以上)
の
割合の推移
(千人)
50
45
ケースが増えていま
40
の背景をお教えください。
す。こうなると、結 核
35
石崎 結核というと 過去の病気 とい
病床を有する病院だ
うイメージがありますが、
日本での罹患
けでは対応しきれず
ず、
率や死亡率は先進諸国の中でも高い
身近な一般病院でも
状態にあり、未だに年間2万人程度の
結核を正しく診療す
新規患者が発生している重大な感染
ることが求められるよ
症です。また、図表1のように結核患者
うになってきました。
に占める高齢者の割合が高まっている
そこで日本結核病学会は2010年、
石崎 抗酸菌症エキスパート制度は、
ことも、見逃せない問題となっていま
医師を対象とした「結核・抗酸菌症認
登録抗酸菌症エキスパート
(以下、登
す。加齢や糖尿病などにより免疫が低
定医・指導医認定制度」
を設け、結核
録エキスパート)
と認定抗酸菌症エキ
及び非結核性抗酸菌症(以下、両者
スパート
(以下、
認定エキスパート)
の2本
をまとめて抗酸菌症)治療に精通した
立てになっています(図表2)。両者の
医師の養成を進めてきました。この制
大きな違いは、
日本結核病学会会員で
度がある程度定着したことから、抗酸
あるか否かです。多くの人に抗酸菌症
菌症治療チーム全体の専門知識と技
治療に携わってもらえるよう、学会が指
術向上を目指し、2014年、看護師や薬
定した講習会や学術集会など
(図表3)
剤師など非医師職を対象に「抗酸菌
に参加して必要な単位を取得すれば
症エキスパート制度」
を設立しました。
資格を得ることができます。
日本結核病学会
抗酸菌症エキスパート制度委員会 委員長
石崎 武志 先生
(福井大学医学部看護学科 健康科学 教授)
7
下し、過去に感染し
←70歳以上
30
25
20
15
0
1999
2001
「登録」と「認定」2本立ての
抗酸菌症エキスパート資格
抗酸菌症エキスパート制度の概
要をお教えください。
2003
2005
2007
2009
2011
2013(年)
厚生労働省 結核発生動向調査年報集計結果(概況)及び結核登録者情報調査年報集計結果(概況)
より作成
抗酸菌症エキスパートの資格更新
は5年ごとに行います。更新に必要な
所定単位は、両エキスパートとも50単
位ですが、認定エキスパートは学会員
であることが要件となります。
抗酸菌症治療における
薬剤師参画の意義
なるが異常ではない」
ことなど、患者さ
るケースがあります。冷静に対応するた
んが安心して服薬できる情報の提供も
めに、院内スタッフへの啓発や病態等
重要だと思います。
の知識を習得することが必要です。
薬剤師に期待されることは何で
薬物治療以外でも、薬剤師が関
また、服薬指導や生活指導は、様々
しょうか。
わる意義はあるでしょうか。
な職種が繰り返し行うことで説得力が
石崎 抗酸菌症の標準治療では多
石崎 抗酸菌症の早期発見にも、薬
高まります。その際、
患者さんが混乱しな
剤併用療法を行いますが、服薬を中
剤に関する深い知識を持った薬剤師
いよう抗酸菌症治療チームのメンバー
断すると多剤耐性菌の出現という問
の力が求められます。例えば、免疫力
全員が情報共有し、同じ説明を行うこ
題が生じます。薬剤師には、薬剤のプ
を低下させる薬剤を服用している患者
とが重要です。そこで、
エビデンスに強
ロとしての専門性を活かし、継続した
さんや高齢の入院患者さんなどでは、
い薬剤師が中心となって、
日頃から講
服薬指導や情報提供を行っていただ
抗酸菌症発症の可能性を念頭に置
習会や勉強会を行っていただきたいと
きたいと思います。また、イソニアジド
き、疑わしい兆候があれば医師に報告
思います。
す
す。
は、
ワルファリンやインスリンなどの薬剤
するといった役割も期待されます。
抗酸菌症治療チームを牽引するの
他職種との連携では、
どのような
や、
魚類やチーズ、
バナナなどの食品と
は、医師、薬剤師や看護師、誰でも構
相互作用を起こすことがあります。併
ことが必要ですか。
いません。
リーダーを中心にチームメン
用薬を確認するとともに、患者さんに注
石崎 抗酸菌症の専門医や呼吸器
バー全員で切磋琢磨し、
レベルアップ
意喚起を行うことが大切です。その他
内科医がいない病院では、結核患者
することが望まれます。
「 リファンピシン を服用すると尿が赤く
発生時に、対応法がわからず混乱す
図表2 抗酸菌症エキスパート制度 登録・認定の要件
登録抗酸菌症エキスパート
認定抗酸菌症エキスパート
看護師、准看護師、薬剤師、保健師、理学療法士、
栄養士・管理栄養士、診療放射線技師、臨床検査技師 など
対象者
3年以上
職歴
日本結核病学会 会員の有無
会員歴5年以上
石崎 日本結核病学会としては、
抗酸
80以上
菌症エキスパートの介入による治療脱
落率や耐性化率の低下、抗酸菌症の
図表3 認定制度審議委員会が指定するセミナー等
名 称
研修単位数
● 生涯教育セミナー
(日本結核病学会主催)
《必須》
● 日本呼吸器学会、
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会との
連携講演
(日本結核病学会共催)
● 保健師・看護師等基礎実践コース
(結核予防会主催)
中国四国支部研究会など
数値で示し、
エビデンスを作っていきた
20/半日
いと考えています。このような取組みは
50/4日
社会的に有用であるとともに、
抗酸菌症
5/半日
セミナー等
● その他の講習会・
セミナー
〔IGRA検査講習など〕
審議委員会で決定
● 日本結核病学会総会
〔学術集会〕
出席20、筆頭演者15
● 日本結核病学会支部会総会学術集会
〔地方会〕
出席5、筆頭演者5
● 認定制度審議委員会が認めた学会等
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会、日本環境感染学会、
出席5、筆頭演者5
日本感染症学会、日本化学療法学会、日本呼吸器学会、
日本臨床微生物学会、日本公衆衛生学会 等
筆頭著者20、共同著者10
● 日本結核病学会誌
● 認定制度審議委員会が認めた抗酸菌感染症に関する論文が
掲載された学会誌等
早期発見件数増加などのアウトカムを
30
● 日本結核病学会支部会開催のセミナー
● 県、
市あるいは複数の医療機関が主催する抗酸菌に関する
学術論文
後の展望をお聞かせください。
50以上
日本結核病学会 抗酸菌症エキスパート制度規則 第3章 第5条・6条より作成
学術集会
抗酸菌症エキスパート制度の今
会員・非会員を問わない
研修等による必要単位数
認定講習会
抗酸菌症エキスパート制度の
今後の展望
筆頭著者20、共同著者10
日本結核病学会 抗酸菌症エキスパート制度施行細則3より作成
エキスパートの励みにもなると思います
す。
感染関連の認定資格を持つ医療
従事者でも、抗酸菌症を学ぶ機会は
多くありません。ぜひ多くの方が抗酸
菌症エキスパートの資格を通じて抗酸
菌症に関する知識や技術を習得し、
病
態への理解を深め、
チームで治療にあ
たっていただきたいと願っています。
抗酸菌症エキスパート制度の詳細は日本結核病学会のWebサイトをご覧ください。http://www.kekkaku.gr.jp/(2014年12月現在)
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