人口減少社会とCSR

人口問題
人口減少社会とCSR
社会が直面する課題を理解し、
その解決に取り組むことがCSRの重要な役割とすれば、
少子高齢化問題
は日本企業のCSRにとって長く向き合う構造的課題となる。
日本企業の取るべき少子高齢化対策について
の議論はいろいろあるが、
概して国内要因からのものが多い。
目を世界に転じて
「爆発する世界人口」
とい
うグローバルな視点から考えてみたい。
その世界人口の動向である。
20世紀初頭の世界人口は16億人。
それが、
いまでは64億人。
2050年にはなん
と90億人を突破するという。それは1950年から2050年までの100年間で60億人を超す増加を意味する
のだ。
問題は増える数だけではない。
64億人の半分が20歳以下、
その90%が発展途上国という構成と分布にあ
る。
21世紀の世界が抱える課題は、
「成長」
「貧困」
、
そして
「地球環境」
と言われている。
これらの地球的課題
の解決を非常に難しくしているのが、
実はこの世界人口の構成とその分布なのである。
このように世界の人口が急増する中、
人口が減り続ける日本だが、
世界NO.2の経済大国とはいえ、
その
実態をよく見ると様々な形で世界に依存していることがよく分かる。
例えば、
エネルギーの海外依存度
は90%をはるかに超え、
食料はカロリーベースで60%を海外から輸入。
日本経済新聞社の調べでは、
日本
の上場企業約400社の営業利益の30%は海外からであり、
いまや全上場企業の株主の4人に1人は外国人で
ある
(いずれも05年3月期)
。
世界に依存する日本の姿がはっきりと見て取れる。
その頼りにする世界が人口問題を軸に不安定化し
ていけば、
日本ひとりが粛々と国内の人口減少に対応していけるのか、
大きな疑問があると言わざるを
得ない。
日本も努力して持続可能な世界を築かなければ、
日本の将来は無いといっても決して過言では
ない。
さて、
人口が急増する世界と減少する日本。
高い経済力や技術を誇る日本と貧困と低成長に悩む世界。
この見事なまでのコントラストの中で、
日本企業の進むべき道は如何。
それを筆者なりに表現すれば、
「内
なる国際化」
と
「更なる現地化」
となる。
まず、
内なる国際化である。
日本は特殊な国だ。
外国及び外国人、
さらには外国文化に対して表面上は寛
容であっても最後はなかなか懐の中に入れようとしない。
企業の国際化でもそうだ。
一例を挙げよう。
働
く人でにぎわう東京の丸の内界隈。
世界に冠たる日本の国際企業が軒を並べる。
では一体、
何人の外国人
取締役や幹部社員さらには一般社員が本社オフィスで働いているのか。
アジアの人は? 中南米から
は? アフリカからは? と問えば、
ほとんどの企業が答えに窮するはずだ。
日本企業の国際化の対象
は工場や市場のことであり人材ではないのである。
果たしてこんな国際化でよいのか。
もっと海外から様々な人材を日本に呼び、
減る日本人の補完を図る
べきではないのか。
「非」
日本人の本社採用を増やす、
海外の関係会社で働く人たちにも日本でのチャンス
を与えていく。
日本人中心の発想をやめ、
多くの国から多くの人たちに日本国内で働く職場を増やして
いくべきではないのか。
少子化は日本企業が本格的に内なる国際化、
すなわち、
ホームタウンでの人材の
国際化を進めるチャンスなのである。
CSRを考える
国連環境計画
金融イニシアチブ特別顧問
末吉 竹二郎
言うまでもないことだが、
国内の少子高齢化は様々な
「減少」
をもたらす。
労働人口の減少。
ベテラン社
員の減少。
適材の減少。
消費者の減少。
若者の減少。
社会インフラの利用者の減少。
社会も経済も活力が減
少。
などなど。
仮に国内での少子化対策が奏功し、
出生率が急反転しても、
その子らが労働人口に成長する
までには早くて20年前後待たねばならない。
世界には有能な人材がいますぐそこに沢山いるのだ。
彼らも
チャンスを待っている。
近い将来、
年間数十万人単位で減り始める労働人口を数の上で埋めるわけには
行かないまでも、
日本の将来を支えてくれる世界の人々に、
雇用の機会を少しでも増やしていくことは
長い目で見れば必ずペイする行動である。
日本のニーズと世界のニーズの
「ミスマッチ」
の解消に、
日本企
業は積極的に取り組んでほしい。
もうひとつは、
日系企業のさらなる現地化である。
国内で少子高齢化が進めば、
質量ともに人材確保が
できなくなり、
生き残りのためには海外への工場や事務所の移転も避けられない。
一方では、
日本から離
れたがらぬ従業員も増え、
海外要員の確保も一層困難になる。
海外勤務からの帰国希望も強まってくる。
これまで、
日系企業は日本人社員による経営の独占が多いと言われてきた。
それでは現地社員も育たぬ
どころか、
企業への忠誠心もなかなか生まれてこない。
日本人派遣社員を減らす国内の少子化はこれを
見直すよいきっかけになると思われる。
現地社員に、
より経営を任せていく。
その方が長期的には定着率
も高まり、
優秀な人材も確保できるのだ。
更なる現地化を進める中で、
日本企業が資本、
技術、
経営力など
で世界の多くの国を助けていく。
そのことが日本企業の持続可能性につながるのである。
米企業の首脳の発言に
「世界でビジネスをする企業は世界が直面する課題への理解と、
その解決に向
けてのリーダーシップをとる責任がある」
というのがある。
日本企業もそれぞれの立場で地球的課題に
関心を寄せていいのではないのか。
「日本人の、
日本人による、
日本人のため」
の発想から早く脱却するた
めにも、
世界の視点を忘れないでほしい。
末吉 竹二郎
(すえよし たけじろう)
国連環境計画
金融イニシアチブ特別顧問
1967年、
東京大学経済学部卒業後、
三菱
銀行
(現・東京三菱銀行)
入行。
94年にニ
ューヨーク支店長、
取締役就任。
96年に
東京三菱銀行信託会社
(NY)
頭取。
98
年に日興アセットマネジメント副社長。
2002年に退任後、
2003年に国連環境計
画
(金融イニシアチブ)
特別顧問に就任。
【企画・制作】 日本経済新聞社広告局