刊行の言葉・目次

刊行の言葉
20 世紀の先進社会は,国民国家を単位とする大量生産体制へと収斂して
いった。都市的過程としての都市化・郊外化も,大量生産体制の刻印を受け
るとともに,逆にそれを支える空間を形成する過程であったといえよう。と
ころが,21 世紀の都市的過程は,それまで国民国家によって仕切られてき
た諸都市 - 地域が,多様なレベルでグローバル・システムへと編入・再編さ
れる過程として捉えられるようになった。こうした転換のなかで,日本の都
市社会学も,先進社会の都市的過程からの類比や,理論の移植ではなく,同
じひとつの過程のローカルな一断面の認識から出発して,活動と関係の糸を
たどっていくことによって,結局はグローバルな認識課題にむすびつき,そ
の課題に理論的に貢献することが期待される段階にいたっている。
日本都市社会学の先端をつねに走り続けてきた奥田道大が呼びかけ人と
なって,2005 年に東京でひとつの研究会が生まれた。この研究会は,約1
年間にわたって毎月開かれ,「先端都市社会学の地平」を見いだすべく,討
議を繰り返してきた。少人数とはいえ,世代的には親と子と孫の幅を持つこ
の討議集団は,各自のフィールドを振り返り,都市の先端現象の位相を見定
めようとしてきた。研究会に集まったのは,広田康生,渡戸一郎,田嶋淳子,
藤原法子,町村敬志,三田知実,奥田道大,松本康の8名であったが,本書
はその報告集というよりは,それよりもはるかに拡大されたフォーラムとし
て編まれている。
編集に当たってとくに力点をおいたのは,トランスナショナルに展開する
都市諸サブカルチャーのエスノグラフィーである。これらの記述が都市社会
学の「新しい言葉」を精錬していくかどうかは今後の課題ではあるものの,
制度化された学術雑誌にはなじみにくい現場からの報告を,編集委員による
査読制という緊張感をあえて持ち込んで,できるだけ採り入れることにした。
在外研究者にも研究ノートをお願いしてご負担をおかけしたが,新しい人へ
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刊行の言葉
のメッセージとして心から感謝している。なお,当初Ⅰ部に町村敬志氏の論
文を予定していたが,やむを得ない事情で今回は見送らざるを得なかった。
エスノグラフィーのスタイルは,20 世紀初頭のシカゴ学派に胚胎するも
のであるとはいえ,シカゴ学派の「創業者」を神話化するよりも,その後の
ハイブリッドな研究蓄積を視野に入れて,最先端を見いだすべく努力してき
た。本巻に続く第2巻では,「セカンドシカゴ」
「ネオ・シカゴ」の業績の解
読とアセスメントをつうじて,研究史上の 空白 を埋め,日本都市社会学
研究のトランスナショナルな道筋をたしかなものにしていきたいと願ってい
る。
毎回の研究会にも熱心にご出席いただいたハーベスト社の小林達也氏には,
お礼の申し上げようもない。
松本 康
先端都市社会学研究
1
先 端 都 市 社 会 学 の 地 平: 目 次
刊行の言葉
Ⅰ
(松本 康)
3
下からの (From Below) トランスナショナル・アーバニズム
1 地域社会における外国人への寛容度
(松本 康)
8
―隣人ネットワークが媒介する居住地効果―
Ⅱ
再構築される Assimilation と越境移動者
2 政治理念としての「共生」をめぐる秩序構造研究への序論
(広田康生) 34
―「編入」研究から地域社会秩序構造研究へ―
3 移民適応の中範囲理論構築にむけて
(鈴木和子) 59
―在日・在米コリアンの比較―
4 アジア系移住者と都市をめぐる一考察
(田嶋淳子) 84
―インナーシティとインナーサバーブで起こっていること―
Ⅲ
いま改めて「第 3 の空間(Thirdspace)」
=大都市インナーシティを磁場として
5 都市コミュニティ研究のもう一つ先に
(奥田道大)108
―覚え書きノート―
6 インビジブルシティを読み解く
(渡戸一郎)130
―「グローバル都市地域」としての東京を中心に―
005
006
目
次
IV 新版・アーバン・エスノグラフィに向けて
―「都市社会学の言葉」を伝えるために
7 グローバル都市における消費下位文化の実践過程
(三田知実)150
―東京南青山「独立系カフェ Favela」を事例として―
8 サブカルチャーによる脱テリトリー空間の生成とその意味づけ
(石渡雄介)171
―宇田川町におけるクラブカルチャーのスポットとネットワーク―
9
中国系移民の余暇サブカルチャーにおける
性的および地位の実践
(グラシア・ファーラー=土屋敦訳)196
10 量化と質化とのあいだ
(景山佳代子)223
― KT2 システムのモノグラフへの適用事例―
11 シンボリック・エスニシティと文化装置としてのエスニック・スクール
シンボリック・エスニシティと文化装置としてのエスニック・スクール(藤原法子)243
―「継承する世代」にみる日系人世界の変容―
12 フィールドノートから
(竹沢泰子)263
Ⅴ 終章・先端都市社会学の地平を拓く
13 読解力の構築
(佐藤健二)278
―都市社会学でエスノグラフィを書く―
結びにかえて
(奥田道大)308