プライベート・ブランドと地域ブランドを融合する可能性 「- セイコーマートの事例研究を中心として -」 徐 斌(小樽商科大学) Keyword: プライベート・ブランド 地域ブランド 融合 【研究背景】 このαに、地域特性というこだわりを付け加えて開発 地域ブランドは地域活性化の手段として盛んに議論 されてきた。明確の主体や組織構造により作られた企業 される PB と、もともと地域特性に根差している地域ブ ランドへの親和性は高められると考える。 ブランドと対照に、地域ブランドをマネジメントする主 現時点では、地域特性を取り入れて PB 商品を開発し 体が曖昧であり、ブランドのアイデンティティを定める ている小売業には、セブンイレブンジャパンといった業 ことが困難であるのは特徴として捉えられている(中嶋 界トップの全国チェーンと、セイコーマートといったロ 2008,久保田 2004) 。特に、地域ブランドの構築には、 ーカルチェーンがあるが、地場の食品スーパーも挙げら 自治体や大学、地域企業と住民の連携が肝心であると指 れる。表 2 の通り、地域の食材にこだわり、地域限定や 摘されている(中嶋 2008) 。しかし、流通企業のことを 期間限定の手法を採用するのが特徴である。 地域ブランドの構築と関連づける研究は少ない。 近年、流通企業独自開発のプライベート・ブランド(以 表 2 小売業者が道内で扱う主な PB 下は PB とする)が発達してきた。セブン&アイを代表 企業・グループ 名称 特徴 とする大手流通企業の PB 戦略の転換により、PB 商品は イオングルー トップバリュ 「根釧牛乳」など生鮮 低価格訴求、コストパフォーマンス訴求、高品質訴求の プ 品に拘った地域トッ 3 層構造のほか、エコや健康などのこだわり訴求のサブ プバリュを強化 ブランド「3 層+α」の階層化を見せてきている(矢作 セブン&アイ セブンプレミ 弁当や総菜などに道 2013) 。さらにトップブランドメーカーと手を組み、商 グループ アム 品共同開発を行うことも本格化になってきている。 この PB の進展から言えるのは、流通企業にも商品デ 産食材を使った北海 道限定メニューも ローソン ザイン力を増して、しっかりとしたコンセプトに新規性 ローソンセレ 各地域の食材を使っ クト た弁当などを期間限 がある商品を開発できるようになってきている。しかも、 定で提供する北海道 この「3 層+α」 (図 1)の構造の中のαに、有機栽培や 紀行が人気 環境保護のほかに、地域特性を引き込んで開発される商 セイコーマー セイコーフレ 道産メロンに拘った 品も見受けられる。PB 商品の差別化を図り、地域の特 ト ッシュ 性に着目し、特定の地域で産出される特産の素材を生か して、 PB 開発に取り組んでいる動きもある (水野 2013) 。 デザートやアイスな どを投入 ツルハホール エムズワン 食品や日用品、健康食 ディングス 品を充実させた 1650 表 1 PB の階層構造 品目、売れ筋が北海道 階層 代表例 低価格ライン 「トップバリュ・ベストプライ サッポロドラ クレアーレ 日用雑貨を中心とし ス」 , 「ザ・プライス」 ッグストアー た約 600 品目。化粧品 基本ライン 高品質ライン の天然水 「トップバリュ」 , 「セブンプレミ や健康食品の開発に アム」 も取り組む 「トップバリュ・セレクト」 , 「セ アインファー リップスアン 米ぬかなどの自然素 ブンゴールド」 マシーズ ドヒップス 材を生かしたボディ α(安全性や健 「グリーンアイ」、「ヘルシーア ーケア商品など約 30 康、 環境配慮等) イ」 、地域特性 種を展開 (出所)矢作(2013)より筆者作成 出所: 北海道新聞 2015 年 5 月 27 日朝刊「小売 PB 商品に活路」 11 頁 の相似性が見えてくる。地域ブランドは当初、 「地域限 他にあげられるのは、セブン&アイの「西日本プロジ 定商品」 、 「ローカルブランド」の意味で用いられていた ェクト」である。 「もっと地域の暮らしの中へ、もっと (林・中嶋 2009) 。一方、PB の「プライベート」という 高度な満足感の提供」を理念として、従来東京発信に偏 言葉の原点は、広告されないといった特性のほか、地場 りがちといわれる商品づくりをもっと地域特性を合わ 的、 地域的に展開される意義を含めている (根本 1995) 。 せるため、商品開発を中心として関西地区に根差した取 つまり、地域ブランドと PB はいずれも全国に展開され 組を行っている。 ているナショナル・ブランド(以下は NB とする)と対 同プロジェクトは、米飯、麺類・軽食、惣菜、ベーカ 照的に、地域性の意味を持っている。しかし、PB の展 リー、スイーツの 5 部門で、専用工場を展開するメーカ 開エリアを地域から全国乃至海外に拡張してきた大手 ー、NB メーカー、さらに原材料、機械設備、包材資材 流通企業も現れ、PB は地域的ブランドであるとは一概 などのメーカーと、新たなチーム MD 体制を構築し、関 に言えなくなった。地域ブランドの方も「地域限定」の 西地域独自の商品づくりを進めている。 枠を超えて、地域の特性に根差した商品をブランド化し 地場スーパーも似通った動きもある。ESP 会は、愛媛 県の地場の食品スーパー、メーカーと卸が連携して、地 域を守り、育てる製配販連帯の商品開発を行っている。 て、それを地域外に認知してもらい、地域活性化を図ろ うとする 手段として捉えられてきている。 代表的には地元で生産される素材を使って開発される オリジナル商品――「カット野菜」と「野菜キット」 、 図 1 地域ブランドと PB の重なり 「惣菜キット」等が挙げられる。 北海道新聞では、これらの地域特性を生かして開発さ れる PB 商品のことを「ローカル PB」と名付けている。 ① ② ③ したがって、本研究はこの地域特性を生かしている PB 開発のケース(セイコーマートの PB 開発を中心とし て)をベースとして、流通企業による PB と地域ブラン ドを融合する可能性をについて検討する。 【研究方法・研究内容】 本研究は、まず地域ブランドと PB に関する既存研究 地域ブランド PB ①:地域そのもののブランド ②:地域特性を生かした商品・サービスのブランド ③:ローカル PB (出所)筆者作成 を踏まえて、本研究の研究領域を明確にし、両者の関連 性を見出す。その上で、セイコーマートの事例分析をも 図 1 のように、地域特性を意識して開発される PB とに、PB と地域ブランドを融合する可能性について検 の存在により、地域ブランドとプライベート・ブラン 討する。 ドは③のような重なりつまり両者の融合ができるでは 地域ブランドは、➀地域そのもののブランドと、②地 ないかというのは、本研究の仮説である。 域の特性を生かした商品・サービスのブランドの二つか ら構成されていると指摘されている(中嶋 2008,久保 田 2004) 。本研究は主に②のほうに焦点を当てて分析し ていく。 既述したように、地域ブランドは企業ブランドと異な る 点が多い。PB はどちらといえば、企業ブランド(デュ アルブランド――製品ブランドと企業ブランドの統合 とも、矢作 2013)であるが、地域ブランドと関連付け るのはやや不自然に見えるが、実はそうでもない。 地域ブランドと PB の意義の原点に注目すると、両者 【研究・調査・分析結果】 セイコーマートは、北海道の地域性に根差している コンビニエンスストアチェーンである。 設立: 1974 年 資本金: 4 億 2,804 万円 店舗: 1,157 店(北海道 1,059 店、関東 98[茨城 85 店、埼玉 13 店]) ※2015 年 5 月末現在 セイコーマートに注目する理由は表 3 の通りである。 表 3 セイコーマートの特質 まとめると、他のコンビニチェーンと比較して、セ ①道内での高いカ 道内 179 市町村のうち、169 イコーマートは、地域住民に愛用される地域性が高い バー率――99.5% 市町村に出店、出店地域人 ローカルチェーンであり、独自のサプライチェーンと 口 547 万人(北海道 550 万 直営化からサポートされる PB 事業の展開、さらに PB 人) 商品の外販に取り組んでいる「北海道地域を代表する ②約半分のオリジ 地域特性を日配や種類、惣 ナル商品 菜など幅広いカテゴリーに 渡る、高い集客効果を果た している ③高い直営率―― セブンイレブンをはじめと 約7割 製造小売業」になりつつあると言えよう(図 2) 。 するコンビニチェーンが直 図 2 セイコーマートの特質 ① ⑤ 営率を抑える一方、セイコ ーマートが逆に直営化を進 地域性 ② セイコー めている ④自社サプライチ オリジナル商品の製造は自 ェーンの構築 社グループの工場で行われ る(表 4) ⑤顧客満足度が高 コンビニエンスストア部門 い で 3 年連続で顧客満足度全 ④ 製造小 マート 売業 ⑥ 出所:筆者作成 国1位 ⑥外販志向 ③ 自社PB 商品の外部への販売 を強化する 本研究では、特に注目したいのはセイコーマートの アイス事業と「規格外メロン活用事業」である。 出所:筆者作成 セイコーマートのグループ会社――ダイマル乳品 表 4 セイコーマートの子会社メーカー (羽幌町)の工場は 2003 年稼働で、大半の商品の原料 カテゴリー 企業名 には、同じグループ会社の豊富牛乳公社(豊富町)が 食品製造・商品開発 北燦食品 作る牛乳を使っている。同工場では、人気の PB 商品― 惣菜・塩干・弁当原料製造 北嶺 ―「北海道牛乳ソフト」 「北海道牛乳モナカ」等のアイ 製麺・調理麺 丸吉梅沢製麺 カット野菜・漬物 北香 牛乳・乳製品 豊富牛乳公社 アイスクリーム類 ダイマル乳品 タレ・スープ・味づけ肉な 北源 ど 卵焼き・豆腐・巻芯 北海千日 飲料水・氷など 京極製氷 和菓子 三栄製菓 洋菓子 シェフグランノー ル 出所:池田満寿次(2015) 「有力コンビニセイコーマ ートにみる PB 戦略」 , 『流通情報』No.514,p.41 スが製造されている。評判がよく、2013 年から外販事 業が始まった。現在の外販事業の年間売上高は約 4 億 円である。 需要拡大の見込みで、今年はさらに 7.6 億円の投資 により同工場の生産能力を 4 割を増強し(延床面積約 5 割拡大、生産能力が年間 4590 万個から 6375 万個に 増える見通し) 、外販事業の拡大を図る。 この北海道の牛乳をコンセプトとして開発し展開 されるアイスの PB 事業は上述したセイコーマートの 自社サプライチェーンの構築や直営化の戦略にうちづ けられている。 このセイコーマートのアイスの PB 事業から二つの ステップが考えられる(図 3) 。 図 3 アイスの PB 事業 ステップ① とプライベートブランドの融合ともいえよう。 ステップ② 地域特性商品 系列外への販 のブランド化 路拡大 出所:筆者作成 【考察・今後の展開】 社会環境や競争環境の複雑化に連れて、小売業者の PB 商品開発はこれからも付加価値訴求を強化しつつ、 多様化となっていくであろう。そこで、こういった地 域に根差した地域特性を差別化の源泉とする PB 商品 ステップ①では、地域特性を採り入れてオリジナル も拡張することになろう。 商品を開発し、自社グループの工場で製造し、自社の この地域ブランドと PB の融合は地域ブランドから PB としてブランド化する。 「北海道牛乳ソフト」 、 「北 見ても、PB の発展から見ても新しい展開といえよう。 海道牛乳モナカ」のように、牛乳の産地が北海道とい 地域ブランドの構築も流通企業の PB 開発にも期待で う地域特性をメッセージとして顧客に発信する。 きよう。 ステップ②では、商品の売れ行きによって、系列の これからもこの課題に関心を持ち続けて、地域特性 工場の生産能力を増強して、系列外の道外小売店に外 を生かして PB 開発に取り組み、 地域ブランドの新展開 販する事業に取り組む。 を巡って研究を深めたい。 この二つのステップにより、地域ブランドと PB の 「融合」――「ローカル PB」が「地産地消」の枠を超 【引用・参考文献】 えて、PB の販路限定性(自社系列店しか展開しないの ・池田満寿次(2015) 「有力コンビニセイコーマートに が PB の特徴とされている)を超えて、全国に展開する みる PB 戦略」 , 『流通情報』No.514. 可能性を見せる。 ・久保田進彦(2004) 「地域ブランドのマネジメント」 セイコーマートが地域貢献するケースとしてよく あげられるのは 「規格外メロンの活用事業」 であろう。 同事業は 2006 年から発足し、道内のメロン農家か 『流通情報』2004.4 ・斎藤修 (2010)「地域ブランドをめぐる戦略的課題と 管理体系」 『農林業問題研究』45(4),pp.324~335. ら、 形が整っていない等の理由で売り物にならない 「規 ・斎藤智文(2012) 「北海道内で圧倒的な NO.1 コンビ 格外」のメロンを活用し、果汁を搾ってメロンソフト ニ経営トップのリーダーシップと全員一丸となった住 クリームを作ったところに大ヒットした。 民・顧客対応」 , 『人事実務』2012 年 9 月号. 写真 1 ダイマルアイス工場(メロンソフト) ・中嶋聞多(2008) 「企業と地域ブランド戦略」 , 『地域 ブランド研究』 (4)pp.25~46. ・中嶋聞多(2005) 「地域ブランド学序説」 , 『地域ブラ ンド研究』 (1)pp.33~49. ・水野清文 (2013)「食品関連企業に見る商品差別化の 課題と展望」 , 『日本マネジメント学会全国研究大会報 告要旨集』(67),pp.47~51. ・北海道新聞 2015 年 5 月 27 日(朝刊)11 頁 「小 売 PB 商品に活路」 . ・日本経済新聞 2015 年 2 月 4 日 (地方経済面、北 海道) 「アイス工場能力 4 割増強」 . 今年の 5 月 25 日から、 道産メロンを使ったアイス、 ・日本経済新聞 2015 年 5 月 9 日(朝刊)11 頁, 「イ パンやスイーツ、 ジュース等の 17 アイテムを発売して、 オンに PB 供給」 . セイコーマート全店(関東も含めて)で「メロンフェ ・セイコーマートニュースリリース,2015 年 5 月 22 ア」を実施した。 日. このメロン事業に地産地消の効果のほか、道産メロ ンを生かした開発されるこの PB 商品も地域ブランド ・ (続き)
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