ITと業務改革を一体化し グローバルモデルとワークスタイルを変革

第26 回 iSUC 福岡大会
セッションタイトル「ANA
Session Speaker Interview
の考える IT 部門の果たすべき役割」
ITと業務改革を一体化し
グローバルモデルとワークスタイルを変革
グローバルなビジネスモデルへの転換を図る全日空(ANA)
。IT 部門を業務プロセス改革室と改称し、IT 化と業務改革
を一体で推進する同社の幸重孝典氏が、そのグローバルモデルとワークスタイル変革実現のシナリオをiSUC のセッション
で語る。
幸重 孝典氏
全日本空輸株式会社
取締役 執行役員
業務プロセス改革室長
IS magazine(以下、IS)
世界の航空業界は今、大きな
転換期を迎え、熾烈な競争が展開されていますね。
幸重 ANA が国際線事業に進出したのは1986 年、来年で
30 周年を迎えます。進出してしばらく国際線は赤字続きでし
たが、1999 年のスターアライアンス加盟を契機に、国際線の
幸重 世界の国際線旅客数は2006 年が 6 億人であったの
ノウハウを吸収し、2004 年には黒字転換を果たしました。現
に対し、2014 年は13 億人に達するなど、国際線マーケットは
在の旅客収入は国内線 60%に対し、国際線 40%という比率
アジアを中心に大きく拡大し、航空業界の競争環境は劇変し
ですが、2020 年の東京オリンピック開催を経た2025 年度に
ています。最近では LCC(Low Cost Carrier:格安航空
は国際線旅客事業を主軸に据え、事業規模を国内線と逆転
会社)の台頭や、GULF3 社と呼ばれるエミレーツ航空、エ
させる長期経営目標を打ち出しました。
ティハド航空、カタール航空など中東エアラインが急成長を遂
従来の国際線ビジネスは日本のお客様を海外に送り出し、
げており、こうした新興勢力に対してどう競争力を維持するか
日本に帰っていただくためのサービスでしたが、今後は日本を
が大きなテーマです。また国内に目を向けると、九州新幹線
起点とした往復だけでなく、海外のお客様を対象に、海外の
や北陸新幹線の開通、2015 年度末に開業が予定される北
空港を起点・終点にしたビジネスを展開していかねばなりませ
海道新幹線など、新幹線との競合が激化し、航空各社は需
ん。こうしたグローバルモデルへの転換を図るには、グローバ
給適合による効率運航で対応しようとしています。
ル標準に準拠しながらスターアライアンス加盟各社との連携強
化を目指す一方、日本人特有のきめ細かさや品質の高さを維
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IS こうした状況を背景に、ANAはどのような事業戦略を展
持する、すなわちグローバルスタンダードとジャパン・クオリティ
開しているのですか。
を両立させていくことが重要です。
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U 研・
発見!
IS それは、IT 面にはどのように反映されているのですか。
ANAの社内システムは業務ごとに個別システムを構築して
きたため、システムの水平的な情報連携が必ずしも実現され
幸重 基幹システムの全面刷新に際しても、この2 つを両立
ていません。ある担当者が利用するシステムは、その業務に
させるべく、国内線システムと国際線システムを別々に構築し
必要な情報にしかアクセスできないので、時としてお客様のほ
ています。国内線システムは2013 年にオープン系システムで
うが ANAの情報を広範に入手されているといった事態も生じ
再構築する一方、国際線システムはスペインのアマデウスが
ます。そこで部署や業務を超えて横断的・一元的に情報入
運営するクラウドサービスへ移行し、今年から運用を開始して
手できる環境を整え、それがお客様に対する情報提供のレベ
います。国際線システムのクラウド化は、
旅客1人当たりのサー
ルアップにつながるようにしたいと考えています。
ビス利用料にすることで、リーマンショックのような経済環境の
悪化がもたらす旅客収入の変動リスクを回避できます。さらに
IS 改革の実現に向けて、最も必要とされるのは何ですか。
グローバルでの航空会社向け共通システムであるアマデウス
を利用することで、他の航空会社とのシステム連携も、シーム
幸重 経営トップの理解と支援が重要です。当社は「業務
レスかつ迅速に対応できるメリットが生まれます。
プロセス改革会議」を開催しています。2000 年に開始した
当初は「IT 戦略推進委員会」と呼ばれていましたが、2012
IS ITを推進する部門の名称を「業務プロセス改革室」に
年の業務プロセス改革室への改称に伴い、会議体の名称
改称された狙いを教えてください。
を「業務プロセス改革会議」に変更しました。これは2カ月
に1 度、社長を筆頭に財務や人事、営業、空港オペレーショ
幸重 2012 年に、
IT 部門に相当するIT 推進室の名称を「業
ンなどを担当する役員 14 〜 15 名が参加して開かれます。最
務プロセス改革室」に変更したのは、ITを使って全社的に
新のIT 事情や航空業界のIT 動向といった情報を提供する、
業務改革を推進していくことを明確化する狙いがあります。私
そしてANAが今後のIT戦略や業務プロセス改革をどう推進
は2 年前からCIOとしての職務を担当していますが、当社の
していくかをディスカッションする場として機能しています。
CIOの「I」はInnovationとITの2 つの意味があります。業
この会議の存在によって経営レベルのITリテラシーは非常
務プロセス改革室の役割としては基幹システムの刷新などに
に高く、またIT 部門にとっても早い段階から経営側の意向
加え、
社内とお客様に向けたイノベーションが非常に重要です。
や要望を理解してIT 戦略に反映させられるメリットが生まれま
す。ワークスタイル変革のように「変える」ことに狙いがある、
環境を作ろうと考えました。ANAは2012 年にいち早く客室
それゆえ抵抗勢力が生まれやすい取り組みは、経営トップの
乗務員にiPadを配布し、1000 ページ近いマニュアルの電子
理解がないとうまく進みません。業務プロセス改革会議は、そ
化に着手しました。さらに仮想デスクトップと社内 Wi-Fiで外
うした推進力を得る意味でも重要な場であると考えています。
Ses s io n Spe a ker In te r vi e w◉
社内向けのイノベーションとしては、場所を選ばずに働ける
出先でも資料を作成可能にしたり、クラウド型メールサービス
やボイスコミュニケーションを導入し、デスクワークスタッフに配
IS iSUC の来場者の方々に伝えたいことは何ですか。
布したiPhoneで内線電話を受けるといったさまざまな取り組
みで、ワークスタイル改革を進めました。次のステップとして、
幸重 クラウドサービスが象徴するように、現在は「作るIT」
海外拠点で同じように推進しようと考えています。
から「使うIT」への変革期にあります。IT 部門の仕事は「IT
を作ることである」といつまでも思い続けるのはもはや健全で
IS お客様に対するイノベーションはどうでしょうか。
はありません。作ろうが、使おうが、それらをひっくるめて進
幸重 お客様は今やチケット予約からチェックイン、機内で
ます。これからの ITはどうあるべきかを含め、IT 部門の使
のインターネット利用、さらに飛行機を降りてからの情報入手
命や存在理由を組み立て直す時期に来ています。
めるのが IT 部門の仕事なのだと発想を切り替える必要があり
IT が、会社を変えていく大きな力を秘めているのは間違い
「快適に移動する」ことを目的とする航空会社のサービスと、
ありません。私は部下によく、
人事(部門)は人で、
財務(部
お客様が移動中にコミュニケーションや情報アクセスに利用す
門)はお金で、そしてIT(部門)はITを活用した横断的な
るモバイルデバイスとの親和性は非常に高いですから、スマー
イノベーションで会社を変えていくんだと伝えています。iSUC
トデバイスを視野に入れた情報提供をいかに充実させるか
に来場される方々にも、そのことを強くメッセージしたいと思っ
が、イノベーションの狙いになります。
ています。
幸重 孝典 氏
など、さまざまな場面でモバイルデバイスを利用されています。
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